アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜 〜番外編 巡る縁2〜 翌日、地区大会当日。トモミ自身は俺の強化訓練の後にも、自分自身の強化訓練も行って いた。それを初めて出会った時から欠かさず行っていたのだ。 今日は万全だと言い切る彼女。この雰囲気なら恐れるものはないだろう。自分自身が出せる 最大限の力で挑めるはずだ。 昨日帰宅の際、今日も水着持参で来てくれと彼女に言われた。今日も強化訓練を行うようで ある。ターリュとミュックの血筋があるため、断る事などできる筈もないわな・・・。 ミスターT「とにかく全力を以て挑めよ。」 トモミ「はいっ!」 競泳用の水着に身を包み、その上にジャージを着込んでいるトモミ。昨日髪の毛を切った ようで、ショートカットが実に可愛らしい。 彼女に激励をすると、顔を赤くしながらも力強い返事をして会場へ向かう。その後姿はあの じゃじゃ馬娘、ターリュ・ミュックの姿を同じである。 ラフィナ「いよいよですね。」 ミスターT「彼女ならやれるさ。」 同会場にはラフィナとウィレナも訪れていた。特にラフィナは過去にあった出来事と被って いるため、どこか緊張した面持ちである。 ウィレナ「あのさ・・・。」 ミスターT「何だい?」 ウィレナ「・・・いや、何も言わなかった事にして。」 ミスターT「ふむ・・・。」 またウィレナの方は何かを隠しているようである。それはラフィナの方も同様だった。それが 何なのかは分からないが、触れないでくれと言うのだからその通りにしよう。 その後俺達は競泳会場へと向かった。まあ会場とは言っても、室内プールの隣にある更に 巨大な室内プールではあるが。 ちなみにナツミYUが担当する総合学園は、多種多様の競技ができる設備が揃っている。 こういった大規模な競技がある場合は、決まってここを使うのだとか。 まあここの運営資金はナツミYUのシークレットサービスで賄ったものだ。これだけの規模 を全て建設・運営維持してお釣りがくるのだから、どのぐらいの資産を持っているか不明で ある。 それでも彼女は全財産を学園に寄贈しているという。全ては生徒達のために。生徒達あって の教師を貫いているため、この一念を貫き通せるのだろう。 ヴァルシェヴラームが孤児院の覇者なら、ナツミYUは学園の覇者と言えるだろうか。又は レディ・ティーチャーと言えるだろうな。 俺とラフィナ・ウィレナは競泳会場の間近にいる。プールサイドに近いと言うべきか。この 配慮はナツミYUらしく、その彼女は反対側のプールサイドで運営を取り仕切っている。 しかし・・・競泳者の全てが女性とは聞いていなかった。まあトモミの所属する学園の高校 が女子学生オンリーなのだから当たり前か。更に観戦している生徒や一般客も女性ばかりで ある。 見渡すが野郎は俺1人のようだ。外部の警備は男性職員が担当しているようである。つまり 完全なハーレムのど真ん中にいると言っていい。 う〜む・・・この環境は俺には辛すぎるわ・・・。 競泳地区大会は幕を切った。この一戦で上位1名が全国大会に出場できるとあって、どの 選手も大張り切りである。その中にトモミがいるのだから驚きである。 彼女のスタートは最後らしい。地区でも強豪揃いの生徒達との対決だ。これは見物だわ。 ウィレナ「凄い熱気ですよね。」 ミスターT「その瞬間は戦士だからね。格闘術大会でも同じような雰囲気だったよ。」 ラフィナ「勝負は一瞬ですから、気を抜いたら負けですよ。」 この熱気に当てられて、興奮気味のラフィナとウィレナ。2人とも属性が似ているからか、 殆ど同じ雰囲気である。 雑談をしながらも目が離せない。どの女子生徒もその一瞬を全力で戦い切っている。その 熱意は野郎の俺でさえ感じるほどだ。 ラフィナが言っていた、勝負は一瞬という言葉は痛烈に理解できる。言わば彼女達は水上の 戦士なのだから。地上でも水上でも、その流れは全く変わらない。 ラフィナ「あ、トモミさんです。」 ウィレナ「頑張れーっ!」 いよいよトモミ達の出番だ。この瞬間に全力を注いできたのだから、その意気込みは凄ま じいものだろう。しかし何となくだが、彼女の雰囲気がおかしい事に気付いた。 そんな考えを巡らしているうちに、最後の競泳の準備が行われだした。今回参加した女子 生徒達は合計30人ばかしだ。1回につき5人ずつ競泳したので、6巡する事になるだろう。 殿となったトモミ達に大声援を送る周りの女子生徒達。その彼女達の声援を背負って、最後 の競泳が行われた。 一斉に飛び込む5人の猛者達。全員クロールとあって勢いは凄まじく、5匹の水竜が水上を 這っているかのようである。 100mの競泳なので、この50mプールを1往復する事になる。その中でトップを進むは トモミであった。その姿はマーメイドさながらである。 しかし5人とも往復を行い残りの50mを泳ぎだした頃、それは起きた。トップを進んで いたトモミが突然水中に沈んだのだ。最初は何かの戦術かと思ったが、胸に去来する凄まじい 痛みはトラブルだと判断できた。 咄嗟だった、我を忘れて駆け出した。そのまま競泳中のプールに飛び込み、一心不乱に彼女 の傍まで泳ぐ。彼女の異変と俺の行動を察知したラフィナ・ウィレナ・ナツミYUも一斉に プールへと飛び込んでいった。 水中に没したトモミは両足を抱えて蹲っている。間違いない、両足が痙攣を起こしたのだ。 直ぐさま彼女を抱きかかえ、そのまま水上へと持ち上げた。背丈が高い分、この行動は楽に できた。 そこにラフィナ・ウィレナ・ナツミYUが駆け付け、彼女を抱きかかえだす。足を静かに 伸ばしながら水中に浮かべ、そのままプールサイドに引っ張っていく。 ナツミYUとウィレナが負傷したトモミを優しくプールサイドに上げる。その彼女を周りの 女子生徒達が一斉に手伝いだした。この連携は日頃から行っていなければできないだろう。 俺は水中でラフィナと一緒に待機した。ナツミYUがトモミを介抱しだすが、幸いにも取り 乱していた訳ではないので溺れていなかったようである。 あの一瞬のトラブルでも瞬時に息を止めて助けが来るのを待ったのだろう。幼い頃から水に 慣れ親しんだトモミでなければできない業物だわ。 ナツミYU「水は飲んでいないようね。」 ウィレナと共に足をマッサージするナツミYU。意識はしっかりしている事を確認した周り の女子生徒達は、一気に緊張感が緩んでいった。 トモミ「ターンまではよかったのですが・・・、その後突然足に痙攣が起きまして・・・。」 ラフィナ「病気の類ではなさそうですね。おそらく緊張したため、準備運動が足りなかったと思い ますよ。」 ミスターT「驚かせやがって・・・。」 俺の方も緊張が緩み、そのまま水面に身体を浮かべて休んだ。何時もの癖で懐から煙草を取り 出そうとするも、完全に水没しているため吸える所の話ではなかった。 トモミ「・・・マスター・・・浮いてますよ・・・。」 そんな俺の言動を見たトモミが驚愕している。俺が水中に浮いている事に驚き、回復中の 重い身体を起こしてきた。 トモミ「やった・・・やったじゃないですかっ、浮けましたよっ!」 感動極まってそのまま水中に飛び込んでくる彼女。しかし飛び込む際に足に再び痙攣が発生 したため、そのまま倒れ込むようにしてくる。その彼女を咄嗟に支えた俺である。浮かんだ ままトモミを抱きしめ、そのまま水上に浮かんでいたのだ。 ミスターT「う・・・浮いているよな・・・。」 トモミ「やればできるじゃないですかっ!」 自身の身体の痛みを凌駕するほど、感動し切っているトモミ。俺に抱きつきながら大喜びして いた。先程のトラブルにより静まり返った会場内だが、目の前の出来事に拍手をしだした。 ミスターT「ハハッ・・・浮かべただけで拍手か・・・、何ともまあ・・・。」 トモミ「貴方が努力し続けた事に対してですよ・・・。」 感極まって泣き出している。その彼女を抱きかかえながら、会場内に響く拍手を聞き入った。 しかし・・・浮かべるとは思いもよらなかったわ・・・。 突然のトラブルにより、最終競泳は時間を置いてやり直しとなった。トモミは身体の事を 最優先して棄権している。しかし彼女の方は全く残念そうな雰囲気ではなかった。 再開する最終競泳。今以上の白熱した応援が会場内に響き渡った。そんな彼女達を会場の 隅で一服しながら見つめ続けた。 ラフィナ「よかったですね。手荷物はコインロッカーに預けてあって。」 衣服全てがびしょ濡れになったため、水着に着替えたラフィナ・ウィレナ・ナツミYU。 また俺も同じである。地区大会は終了し、静まり返った別館のプールサイドで寛いでいる。 ミスターT「水没しながらも煙草を吸おうとしたからなぁ・・・。」 ウィレナ「フフッ、マスターらしいです。」 先程の咄嗟の行動の後の余波からか、幾分か疲労感が襲ってきている。それもそうだろう。 今の今まで泳げもしなかった俺が、トモミを助けるべく一心不乱に泳いだのだから。 ナツミYU「流石は伝説の風来坊よね。トモミさんの苦痛を感じ取って、何振り構わず苦手な水中に ダイブしたのだから。」 ラフィナ「マスターの真剣な表情で何かあったのだと直感しました。でなければ出遅れて、トモミ さんは溺れていたかも知れません。」 ミスターT「ん〜、それはなかったと思うよ。彼女、水中から出るまで息を止めていたし。それに 無駄に暴れたりしていなかったよ。」 救出後のトモミの状態を語った。水に慣れ親しんでいなければ出来る事ではない。それだけ 日頃から人魚の如く水と共にいたのだろう。 ナツミYU「鋭い洞察力だ事。学園の指針の1つでもあるわ。事が大きければ大きいほど・・・。」 ミスターT「岩のように静かであれ、だよな。」 ナツミYU「フフッ、以前貴方から伺った名言を指針にしたの。」 ミスターT「何とも・・・。」 ナツミYUも俺に対して好意を抱いているため、何らかの激励があればそれを自身や全体の 生き様の1つに取り込んでいたようだ。この言葉は名作マンガで語られていた名言だ。正しく 先程のトモミに当てはまった語句と言えるだろう。 トモミ「戻りました。」 シューム「大変だったそうねぇ〜。」 3人と雑談し合っていると、トモミが戻ってきた。その傍らにはシューム達全員がいる。 しかもしっかり水着姿である。一応身体や足の検査をするために病院に向かっていたのだ。 また彼女の付き添いはシュームが担ってくれていた。 ミスターT「容態は?」 シューム「大丈夫大丈夫、疲労から来る痙攣よ。ラフィナちゃんが推測した通り、緊張感や準備運動 不足によるものらしいわ。」 ミスターT「まったく・・・驚かせるなよな・・・。」 異常がないと聞くと、今まで以上に疲労感が出始めてきた。本当に気苦労が絶えないわな。 でも彼女が無事で何よりである。 シューム「それにね、もう1つやる事があるらしいわ。」 ミスターT「告白か。というか相手はここに来ているのか?」 俺の言葉に沈黙を以て答えるトモミ。頬は今まで以上に赤く染まっていた。これは間違い ない。相手は俺の事だろう。 慌ててその場に立ち上がる。座っていたのでは失礼極まりない。シュームに背中を押されて 進み出るトモミ。その表情は恋する乙女そのものだ。 トモミ「・・・あ・・あの・・・、初めてお会いした時に・・・ひ・・一目惚れしました・・・。 その・・・今後も・・・、お・・お付き合い・・下さい・・・。」 精一杯の勇気を胸に告白したトモミ。それに周りの女性陣は固唾を飲んで見守っている。 女性の一世一代のイベントの1つでもあるため、誰も茶化すような事はしなかった。 告白の答えを待つトモミ。その彼女をお姫様抱っこし、そのままプール内へと飛び込んだ。 飛び込む瞬間は恐怖心に駆られたが、胸の中に人魚がいるのだから恐れる事はない。 ミスターT「だ〜・・・こえぇ・・・。」 トモミ「も・・もうっ・・・無茶して・・・。」 ミスターT「でも・・これが答えだよ・・・。」 水中で何とか安定を保つと、そのまま胸の中のトモミと唇を重ね合った。それに驚くも身を 委ねてくる彼女。再び感極まって泣き出していた。 ミスターT「これからもよろしくな、人魚姫。」 トモミ「は・・はいっ!」 口づけを終えて見つめ合う。泣き顔ながらも精一杯の笑顔が眩しすぎる。彼女が最大限努力 したのだ、俺の方も誠意ある対応をしなければ失礼極まりないわな。 水中で告白の余韻に浸っていると、周りに飛び込む音がする。そのまま俺らに抱き付いて くる他の女性陣。先程は我慢していたようだが、今は完全に嫉妬心丸出しである。 シューム「あらぁ〜羨ましい事ねぇ〜。」 エシェラ「鼻の下伸ばしちゃって・・・。」 メルデュラ「散々水は苦手だと豪語していたのに・・・。」 恐ろしいまでの殺気立った表情である。下手をすればそのまま水中に沈ましかねないわ。 しかしその言葉とは裏腹に、俺達に手を差し伸べて優しく支えているのだから不思議である。 ミスターT「いや・・・実の所・・・エラい怖い・・・。」 トモミ「大丈夫ですよ。これだけ多くの人魚姫がいるのですから。」 再び水への恐怖心に襲われだすが、トモミが語る言葉に若干落ち着きを取り戻した。そんな 彼女の発言に、周りの女性陣も頷いている。 自分では恐怖の象徴である水に対しても、愛しい人達と共になら恐れる事はないのだと。 それを雰囲気で教えてくれていた。 そんな彼女達に小さく頭を下げた。俺は俺1人では生きていけないのだから。それを痛感 した瞬間であった・・・。 その後も俺の強化訓練は続いた。トモミや他の女性陣監修の下、今度は原点たる水に慣れる 事から始めていった。それでも怖いものは怖いのだが・・・。 ちなみにトモミは競泳者の道を諦めた。というか体育教師を目指しているのが本線であり、 競泳者は自身の強化の一環だったという。今回の地区大会も優勝云々よりも、俺に対して告白 する事を最優先していたようである。 最初は仄かな恋心であったようだが、あのトラブルにより一層恋心が芽生えたのだとか。 この一念は本物であったため、他の愛しい人達は批難する事は一切なかった。 この一件からスポーツを行う際に準備運動を万全にしだすトモミ。それは後に体育教師に 至っても、決して欠かさず行いつづけるのであった。 流石ターリュとミュックの従姉妹である。一度決めた事はどんな事があろうが絶対に揺らぐ 事はない。トモミの今後の活躍が楽しみである。 ラフィナを通し、ウィレナを経て巡った縁。これに心から感謝したい。 巡る縁・終 |
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