アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第10話 新しい命2〜
    早いもので翌年へと突入する。本当にあっと言う間だった。マンガ家としての修行なども
   含めて、ここ最近の時間の経過は尋常じゃないほど早い。

    気節は冬まっしぐら、今は1月下旬だ。全員社会に出ているため、クリスマスパーティー
   などは行わなかった。三島ジェネカンの忘年会だけは盛大に行われたが俺は未参加だ。


    シュームはと言うと、腹がどんどん膨れ上がっている。双子の胎児を抱えているだけに、
   その大きさは驚愕するほどだ。体格に優れたメルデュラが付きっ切りでサポートをし、彼女の
   身の回りの世話を続けている。

    本店レミセンの切り盛りは、臨時に各レミセンからローテーションで人員を派遣している。
   俺も最近はマンガ家の方が忙しく、マスターとしての活動は疎かになっていた。



    本店レミセンの2階、そこでヴェアデュラの育児も一手に引き受けるシューム。メルデュラ
   が一緒とあり、安心し切っての子育てをしている。

    そうそう、胎児の性別が判明した。女の子のようだ。双子の女の子・・・、まるでターリュ
   とミュックを想像する。女の子と聞いたリュリアは更に大喜びし、妹が2人もできたと嬉し
   がっている。

ミスターT「この中に双子の女の子ねぇ・・・。」
シューム「最近お腹の中で暴れるんですよ。出産予定日が5月頃ですが、出たくてウズウズしてる
     みたいで。」
    妊婦は強いよなぁ・・・。俺なんか同じ境遇になった場合、どうなるか分からない。一説に
   よると、出産時の痛みは野郎には耐えられず死ぬという。真女性は強いと言うしかない。

シューム「あの・・・、私が出産を終えたら・・・次はエシェラちゃんで。」
ミスターT「やっぱそう来るか・・・。」
    薄々感じてはいた。次の子供を欲しがる相手はエシェラだと。日に日に腹が膨れて女らしさ
   を強調していくのを目の当たりにすれば、我慢していた感情が高ぶるのは言うまでもない。
メルデュラ「私達の計画だと、約1年毎に出産しようかなと思っています。」
ミスターT「なら種付けは早い方がいいんじゃないか?」
シューム「ダメですよ。今種付けしたら、私が出産時に動けなくなります。」
ミスターT「知識不足だった、すまない・・・。」
   シュームが語るには、彼女が出産したと同時に動いて欲しいとの事だ。ここも6人で計画的な
   ローテーションを組んでいるようで、そこに向けての行動を日々続けている。

ミスターT「仕事の方は大丈夫かね?」
シューム「今は副園長まで勤めているようなので大丈夫そうです。それに彼女の先輩達はいい経験が
     積めるとあって大賛成のようですよ。」
    そう言えば保育士を担う人達は、結構家庭持ちが多いと聞く。もちろん独身の保育士もいる
   そうだ。子供の面倒を見るなら、身近で子供の面倒を見る。それが一番いい修行方法とも。
   俺には次元が違いすぎて目眩を起こすわ・・・。

シューム「毎日楽しみにしてますよ、貴方との子供を作る日を。」
ミスターT「彼女ならそう思うだろうな・・・。」
シューム「あ・・そうではなく、私以外の全員です。」
ミスターT「それはまた・・・怖ろしい・・・。」
    これは5人に子供ができるまで安心はできないな・・・。毎日が充実して待ち続けていると
   言うが、俺にとっては遣る瀬無い気分になるしかない・・・。



    マンガ家の軌道は十分に立っていった。アシスタントも受け持ちながら、自分の描きたい
   作品を露にしていく。

    俺の作品への感想は、強い信念と揺ぎ無い執念が込められているとの事だ。風来坊で培った
   生き様を込めた作品は、それらがより濃く反映されているのだろう。

    またこれはシンシアからも大絶賛である。現役マンガ家として活躍中の彼女も認める程の
   実力だと言わしめている。


    そうそう、あの美男子ディルヴェズと美女ヴァルラームが役者デビューした。大学卒業後
   から修行を積んでいたそうで、見事夢を実らせたという事になる。

    二人三脚で行う役者道は凄まじく、周りを感嘆させるほどだ。まああの2人なら、間違い
   なくトップスターも夢ではない。

    ちなみに2人は役者デビューする前に結婚している。道が道なだけに子供は当分先との事。
   その部分はしっかりと弁えているようだ。というか・・・エシェラ達に弁えさせたい・・・。



ミスターT「早いよな、あと僅かか・・・。」
シューム「検査結果だと、何時産まれてもおかしくないそうです。」
    目まぐるしく環境変化が続く。振り返ったり立ち止まる事もできないほど忙しい。既に気節
   は4月末、明日で5月になる。
   目の前で俺の胸に寄り掛かるシュームの腹は、見た事がないほどに膨れ上がっていた。
シューム「フフッ、いよいよ貴方と本当に結ばれるのね・・・。」
ミスターT「覚悟してます・・・。」
   自分の腹を優しく撫でながら呟く彼女。それに否が応でも頷いてしまう。目の前の現状は、
   紛れもなく逃げられないし目を背けられない。

ミスターT「でも・・・お前やこの子達が幸せになるなら、俺は命を差し出してもいい。もちろん
      全員と結ばれ子供ができても、その彼女達全員を守るためなら喜んで命を捧げるよ。」
    俺の内なる思いを語った。不安などは表向きのものだ。深層には彼女達全員のもれなくの
   幸せそのものを強く願う。どんな形でも構わない、彼女達を確実に幸せにするために・・・。
シューム「ありがとう・・・、私も無茶した甲斐があります・・・。」
ミスターT「頑張れよ、お前の背中は俺が守る。」
シューム「うん・・・。」
   静かに唇を重ね合う。ただ口づけをするだけのものだが、そこには全てが篭っている。今まで
   のような濃厚な口づけよりも、この優しい口づけの方が遥かに癒された。



    その時がきた。翌日早朝に陣痛に襲われたシューム。準備万端だったエリシェやメルデュラ
   に付き添われ、地元の総合病院へと向かう。他の女性陣も総出でサポートをしていた。

    俺はというと彼女達からの強い要望で、立ち合いは控えて欲しいとの事だ。現状が現状な
   だけに知られたらマズい事である。それらは彼女達の強い決意でもあった。


アマギH「兄貴もいよいよ父親かぁ・・・。」
    本店レミセンでの待機を余儀なくされた。ウェイター役には地元町内会長のアマギHが、
   俺は厨房を担当している。パートナーのユリコYも一緒に病院へと向かっていた。
アマギH「しかし・・・兄貴も罪な男だよ。」
ミスターT「身に染みるお言葉です・・・。」
   身内の関係を知っている数少ない人物が彼とユリコYだ。6人の愛しい人の内情を認めている
   存在とも。それだけ6人が本気であるという事を、誰よりも感じ取っているのだ。これは2人
   が元暴走族だから成し得る業物なのだろう。つまり直感と洞察力が凄いという事だ。

ミスターT「お前達は結婚しないのか?」
アマギH「ん〜、当分先かなぁ〜・・・。今は足場を固めるので手一杯だからさ、それからでも遅く
     ないし。」
ミスターT「お前達には迷惑を掛けるよ。」
アマギH「またまた、それは言わない約束だよ。俺達からすれば、兄貴には返し切れないほどの恩が
     あるのだから。それに今膝を折れば、間違いなく周りが苦しむ。負けられないのさ。」
    力強く語るアマギH。それに改めて自分の境遇を当てはめた。自分以上の重圧が彼の背中に
   圧し掛かっている。正直な話、俺の方は遠く及ばないだろう。

アマギH「兄貴の方こそ大変だよ。6人もの女性と関係を持ち、ゆくゆくは子供もできるんだから。
     並大抵の決意じゃなければ挑めない。」
ミスターT「まあなぁ・・・。」
アマギH「俺にも言ってたじゃないですか。誰彼がどうこうじゃない、自分自身がどうあるべきか。
     それが最も重要だと。兄貴は周りの目線を気にせず、彼女達と一緒に幸せになるために
     努力をしている。それを批難する奴がいるなら捻り潰しますよ。」
ミスターT「ありがとう。」
    掛けた恩を返される、その瞬間が今なのだろう。俺の行動は間違ってはいなかったという
   何よりの証、それだけは痛烈に実感できた。俺も膝を折る事だけはしないようにせねばな。


    しかしアマギHのウェイター役も中々様になってる。物腰が柔らかくなった彼の性格は、
   長年の族のヘッドとして活躍した事も相まって凄まじい。特に凄いのが卓越した話術だろう。

    町内会長や躯屡聖堕チームのヘッドとしての活躍は、彼だからこそ与えられた天命とも。
   それだけ重役なのだ。

    俺も一生涯掛けて彼を補佐せねば。乗り掛かった船の途中下船はできない。というかそんな
   事はしたくない・・・。



    休憩時間に昼食を取る俺とアマギH。応援にヴァルシェヴラームが駆け付けてくれた事で、
   安心してウェイトレス役を任せられた。

    その直後だった、携帯が鳴り響いたのは。間違いない、シュームが勝った証拠だろう。徐に
   内容を窺うが、エシェラからの直々の生誕の連絡だった。


ヴァルシェヴラーム「無事産まれたようね。」
    エシェラとの通話を終える。会話の内容などを伺っていた2人は、俺の無意識に湧き出る
   歓喜の表情に結果を把握していた。
ミスターT「ええ、丁度シェヴが来た頃だそうです。」
アマギH「おめでとうっ!」
   俺の右手を掴み、ガッチリと握手を交わす彼。何と感極まって泣いているのだ。生粋の男気
   溢れる熱血漢だからなぁ・・・。
ミスターT「直接立ち会いたかったが・・・。」
ヴァルシェヴラーム「それは止めておきなさい。この後の5人との時も立ち会わなければならなく
          なるわよ。」
ミスターT「だよな・・・。」
   複数との関係を持つ以上、出産時などに立ち会うのは厳しい。数十年は隠し通すのなら、今は
   他所の小父さんを貫き通した方がいいだろう。


    その後は出産祝いとアマギHが大量に酒を飲みだしている。まるで俺が飲めないのを代わり
   に担っているかのように、そして今は喜べない俺の代わりに大喜びしているかのようである。
   俺の方はただただ呼吸を合わせるしかなかった。

    それでも俺は嬉しい。本命はエシェラと定めているが、シュームに生まれた子供も大切な
   娘達だ。彼女達全員を幸せにするのが、俺の責務であり使命でもある。



アマギH「よぉ〜・・・おかえりぃ〜・・・。」
    本店レミセンに女性陣が戻ってくる。今度はヴァルシェヴラームがシュームの付き添いで
   総合病院へと向かって行った。どの女性陣も初々しい表情を浮かべている。女性としての究極
   の形を目の当たりにしたのだから。
ユリコY「何よ、もう飲んでるわけ?」
ミスターT「俺の代わりに飲んで貰ってるよ。」
   それぞれの女性陣は奥のテーブルへ集まる。5人の親しい女性達だけカウンターに座った。
   アマギHも俺達に気を遣って、テーブルの女性陣達と同席した。相変わらずムードメーカーな
   存在だ。

ミスターT「どうだった?」
メルデュラ「元気一杯の双子の女の子ですよ。母子共に健康で異常もなしです。」
エリシェ「双子の場合ですと、双方に体力を取られて細身になるケースが多いようです。しかし今回
     は2人とも2500グラムを超える子供でした。」
ミスターT「凄いな・・・。」
    普通の胎児1人当たりの体重は3500グラム前後。エリシェが指摘した通り、双子の場合
   は若干下がる傾向にある。お互いに体力の奪い合いで成長が遅く、1人の時よりも痩せて誕生
   するというのだ。今回の結果はそれを完全に覆す結果と言えよう。
エシェラ「母さん物凄く喜んでいましたよ。貴方との結晶が無事生まれたと。」
ミスターT「立ち会えなかったのが残念だ。それに今後もこの気持ちは続くのだろう。」
   使い終わった食器を綺麗に洗い、棚へと戻していく。5人もそうだが、他の面々はここに来る
   前に昼飯は終えている。昼食作りでてんやわんやしなくて済んだ。


シンシア「マスター、今夜予定通りにエシェラさんをお願いします。」
ミスターT「ああ、そうだったね。」
    次の相手はエシェラだ。6人で念入りに決めていた事を実行しだしている。もはや彼女達
   との子作りは避けられない。シュームだけいい思いをさせたのでは、他の5人に間違いなく
   殺される。
ラフィナ「・・・何か不思議ですね、普通なら嫌がると思うのですが。」
ミスターT「何を今更な事を。散々俺に常識の概念を取り払えと言い続けていたのは、何処の何方
      でしたっけ?」
シンシア「それは確かにそうだけど・・・、最終的には貴方の決意に委ねるしかないし。」
ミスターT「今更逃げたってどうするね。俺の心からの願いはお前達全員の幸せ。それがタブーで
      あっても、心から望むのなら俺は応じる。」
   乗り掛かった船の途中下船はできない。それに事が事なだけに、考えれば動きにくくなる。
   ならば理念に囚われず欲望に駆られていた方がまだマシだ。
ミスターT「今夜は寝かせないからね、覚悟してくれよ。」
エシェラ「う・・うん・・・。」
   この台詞は彼女の方から述べるものだろう。しかし今となってのリードは俺の方だった。頬を
   赤くしながら頷くエシェラ。一発で妊娠してくれればいいのだが、まあこれは時の運に任せる
   しかない。



    その後はシュームの出産祝いを全員で祝い合った。今の瞬間だけは大いに盛り上がり、彼女
   の努力を心から讃え合う。

    今後がどんな行く末になろうが、俺は俺の生き様を貫き通す。それが俺の信念と執念だ。

    第2部・第11話へと続く。

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