アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜番外編 生き様を語る2〜
    翌日。俺は再びタキシードを身に纏い、生き様を語るべく学生達がいる学園へと向かった。
   懐にはリュリアと何度か打ち合わせをした原稿を忍ばせてある。

    学園に入るや否や、女子学生から声を掛けられる。女子高という秘密の花園に、タキシード
   と覆面を身に着けた場違いな野郎が現れたのだ。目立ってしまうのは言うまでもない。

    しかし、明るいものだ。こういった学生達が、今後の日本を築いていくのだから。俺も魂心
   の激励をせねばな・・・。


    一旦職員室へと足を運ぶ。既にナツミYUやウィレナの計らいで、教師の方々には俺の事は
   知れ渡っている。それに学園前のレミセンに訪れる人物も多いのも事実。俺の姿は何度か見た
   事があるとも語っている。

ミスターT「よう。」
ウィレナ「おはようございます、マスター。」
    職員室へ入るとウィレナが出迎えてくれた。先日とは異なり、髪の毛を後頭部でロール状に
   纏めている。それにスカートではなく長ズボンだ。ボーイッシュとはこの事だろう。
ミスターT「あの少女が教師か、信じられんよな。」
ウィレナ「フフッ、そうですね。」
   この美丈夫なら、必ず教師になると確信する。一度決めた事は貫き通すのが彼女の性格だと
   エシェラ達が語っていた。真女性には敵わないわ・・・。

ミスターT「一応原稿を書いてきたよ。」
    懐から取り出した原稿をウィレナに見せる。その枚数を見て驚愕している。原稿用紙30枚
   近く、殆ど論文に近いだろう。
ウィレナ「す・・・凄いですね・・・。」
ミスターT「リュリア監修の下、数時間掛けて書き上げた。こうでもしないと頭が真っ白になりそう
      でね。」
ウィレナ「フフッ、大丈夫ですよ。貴方なら何だってできます。」
   ラフィナの性格を明るく気さくにしたのがウィレナと言える。もちろん心の強さも健在だ。
   う〜む・・・髪の毛の色さえ黒なら、ラフィナと双子と言えるのだろうが。何とも・・・。



    その後俺とウィレナは体育館へと向かった。既に現地では3学年の生徒全員がいた。一切の
   乱れもなく、前後左右キッチリ並んでいる。これはこれで凄いが、堅苦しい事この上ない。

    俺の姿を見ると一斉に挨拶をしてくる学生達。これも一切の乱れなくやってみせた。統率力
   は凄まじいものがある。

ナツミYU「おはよう。」
ミスターT「おはようございます。」
    生徒達の前にナツミYUがいる。他の教師達もいるが、ナツミYUには頭が上がらないと
   いった雰囲気だ。まあ元シークレットサービス故に、肝っ玉の据わりは凄まじいものだろう。
ナツミYU「どう、何とかできそう?」
ミスターT「一応原稿は書いてきましたよ。」
ナツミYU「フフッ、君には原稿とか合わないよね。」
ミスターT「そう言わないで下さいよ・・・。」
   シュームを師と仰ぐナツミYU。性格も彼女に似ている。意地悪っぽく語る仕草は、本当に
   よく似ていた。

ナツミYU「あら・・・他の子達も見てる。」
    暫くするとナツミYUが呟く。何と体育館の周りを2学年や1学年の生徒全員が取り囲んで
   いると言う。俺も伺ったのだが、まるでライブ会場に入り切れなかった大勢のファンのようで
   ある。
ナツミYU「ちょっとまってて、教室に戻るよう言ってくるから。」
ミスターT「いいじゃないですか。彼女達にも聞いて頂きましょう。3学年だけとか、そういった
      概念は嫌ですから。」
ナツミYU「う〜ん・・・君がそう言うなら。」
   ナツミYUとウィレナ、それに他の教師達は体育館外に集まっていた生徒全員を呼び集める。
   一気に賑わいだす体育館。まるで全校集会のようである。


    それと俺はナツミYUにある提案を持ち掛けた。それは整理整頓された並び順、そして直立
   による視聴というこの場。これを止めて全員を円を描くように座らせ、懇談的に会話をしたい
   と持ち掛けた。

    俺が生徒の立場なら、直立不動での激励なんか受けたくない。確かに社会では朝礼などで
   必要なものになるだろうが、正直今はどうでもいい事だ。それに貧血で倒れられたら目も当て
   られない。ここは俺の考えを押し通して貰う事にした。



    体育館の中心に俺が立ち、周りを全校生徒が円を描くように座る。それぞれ自由な座り方を
   していいとあって、リラックスした姿でいる。懇談とはこうあるべきだろう。

ナツミYU「ではミスターT君に激励して頂きます。しっかり聞くように。」
ミスターT「ナツミYUさん・・・堅すぎ。それだから何時も周りから堅物と言われ、それでご自身
      が疲れたとか言うんですよ。」
ナツミYU「で・・でも一応校長としての立場が・・・。」
ミスターT「普段は可愛らしいのにねぇ〜。」
ナツミYU「な・・・な・・何を言うのですかっ!」
    ナツミYUと俺のやり取りに、回りの女子生徒達は笑っている。堅物で知られている彼女が
   俺の前ではタジタジなのだから。これには驚くというよりは笑ってしまうのだろう。
ミスターT「俺には貴方や先生方にも、教師としてではなく普通の方として聞いて欲しいのです。
      それに君達も同じだよ。俺からすれば妹みたいな年代だから、妹に語り掛けるように
      話すから。それに俺の方も普通に話せるからね、気軽に聞いて欲しい。」
   俺の言葉で緊張した面持ちの一同が更に落ち着きだした。この場は教師や生徒、そして先輩
   後輩といった概念を一切省く。そうしなければ堅苦しい会話になり、彼女達の心に響かない
   だろうから。



ミスターT「3学年の子達には既に話したが、2学年と1学年の子達には自己紹介がまだだったね。
      知っての通り、喫茶店ザ・レミニッセンスのオーナーを任されているミスターTです。
      今日は君達の今後の生き様に、少しでも力になれればと思います。」
    先ず始めに初対面の2学年と1学年の生徒達に自己紹介をした。これは当たり前のマナー
   である。
   俺は懐から原稿を取り出す。それを開き原稿に目をやった。だがそれを折り畳むと、再び懐に
   しまう。これに回りは驚いている様子だ。

ミスターT「・・・生き様。簡単に言える言葉だが、実は物凄く重い言葉だ。そもそも自分自身が
      何のために生きるのか、そこにこそ生き様の原点があると思う。環境に流されて生きる
      事もできるが、それではあまりにも悲しい生き様だ。」
    そうである。俺は原稿の内容を読まず、頭に浮かんだ言葉を語り出した。周りに型破りな事
   を押し進めているのに、俺だけ原稿の文章を読むという型収まりだけでは失礼極まりない。
   ここは面と向かっての真っ向勝負での会話が彼女達、いや一同の心に響くと確信している。

ミスターT「俺はヴァルシェヴラームという女傑が運営する孤児院出身。いたであろう両親を知らず
      に生きてきた。16から20になるまで働き出し、それから7年間日本中を転々として
      きた。これが俺の原点であり、掛け替えのない生き様でもある。」
    よく自然と語り出す時に一服するクセがあり、この時も懐から煙草を取り出す。しかし現状
   が学園なだけに思い止まった。


ミスターT「生き様を語ると言っても、人それぞれ異なった人生がある。君達はナツミYU校長が
      見守る学園の生徒であり、それが今の君達の人生そのものだ。何れこの学園を卒業し、
      それぞれ異なった道を進みだすだろう。」
    何だか自分の武勇伝を語っているみたいで恥ずかしい。しかし生き様を語る上では必要で
   ある。う〜む・・・原稿を読めばよかったかも知れない・・・。

ミスターT「今後社会に出て色々な場面に遭遇すると思う。理不尽な事を言われたり、職場の同僚達
      との問題も少なからず出て来る筈だ。しかしそれらは己の身を鍛え上げる大切な瞬間
      でもある。そこは逃げずに挑んでいって欲しい。」
    俺は我武者羅に突き進んでいたため、職場の同僚とのいざこざはなかった。というか風来坊
   で各地を転々としていたため、1つの場所に長くいる事はなかったのだから。


ミスターT「もし君達が苦難に直面したら、今までの生き様を振り返って欲しい。過去があったから
      こそ今がある。もちろん悪い事をすれば必ず竹箆返しとして返ってくる。過去にとある
      生徒の告白を阿呆の如く蹴った愚者がいたが、その後の末路は悲惨なものだった。」
    ここはあえてラフィナの名前を挙げなかった。ラフィナと指定しては、彼女だけが受けたと
   思われてしまう。実際にはこれと同じ事が起きていてもおかしくはない。

ミスターT「感謝の心を忘れないのも大切な事だね。今まで生きて来られたのは、周りの人々がいた
      からこそだ。それに大切な家族・友人もそう。既にこの中の何人かは心の支えになって
      いる愛しい人もいるかも知れない。かく言う俺にも大切な人がいるけどね。毎日が大変
      だけど・・・。」
    俺の言葉に周りは笑う。大体は予想は付くのだろう。ここの卒業生でもあるラフィナや、
   他の女性陣がそうなのだから。


ミスターT「ナツミYU校長から激励をしてくれと言われたけど、俺みたいな風来坊には君達に心
      から語れるいい言葉が浮かばない。むしろ君達の生き様の方が素晴らしいよ。世間の
      眼はガキだ何だというが、テメェらだって同じ道を歩んできたじゃねぇかって思うわ。
      そんな無粋な事を言う奴がいても、無視して自分の生き様を貫いて欲しい。」
    やはり口元が淋しく、自然と煙草を取り出す仕草をしてしまう。その度に思い止まるが、
   周りから構わないという目配せを受けてしまった。それに小さく頭を下げ、徐に煙草を吸う。
   この時の一服は格別に美味かった。何だかなぁ・・・。

ミスターT「毎日毎日勉学に励み、自分の目標に向かって進んでいる。辛い日や悲しい日もあった事
      だと思う。それでもひたすら突き進む君達に俺は敬意を表したい、お疲れ様と。それに
      生まれてきてくれてありがとう。君達がいたからこそ、俺もここでテメェの原点回帰が
      できたのだから。本当に感謝しているよ。」
    俺の言葉に涙を流し出す生徒達がいた。この激励が彼女達の心に少なからず響いている何
   よりの証であろう。実に嬉しい限りである。


ミスターT「困った事があったら、何時でもレミセンに訪れるといいよ。俺が心から気を許せる女傑
      に相談するといい。ありとあらゆる相談に応じてくれる筈だから。無理難題以外なら
      だけど・・・。」
    タバコの火を携帯灰皿で消して懐にしまう。一息付いてから、一同を見渡した。どの生徒達
   も爽やかな表情をしている。

ミスターT「俺からはこのぐらいかな。あまり長々と話すと飽きが来ると思うから終わりにしよう。
      呉々も無理無茶しないようにね。それに笑顔を忘れずに。これだけの美貌だ、笑った
      方が可愛いからさ。」
    自然と語ってしまう口説き文句に、周りは頬を染めている。しかし目は何処までも据わって
   いる。魂心の激励が心に響いたようだ。

ミスターT「ご清聴ありがとう、以上です。」
    締めの言葉を語ると大拍手が巻き起こった。全員立ち上がり、俺に向けて惜しみない拍手を
   繰り広げてくれる。それに深々と頭を下げ礼を述べた。



    何だか変な懇談会となってしまった。それでも始める前と終わった後では、一同の表情が
   全く違う。魂心の激励が少なからず心に響いたと思っていいのだろう。

    それぞれの教室に戻っていく生徒達。また先生方も一緒に戻って行った。俺は学園の中央に
   ある庭園のベンチに座り一服している。教師の偉大さを改めて思い知らされた。


ウィレナ「お疲れ様です。」
    庭園の風景を見ながら一服していると、ウィレナが缶紅茶を2つ持って現れる。1つを俺に
   手渡すと、缶を開けて徐に飲みだす彼女。

ミスターT「なぁ、ウィレナ。俺は誇れる生き方をしているのかね・・・。」
ウィレナ「何を仰いますか。先程の激励は皆さんの心に痛烈なまでに響いていましたよ。」
ミスターT「それは分かってる。俺の下手な激励でも、一同の心に言葉を残せれば嬉しい限りだよ。
      でも・・・俺自身の生き方は間違ってはいなかったのかね・・・。」
ウィレナ「アマギHさんに語ったと言われる言葉を聞きました。常々日々に強き給え、と。常日頃の
     積み重ねがあって、今の貴方が存在します。これは紛れもない生き様です。自己観点から
     見てしまうと分からない部分がありますが、私からすれば貴方の生き様は充分素晴らしい
     ものですよ。」
    力強く語るウィレナ。先程の興奮が冷めやらぬようで、少し緊張気味の面持ちだ。その彼女
   の頭を右手で優しく撫でてあげた。無意識で行う労いの1つである。
   するとその右手を両手で掴み、優しく抱き締めるように胸に置く。まるでその温もりを心に
   刻むかのように。

ウィレナ「こういった貴方の労いに、どれだけの方々が励まされ勇気付けられた事か。その分貴方は
     心に大きな苦悩をお持ちでしょう。それにこれからも続くと思います。それでも自らを
     押し殺し、周りへの激励を続けていらっしゃいます。その貴方の生き様を侮辱する輩が
     いるのなら、私は黙ってはいません。」
    凄まじいまでの気迫である。以前ラフィナに聞いた所、ウィレナは柔道と剣道を極めるほど
   までの腕前だという。ナツミYUも実質上紅帯の実力者であり、その彼女に手解きを受けて
   いるとも。


ミスターT「そうだよな・・・。誰彼がどうこうじゃなく、テメェ自身がどうあるべきか・・・。」
ウィレナ「そうですよ。」
    自分の生き様の苦悩は、やはり愛しい6人への愛情だろう。それを押し通してしまっている
   現状に、自分が正しい事をしているのかという疑問が湧いてくるのだ。
ウィレナ「ラフィナ先輩から聞いていますよ。タブーとされる複数の女性との交わりを、貴方は一切
     断らず受けてくれると。あの時の先輩の顔は見た事がないような明るさでした。今でも
     鮮明に心に焼き付いています。」
ミスターT「そうか・・・。」
ウィレナ「もっと自信を持って下さい。貴方は充分やっています、戦っています。貴方自身の生き様
     を貴方自身の手で刻む戦いを。そんな貴方が・・・私は好きですから・・・。」
ミスターT「・・・ありがとう。」
   恥らいながら語る彼女。しかし目はどこまでも据わっている。自分に言い聞かせるような決意
   ある発言にも見て取れる。


    俺は傍らにいるウィレナを抱き寄せ胸に抱く。それに慌てふためく彼女。特にここは学園内
   の庭園だ。生徒達に見られたら大変だと思っているのだろう。

ウィレナ「ちょ・・ちょっと・・・そんな・・・。」
ミスターT「気にする事じゃないよ。お前が心に抱いている強い思いは本物だ。そのお前にも敬意を
      表したい。俺にできる事はこのぐらいだから。」
    彼女の顔を右手でソッと持ち上げると、そのまま優しく唇を重ねた。これに驚愕した表情で
   驚いているが、身体は自然と委ねてくる。

    本能に身を任せれば済む事なのに、理念がそれを思い留める。それは俺も同じ事であろう。
   リュリアが自然体で接してくる行動に、羨ましさを感じずにはいられない。

ウィレナ「・・・ラフィナさんの言った意味が分かりました。」
ミスターT「勇気を貰えたと、か?」
ウィレナ「はい・・・。最初は戸惑いましたが・・・唇から感じる思いは痛烈です。」
ミスターT「よかったね。」
    再びウィレナを胸に抱く。それに吹っ切れた形で身を委ねてくる彼女。背中を優しく叩き、
   そして頭を優しく撫でてあげた。
ウィレナ「これからも・・・お付き合いさせて下さい。」
ミスターT「ああ、分かった。それにお前自身も頑張れよ。どんな苦難があろうが、お前なら乗り
      越えられない筈はない。」
ウィレナ「はいっ!」
   久し振りに再会した時の彼女は、心に何らかの悩みを持っているように見えた。それが今では
   感じさせないほどにまで据わっている。生徒達への激励もそうだが、ウィレナ自身にも激励
   できたと思う。

    身を以ての激励、か。それをウィレナ自身が実演してくれたようだ。



    その後校舎へと戻った俺とウィレナ。入るや否や、下校する生徒に引っ張りだこになる。
   このハーレムみたいな場に、流石の俺でも青褪めるしかない。

    それでも彼女達に伝わった強い思い。これが後の生き様を刻む戦いへの布石となるだろう。
   俺の生き様を語る事は無駄ではなかったようだ。


    俺もまだまだ負けられないわ。テメェの生き様を刻む戦いを、これからも死ぬまで続けて
   いくつもりだ。

    生き様を語る・終

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