アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第11話 それぞれの愛2〜
    それから数週間後。シンシアとの二人三脚のマンガ家の道は忙しく、シュームにエシェラ達
   の面倒を見て貰っている。シンシアが新人賞を取得するのは濃厚で、そのインタビューなども
   数多い。

    そんな中、マツミから連絡が入る。久し振りの連絡ともあり、直接赴きたいとの事である。
   どうやら俺に白羽の矢が刺さったのかも知れない・・・。


マツミ「また大きな依頼を頼みたいのですが、どうでしょうか?」
    連絡から後日、マツミが本店レミセンへと訪れた。予想通り、再びトレーラー業務を拡大
   するべく俺の力を借りたいとの事だった。2階へと招き、そこで他の6人を交えての話し合い
   となる。
ミスターT「俺は構わないが、周りがね・・・。」
エリシェ「大丈夫です。その時が来たら直接貴方の元へ伺って、そこで切っ掛けを作りますから。」
ミスターT「そ・・それは何とも・・・。」
   う〜む・・・俺は種馬か・・・。まあ彼女達が了承してくれるなら、今は俺の力を必要として
   いるマツミに役立てる。これはこれで有難い事だが・・・。

マツミ「このお子さんがシュームさんと貴方の・・・。」
    ヴェアデュラの存在は知っているとの事だが、シュリムとシュリナは初めてだと語る彼女。
   シュームから2人を渡され、驚きながらも双子を胸に抱いている。しかし母性本能が働くの
   だろう、その表情は何時にも増して慈愛に満ち溢れていた。
マツミ「マスターも大変ですね・・・。」
ミスターT「何を今更と言った感じだがね。」
   マツミもアマギHとユリコYと同じで、俺達の関係を知る数少ない理解者だ。それでも現状を
   目の当たりにすれば引くのは言うまでもない。

ミスターT「俺に出来る事は必ず成し遂げたい。マツミの懐刀には必ずなるよ、任せてくれ。」
マツミ「ありがとうございます・・・。」
    双子を落とさないようにしながら、深々と頭を下げるマツミ。その下向きな態度に6人も
   折れたようだ。隙があらば止めさせようと思っていたらしく、ここまで誠意ある対応を取ら
   れては断れないだろう。



    マツミが帰宅後、再び6人と話し合った。来月には再びトラック野郎として動き出すのだ。
   その間は彼女達にここを守って貰うしかない。
ラフィナ「子供達の命名は例のリストを用います。」
エリシェ「前回のように引き止めたいのですが、貴方には無理難題を押し付けていますし。」
メルデュラ「ここは我慢ですね。」
   素っ気無く語る彼女達だが、それでも本音は十分理解できる。しかしマツミの心情も理解して
   いるため、思い切った反論はできないようだ。

ミスターT「すまないエシェラ。生まれた直後の子供は抱けないわ。」
エシェラ「ううん、気にしないで。貴方は目の前の壁を乗り越える事だけをして下さい。」
シューム「切っ掛けはエリシェちゃんが話した通り、貴方の元へ訪れてすればいいし。子育ては私が
     中心に命を懸けて行うから任せて。」
ミスターT「ごめんな。」
    本来ならば大反対される所だろう。しかし黙認してくれたのは、子作りに応じてくれたと
   いう部分が強いようである。まあ端から見れば異常なのだが、それでも押し通す事が俺達の
   生き様だ。



    それから数日間、エシェラとシュームを除く4人から求められ続けた。今回の依頼が何時
   終わるか分からない。彼女達の心境は痛いほど理解できる。俺にできるのは彼女達を癒す事
   ぐらいだろうから。

    エシェラも出産予定日が近付いて行くにつれて、毎日辛そうに諸々の苦痛と戦っている。
   特に悪阻は酷いようだ。野郎の俺からすれば実に痛々しい・・・。
   それでも彼女は最後まで突っ走るだろう。諦めるという事を知らないからな。何とも・・・。


    またエシュリオス・エフィーシュからも求められた。エシェラ譲りの頑固さは回避できず、
   渋々応じる事になったが・・・。
   しかし人気が高いアイドルとも関係を持つ、か。熱心なファンが知ったら殺されるな・・・。

    それとマンガ家の道は一旦休止する事になった。まあ本腰入れて活動しているのはシンシア
   だから、俺が離れても痛手にはならないだろう。
   この依頼が終わったら、本腰を入れるつもりだ。そろそろ骨を埋める準備も必要であろう。



    依頼内容の確認と事前の打ち合わせも兼ねて、俺はマツミのオフィスを訪れた。そして今回
   使用するトレーラーヘッドを確認した。

    以前使用したヘッドは中古のグローブライナーだったが、今回は新品のグローブライナーで
   ある。しかも長距離移動用に改良するようで、内部に寝室などのスペースも確保するという。

マツミ「今回はこのヘッドを使って下さい。」
リュウジN「マツミ嬢がマスター用にと新規購入したものですよ。」
    前回は黄色のボディだったが、今回は赤色のボディである。しかも新車なのだ。結構な値段
   が掛かっているだろうに・・・。
ミスターT「いいのですか?」
マツミ「マスターには大いに期待させて頂いていますから、このぐらいは安いものです。お気になさ
    らずに使って下さい。」
アフィ「カスタム化するまでに時間掛かるから、もう暫く待って下さいな。」
   メンテナンスはお手のものだと、リュウジNとアフィが張り切っている。作業用のツナギを
   身に纏い、グローブライナーを改造し続けていた。

マツミ「今回はヘッドに衛星連絡装置も取り付けます。リアルタイムで皆さんとテレビ電話ができる
    ように。仕事そっちのけで連絡されては困りますけど。」
ミスターT「いや、その装置は外して下さい。」
マツミ「えっ・・・ど・・どうしてです?」
ミスターT「唯でさえ行かせないようにしている周りに、余計ヒートアップさせる行為ですよ。連絡
      程度なら携帯で十分ですから。」
    この装置はタイムラグが殆ど発生しないという優れ物だ。こんなのを使っては、間違いなく
   彼女達は血に飢えた野獣と化してしまう。会えない時は会えない、それでいいのだから。

ミスターT「その代わり、予備のタイヤを1本ではなく4本にして下さい。ループスポイラー裏に
      でも括り付けて積んで頂ければ大丈夫でしょうから。」
マツミ「それは構いませんが、テレビ電話は本当によろしいのですか?」
ミスターT「俺の血の雨が降ってもいいのであればどうぞ・・・。」
    皮肉を込めて語るとマツミは苦笑いを浮かべる。今も行かせたくないと思っている彼女達に
   殺されるようなものだ。それに顔を見て連絡できるのであれば、直接会いたいとなるだろう。
   切っ掛けを作る時だけ合えば済む事だからな。



アマギH「また出掛けるのか。」
ミスターT「暫くの間、周りを頼むよ。」
    身辺の世話も兼ねて、アマギHとユリコYの元を訪れる。前回と異なり、今回は長丁場に
   なるだろう。俺達の関係を熟知している2人だからこそ任せられるのだから。

ユリコY「何かあったら連絡・・・とはできないのかな。」
ミスターT「そうだね。国内ではなく国外がメインだから。」
アマギH「まあ地元は任せてくれ。兄貴は与えられた役目を誠心誠意担ってくれよ。」
ミスターT「だな。」
    今では国内のボランティアチームの中核となった躯屡聖堕。毎日が忙しいと語る2人だが、
   充実した時を過ごしている。活き活きとした目を見れば一目瞭然だ。実に嬉しい限りだわ。



ライディル「君も忙しい男だよなぁ・・・。」
    ライディル達の元へも訪れた。彼らにも大変お世話になっている。それに俺がいない時の
   周りの面倒を見て貰うためでもある。それに挨拶をせずに出発するのは失礼極まりないしな。
ミスターT「後の事はお願いしてもいいですか?」
トーマスC「愚問だよ。俺達は全身全霊を以て周りを守り抜くから。」
ライディル「任せて下さい。」
   ライディル達も隠居を解除し、何度かシークレットサービスに戻ったりもしている。専ら後輩
   の指導などが多いが、それでも現役時代を彷彿とさせると周りは語っているようだ。

    後継者育成に全力を注ぐ、それは彼らも躯屡聖堕チームも同じ。それに俺達も同じ事だ。
   これを疎かにしてしまったら、間違いなく衰退への道は一瞬にして近付くだろう。


    ちなみに時期警察庁長官はウインドとダークHを候補にしているらしい。最短での長官への
   ステップだが、トーマスCやライディル達からの直々の推薦というのだから。周りからの一念
   は黙殺できるだろうな。

    更にナツミYUやヴァルシェヴラーム・セルディムカルダートなどの推薦もあったようで、
   これには誰も反論はできなかったようである。

    草創期の人物の存在は実に怖ろしいものだわ・・・。


    というかウインドとダークH自身が無欲の塊なのは周知の通り。そして己を犠牲にしてでも
   周りに奉仕する一念は誰よりも強い。これは彼女達の上司や部下の誰もが痛感しているもの。
   よって上層部の推薦に反論する意味がない、周りの誰もが口を揃えて豪語しているのだ。

    直向きな対応と生き様を貫くウインドとダークH。この2人が頭になれば、より一層団結力
   が構築できるだろう。何分、俺も彼女達の師匠でもあるからな。そこは自信を持ってお勧め
   できる。

    お淑やかで愚直なまでの2人が警察庁長官、か。本当に不思議なものだわ・・・。



ヴァルシェヴラーム「また出張するそうね。」
    最後はヴァルシェヴラームがいる孤児院へ。既にエシェラ達から連絡が入っていたのか、
   俺の行動を把握していた。
ミスターT「暫く周りの面倒をお願いします。」
ヴァルシェヴラーム「分かったわ。私にできる最大限の努力はします。」
ミスターT「恩に切ります。」
   既に高齢に近い彼女。しかし外見は20代にしか見えない。特異体質による体躯の劣化が殆ど
   見られないという。だから孤児院の院長というハードな役割を担えるのだろう。

ヴァルシェヴラーム「・・・あのさ・・・、今夜付き合ってくれるかな・・・。」
ミスターT「え・・・だ・・大丈夫なのですか?」
ヴァルシェヴラーム「既に70を超えているけど、体力の衰えは一切ないから。それに君達にいい所
          を見せ付けられてはね・・・。」
    う〜む・・・母親たる彼女が女として目覚めている。幼少の頃から俺を好いていると語って
   いるだけに、その度合いはかなり強いのだろう。
ヴァルシェヴラーム「・・・ホンの一時だけでいいから・・・。」
ミスターT「シェヴも卑怯ですよ・・・。」
ヴァルシェヴラーム「えっ?」
ミスターT「貴方の懇願を断れると思いますか?」
   そりゃそうだろう。今まで彼女の願い事は全部聞いてきた。特に大きな事はヴェアデュラの
   件だ。それに6人からのアプローチにより、こういった免疫が強くなりつつある。また相手を
   癒したいという部分も非常に大きい。
ミスターT「それに断れば無理矢理にでも実行するのが貴方の性格。告げられた時点での選択肢は、
      “はい”しかありませんし。」
ヴァルシェヴラーム「・・・本当にいいの?」
   俺の言動に困惑を示す彼女。多分断られると思って語ったのだろう。それが異なる回答に混乱
   しているようだ。また普段の気丈な彼女はなく、この恥らう姿はエシェラ達と同年代としか
   見えない。

    俺は言葉よりも行動で返した。困惑する彼女に近付き静かに抱き締める。そのまま彼女の
   唇に自分の唇を重ねた。しかし念入りな口づけではなく、唇同士を触れ合わせるだけである。

    そのまま額同士を当てて瞳を閉じる。よく悩んでいた俺に彼女がしてくれた癒しの行為。
   それを返す時が来るとは夢にも思わなかった。



ミスターT「落ち着いたかい?」
ヴァルシェヴラーム「・・・うん。」
    どれだけそうしていただろうか。額を離すと彼女を胸へと抱く。自分と背丈が同じな彼女の
   頭を優しく撫で続けた。
ミスターT「・・・正直怖い。俺が心から敬愛する恩師の貴方を抱くというのは。永遠の母たる貴方
      が普通の女性として見るのは、俺の根底概念を覆すかのようで。」
ヴァルシェヴラーム「・・・そうですよね・・・。」
ミスターT「それでも、貴方に尽くしたいという決意はあります。こんな俺でよかったら、貴方の
      一時の癒しになれれば幸いです。」
   そう言うや否や、いきなり唇を奪ってくる彼女。凄まじいまでの口づけに翻弄される。アツい
   口づけを繰り返し行うヴァルシェヴラームに、恐怖にも思える怖さを感じてしまう。

ヴァルシェヴラーム「・・・自分を卑下するような発言はしないで下さい・・・。貴方は私を心から
          溺愛させるほどの存在なのですよ・・・。だから・・・自分を見下すような
          事は・・・。」
    口づけを終えると、泣きながら語り出した。俺が浅はかに語った言葉に、凄まじいまでの
   反応を見せる。その彼女に力強い抱擁で詫びた。
ミスターT「・・・ごめんな、シェヴの言う通りだ。」
ヴァルシェヴラーム「・・・分かって貰えればそれでいいのです。貴方は私の自慢の息子であると
          同時に、心から大切な愛しい人なのですから・・・。」
   直ぐに落ち着きを取り戻す所は流石としか言いようがない。この点はシュームを遥かに凌駕
   している。これは折れるしかないのだろう・・・。



ミスターT「・・・これでよし、と。」
    ヴァルシェヴラームを胸に抱きつつ、携帯からシュームにメールを送った。内容は今夜は
   外泊するというものだ。相手が相手なだけに、シュームもその真意を察知してくれたようだ。
ミスターT「シュームに一報入れました、今夜は外泊すると。」
ヴァルシェヴラーム「え・・・そ・・それじゃあ・・・。」
   携帯をポケットにしまうと、彼女の頭を優しく撫でる。それに今までに見た事がないような
   満面の笑みで浸っている。そして追い打ちを掛けるかのような言葉に、高齢である彼女は幼子
   のような表情になっていた。
ミスターT「いい場所を知ってますので、そこまで行きましょうか。」
ヴァルシェヴラーム「は・・・はい・・・。」
   とても孤児院の覇者・元祖シークレットサービスとは思えない仕草だ。身体中で歓喜を表現
   している。その彼女が愛おしく思える。罪悪感など消し飛んでしまうほどだ。


    ヴァルシェヴラームは副院長に孤児院の事を任せると、そのままの姿で俺と動き出した。
   ここにはサイドカーで来たため、彼女を側車に乗せて秋葉原へと向かった。
   場所はウインドやダークHと休憩し、そしてメルデュラと一夜を過ごしたあのホテルだ。

    俺も超えてはならない一線を超えてしまったな・・・。何とも・・・。



    ちなみにヴァルシェヴラームの体力は底無しの化け物かと思わされる程だった。既に70歳
   を超える高齢なのに、特異体質で30歳前後の体力を維持し続けている。

    身体の衰えは一切なく、全盛期のままの力を発揮できるという。つまり・・・彼女の求め方
   は尋常じゃなかったという事だ。


    それに彼女から驚愕する内容を伺った。それは俺も彼女と同じく特異体質だというのだ。
   確かに体力低下や肉体の老化は殆ど感じられない。ヒゲなどは普通に生えるが、休めば直ぐに
   体力を回復するというタフネスぶりだ。

    一瞬ヴァルシェヴラームの実の息子ではと思ったが、それは一切ないと言う。にしても彼女
   と同じ体質だったとは・・・。



    それでもヴァルシェヴラームとの交わりで、俺の悩みもかなり薄れたと思う。本来ならば
   罪悪感を抱くのだろうが、逆に払拭させてくれたとしか言い様がない。

    もし彼女がこれを狙って一夜を共にしたのなら、全て見通していたと言わざろう得ない。
   本当に頭が下がる思いだ・・・。


    これで思う存分、海外で戦える。ヴァルシェヴラームに背中を押して貰った事で、俺の心は
   何時にも増して不動に据わった。

    恩師の彼女が身体を張って支えてくれたのだ。今度は俺が周りを支えねば・・・。

    第2部・第12話へと続く。

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