アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝　〜覆面の風来坊〜
　　　　〜第１部・第１６話　歌姫と才女２〜
　　　　それから１週間後。コンサート当日。コンサートホールは何と東京ドームを貸し切っての
　　　大規模なものとなった。スケールが違いすぎる、というか大丈夫なのかね・・・。

　　　　今回の演奏内容はクラシックを中心としたもの。またコラボレーションとして、最後の曲は
　　　エシュリオス・エフィーシュと一緒に歌う事になった。


　　　　あれからエシュリオスとエフィーシュの存在はリシューナ達を超えていた。努力するという
　　　部分でもそうであるが、思い人に対しての心は到底敵わない。怖ろしいまでの一途さだ。
　　　まあその原因は俺にあるのだが、彼女達を揺り動かすのなら喜ばしい事である。

　　　　このイベントは全国中継されるとあって、ラフィナとエリシェは物凄い緊張している様子。
　　　エシュリオス・エフィーシュは既にプロであり問題はない。２人にとって今回のイベントが
　　　今後の行動を左右する大事な一時となるだろう。



ミスターＴ「いよいよだな。」
ラフィナ「は・・はい・・・。」
エリシェ「ふ・・震えが止まりません・・・。」
　　　　怖ろしいほどまでに緊張している。これから始まるイベントの意味を理解すればするほど、
　　　肩に掛かる重圧は凄まじいものだろう。
エシェラ「何時も通りでいいのですよ。」
シンシア「最高の演奏を、楽しんで演じて下さい。」
　　　激励するエシェラとシンシアだが、今の２人には慰めになっていない。目が向こうの世界に
　　　いってしまっている。これは一肌脱ぐしかないか・・・。


　　　　緊張し切っている２人。そのエリシェの前へ行き、ソッと彼女を抱きしめた。一瞬にして
　　　我に帰るエリシェ。その彼女の顎を持ち上げ唇を重ねる。

　　　　甘い一時に酔い痴れる彼女だが、鼓動の早さは収まっていく。どうやら落ち着いたようだ。
　　　荒療治ではあるが、今は十分なものだろう。
ミスターＴ「これで大丈夫だな。」
エリシェ「はい・・・。」
　　　普段のエリシェに戻ったようだ。頬は赤くなっているが、目は据わっている。こういった癒し
　　　のスキンシップで落ち着くというのは何とも言い難いが・・・。　　　


　　　　今度は隣にいるラフィナを抱きしめる。既にその先は分かっていたようで、徐に目を閉じる
　　　彼女。そのままソッと口づけをしてあげた。

　　　　ラフィナも一瞬にして落ち着きを取り戻す。流石はエリシェよりも年上である、目は完全に
　　　据わりを見せていた。
ミスターＴ「ごめんな、落ち着いたかい？」
ラフィナ「はい・・大丈夫です。」
　　　頬を染めながら俯く。その彼女の頭を優しく撫でてあげた。エリシェと同様に目が据わって
　　　いる。これなら全く問題ないだろう。



シンシア「流石師匠、慰めの方法が積極的ですね。」
ミスターＴ「茶化すなよ。」
エシェラ「となると、これで全員とキスをした事になるのかな。」
　　　　平然と言い切るエシェラに、エリシェとラフィナは赤面する。特にラフィナは今までにない
　　　ほど赤くなっていた。どうやら今のがファーストキスだったようだ。
ミスターＴ「初めてだったのか・・・、許可もなしに悪かった・・・。」
ラフィナ「い・・いえ・・・とんでもない、嬉しかったです・・・。」
エシェラ「キス以上の発展はシンシアさんだけだね。」
シンシア「あ・・あれは違います、一夜を共にしただけで・・・。」
　　　ああ、これは俺とあった事を指し示すのか。実際は寄り添っただけなんだが。何とも・・・。
　　　う〜む、ここは少し場を和ませるか。

ミスターＴ「激しかったよなぁ、お前さんは。」
シンシア「こ・・こらぁ〜、嘘を付くなぁ〜！」
　　　　冗談を言うと大赤面で反論するシンシア、これもまた可愛い。それにエシェラが便乗して
　　　彼女をからかい、更にシドロモドロにさせる。そのやり取りを見て、ラフィナとシンシアは
　　　笑っていた。少し顔を引きつらせてはいるが、完全に普段の彼女達に戻っている。

　　　　雰囲気に飲まれていたラフィナとエリシェを和ませるエシェラとシンシア。４人は正しく
　　　異体同心、本当の姉妹のようである。



ナツミＹＵ「お２人さん、そろそろ準備お願い。」
　　　　暫くしてナツミＹＵが控え室に入ってくる。雑談をして和んでいる２人を見て、安心した
　　　表情をしていた。彼女も陰ながら心配していた様子だ。
ミスターＴ「観客席から見守るよ。頑張れ、負けるなよ！」
ラフィナ＆エリシェ「はいっ！」
　　　ラフィナとエリシェの警護として、ウインドとダークＨが付き添う。２人とも１週間前とは
　　　比べ物にならないほど落ち着いた。まだ堅苦しい部分があるが、徐々に女性らしい姿になって
　　　いる。これも４人のお陰だ、頭が下がる思いである。

　　　　ウインドとダークＨが前後し、ラフィナとエリシェがステージへと向かって行く。俺達は
　　　一般観客席に移動する。ロビーは人でごった返しており、それだけこのイベントが大きなもの
　　　だという事が窺えた。



　　　　それから数十分後、コンサートが開催された。前座はエシュリオスとエフィーシュが担当。
　　　これだけで大熱狂となる。というかラフィナとエリシェが浮かなければいいが・・・。

エシュリオス「ありがとうございました〜。」
エフィーシュ「では続いてからが本番です。」
エシュリオス「私達の姉的存在で、日頃からお世話になっている方です。」
エフィーシュ「２人の心の詩を感じ取って下されば幸いです。」
　　　　凄いな、しっかりとフォローしている。エシュリオスとエフィーシュにも頭が下がる。双子
　　　の機転溢れる行動に感謝した。



　　　　ステージが一旦暗くなった。そしてスポットライトを浴びながら、ゆっくりとラフィナと
　　　エリシェが現れる。

　　　　赤色の美しいドレスを身に纏ったラフィナに、紫色のタキシードを身に纏ったエリシェ。
　　　ラフィナは長髪のままだが、エリシェはポニーテール状に纏めてある。２人とも惚れるぐらい
　　　に美しい・・・。


ラフィナ「本日は遠路遥々お越し頂き、本当にありがとうございます。」
エリシェ「全くの無名の私達ですが、最後まで観賞して下さい。」
　　　　・・・これがラフィナとエリシェか・・・。今だかつて見た事がないほど大人びいている。
　　　表情は明るく瞳はどこまでも澄んでいる。ここにいる全ての観客さんが惚れてしまいそうな
　　　出で立ちだ。
　　　力強い発言はドームに響き渡り、それだけで虜にされそうである。まあ俺だけが思っている
　　　事かも知れないので、これ以上は結果を見てからにしよう。



　　　　徐に演奏が始まる。バイオリンを弾くエリシェ、その調べに乗りながら歌いだすラフィナ。
　　　クラシック曲にオリジナルの歌詞を沿えた、２人のオリジナルの演奏だ。

　　　　心に響く歌、胸を躍らせる。ここまで素晴らしいものなのか。２人の調べが渦を作り、その
　　　渦が大渦となって周りに浸透していく。


　　　　不意に頬に涙が伝う。歌を聴いて泣くというのは初めてだ。それだけ彼女達の心からの詩が
　　　聞く者の心に響き渡るのだろう。

　　　　ずっと聞き続けたい。そう思わせる演奏が何度も続いていった・・・。



　　　　最後はエリシェが弾くバイオリンの調べに、ラフィナ・エシュリオス・エフィーシュが一緒
　　　に歌った。

　　　　エシュリオスとエフィーシュがテレビなどで歌っている自前ものをラフィナも歌っている。
　　　素人とは思えないほどの上手さだ。完全に双子と同調している。


　　　　エリシェの演奏にも磨きが掛かる。軽やかなステップを取りながらバイオリンを弾く様は、
　　　まるでバイオリンという相手と一緒にワルツを踊っている錯覚に陥らせる。もはや素人の領域
　　　を超越していた。



　　　　観客さんとの一体となった大合唱で演奏は終わった。拍手大喝采で４人を讃える。俺も手が
　　　痛くなるまで惜しみない拍手を送り続けた。



　　　　彼女達は渾身の行動でその瞬間に生き様を刻めた。この一時に参加できた事を誇りに思う。

　　　　ありがとう、ラフィナ・エリシェ・エシュリオス・エフィーシュ・・・。



　　　　本店レミセンのカウンターでスケッチブックにペンを走らせる。東京ドームから帰宅した
　　　のは午後１０時。

　　　　ラフィナとエリシェは観客から握手やサインを求められ、今も現地にいる。分からない事は
　　　エシュリオスとエフィーシュに聞いている。この場合は双子の方が師匠だな。


　　　　ウインドとダークＨにも感謝している。ラフィナとエリシェの後ろに付き従うボディガード
　　　そのものだ。

　　　　ウインドとダークＨもいい経験ができたと思う。実戦経験ほど素晴らしい修行の場はない
　　　からな。



エシェラ「うわぁ〜、それあの場面ですか？」
　　　　絵を書き終わり、一服しながらコーヒーを飲む。その完成した絵をエシェラとシンシアが
　　　見つめている。俺の渾身の作品だ。これをコピーして４人に渡そう。
ミスターＴ「今まで歌を聞いて泣いた事はなかった。４人の演奏は、間違いなく最高のものだよ。」
シンシア「そうですね。完全オリジナル曲は貴方に対する思いが切々と伝わってきました。」
エシェラ「いいよねぇ、歌で思いを表せて・・・。」
　　　思い思いの感想を述べる。しかしエシェラとシンシアは特技と言えるものがなく、言葉や行動
　　　で感動を与えられる２人を羨ましがっているようだ。


ミスターＴ「そうでもないさ。」
　　　　俺は左隣にいるエシェラの顔をこちらに向ける。そして静かに口づけをした。驚いた表情を
　　　浮かべたが、直ぐに身を委ねてくる。今回は念入りな口づけだ。甘い一時に酔い痴れる彼女。

ミスターＴ「エシェラは誠意ある姿で俺に思いを伝えてくれている。そのお前さんに感謝している。
　　　　　　自分の信じる道を進むんだ。そんな君を心から愛せるのだから。」
エシェラ「はい・・・。」
　　　　頬を染めながらも目は何処までも据わっている。この瞳を見れば、彼女の今後の行く末は
　　　燦然たる輝きを見せるだろう。


　　　　今度は右隣にいるシンシアの顔をこちらへと向ける。エシェラとの一部始終を窺っていた
　　　ため、その後の展開を読めていたようだ。

　　　　徐に唇を重ねるが、今度はシンシアの方から積極的に攻めてくる。その彼女を受け止めて、
　　　したいがままにさせてあげた。

ミスターＴ「シンシアには何度も世話になっている。みんなから嫉妬心を抱かせるほどの献身さだ。
　　　　　　その君に心から感謝している、ありがとう。」
シンシア「私もです・・・。」
　　　　頬を染めながら頷くシンシア。だがエシェラとは異なり、何と彼女の方からも口づけをして
　　　きた。まるで我慢していたのを発散させるかのような熱い口づけに、俺もエシェラも呆気に
　　　取られるしかない。



　　　　無心による勢いで２人に口づけをしてしまった。今も余韻に浸るエシェラとシンシア。だが
　　　表情は幸福の絶頂に至っていると言わんばかりだ。

　　　　以前の俺なら罪悪感を感じずにはいられない。しかし今は全く感じていない。心からの行動
　　　は、羞恥心などという概念を完全に取っ払っている。

　　　　それに彼女達が普段から俺に対して愛を述べている。その彼女達に心から応えたまでだ。
　　　疚しい心も下心も一切ない、あるのは心から愛しているという事だけだから。



　　　　徐に煙草を吸う。以前味わったように、この瞬間の一服は上手いものだった。

　　　　一同ありて俺がある、だから俺もそれに応える。いや、これからも応え続けよう。

　　　　それが俺の原点回帰だから・・・。

　　　　第１部・第１７話へと続く。

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