アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第3部・第15話 最終話・レミニッセンス・後編1〜
    時は過ぎ、14年後。



    あっと言う間に過ぎ去った14年。リュアとリュオを含む上の娘達は全員嫁ぎ、その下の
   娘達はバリバリのワイルドウーマンと化している。俺も85歳と完全な高齢者なのだが、外見
   は28歳のままという。例の老化が訪れない特異体質故に、今も現役で動き回っているのが
   実状だ。まだまだ若い者には負けはしない。今では伝説の覆面の風来坊の徒名は板に付いて
   いる。

    それとリュアとリュオが嫁いだため、メアティナとメアティヌがその役を引き継いで動いて
   いる。しかしこの2人も今では現役バリバリの警察官なため、殆ど自宅にいないのが通例なの
   だが。


    そうそう、ナツミRとミツキRも14歳と青春真っ盛りの年頃に成長した。あのパーティー
   の後に結果が出た精密検査だが、生前の時とは異なり健康体という嬉しいものだった。更には
   この2人も老化が訪れない特異体質という。本当に怖ろしいものだわ・・・。

    48歳になったナツミAとミツキは、2つの孤児院の全権を担って動いている。後継者に
   ナツミRとミツキRを薦めるのだと意気込んでいるが、はたして彼女達が応じるかどうか。

    他の面々はまだまだ健在だが、メアディル・リュリア・シンシア以外の妻達は動きが鈍く
   なるほど高齢化が進んでいる。この現状は非常に辛いが、これも全て必然的な流れの1つ。
   受け入れるしかない。



ナツミR「おう、お祖父さん。今帰ったぜ。」
ミツキR「後で課題やらないとなぁ、かったるいぜ。」
    ・・・予想していた通りの流れになった。メアティナとメアティヌに誠心誠意育てられた
   ナツミRとミツキRなだけに、力強さと男臭さまで受け継ぐまでに至ったのだ。メアティナと
   メアティヌを超える男言葉には呆れ返るのだが、学園では女子学生さん達に絶大な人気を誇る
   ほどにまで至っている。何ともまあ・・・。

    今の俺は本店レミセンのオーナーを担当する事になっている。全てのオブザーバーはまだ
   健在だが、それ以外では専属で本店レミセンにいる事が多い。もちろん他のマスターも訪れて
   補佐してくれている。

    また後継者育成が盛んであり、今は学園の職業訓練の一環でバイトも兼ねて日代わりで来訪
   する学生さん達もいるぐらいだ。まあ大多数が女子学生さん達なのだが・・・。

    それでも若い力が育っていく姿には本当に嬉しい。これからの世上を生き抜くための礎を、
   ここで培っていって欲しいものだ。

ミスターT「・・・男に生まれれば良かったのにな・・・。」
ミツキR「大丈夫っす、俺らは俺らなんだから。身体は女でも、心には男女の一念を持つ。そこに
     強さの真髄があるんだからね。」
ナツミR「男女共に使い分ければ恐れるものなど何もないですぜ。メアティナ母さん・メアティヌ
     母さんも通ってきた道だから。」
ミスターT「・・・全盛期のメアティナとメアティヌに瓜二つだわ。」
    本当にそう思うしかない。背丈も結構高く、ナツミAとミツキを遥かに超えている。それで
   いてスポーツ関連を得意としているため、体格は非常にガッチリしていた。更には身内でも
   上位に位置するほど胸がデカく、普段は邪魔だとサラシでカモフラージュをしている位だ。

ナツミR「・・・お祖父さんとは遠い昔に会っているんだよな。正直な所は分からないが、この直感
     は間違いなくモノホンだと確信してる。」
ミスターT「ああ、そうだな。」
    そう言いながら、衣服の胸の部分を少し肌蹴させてアザを見せてくるナツミRとミツキR。
   このアザはナツミEとミツキEにも存在したもの。同年齢時には同じ場所に鮮明に現れていた
   のが驚きである。今も双子の勲章と言うべく、胸で輝きを放っている。
ミツキR「お祖父さんが思われていたお2人の生まれ変わりなら、俺達はお祖父さんを最大限支え
     抜く事が使命だね。俺達にできる事なら何でも言ってくれよ。」
ミスターT「ありがとう、ナツミR・ミツキR。しかし今は礎を築く事だけを考えてくれ。それに
      今でしか体験できない事もある。向こう10年ぐらいなら、遊びながら動いてもいい。
      青春時代を大いに満喫しなよ。」
ナツミR「愚問ですぜ。俺達は俺達の生き様を貫き通してこそ、己を示す事ができる。お祖父さんや
     母さんから何度となく教わった原点回帰ですから。」
ミツキR「勝負は一瞬、思い立ったら吉日。ナツミA姉とミツキ姉からの永遠の指針。これを胸に
     突き進んでいって見せますぜ。」
   ガッツポーズをしながら決意を述べるナツミRとミツキR。男臭さは凄まじいまでだが、そこ
   には純粋な乙女の一念も備わっている。ナツミAとミツキも無敵の女傑なのだが、次期無敵の
   女傑に相応しい風貌を兼ね備えていると言っていい。



ミツキ「こんちゃ〜わぅ。」
ナツミA「あら、ナツミRちゃんにミツキRちゃん。」
ナツミR&ミツキR「こんにちは、姉御方。」
    カウンターに座り、麦茶をガバ飲みするナツミRとミツキR。本当にワイルド過ぎるわ。
   そこにナツミAとミツキが来店してくる。今では熟女まっしぐらなのだが、外見は28歳で
   止まっていた。ただ美しさは14年前とは各段と上がっている。俺でも惚れそうなぐらいの
   美貌の持ち主へと変化していた。
ナツミA「何です、また色目使いですか。相変わらずですねぇ。」
ミスターT「・・・お前達もシューム達のような事を言うようになりやがる・・・。」
ミツキ「わぅわぅ、女を舐めちゃあかんわぅ〜。」
   2人の事を見ていたら、案の定なヤジを喰らった。今では全盛期のシューム達に近いほどの
   肝っ玉母さんにも至っている。これで未婚なのだから驚きだ。まあ孤児院の覇者と魔王を受け
   継いでいるため、孤児達の母親なのだから当たり前か。
ミスターT「でもあの2人がここまで育ったのには驚きだの。ナツミAのあの病床時を考えれば、
      今の健全な姿は本当に嬉しい。」
ナツミA「フフッ、そうですね。あの時は先が分からぬ暗闇の中を進んでいたようなものでしたし。
     そこに光明を差してくれたのが貴方でしたから。」
ミツキ「姉ちゃんが強くなって嬉しいです。今では誰も敵う者がいないほどですから。」
ミスターT「ナツミAとミツキ、か。本当に運命的なものだな。それにこっちの2人もね。」
   携帯ゲームで遊ぶ事も心得ているナツミRとミツキR。その2人に俺が語り掛けると、慌てて
   こちらを向きニヤケ顔で笑ってきた。そんな2人の肩に優しく手を置くナツミAとミツキ。
   同じ名前の双子同士なのだが、性格は180度異なっているのが驚きだ・・・。


ナツミA「皆さんお元気ですか?」
ミスターT「エリシェの部屋で過ごしてるよ。何もやる事がないとか言いつつ、11人で筋トレを
      やりまくってるけど。」
    厨房をナツミAとミツキに任せて、俺もカウンターで一服をする。シンシア・リュリア・
   メアディル以外の妻達は現役を引退し、今は老後の生活を送っている。しかし何もやる事が
   ないのはつまらないと、筋肉トレーニングを行うのが日課になっている。また躯屡聖堕に入隊
   して町の美化に貢献してもいる。90歳近くまでは現役で頑張ると言っていたが、身体の方が
   追い付かず引退するのが実状だった。
ミツキ「身体の衰えだけは仕方がないわぅ。わた達は特異体質の老化が訪れないアレわぅから、現役
    を続けられるわぅけど。マスターもまだまだ最前線で戦っているわぅよね。」
ミスターT「財政面などの力は有り余っているが、それでは堕落するだけだからね。それを周りに
      言ったら、本店レミセンを全部管理しろと言ってきたし。」
ナツミA「皆さんらしいです。まあ私達もちょくちょく顔を出しますので、お手伝いならお任せを。
     何なりと申し付けて下さいませ。」
ミツキ「子供達が行かせまいとするのが厄介わぅけどね。」
   第2の孤児院の覇者と魔王は絶大な人気を誇っており、孤児院を離れる時は決まって行かせ
   まいとするのだとか。それだけ孤児院の運営が板に座ったと言えるのだろうな。
ナツミR「俺達も何回か孤児院に行ったんだけど、姉御達に間違わられて捕まった事があったよ。」
ミツキR「髪の色ぐらいしか似てないんだけどねぇ。」
ミスターT「それは残念だ。雰囲気と内在する命の脈動は瓜二つだぞ。どんなに別の人物を装うが、
      お前達4人は本当に良く似ている。」
ミツキ「あのお2人もナツミRちゃんとミツキRちゃんに似てたわぅよね。」
ミスターT「ああ、そうだったな。」
   ナツミEとミツキEの事を語るミツキ。それに以前の俺なら涙ぐむのだが、今は生まれ変わり
   たるナツミRとミツキRがいるので全くなくなった。それを窺ったナツミAとミツキはホッと
   しているようだ。

ナツミR「俺達の前世と言われる方々ですね。ナツミA姉の孤児院の庭先、花壇にあるモニュメント
     も見てきました。それにお祖父さんから見せて頂いたあの写真も。」
ミツキR「本当に懐かしい思いになります。理路整然と解釈できる物事ではありませんが、それをも
     凌駕する大切な一瞬だったのでしょうから。」
    女性言葉で語りだすナツミRとミツキR。ヴァルシェヴラームの孤児院の庭先には、今も
   ナツミEとミツキEが眠る場所がある。とは言ってもこの2人が本当の生まれ変わりなら、
   もはや大切な歴史でしかないのだが。
ミスターT「ナツミEとミツキEが逝去して、お前達として戻ってきた。となると命は巡るという
      事になるが、あの瞬間は本当だったからな。」
ミツキ「マスターの胸の中で笑って眠ったのですからね。その瞬間は本当に幸せだったと確信して
    います。でもそれは一時の命を休める瞬間でもある。その僅か1年足らずで再び今世に戻る
    のは驚きでしたが。」
   ミツキの語り部に自然と涙が溢れてくる。静かに手で拭っていると、俺の肩に手を乗せてくる
   ナツミRとミツキR。前世とされるナツミEとミツキEを思って涙を流すのは何十年振りなの
   だろうか。あれからは子育てなどでてんやわんやだったからな。
ナツミR「ありがとう、お祖父さん。」
ミツキR「私達は大丈夫だから。」
ナツミA「思いは時として時間や空間を超越する。それがこの瞬間でしょうね。実際にそれがどう
     いった経緯で至るのかと言うのは無粋な話です。私にはあのお2人がナツミRちゃんと
     ミツキRちゃんだと心から確信しています。」
ミツキ「わぅわぅ。」
ミスターT「そうだね。」
   慰めてくれているナツミRとミツキRを優しく抱きしめた。すると胸の中に甘えてくる。過去
   にヴェアデュラが同じ様に甘えてきた事が脳裏に蘇る。月日が過ぎるのは早いものだわ。

ミツキ「今後は更にパワフルになると思うわぅよ。それにマスターの娘さんの中では1・2位を争う
    ぐらいの美女にもなるわぅ。わた達なんか敵わないわぅね。」
ナツミR「またまたご謙遜を。俺達は姉御方を超える事はできませんぜ。」
ミツキR「今では各界でその名を知らないとされるナツミA姉・ミツキ姉。全ての分野において一目
     置かれる存在ですから。」
ナツミA「私達はそんな事思った事もないんだけどね。」
    第2の偉大なる母達を褒める孫娘達。そうなのだ、ナツミAとミツキの名前は今や世界中が
   知っているほどの偉人となっているのだ。


    ヴァルシェヴラームとセルディムカルダートが打ち出した、世界から孤児を無くすという
   誓願。これが例の企業間抗争事変の後に評価されだし、今では世界中から賛同や同調の声が
   挙がるほどに至っていた。

    三島ジェネラルカンパニーやシェヴィーナ財団がスポンサーとなり、躯屡聖堕フリーランス
   が実働部隊として動いている。様々な分野から補佐をする事で、総合的に孤児を無くすという
   誓願に挑み続けていた。

    無論、今も世界では紛争が起こっている地域もある。そこで一番泣くのは未来の子供達だ。
   しかし出来得る限りの戦災孤児を助け続けていた結果、何とノーベル平和賞を拝受させて頂く
   までに発展していったのだ。

    本来ならノーベル平和賞はヴァルシェヴラームとセルディムカルダートが受けるべきなの
   だが、そこを代理としてナツミAとミツキが受けたのである。これにより今では超有名人に
   至っている訳である。


    ただこれは世界という広い視野からの賞賛である。島国根性なのかどうか分からないが、
   日本国内での評価は高くなかった。むしろ財閥の力で買ったというデマも流れており、完全
   には認知されていないのが実状だ。

    まあそんな愚物はどうでもいい。誰彼がどうこうじゃない、テメェ自身がどうあるべきか。
   それが最も重要なのだ。俺の指針でもあり、恩師ヴァルシェヴラームの坐右の銘でもある。

    俺達は俺達の生き様を貫くのみ。誰からも評価されなくてもいい。世界から孤児を無くすと
   いう誓願、ただこの一念のみだけでいい。まだまだ俺達の戦いは続いている。


ナツミA「シェヴさんとディムさんが受けるべきだったのですがね・・・。」
ミスターT「何度も言ってるわな、老兵は去り行くのみと。」
ミツキ「それでいて今も現役で動かれていますし。」
ミスターT「賑やかな所は意外と苦手なのよ。」
    既に120歳近いヴァルシェヴラームとセルディムカルダートだが、外見は28歳のままで
   止まっている。ただ孤児院はナツミAとミツキに全て任せており、今は両院の近くに住居を
   構えてひっそりと過ごしていた。
ナツミA「それでも私達の役目はまだまだ終わりませんよ。いくら世界から認められたと言っても、
     今さっきマスターが思われた通り国内では拒絶される所もあります。」
ミスターT「見事な洞察力だが、そうだよな。それでも我が道を進む、だ。」
ミツキ「誰彼がどうこうじゃない、自分自身がどうあるべきか。それが重要だ、ですよね。」
ミスターT「恐れるものなどないさ。俺達が原点回帰を失わない限り、永遠と輝き続ける。」
   先にも思ったが、世界から孤児を無くすという誓願は完全達成されていない。しかし諦めなけ
   れば実現は可能だ。それは俺達の双肩に掛かっていると言ってもいい。

ナツミR「お祖父さん・姉御方、俺達も孤児院で働くよ。」
ミツキR「そこまで純粋一途な誓願を抱いているとは知らなかった。ただ漠然と孤児院を運営して
     しているのかと思ってた。」
ナツミR「シェヴ婆とディム婆が礎を築き、お袋達が育て続けた。そして姉御方が守り続けている。
     これを同じ孤児院出身の俺達が継がなくて、誰が継ぐんですか。」
    俺達の会話を聞いていたナツミRとミツキRが真剣な表情で語ってくる。興奮気味になると
   更に男言葉になるのが2人のクセで、それが現れている事から十分窺えた。
ナツミA「ありがとう、ナツミRさん・ミツキRさん。ですが今は自分達の礎を築き続けて下さい。
     まだ14歳と先は長い。社会を、世界を見てからでも遅くはありません。」
ミツキ「でも本気で継ぐと言ったからには、生半可な覚悟では挑まないようにね。私達も次期後継者
    として本気で育てていく覚悟だから。」
ナツミR&ミツキR「委細承知!」
   同時に力強く叫ぶナツミRとミツキR。俺でも分かるぐらい、双子が抱いている一念は半端
   じゃないほど固く強いものだ。この覚悟なら何ら問題ないわな。


ミスターT「何か2つの孤児院の院長は、襲名形式なりそうだの。」
ミツキ「フフッ、ナツミ院長にミツキ院長ですか。」
ミスターT「だの。まあお前達は実名だからその通りになるんだがね。」
    一服しながら二組の双子に語る。ナツミRとミツキRが孤児院を継ぐとしたら、2代目も
   3代目も同じ名前となる。初代こそ異なるが、襲名形式の孤児院長か。何ともまあ。
ナツミR「だったらさ、セカンドネームを受け継がせたら?」
ミツキR「3代目からとなるけど、レミニッセンスを付ける事を義務付けるとか。」
ミスターT「原点回帰か・・・、それも一理有りだな。それよりも2つの孤児院を同時に担当すると
      なると、双子じゃないとダメかもな。」
ナツミA「院長には双子を選ぶのもいいですね。」
   孤児院の歴代の院長を考えると、全員が姉妹ないし双子に至る。元祖はヴァルシェヴラームと
   セルディムカルダートの姉妹、二代目はナツミAとミツキの双子姉妹。そして名乗りを挙げた
   三代目はナツミRとミツキRという流れだ。

ミスターT「何はともあれ、今は己の戦いを優先しなよ。向こう10年は遊んで過ごしても問題は
      なかろう。まあ・・・それ相応の努力をしないと、後々痛い目を見るがね。」
ミツキ「ありゃ、マスター知らなかったわぅか。ナツミRちゃんとミツキRちゃん、学年ではトップ
    の成績を誇ってるわぅよ。下手をしたら学園トップとも噂されてるわぅ。」
ミスターT「こんな普段からノホホンとしているのにか・・・。」
ミツキ「以前仰ったと思うわぅが、陰ながら努力するのがマスターの娘さん達わぅ。一部始終を知る
    事がなかったなら、それはナツミRちゃんとミツキRちゃんの作戦勝ちになるわぅね。」
    ミツキの言葉に顔を赤くして頷いているナツミRとミツキR。俺の前ではワイルドガールを
   見せているのだが、どうやらそれはフェイクだったようだ。

    後日メアティナとメアティヌから聞けた話だが、学園内での力強さは半端じゃないとの事。
   勉学もスポーツも万能で欠点は全くなく、それでいて生真面目で熱血漢な故に誰からも愛され
   ているという。

    メアティナとメアティヌも同じ様に愛されていた経緯があったため、どうやらそれが受け
   継がれたという事になるだろうか。まあ育てたのが彼女達なだけに、似てしまうのは仕方が
   ないのだろうがな・・・。


ミスターT「俺がこの地に風来坊として戻ってきたのは28歳の時、か。あれから57年、お前達が
      生まれる遥か前だの。」
ミツキ「今では人生の大ベテランわぅね。」
ミスターT「上には上がいるんだけどね。それでも風来坊としての経験は俺が一番と言ってたわ。
      娘達も13年間風来坊を経験しているだけに、その凄さが痛感してるみたいだよ。」
    一服を終えて再び厨房に戻る。今度はナツミAとミツキがナツミRとミツキRの傍らで色々
   と雑談をしていた。この双子は本当によく似ている。
ナツミA「私も風来坊を経験してみたかったですが、時既に遅しと言えますね。まあでもマスターに
     色々と教示して頂いているので、まるで全国を歩き回っている感覚にはなりますが。」
ミスターT「高齢での風来坊は体力的に厳しくなるからね。ナツミRとミツキRぐらいなら問題ない
      だろうけど、2人には先ず基礎学力をしっかりと身に着けて欲しいからさ。」
ナツミR「だったら毎年転校を繰り返してみるというのも面白かったかもね。」
ミツキR「小学1年から中学3年までかぁ・・・。」
ミツキ「まあそれも人それぞれの生き様わぅ。ナツミRちゃんとミツキRちゃんは己の生き様で今を
    生き続けているから問題ないと思うわぅよ。マスターにはマスターの、2人には2人の。」
ミスターT「お前十八番の桜梅桃李わぅ〜、だな。」
ミツキ「ふふり、そうわぅ〜。」
   ミツキ由来の坐右の銘の1つでもある、桜梅桃李。それを彼女の語末を使って語ると、ニヤリ
   と不気味に微笑む彼女。初めて出会った頃の時と殆ど変わらない容姿から、当時の彼女を思い
   起こしてしまう。
ミツキ「わた達はわた達で己の生き様を貫き続けるわぅぜぇ〜。」
ミスターT「ハハッ、そうだな。」
   笑顔で右手親指を立てながら語るミツキ。それにナツミRとミツキRもガッツポーズをして
   応じている。そんな3人を見て呆れつつも頬笑ましい視線を送るナツミAだった。


    ちなみに隠居の妻達の中で唯一現役なのがシンシア・リュリア・メアディル。あのリュリア
   は今ではウインドとダークHの跡を継いで、警察庁長官を担っている。その彼女を補佐して
   いるのがメアティナとメアティヌである。

    まだ年代的に娘達に近いため、今も最前線で戦う模範の勇者である。それ以外の10人が
   隠居になったと言うのは、月日が過ぎるのは早いとしか言い様がない。時間と言うのは本当に
   残酷で冷酷だな。

    まあ次なる後継者育成をし続け、その彼らを世に送り出すには仕方がない継承であろう。
   人は何れ遅かれ早かれ死という終着点に行き着く。そこに至るまでに何を残せるかが勝負と
   なってくる。

    13人の妻達や他の先駆者の姿を見て育ってきた娘達だ。その類希なる力は凄まじいもの。
   父親の俺が言うのも何だが、本当に強く逞しく優しく育ってくれた。本当に感謝したい。

    その中での原動力は言うまでもなくナツミAとミツキ、そしてナツミRとミツキRだろう。
   特にナツミRとミツキRはナツミEとミツキEの再来。俺が奮起しだした事に触発されたと
   言っていい。あの2人ほど先を見据えた戦いをした女傑はいない。

    ナツミEとミツキEの生まれ変わりはナツミRとミツキRだが、心半ばに逝去した前世の
   2人の分まで生き抜かねばな。それが胸の中で眠った彼女達への報恩感謝だ。



ミツキ「どしたわぅ、またお2人の事を思ってたわぅか?」
    今し方帰宅したメアティナとメアティヌ。その2人が続け様に厨房を担当すると言い出した
   ので、俺はカウンターで一服しながら物思いに耽っていると、背後の席で筐体ゲームで遊んで
   いたミツキが語り掛けてきた。見事に俺の心中を察した形になる。
ミスターT「お前の直感と洞察力は歳を重ねる毎に怖ろしいまでに強くなったよな。」
ミツキ「ふふり、というか違ったわぅ。やっぱ思ってたわぅか。」
ミスターT「まあな・・・。」
   ナツミRとミツキRがナツミEとミツキEの再来だとしても、俺の胸の中で眠った双子の歴史
   は紛れもない事実。それは今後俺が死ぬまで抱き続ける一念にもなる。こればかりは仕方が
   ないだろう。

メアティナ「親父、その一件後から児童虐待数が一挙に減った記録があるぜ。世間体は色々と驚いて
      いるようだが、まあ躯屡聖堕チームが一躍担っているのは言うまでもないけどな。」
メアティヌ「あの瞬間から、アマギH殿とユリコY殿から永遠の指針の如く刻まれてるぜ。躯屡聖堕
      チームのメンバーなら、誰もが語り継いでいる伝説だからの。」
ミスターT「そんな事をしてくれていたのか・・・。」
    俺や家族の前では男言葉になるメアティナとメアティヌ。スーツ姿にエプロン着用でのこの
   言動には、萌えと来るのか呆れと来るのか・・・。しかし2人が語ってくれた事は、過去に
   ウインドやダークHから聞いた事がある。人間が本気を出したら歴史を変革させる事など容易
   なもの。過去の歴史を見れば明白だ。
ナツミA「ですが孤児院に預けられる子供の数は一向に減っていません。メアティナさんが仰る事を
     踏まえれば、児童虐待を未然に防いで孤児院で保護をしだした。これが正論でしょう。
     それにより児童虐待数が減ったと思われているようで。」
ミスターT「父親が・母親が、そんなレベルの話じゃないよな。子供の命を何だと思ってやがるんだ
      かね・・・。ナツミYUが激怒していたアレだ、子供を金の成る木と勘違いする愚者と
      同じ類だ。」
ミツキ「愛情ですよ愛情。愛情欠落故に接し方が分からず虐待をしてしまう。まあ全部がそうだとは
    限りませんが。大体は子供を産んだら死ぬつもりで守り続ける覚悟を持って欲しいもの。
    中途半端な考えで後継者育成など愚の骨頂です。」
   真剣な語り部の中に、怖ろしいまでの炎波業火を含む殺気と闘気を織り交ぜているミツキ。
   それにナツミAと俺以外の4人は恐怖に震えだした。彼女が本気を出した場合はナツミAで
   すら押し留める事は厳しいと言うぐらいの猛者に成長しているのだ。
ミスターT「そもそも・・・以前例の一件を馬鹿にした連中が出たと聞いた事があったな。」
ミツキ「言わせておけばいいんですよ。人の痛みを理解できない阿呆は捨て置け、貴方が以前仰って
    いた事じゃないですか。」
ナツミA「同じく家族の事に対して言われれば、言った側も腹が立つ事を考えもしない。所詮は真の
     痛みを知らぬ存在、それでいいのよ。」
   妹に負けじと氷嵐冷酷を含む殺気と闘気を出しながら、静かに語るナツミA。これには流石の
   ミツキも驚愕し恐怖に震えていた。メアティナ・メアティヌ・ナツミR・ミツキRはこの世の
   ものとは思えないものを見ているように恐怖に震えている。


ミスターT「・・・誰彼がどうこうじゃない、テメェ自身がどうあるべきか。それが重要、か。」
    カウンターの一角が恐怖の空間になっているようで、お会計に訪れようとしていた常連さん
   が恐怖に慄いていた。その相手に頭を下げてレジを行う俺。直後に脳裏に過ぎった言葉を娘達
   に語る。
ナツミA「フフッ、流石は伝説の風来坊です。そこに回帰すれば上出来ですよ。理論などで塗り固め
     られた概念を取っ払った時、残るものこそがそれ真実。即ち己の絶対不動の生き様です。
     貴方がミツキに語り、彼女から何度も言われた言葉。生き様とは男女問わず貪欲な限りに
     貫き通していってこそ猛者、でしたね。」
ミスターT「そうだの。まあ実際に行うとすると、ある意味生きるより大変なんだけどね。漠然と
      生きるだけなら、その都度生き様を変えていけばいいだけの話。環境に順応して生きて
      行けば、何も気にせず一生を送れる。だが、虚しい生き様になるけどな。」
   流れ流されての生き様ほど虚しいものはない。自我を持たずの行動そのものだからだ。一生に
   一度しかない人生ならば、波乱に満ちようが充実した生き様を刻む方が遥かに潔い生き方だ。

ミスターT「人は生まれ・人は老いる、人は病み・人は死ぬ。生老病死の理からは逃れられる事は
      できない。まあ・・・俺達はその中の老いるに関しては欠落してるけど・・・。」
ミツキ「ポジティブシンキングですよ。老いがない特異体質ならば、その分人並み以上に頑張って
    頑張って頑張り抜く。シェヴさんとディムさんが一番体現してるじゃないですか。」
ミスターT「やれる事をやるまで、だな。幸いにも俺達にも問題なく終着点は訪れるようだしの。」
ミツキ「勝負は一瞬、思い立ったら吉日わぅ。」
    老いが訪れない特異体質。確かに端から見れば羨まれる程のものだ。臨終のその瞬間まで、
   現役さながら活躍できるのだから。しかし人生の終着、死という結末は避ける事ができない。
   何れ俺にも訪れる臨終の瞬間、その瞬間まで全力投球で生き抜くのみだ。

    後半へと続く。

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