アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第13話 再開2〜
シンシア「あ、本日は貸し切りです・・・?!」
    食事に会話に演奏に明け暮れる俺達。不意の来訪者にシンシアが対応しだす。その人物を
   見て驚きの声を挙げている。

    入り口の方を見ると、先程体育館に訪れた芸能人エシュリオスとエフィーシュがいた。また
   同伴でナツミYUもいる。これは何かありそうだな・・・。
ナツミYU「ごめんね。エシュリオスさんとエフィーシュさんが、どうしてもミスターT君に会い
      たいらしいの。」
   はっ・・俺にか・・・。というか全くの初対面のエシュリオスとエフィーシュが、俺に会い
   たいという意味が分からん。


エフィーシュ「あの・・・お久し振りです。」
エシュリオス「変わられませんね・・・。」
ミスターT「失礼だが、俺は貴方達と会うのは初めてなんだが。」
    率直な感想を述べた。2人と会うのは今が初めてである。それともディルヴェズのように、
   前に会った事があるのだろうか・・・。
エフィーシュ「いえ・・・6年前、デパートの警備を着かれていた時にお会いしています。あの時
       迷子になった私達を、両親が来るまで面倒見てくれていました。」
ミスターT「・・・うわっ・・・あの時の子供かっ!」
   偶然というのもあるものだ。エフィーシュの発言で一瞬にして思い出した。それも当時の現状
   が完全に脳裏に蘇って来る。


    風来坊として旅をしていた6年前、地方のデパートに警備員として着任していた。その時に
   家族とはぐれたという子供達を見つける。

    総括に事の次第を連絡し、俺はその子供と一緒に警備室で家族を待ったのだ。家族の方も
   探していたようで、数分後には再会を果たす。

    その子供達が目の前のアイドルであるエシュリオスとエフィーシュなのだ。これはこれで
   驚きである・・・。


ミスターT「よく憶えていたね、普通なら忘れるだろうに。」
エシュリオス「そうですね。でも再び思い出したのは、こちらのエシェラさんの事をお聞きした時
       です。」
エシェラ「私がですか?」
ミスターT「ふむ、やはり従姉妹という訳か。」
    俺の発言に驚きを示すナツミYU・エシュリオス・エフィーシュ。それは彼女達のセカンド
   ネームのビルティムス。これがエシェラと関係性があると睨んでいた。これで疑問が晴れたと
   いう訳だ。
ナツミYU「す・・凄いわねぇ・・・、エシェラさんとの関係を言い当てるなんて・・・。」
ミスターT「プログラムにセカンドネームが載ってましたから。アレでピンと来ましたよ。」
   確信論を語ると、再び驚くナツミYU。元シークレットサービスなだけに、こういった直感と
   洞察力が強い人物には驚いているようだ。

エフィーシュ「私達の母がエシェラさんのお母様の妹でして。丁度私達の両親は養子縁組をして、
       このビルティムスを継いだと語っていました。」
ミスターT「なるほど・・・。」
    女性が結婚する時、大多数は相方の男性の苗字になる。しかし男性の方が女性の家へと養子
   縁組すれば、女性の苗字を継ぐ事になるのだ。
   何時から決めた事か分からないが、本当によく考えられたものである。感心してしまうわ。


ミスターT「そうだ、1つ聞きたいのだが。エシェラの両親が亡くなったのは知っているのか?」
    俺は前々から気になっていた、エシェラとエシェツの両親の件を述べた。エシュリオスと
   エフィーシュが血縁関係にあるのなら、過去の事を知っている筈である。
エシュリオス「はい。私達の両親が引き取ろうと言ったらしいのですが、シューム様が責任を以て
       育てると言われて。」
   なるほど、そういう経緯だったのか。言わばシュームは彼女なりの恩返しなのだろう。自分達
   を命と引き換えに助けてくれたのだから。
ミスターT「ごめんな、辛い事を聞いて。」
エシュリオス「い・・いえ、とんでもないです・・・。」
エフィーシュ「私達の方こそ、エシェラさんの気も知らずに・・・。」
   物凄い落ち込んでいる。幼少の頃の出来事なのだろうが、家族が死んだという事実には変わり
   ない。


    その2人に近付き、肩に手を置いて語りだすエシェラ。それは少女の行動じゃない。まるで
   彼女達の母親、いやエシェラの母親そのものだと感じ取れる。まあ実際に会った事はないが。
エシェラ「気にしないで下さい。もし貴方達と一緒に過ごしていたら、今こうしている事はできない
     でしょう。そう自分を責めないで。貴方達には貴方達の生き様を貫き通しなさい。」
   彼女の発言に泣き出す双子。エシェラなりの真心の篭った発言に、2人は慰められている。
   負けずに先へ進めと背中を押してあげていた。俺がエシェラにした行動を、今度は彼女が双子
   にしている。素晴らしい事この上ない。

エシュリオス「・・・エシェラさんが伯母様に見えます。」
エフィーシュ「厳しくも優しかった・・・、今でもしっかりと憶えています。」
エシェラ「そ・・そりゃぁ・・・私の母だし・・・。」
    頬を染めながら照れている。身内に誉められ讃えられれば嬉しいに決まっているだろう。
   心の篭った姉妹愛に俺も目頭が熱くなっている。

エフィーシュ「何か困った事があれば、何でも相談して下さい。」
エシュリオス「偶にしかお会いできませんが、貴方は私達の大切な家族なのですから。」
エシェラ「ありがとう。」
    双子と握手を交わすエシェラ。その一握り一握りは頑張れと決意が込められている。俺も
   2人に激励しないとな。



ミスターT「これはエシェラを助けてくれたお礼だよ。」
    会話が終わった頃を見計らって、双子の傍まで進み出る。そして彼女達をソッと抱きしめ、
   それぞれの額に口づけをした。
エシュリオス「お・・お兄さん・・・。」
エフィーシュ「そんな・・・恥ずかしい・・・。」
   滅茶苦茶赤面している。父親以外の男性からの抱擁は、多分今回が初めてだろう。エシェラ達
   以上の恥らう姿は何とも言えない。

    だが2人の心境は痛いほど理解できる。それ以上何も言うなという意味合いを込めて、長い
   抱擁を続けてあげた。

ミスターT「芸能人として周りに愛想を振り撒くのも、君達の立派な生き様の1つだ。だが自分達の
      本当の姿も曝け出しなよ。これだけの美貌が台無しだ、2人とも可愛いのだから。」
    もう一度2人を抱きしめてあげる。今度は力強く頑張れという意味も込めて。そしてその頭
   を優しく撫でてあげた。俺ができる精一杯の激励と慰めだ。
ミスターT「辛くても頑張れよ。お前さん達にしかできない生き様を刻むんだ。」
エシュリオス「は・・はいっ!」
エフィーシュ「が・・頑張りますっ!」
   頬を染めながらも元気一杯に話す。先程までの不安の色は一切ない。これなら大丈夫だろう。
   この行動だけは周りも黙認してくれている。ここまで嫉妬を抱かれては、何もできなくなる
   だろうから。


    その後俺達に別れを告げて、ナツミYUと一緒に本店レミセンを後にするエシュリオスと
   エフィーシュ。

    ここに来た時は大人びいていた姿だったのだが、帰る時はすっかり少女に逆戻りしている。
   今までは少なからず背伸びをしていたという事が感じ取れる。まあ俺的には素体の二人の方が
   好みだが・・・。


    双子の帰宅は送迎の車が来ていた。ナツミYUが付き添いで動いてくれるとの事で、俺は
   そのまま4人と宴会を続ける事にする。本来なら送るのは男の仕事なんだが・・・。



シンシア「やっぱ凄いなぁ、僅かな一時であの子達を変えちゃうんだから。」
ラフィナ「無理に大人の雰囲気を作っていたのが、一瞬で子供に戻りましたよ。」
    再び宴会を始める4人。俺は一服しながらコーヒーを飲む。その中でシンシアとラフィナが
   双子の変わり様について語っている。まあこれは本来の自分に戻ったと言うべきか。
ミスターT「自分を殺してまで周りに併せて動くのは酷な事だ。あの2人はまだまだ若い。青春を
      満喫できる時は、大いに楽しんだ方がいい。」
   青春を満喫できなかった俺にとって、エシュリオスとエフィーシュは不憫でならない。今から
   でもおそくはない、できる事はした方がいい。自分という個人が生きられるのは、今世でしか
   ないのだから。

エシェラ「ありがとう・・・。」
ミスターT「お前さんの妹だからね。」
    一服しながら思いに馳せると、徐に背中へ抱き付いてくるエシェラ。カウンターに座って
   いる俺に、丁度立ったままの抱擁だ。その何だ、彼女も胸が大きいな・・・。何とも・・・。
   悲しき野郎の性は、嬉しくも実に虚しい・・・。
エシェラ「でも覚悟してね。あの2人もかなり貴方に惚れてるから。」
ミスターT「知ってるよ。まあ俺が切っ掛けで今より先に進むのなら安いものだ。」
エリシェ「・・・普通なら否定すると思いますが、貴方らしいですね。」
   双子の心中はよく分かる。俺に対して憧れと恋心を抱いている事は承知済みだ。それを利用
   するのは嫌ではあるが、彼女達が成長するための糧となるのなら喜んでこの役を演じよう。



    夜遅くまで騒いでは周りに迷惑が掛かる。俺は4人と一緒にエリシェのマンションへと移動
   した。もちろん彼女公認での訪問だ。

    防音効果はしっかりとしているらしく、下側の部屋には影響がない。というか今は最上階の
   彼女の部屋より下の部屋はシンシアの住居。確かに騒いでも問題ない訳だ。


エシェラ「これが夏場だったらよかったのにね。」
    エシェラが紅茶片手に外を見つめている。表は寒くて窓は開けられない。窓越しに夜景を
   楽しむしかなかった。
エリシェ「ロフトに上がると、空が一望できますよ。」
ラフィナ「うわぁ〜、行っていいですか?」
シンシア「私も見てみたいっ!」
エリシェ「・・・勢い余って落ちないで下さいね。」
   絶景があると大喜びするエシェラ・ラフィナ・シンシア。我先にとロフトへと上がっていく。
   それを呆気に取られながら見つめるエリシェ。そんな彼女を見つめながら一服する。

ミスターT「賑やかな事で・・・。」
エリシェ「ミスターT様は行かないので?」
ミスターT「俺はいいよ。若いお前さん達には敵わないから。」
    25を超えた辺りから、20前後の若者には到底付いていけなくなった。考え自体に付いて
   いけないというのが実情か。

    本当に若者達は羨ましい。俺にないものを沢山持っている。だからこそ魂心を込めた激励を
   しなければ・・・。



    暫くしてロフトから喋り声がしなくなる。心配になったエリシェが覗きに行ったら、何と
   3人してグースカ寝ていたという。

    彼女は押し入れから毛布を複数枚取り出し3人に掛ける。複数枚という部分から、風邪を
   引かないよう最大限の配慮だろう。


    エアコンの暖房による空気循環は上へと登る。つまり寒いと思っていたロフトは、以外にも
   暖かいようだ。だから複数枚の毛布だけで済んだのか。

    仮にロフトから下ろす事になったとしたら・・・、考えただけで重労働だ・・・。それに
   やれ何処を触ったのだとか言われそうで怖い・・・。


ミスターT「ごめんな。」
エリシェ「構いませんよ。疲れたのでしょうから、休ませてあげましょう。」
    一応確認しに行ったが、3人して川の字のように眠っている。まるで幼い姉妹のようだ。
   寄り添い合っているからか、全く寒そうに見えない。また念入りに毛布が掛けられている事も
   あるのだろう。外見は大人でも中身はまだまだお子様だな。



    窓越しに座り表を見つめる。表は夜景が綺麗だ。エシェラが言っていた通り、夏場なら表に
   出て一服したい所だが。
ミスターT「そうだ。今までの給料と貯金を合わせたら700万あった。ハーレーサイドカー2台の
      代金を渡したいのだが。」
エリシェ「え・・構いませんよ。プレゼントと言ったじゃないですか。」
ミスターT「それでは俺の腹の虫が納まらない。借りはしっかりと返したい。」
   懐にあった全財産が入っている通帳とカードを渡す。俺の決意に折れたのか、エリシェは徐に
   それを受け取る。
エリシェ「・・・ではこれはお預かりします。貴方の血と汗の結晶、大切に保管します。」
ミスターT「まあ任せる・・・。」
   エリシェも肝っ玉は充分据わっている。受け取れないと言い切れば押し通せるのだろうが、
   今の彼女は静かに従っていた。何か・・嫌な予感がするな・・・。



ミスターT「ここはお前さんだけしかいないのか。」
エリシェ「はい。両親と妹達は都心に住んでいます。私だけ学校の都合上、このマンションを使わ
     せて貰っています。」
    飲み直しといった感じで、紅茶を差し出すエリシェ。それを受け取って啜る。最近紅茶を
   飲む機会が多い。コーヒーより健康飲料だからか。俺も紅茶が好きになりそうだ。
ミスターT「1人じゃ淋しいだろうに。あ・・シンシアが一緒か。」
エリシェ「下の階の部屋にいらっしゃいますよ。でもこの部屋だけじゃ広過ぎて・・・。」
   そう言うと徐に寄り添ってくる。嫌な予感は的中した。だが彼女の表情は以前よりも増して
   穏やかだ。これはシンシアと同じか。

エリシェ「・・・本当に落ち着きます。貴方と一緒にいられるだけでも十分嬉しいのに・・・。贅沢
     すぎますよね・・・。」
ミスターT「素直じゃないな、淋しいならそう言えばいいのに。」
エリシェ「・・・はい・・・。」
    彼女の肩を抱き寄せ、頭を優しく撫でてあげた。それに至福の笑みを浮かべて浸っている。
   シンシアとは異なり、彼女の場合は凄まじいまでの重圧が背中にある。何れ社長へとなるので
   あろうから。



    暫く余韻に浸っていると、今度は胸の中に甘えてきた。もう成るがままだ、彼女の好きに
   させてあげよう。俺ができる最大限の慰めだ。
エリシェ「・・・先程代金を受け取りましたが、・・・それ以外にも1つお願いを聞いて下さい。
     それを聞いて頂ければ・・・、素直に受け取ります・・・。」
   そう語ると目を閉じ俺の方を向いてくる。このシチュエーションは・・・まあ仕方がないか。
   彼女の顎をソッと持ち上げ、そのまま口づけをしてあげた。何だかなぁ・・・。

ミスターT「これでいいかね・・・。」
エリシェ「はいっ!」
    さっきまでの落ち込みはどこにいったのやら。頬を赤くしながらもケロッとした顔をして
   いる。再び胸の中に甘えてきた。もうただの甘えん坊な女の子だな。

    でもいいか。一時の幸せを与えられるのだから・・・。今も胸の中で余韻に浸るエリシェ。
   その彼女の頭を優しく撫でてあげた。



    今思ったのだが、エシェラ・ラフィナ・シンシアは態とロフトに移動したように感じる。
   俺とエリシェだけの時間を作ったようにしか感じられない。

    やはり俺は4人の手の内で踊っているに過ぎないのだろうか。何とも・・・。

    第1部・第14話へと続く。

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