アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜 〜番外編 誇らしい顔2〜 孤児院の院長を勤めてから半年後、恩師ヴァルシェヴラームから連絡が入った。無事全ての 手術が終わって、リハビリも終えたという事だ。3ヶ月前後と踏んでいたが、それだけ大手術 となったのだろう。 数時間後に本店レミセンに到着するという事なので、俺も副院長に孤児院を任せて戻る事に した。 事故から1年、渡米してから半年振りのダークとの対面だ。彼女の回復振りを見させて頂く としよう。 ミスターT「・・・・・。」 煙草を吸いながらカウンターで待ち続ける。エシェラとエリシェは別の用事でおらず、今は 俺が本店レミセンを仕切っている。一応臨時休業としているが、それはダークが帰ってくる までの間である。 ミスターT「・・・どんな姿になってもダークはダークだ、か・・・。俺は無責任な男か・・・。」 実際の所は自身の力で助ける事はできなかった。当時はライディルやヴァルシェヴラーム、 そしてエリシェの力を借りている。俺ができたのは彼女を支える事だけだ。 俺には重い傷を背負ったダークを支えるだけの力はあるのだろうか・・・。 ヴァルシェヴラーム「ただいま〜。」 カウンターに俯せて仮眠していると、ヴァルシェヴラームが元気よく入店してきた。俺は 慌てて目を覚まし、視界がハッキリしない状態で入り口の方を見つめた。 ミスターT「おかえり。」 目を凝らしていると視界が回復していく。長身のヴァルシェヴラームの傍らに、紫色の髪の毛 の女性が立っている。視界が完全に回復すると、俺は我が目を疑った・・・。 ミスターT「・・・お前・・・本当にダークなのか・・・。」 ダーク「お陰様で完全に回復しました。」 証明写真の彼女の顔と殆ど変わらないダークがそこにいた。ロングだった髪の毛がスポーツ 刈りになっている所のみ変わり様だが、それ以外で変わった所は見比べようにもなかった。 ヴァルシェヴラーム「じゃあ孤児院に戻るわね。何かあったら電話ちょうだい。」 ミスターT「シェヴさん、本当ありがとうございました。」 ヴァルシェヴラーム「何言うのよ、お礼を言うのは私の方よ。ダークさんを助けてくれたのだから。 本当にありがとね。」 そう言うと恩師ヴァルシェヴラームは去って行った。長旅で疲れているのだろうが、それを 感じさせない美丈夫である。本当に脱帽するわ・・・。 本店レミセンは他のレミセンからマスターを派遣し、俺はダークとコミュニケーションを 取るため休業する。そして一旦彼女を連れて3階の自室へと向かった。 そこで改めて彼女の顔を見つめるが、本当に元通りになったとしか言いようがない。両手で 彼女の頭を優しく持ち、その顔を真剣に見つめ続けた。 ダーク「あ・・あの・・・そんなに見つめられると・・・。」 ミスターT「あ、わりぃ・・・。」 頬を染めて恥らう姿も難なくこなしている。本当に元に戻ったとしか言いようがない。長年 の常識を覆すものだ。 ミスターT「よく頑張ったね。この半年間は大変だっただろう。」 ダーク「いえ、お母様と一緒でしたから。それに現地の方々にも優しくしてくれました。」 ミスターT「そうか、本当によかったよ。」 不意に俺の胸へと抱き付いて来るダーク。一瞬驚いたが心中を察知したため、彼女を優しく 抱きしめてあげた。 ダーク「・・・貴方には何とお礼を言ったらいいか・・・。」 ミスターT「言っただろう、お前は俺の妹なんだ。妹を大切にしない兄にはなりたくない。俺の身を 差し出してでもお前を守る。そう決めたんだから。」 ダーク「あぁ・・・ありがとう・・・。」 病室で大泣きしたように、胸の中で再び大泣きしだすダーク。彼女にとっては苦節の1年前 ではあるが、それは紛れもない己自身の生き様を刻んだ戦いでもあった。 どの様な経緯であれ、ダークは勝ち得たんだ。そして今を生きている。これほど素晴らしい 事が他にある訳がない。 徐に顔を上げると、背伸びしながら唇を重ねてくるダーク。それに俺は少し膝を曲げて彼女 の背伸びをなくすと、心の篭った口づけをしてあげた。本当に不思議な縁である。 その後重度の火傷から復帰した身体を見て欲しいと語ってくる。これにはギョッとしたが、 彼女の決意は本物だ。これに応じなければ失礼だろう。 というか火傷を負ったのは顔だけで、身体の方は骨折以外は打撲ぐらいである。この場合は 一緒にいたいという事になるだろう。 今日は幾分か肌寒いとあって、彼女を連れて浴室へと向かった。無論お互いに生まれたまま の姿である。それに俺の方も覆面は外した。普段は入浴でも着けているのだが、彼女が己を 曝け出しているのなら応じねば失礼であろう。 ダーク「・・・・・。」 やはりダークもそうだった。俺の素顔を見つめると、まるで視点が固定されたかのように 凝視し続けてくる。特に彼女の場合はエリシェ以上に心に溜め込む事が多い。つまり我慢する 一面が強く、1つの事にのめり込むのが尋常じゃないからだ。 ミスターT「身体も顔も、何1つ痕がないね。」 ダーク「は・・はい・・・。」 流れを変えるために彼女の背中や両手両脚を優しく撫でる。当然感度が上がっている故に、 その度に身体を震わせていた。感じさせるためにやってるのではないのだが・・・。 ミスターT「・・・一応聞いておくか、この後を望んでいるのか?」 ダーク「あ・・・い・・いえ・・・そ・・そんな・・恐れ多い事を・・・。」 ミスターT「俺に対しては気遣いはしなくていいよ。今はお前を支える事が大事なのだから。」 彼女の身体を見回し、一応火傷からの復帰を確認した。こうなると変なプレイに見えるが、 彼女がして欲しいと懇願してるのだ。応じなければ失礼極まりない。 その後浴槽へと浸かり身体を温める。彼女も医師からは入浴は大丈夫だと告げられていたの だが、今日まで一切入浴しなかったという。つまり俺と一緒に入るつもりだったのだ。 ダークはまだ17歳とあって体躯はかなり小さい。数年前のエシェラでさえ、かなりの体躯 を誇っていた。まあダークの場合は重度の火傷の時の体力消耗が大きいのだろう。以前よりも 痩せたと語っている。 丁度俺が後ろに浸かり、その前に彼女が浸かる。胸に彼女の背中がすっぽり埋まり、本当に 小柄なのだと実感してしまう。 ダーク「・・・あの・・・。」 ミスターT「エシェラ達の事は気にするな。陰ながらお前の事を気にしていたから。このぐらいの 事なら黙認してくれるさ。」 ダーク「す・・凄い・・・、ど・・どうして分かったのですか?」 俺の語った内容が胸中の思いと一致していた事に驚きを示す。まあ今の彼女の顔を見れば恐縮 じみた表情をしているのだから、殆ど一目瞭然と言えるだろう。 驚く彼女の腹に両腕を回し優しく抱き締める。脱力していたため、今度は頭が胸の中に埋まる 形になった。 ミスターT「こうやって肌と肌を重ね合わせれば・・・お前の考えがよく分かるよ・・・。」 ダーク「そ・・そんな・・・。」 恋愛感情は別として、こういった身体と身体のスキンシップは初めてだろう。上手く表現する 事ができずにいる。これはこれで可愛いのだが、今は求め合うのが本心ではない。 ミスターT「・・・今のお前の歳と同じ時に俺も自立した。シェヴさんに見守られながら、先ずは 自分で稼げるように動き続けたよ。」 ダークを胸に抱きながらお互いに余韻に浸る。ふと彼女の年齢を振り返り、俺が同年齢の時 も自立していた事を語り出した。 ミスターT「15の時にエシェラを守り、院長室の窓から落下。その時に記憶喪失になり、15以前 の記憶がなくなったんだわ。事実上、この時からが今の俺が生まれたと言っていい。 それから約5年間、自分の力量や知識の獲得に走った。」 俺の過去話に真剣に聞き入るダーク。顔は見れなくても雰囲気がそうであると語っている。 普段から内なる思いを曝け出す事がない彼女なだけに、いざ本気を出せば凄まじいまでの力を 発揮する。身体から滲み出る思いは凄まじく強かった。 ミスターT「お前は俺が動き出した歳に大怪我を負った。一歩間違えば死んでいたかも知れない。 だが今はその苦節をも糧として生き続けている。テメェの生き様を貫くために・・・。 ダークの方が遥かに偉大だ、俺なんか足元にも及ばない。」 ダーク「そ・・そんな事はありませんっ!」 ダークを誉め讃え自分を卑下する発言に、彼女が大声で反発してくる。胸の中で体勢を変え、 覆い被さるようにこちらを見つめてくる。 ダーク「ミスターTさんが言われた通り、貴方がいらっしゃらなかったら死んでいました。生きて いたとしても、その醜い姿に絶望し自害をしていたでしょう。そんな私に魂心の激励をして くれたのですよ。貴方は偉大です、自分を卑下するような発言はしないで下さいっ!」 凄まじい剣幕で叫びまくるダーク。その激怒姿も難なくこなせる事には嬉しいが、別の意味 では怖すぎた。流石はヴァルシェヴラーム縁の孤児院出身だ。 興奮冷めやらぬダーク。全身全霊を以て叫んだようで、今も身体全体で息継ぎをしている。 その彼女を抱き寄せ胸に抱く。先程以上に顔が近付き、一瞬にして赤面しだした。 俺は彼女の頭を優しく持ち、そのまま唇を重ねた。念入りな口づけを繰り返し、それを詫び として代えさせて貰う。 彼女は何とかこちらに合わせようとするが、6人からの手解きを受けたこちらに為す術が ない。次第に放心状態になり、半落ちに近いものになっていく。 ミスターT「・・・ごめんな、お前の気持ちを分からずに・・・。」 長く濃厚な口づけを受け続けたダーク。完全に気が向こうの世界に行っている。その彼女を ソッと抱き締め、頭と背中を優しく撫で続けてあげた。 ミスターT「例え醜い姿で出会ったとしても、俺はお前を決して離さない。苦楽を共に過ごし、最良 のパートナーとして生き抜きたい。・・・生まれてきてくれてありがとう、ダーク。」 半落ちの状態で俺の言葉を受けた彼女は、顔をグシャグシャにしながら大泣きしだす。泣いて いるのかどうか分からないぐらいの言動だが、それでも彼女の心には大きく響いただろう。 その彼女を一段と強く抱き締めてあげた。 落ち着きを取り戻したダークを胸に抱く。快楽と歓喜を一度に喰らい、完全に放心状態に なっている。しかし表情は今まで見た事がないほどの爽やかさであった。 ダーク「・・・やはり貴方には敵いません、素晴らしいお方です・・・。」 暫くすると語り出すダーク。俺は彼女の背中を押しただけに過ぎないのだが、それを過大 評価してくれている。何だかなぁ・・・。 ミスターT「お前にも敵わないよ。これだけ美しい表情や綺麗な身体付き、それに心が何処までも 澄んでいる。もしエシェラと会う前に出会っていたら虜にされていただろう。」 ダーク「そ・・そんな事は・・・。」 言葉では否定するが、顔は赤面し身体が震え上がっている。心を閉じる蓋が開け放たれている ため、身体全体で感じてくれていた。 ミスターT「今は年齢的に厳しいだろうが、何れ応じて欲しいのなら心から応じるよ。今回はこれで 勘弁してくれ。」 彼女の頭を両手で優しく持ち、完全復活を成し遂げたその額にソッと口づけをしてあげた。 するとシドロモドロだった彼女が一瞬にして元に戻る。流石ヴァルシェヴラーム譲りの癒しの 厚意だ。 上せる前に浴槽から上がり浴室を出る。そしてお互いに身体を拭きあった。この場合は妹と 一緒に入浴した形に見える。 が、ここでとんでもない事に気が付いた。それは凄まじい殺気の視線を感じたのである。 恐る恐る部屋と脱衣所を区切るカーテンを開けると、そこには愛しい6人が顔を引きつらせて こちらを窺っていたのだ・・・。 ダーク「あ・・え・・・その・・・。」 この現状を目の当たりにし、ダークの表情が見る見るうちに青褪めていく。だが彼女にした 厚意は本物だ、嘘偽りは一切ない。 焦り続けるダークを優しく抱き締める。俺も彼女もバスタオルを巻き付けるだけの出で立ち 故に、その姿に今度は6人が顔を赤くしていた。 ミスターT「俺から誘ったんだよ。ダークの完全復活した身体を見たいと思ってさ。」 ダーク「い・・いえ、違います・・・。私の方からお願いしたのです・・・。」 嘘が苦手なダークは、俺のフォローを押し退けて真実を語り出す。その恥らうも真剣な表情に 6人は小さく溜め息を付いている。 エシェラ「羨ましいわ・・・。」 シューム「完全にマスターの虜ですね。」 ダーク「そ・・そんな事は・・・。」 シュームの言葉に慌てふためくダーク。既にそれを超える言動をしているというのに、改めて 言われると動揺するのだろう。 ラフィナ「大丈夫ですよ。ダークさんの心は痛いほど分かっていますので。」 エリシェ「マスターがお力になれた事に、心から誇りに思います。」 自慢気に語る彼女達。既に彼女達と関係を持つだけに、俺の事を誉めてくれた事に対して歓喜 溢れる表情を浮かべていた。 メルデュラ「ダークさんに着替えを着せてきます。」 何時の間にかダークの衣類を洗濯して畳んでくれていた。それを手に持ち彼女の元へ近付く シンシア。そして背丈はシンシアと同じぐらいのダークをお姫さま抱っこするメルデュラ。 そのまま寝室の方へと連れて行く。 ミスターT「俺の着衣は?」 シンシア「ありませんっ!」 最後の最後で嫉妬心を剥き出しにするシンシア。他の5人も同様で、ここぞとばかりに俺に 制裁を加えてくる。う〜む・・・何とも・・・。 しかし俺の着衣もしっかり洗濯してくれていた。丁寧に折り畳んである衣服の上に、更に 大切に折り畳んである覆面があった。何だかんだ言ってしっかりやってくれていたわ・・・。 全ての着衣を身に纏い、冷蔵庫から紅茶を取り出して飲んだ。風呂上りの一杯は実に美味い ものだ。 まだ寝室から出て来ない所を見ると、6人もダークの完全復活した姿を見ているのだろう。 先程の言葉は名目に過ぎない。 それから数十分後、ダークを先頭に6人が寝室から出てくる。サッパリとした表情のダーク を筆頭に、満足そうな表情の6人である。う〜む・・・一応は心配していた訳か・・・。 ミスターT「相変わらず可愛いよな。」 ダーク「も・・もうっ・・・。」 今まで心に蓋をしていた彼女の心境が、先程のコミュニケーションで一変したようだ。表情 が健やかであり、俺の簡単な口説き文句に恥らってみせる。 エシェラ「マスター・・・。」 と同時にエシェラを始め、ラフィナ・エリシェ・シンシア・シューム・メルデュラから凄ま じい殺気が放たれる。表情が実に怖く、これには青褪めるしかない。 ミスターT「じ・・・事実なんだから仕方がないわな・・・。」 エリシェ「それはそうですが・・・。」 ダーク「フフッ、皆さん貴方の事が大好きなのですよ。」 今度は平然と語るダークに、顔を真っ赤にする6人。こういったストレートな意見を言い放つ 仕草はヴァルシェヴラームと瓜二つである。 ダーク「あの・・・マスター。」 ミスターT「どした?」 改めて俺の傍へ歩み寄るダーク。俺の顔を見つめ、顔を赤くしつつも爽やかに笑っている。 その彼女の頭を優しく撫でてあげた。無意識に行う厚意の1つである。 ダーク「その・・・これからも・・・お付き合いできませんか?」 ミスターT「ああ、分かった。それに6人から嫉妬されても、お前は俺の大切な妹だからね。」 ダーク「あ・・ありがとうございます・・・。」 そう言いつつ彼女を胸に抱く。それに至福の一時と言わんばかりに甘えてくるダークだった。 遠巻きに見つめる6人を恐る恐る見ると、呆れながらも小さく頷いていた。 ダークも大切な家族の1人である。孤児院出身なため、自由を掴み取る事には人一倍執着心 が強い。俺もシュームも同じであり、その事が痛烈に理解できた。 ダークにも平等の愛情を注ごう。それに周りの女性陣も黙認してくれている。実に嬉しい 限りである。 暫く俺達と共に過ごしたダーク。体調が整ったのを見計らって、彼女はヴァルシェヴラーム の元で働き出した。今までの経緯も踏まえ、恩師である彼女に師恩を返すために。 まだ17歳という若さのダークだが、エシェラ達顔負けのパワーの持ち主でもある。今後の 彼女の成長が楽しみだ。 エシェラ達も妹が出来たみたいで嬉しいようだ。困った事があれば何でも相談に応じている という。 まあヴァルシェヴラームの娘当然の存在で、俺の妹と何ら変わらない存在でもある。それが 影響しているのか、ダークを心配する一念は凄まじいものだ。 どの様な経緯があれど、ダークはダークだ。それは間違いない。それに今まで以上に笑顔で 微笑む彼女に、俺は誇らしい顔だと痛感せざろう得なかった。 誇らしい顔・終 |
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