アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第12話 心の癒し1〜
    気節は11月へ。明日は文化祭当日。ラフィナもエリシェも凄まじい練習を繰り返し、当日
   の催しまで全力で戦っている。


    ちなみにラフィナは大学、エリシェは高校。学年は全く異なる。しかし今回のタッグ演奏は
   両方の文化祭で行う事になっている。時間的には大学を先に、高校を後にというものだ。

    エシェラは2人のサポートに回っている。孤児院での原点回帰から、より一層大人になる。
   それは背伸びではなく、見定めた心を指し示す。つまり本当の成長である。


    俺はマツミに再度ご足労して貰い、例の依頼の件を受諾した。これに大喜びしていた彼女。
   それだけ俺の存在が大きなものなのだろう。本当に嬉しい限りである。

    しかし動き出すのは来年の3月下旬。それに正規社員ではなく臨時社員とした。これは周り
   への配慮やマツミからの提案だ。



    コーヒーを飲みながら一服する。最近はこれが素晴らしく気持ちがいい。もちろん吸い過ぎ
   と飲み過ぎには充分注意している。

シンシア「師匠、この前はごめんね・・・。」
ミスターT「何を言う、謝るのは俺の方だよ。俺は逃げていたに過ぎない。シンシアに責任は一切
      ないから安心してくれ。」
    一時の安らぎを満喫していると、厨房で作業中のシンシアが詫びを入れてくる。先日の口論
   に関してのものだ。悪いのは俺だというのに・・・。
シンシア「相変わらず優しいのね。初めてお会いした時と同じ。それに以前よりも増して男らしく
     なってるわ。」
   彼女の言う通り。俺は自分を作ろう事を止めた。今までは敬意を表して“君”や“さん”を
   付けていた。しかしそれは堅苦しい事この上ない。呼び捨てはあまりしたくないが、その方が
   俺らしいと周りは語ってくれている。
シンシア「でもまだ諦めた訳じゃないからね。必ず貴方の心を掴んでみせます。」
ミスターT「それは逆じゃないか。俺がシンシアの心を掴むのなら分かるが・・・。」
シンシア「もうっ・・・少しは女らしい事言わせてよっ!」
   激怒するシンシアだが、それは本当の怒りじゃない。現に頬を染めて嬉しそうにしている。
   フフッ、嬉しい限りだ。そして素直に感謝できる自分自身も嬉しい。



    その後も簡単な軽作業を行いながら、合間を見てはカウンターの片隅でスケッチブックに
   ペンを走らせる。

    かれこれ10年以上、地道に絵を書き続けている。人物像から風景・物など。特に人物像は
   周りから大絶賛されている。

メルデュラ「上手いですね〜。」
シンシア「うわっ・・・勝手に書かないでよ〜!」
    今手掛けている作品は、厨房で作業をするシンシア。静かにペンを走らせるそれを、覗き
   見るメルデュラ。後から覗いたシンシアは、自分の姿だと知って恥ずかしがっている。
デュリア「どのぐらい続けていらっしゃるのですか?」
ミスターT「もう10年以上かな。風来坊をしていた時も、暇があれば絵を書いていたよ。」
   10年以上使い続け書き続けたスケッチブック。これらはノートパソコンにスキャナーで取り
   込んで保存してある。無論スケッチブック自体もアパートに保管してある。
シンシア「漫画家にもなれますね。」
ミスターT「それもなりたい職業の1つだった。風来坊に出てからは疎かになったけどね。」
デュリア「でも今も鍛錬を忘れない、大切な事ですよ。」
   こまめに続ける事ほど、後々の大きな力になるのは言うまでもない。昔も今も、そしてこの先
   もである。



    不意に携帯が鳴り、手に取り応対する。電話の相手は警察機構トップのライディルから。
   相手が相手なだけに、物凄い嫌な予感がする。
ミスターT「はい・・はい・・・、了解です。」
   徐に電話を切る。内容は嫌なものではないが、俺には少々荷が重すぎる。しかし任されたから
   には、誠心誠意応じるのが俺の生き様だ。

シンシア「何です?」
ミスターT「ライディル氏から臨時のサポートをして欲しいと依頼が入った。」
メルデュラ「す・・凄いじゃないですか!」
ミスターT「あまり過大評価されたくないんだがね・・・。」
    話の内容を窺った彼女達は、物凄く驚いた表情をしている。そりゃそうだ、警察機構トップ
   の人物から直々の依頼だからな。

シンシア「内容は何ですか?」
ミスターT「サーベン氏とチェブレ氏が地方公演に赴くらしい。周りに補佐する人物がいなそうで、
      思い立ったのが俺だったそうだよ。」
    この場合は秘書の代わりと言えば正しいが、場が場なだけに参謀長とも言えるだろうか。
   ともあれ重役に変わりはない。
シンシア「流石マスター、凄いですね。」
ミスターT「茶化すなよ。それよりも直ぐに来て欲しいそうだ。デュリア、エシェラ達にこの事を
      伝えておいてくれ。」
デュリア「お任せを。貴方も十分お気を付けて。」
   さて、忙しくなったな。文化祭が近い事から、長引けば観賞できないかも知れない。しかし
   依頼が依頼なだけに、気を抜けば危険な状態になるのは言うまでもない。



シンシア「師匠、私も一緒に行きます。」
    とりあえず簡単な身支度を済ませて、本店レミセンを出発しようとする。そんな俺を呼び
   止めるシンシア。共に行動すると申し出てきた。
ミスターT「それは願ったり叶ったりだが、大丈夫なのか?」
シンシア「私の力を見縊らないで下さい。足手纏いにはなりませんよ。」
ミスターT「ああ、そうだな。分かった。」
   任せろと自分の胸を叩く。確かにエシェラに匹敵する格闘術の持ち主だ。一緒にいてくれれば
   大助かりだろう。ここは素直に承諾しよう。ありがたい事に変わりはない。

    現地までの移動手段だが、エリシェのマンションにあるハーレーサイドカーで向かった。
   荷物の移動などを考えてのものだ。それにシンシアも運転ができる、ここは臨時の運転役にも
   なってもらおう。



    都心に位置する警察署。ここでライディル達は指揮を取っている。副長官でサポート役の
   サーベンとチェブレが不在の今、俺達がライディルの補佐をする事になる。
   周りにはもっと相応しい人物がいるだろうに・・・。
ライディル「手間を掛けさせて申し訳ない。2人は数日後には帰ってくるから、それまでのサポート
      を頼むよ。」
シンシア「了解しましたっ、長官殿っ!」
ライディル「ハハッ、堅苦しいのは抜きだ。普段通りでいいよ。」
   とは言うものの、警察機構トップのサポートだ。重苦しいのは言うまでもない。それに周りの
   視線も痛い。俺の出で立ちや覆面を見て、不審者と思われているようだ。



    作業は思ってのほか楽だった。ライディルと行動を共にし、スケジュールの確認や連絡の
   繋ぎ合わせと。彼との行動は、まるで生徒会のミーティングみたいなものだ。

    本来ならしっかりとした警察官が担うものだ。それに内部情報の漏洩などの心配もでてくる
   だろう。依頼された身だが、部外者には変わりない。俺自身と俺が信頼を置く親友のシンシア
   を全面的に信用している証拠だろうな。


    また俺やシンシアの応対に目を見張る周りの職員達。俺は風来坊・シンシアは弁当屋などの
   経験が活かされている。誠意ある対応を、これは俺や彼女の生き様の1つだ。

    徐々にではあるが、俺達の姿を認めだしてくれてもいる。これは非常にありがたい。一同の
   総括であるライディルの顔に泥を塗る事は絶対にしたくないからな。



シンシア「う〜・・・胃がむかむかする〜・・・。」
    休憩室で椅子にだらけるシンシア。今まで相当な緊張感が襲っていたのだろう。凄まじい
   疲労の色が見て取れる。
ミスターT「お疲れ様。」
シンシア「よ・・よく平気でいられますね・・・。」
   自動販売機で紅茶を2つ購入。片方をシンシアに手渡した。こういう場合はコーヒーよりは
   紅茶の方がいい。

ミスターT「7年間の旅の時、何度か警備の着任をした事があるよ。ここ以上にキリキリした雰囲気
      が続いてね、何時の間にか慣れちまった。」
シンシア「す・・凄いなぁ〜・・・。」
ミスターT「フフッ。お前さんの姿、初めて着任した時の俺みたいだ。」
    紅茶を飲みながら過去を振り返る。普通の警備の着任だったのだが、それでも絶対無事故を
   勝ち取るのだという決意で挑んだ。事故は油断が生じて起こるもの。彼女のように緊張感が
   あって挑むのなら、無事故は必ず勝ち取れる。


シンシア「エシェラさんから聞きましたよ。15歳以前の記憶がないと。それにエシェラさんの命を
     救ったとも。」
    一服しながら紅茶を飲む。コーヒーもいいが紅茶も相性がいい。そんな中、シンシアが先日
   の出来事を話してくる。エシェラと一緒に孤児院に赴き、原点回帰した一件だ。
ミスターT「俺も分からないんだ。15からの記憶がしっかりあり、そこから今に至っている。」
シンシア「可哀想・・・。」
ミスターT「だがその苦節があったからこそ、今こうしていられるのだから。辛い事だが、俺は逆に
      感謝いているぐらいだよ。」
シンシア「強いなぁ・・・。」
   今があるのは過去の苦節が原因ではあるが、それが結果として今に現れている。苦節こそが
   俺の大切な生き様に通じている。俺自身が俺でいられるのは、その苦節があったればこそだ。

シンシア「もし・・・私が同じ目に遭ったら・・・助けてくれますか?」
    恐る恐るといった雰囲気で語る彼女。その意味合いはエシェラと同じ境遇になった時、自分
   も同じように助けてくれるかという事だった。
ミスターT「愚問だな。俺の心から大切な人はエシェラだが、シンシアも大切な人だ。それに物差し
      感情で計りたくない。目の前で困っている人がいるなら、俺は身を呈してでも守る。」
シンシア「・・・ありがとう。」
   無論自分の命も庇いつつだが。それでもどちらかを選ばなければならないのなら、俺の命を
   捧げても助けてみせる。それが俺の確固たる信念と執念だ。

    後半へと続く。

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