アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜番外編 双子の妹1〜
    結局は地元が一番合うのかも知れない。風来坊の旅路に赴こうとすると、何らかの出来事が
   俺の行く手を遮ってしまうからだ。つまりは俺に足元を固めろという表れなのだろう。

    ダークの一件から数週間後、遠出ではなくバイクでのツーリングを決行した。完全な息抜き
   なため、他の女性陣には遠慮して貰った。
   ただでさえ俺を取ろうと躍起になっている彼女達。下手な声掛けでもしようものなら、要らぬ
   嫉妬心の業火に焼き尽くされるであろう。実に怖ろしい事だ・・・。


    行く当てもなくバイクを走らせる。やはりハーレーは最高だ。ギアチェンジの煩わしさが
   あるが、それを補って余りある爽快感は何とも言えない。
   それにこのマシンのパワー自体が凄まじい。流石は1000ccクラスである。

    ちなみに単車はトーマスCに返却し、今乗っているのはサイドカーの方だ。側車には簡単な
   手荷物を乗せての状態。左の旋回時に横転しそうになるのは言うまでもない・・・。



ミスターT「どうしたんだ?」
    休憩も兼ねて近くのサービスエリアに停車する。地元を離れて高速に乗り、そのまま地方
   へと足を運んだ。
   その休憩場で単車と調整格闘中ライダーがいる。フルフェイスのヘルメットを着用しており、
   モータースポーツタイプのギア車にマッチングしたボディスーツは何とも言い難い。本格的な
   ライダーと言える。
ライダー「あ・・え〜・・・エンジンが掛からなくなってしまって・・・。」
ミスターT「ここでか・・・。」
   エンジンに向かって格闘中のライダーの脇に寄り、同じくエンジンを見つめる。ド素人の俺
   にもチンプンカンプン物で、これは専門の業者を呼んだ方が良さそうだ。
ミスターT「来るまでは掛かってたのか?」
ライダー「はい。出発しようとしたらエンジンが掛からなくなってしまって・・・。」
   俺もライダーの単車に跨りエンジンを掛けてみたが、相手が言う通り何の反応もしなかった。
ミスターT「ちょっと待ってな。」
   俺は携帯を取り出し、エリシェに連絡を入れる。確か彼女なら曳船のディーラーのトーマスS
   の連絡先を知っている筈だ。やはり彼女の力に頼ってしまうなぁ・・・。


ミスターT「了解です。よろしくお願いします。」
    エリシェからのアポでトーマスSと連絡が取れた。今の現状を話すと、近場の緊急対応の
   チームを介して取りに来てくれるという。何でもトーマスSは緊急対応チームの総合取締役を
   行っていたそうで、こういった非常時の対応は日常茶飯事だったと言う。
   トーマスCの警察庁総監の件もそうだが、隠れた猛者と言えるだろうな。トーマスS様々だ。
ミスターT「バイクを取りに来てくれるってさ。お前さんも利用している曳船のディーラーに届けて
      くれるそうだ。」
ライダー「よかったです・・・。」
   サービスエリアの総括にバイクを保管して欲しいと直談判で交渉した。これに快く了承して
   くれる。こういった不意のアクシデントは日常茶飯事だという事だ。
   バイクのキーも総括に渡し、再度トーマスSに連絡を入れておいた。これでスムーズに運んで
   くれるだろう。

ミスターT「そうだ、俺の側車に乗りな。自宅まで送るよ。」
ライダー「よ・・よろしいのですか?」
ミスターT「お節介焼きの世話焼きだ、気にするな。」
    結局こういった流れになるのか。1人旅はできなさそうだ。まあ同性のライダー同士だし、
   飽きる事はないだろう。それに側車の重量バランスに一役買ってくれるわな。


    と・・・そんな俺の考えを覆す出来事が起きた。ライダーがヘルメットを取ると、男性とは
   思えないロングヘアーが飛び出してきたのだ。このライダー、女性だったのか・・・。
ミスターT「女だったのか・・・。」
ライダー「フフッ、外見で判断されましたね。フルフェイスのヘルメットを着用すると、その体躯の
     大きさから男性と見間違われるのですよ。」
   胸をガードするプロテクターを外すと、女性の象徴とも言える胸の脹らみが現れる。しかも
   この女性、胸がかなりデカい・・・。
ミスターT「まあいいか。俺はミスターT=ザ・レミニッセンス、お前さんは?」
ライダー「あ・・・も・もしかして・・・。」
   俺の名前を聞くや否や、クールだった彼女の表情が一瞬にして晴れ渡る。というか彼女、以前
   見たような気がするんだが・・・。
ライダー「・・・偶然とはこの事ですね。兄が東京駅でお世話になったのもそうでしたし。」
ミスターT「兄・・東京駅・・・。」
   彼女が発した言葉に直感と洞察力がフル回転する。そして兄という人物が瞬時に思い浮かぶ。
ミスターT「・・・まさか・・お前さん、ディルの妹?」
ライダー「はい。双子の妹のディルヴェズ=レディナイトと言います。ディルヴェズLKと呼んで
     下さい。」
ミスターT「お・・同じ名前かよ・・・。」
   ディルヴェズと同じ名前だった事実にずっこけそうになる。確かによく見れば顔が似ている。
   また兄のディルヴェズも長身で美男子だったため、彼女の方も長身で美女そのものだ。



    立ち話も何だと思い、サービスエリアの飲食店に足を運んだ。彼女は既に食事を済ませて
   いるようだが、俺の方はまだである。ここは付き合って貰うしかない。
ディルヴェズLK「その説は兄が大変お世話になりました。」
ミスターT「気にしなさんな。」
   頭を下げて礼を述べる彼女。あの当時は本当に困っていたディルヴェズを見過ごせなかったの
   だから。
ディルヴェズLK「兄が何度も言ってました。貴方がいなければ路頭に迷っていただろうと。それに
         貴方のような存在になるのだと、日々周りへの気配りを大切にするようになって
         いますから。」
ミスターT「彼ならやりそうだよな・・・。」
   根っからの熱血漢でお節介焼き、俺に近い属性を持つディルヴェズ。今も学園や周りからは
   大人気なのは言うまでもない。男女隔たりなく接する姿は、正しくヒーローそのものだろう。
ミスターT「お前さんは人気者じゃないのか?」
ディルヴェズLK「その・・・人と接するのが苦手でして・・・。高校卒業後から働きに出ました。
         今は警備会社の職に着いています。」
ミスターT「人が苦手な割には警備の職か、何だか矛盾してる。」
ディルヴェズLK「フフッ、よく言われます。」
   素体の彼女から発せられる魅力だろう。苦手と言いつつも、話術はこの上なく優れている。
   またディルヴェズと同じく、彼女も笑顔が素晴らしい。周りに人気になる素質は十分に受け
   継いでいるわ。

ディルヴェズLK「職場の関係上、警察官のウインドさんとダークHさんという方と一緒になる時が
         あります。お2人とも面倒見て下さいます。」
ミスターT「あの2人がねぇ・・・。」
    簡単な軽食で済ませ、コーヒーを啜る。その中、彼女がウインドとダークHと知り合いと
   いう。確かに警備職は警察官と精通している。それに警備自体がシークレットサービスに近い
   属性になるだろうから。
ミスターT「お前さんは地域貢献の鏡だよ。」
ディルヴェズLK「あ・・ありがとうございます・・・。」
   誉めると頬を赤くして俯く。直感だが誉められた事があまりなさそうな雰囲気だ。この労いは
   彼女の心に響くだろう。



ディルヴェズLK「ハーレーのサイドカーですか・・・。」
    このハーレーサイドカーの破格の大きさに、案の定彼女も驚いている。資金面的に購入と
   意地が難しいハーレー。それだけにライダーにとっては憧れのバイクとなろう。
ミスターT「大型を取ってから何年経つ?」
ディルヴェズLK「3年ですね。」
ミスターT「なら任せられるな。」
   俺はそそくさと側車へと乗車する。それを見た彼女は呆気に取られている。つまりは運転は
   自分がするのかという表情である。
ミスターT「それとこれを着な。いくらスーツが保温性が高いといっても、寒い事には変わりない。
      風邪を引かれでもしたらディル達に何を言われるか・・・。」
ディルヴェズLK「あ・・ありがとうございます・・・。」
   ハーレーに跨るディルヴェズLK。やはりその大きさに圧倒されている。その彼女に自分が
   着用していたロングコートを手渡した。ライダースーツの上から着用するロングコート、実に
   不思議な雰囲気である。

    その後徐に発進しだす。初めてだと言っていた彼女だが、その技術力は目を見張るものが
   あった。これなら安心して任せられる。

    しかし・・・ディルヴェズに双子の妹がいたとは。彼を女性にしたみたいな出で立ちと、
   瓜二つと言える性格は見間違うほどだ。



    結局遠出はできず、彼女の散歩コースに従う事になった。以前エシェラと一緒に赴いた、
   葛西臨海公園へと向かっている。海風が気持ちいいと彼女もお気に入りの場所のようだ。

    本当は遠出をしたかったと語る彼女だが、自前のバイクが故障している現在は無理無茶は
   禁物だろう。いくら運転が慣れているとはいえ、サイドカーは初体験だろうから。


ミスターT「お疲れ様。」
ディルヴェズLK「あ・・ありがとうございます。」
    駐車場にサイドカーを置き、駅前の噴水の場所で一服する。2つ買った紅茶の片方を彼女に
   手渡す。これと同じ出来事が脳裏を過ぎるが、メルデュラとここに訪れた時と同じだからで
   あろう。
ミスターT「流石熟練者、安心して任せられたよ。」
ディルヴェズLK「そんな、買い被りですよ。まだまだ未熟です。」
   謙遜するなと引き気味になる彼女。しかし己が未熟と位置付けるからこそ、しっかりとした
   運転ができるのだから。

    紅茶を啜りながら噴水を見つめるディルヴェズLK。俺はというと煙草を吸いながら携帯を
   操作している。エシェラ達から心配のメールが何通か届いていた。心配するような事ではない
   のだが・・・。
ミスターT「ん、どした?」
ディルヴェズLK「え・・あ・・・な・・何でもありません・・・。」
   全部のメールを返し終えて携帯を胸ポケットにしまう。その時俺の顔をずっと見つめている
   彼女に気付いた。切り出すと慌ててソッポを向く。まさかとは思うが・・・う〜む・・・。

ミスターT「・・・東京駅、懐かしいよな。風来坊に旅立とうとした時に、改札口付近で慌てている
      ディルがいた。理由を聞いてみると財布を落として一文無しになってしまったと。」
ディルヴェズLK「・・・困った兄を見過ごせない貴方は、軍資金から2万円を削りペンダントに
         収めた。それを兄に手渡したのですよね。」
ミスターT「ああ。3年前の体育祭の時にディルと再開した時、今でも当時のペンダントを大切に
      身に着けていた。あの少年が美青年になっていたとは驚きだったよ。」
    ディルヴェズと知り合って3年前の再開までを語る。それを聞いていたディルヴェズLKも
   所々の場面を自分の事のように語った。

ディルヴェズLK「・・・何とお礼を言ったらいいのか・・・。」
ミスターT「いや、直接的には関係は・・・あるんだよな・・・。」
ディルヴェズLK「そうですよ。兄が貴方とお知り合いにならなかったら、私は今こうしていないで
         しょう。貴方が切っ掛けを作ってくれたから、今こうして巡り合っているのです
         から。」
    頬を赤く染めながら感謝と憧れの眼差しで俺を見つめる。う〜む、少なからず彼女に好意を
   持たれる事になってしまうとは。それでも女性は恋路に走っている時が一番輝いている。今の
   彼女は正しくその絶頂期だろう。

ディルヴェズLK「あの・・・これからもお付き合いできないでしょうか?」
ミスターT「断ったってなぁ、お前はあのディルの妹だぞ。一度定めた事は何が何でも突き通す。
      それに竹箆返しが怖すぎる。」
    渋りつつも承諾のサインを送る。それにこの上ない喜びを示す彼女。普段感情を表に出さ
   ないようで、その輝き度は凄まじいものである。
ミスターT「とりあえず、後日喫茶店においで。その出で立ちだとゆっくり落ち付けないだろう。」
ディルヴェズLK「はいっ!」
   何だかなぁ・・・。でも彼女の一時の思い出に役立てるなら安いものか。問題はエシェラ達に
   何と言われるかだが・・・。


    休憩を終えた俺達は地元へと帰還した。帰りの運転は俺で、側車に彼女を乗せてである。
   偶然が重なり合っての巡り合い、か。実に不思議な縁であろうな・・・。



    数日の旅路と豪語していた俺が短期間で戻ってきた事に、エシェラ達は驚きを隠せない。
   まあ原因となる相手が相手なだけに、戻るしかなかったのが実情ではあるが・・・。

    レミセン本店にはシュームとメルデュラ、それに数週間前に完全復帰したダークがいる。
   孤児院で働く事を本業とし、休みの時はウェイトレスを手伝っている。まあ彼女の理由は俺と
   一緒にいたいというのが実情だろうが・・・。


ミスターT「日に日に綺麗になっていくよな。」
    傍らに座るダークの頬を優しく撫でる。あの火傷の跡が嘘のように消えており、今では普通
   の女性のように振舞っている。
ダーク「全て貴方のお陰です。貴方がいなかったら・・・どうなっていたか。」
シューム「あまり女の子を泣かさないようにね。」
ミスターT「この場面を見てそう言い切れるその性格が分からん・・・。」
シューム「女心は海のように広く深いのよ。そう簡単に分かる男がいるなら大したものよね。」
   この美丈夫には参り気味である。しかしダークの心境を理解しているため、彼女をサポート
   する発言と取れるだろう。シュームは根は生真面目で優しいからな。

    後半へと続く。

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