アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第1話 育ての親2〜
    それから数時間後、本店レミセンへと戻った。中は相変わらず大賑わいだ。4人の愛しい人
   もそうだが、警察官のリューアとテュームも一緒にいる。

    常駐警察官といいながらも、この場をエラく気に入ったようだ。それでいて交番のような
   役割を担っているのだから驚きである。

    彼女達がいる先が言わば移動交番と言えるだろうか。う〜む・・・面白い流れになったもの
   だな・・・。


エシェラ「お帰りなさい。」
    俺が帰ると一同こちらを向く。と同時に胸に視線が集中する。それは紛れもなく、孤児院で
   引き取った女の子の事だ。見る見るうちに4人の表情が困惑しだす。それは正しく大混乱と
   言える。

エシェラ「ど・・どうしたのですかっ、誰のお子さんなのですかっ!」
エリシェ「ま・・まさか・・・私達を差し置いて・・・。」
ラフィナ「ヒドい・・・私達がいるというのに・・・。」
シンシア「そりゃぁ〜あんまりだよぉ〜・・・。」
ミスターT「お・・落ち付けって、ちゃんと説明するからっ!」
    予想した通りだ。4人とも目を白黒させながら興奮している。これが本気なら俺は間違い
   なく殺されるだろう・・・。
   彼女達の愛情は分かっているつもりだが、これは怖ろしいとしか言いようがない・・・。

    とりあえず4人を落ち着かせた。というか落ち着かせるまでが大変だったが・・・。



    俺は孤児院でのヴァルシェヴラームとのやり取りを、懇切丁寧正確に語った。

    この子は俺と同じ孤児である事。孤児院の覇者とも謳われるヴァルシェヴラームでさえ泣き
   止ませられない事。そして俺の育ての親としての了承と決意を、彼女達に語り尽くした。


エシェラ「ごめんなさい・・・、興奮しすぎました・・・。」
ミスターT「いや、大丈夫さ。俺も現地でいきなり選択を迫られたから、正直今でも驚いている。」
    一同を代表してエシェラが詫びる。冷静に考えれば在り得ない事だと理解できただろうに、
   目の前の現実は彼女達を混乱させるには十分すぎたのだ。

    普通に考えれば現実を受け入れるまでには時間が掛かる。それを無理矢理押し通したのが
   俺やヴァルシェヴラームだ。

    特に目の前の切羽詰った現実を目の当たりにしたら、自分の思考をカットしてまで動かな
   ければならなかったのだから。

ミスターT「でも・・・途中で投げ出したりはしない。この子が独り立ちするまで、俺は育ての親を
      貫き通そうと決意している。」
    生半可な考えでは勤まらない。それが親というものだろう。それにこの子の明るい未来の
   ためでもある。俺自身の新たなる生き様を刻む時がきたのだから・・・。


エシェラ「あの、私も一緒に育てますよ。」
    彼女の胸で眠る女の子の額を撫でながら語る。その表情はまるで母親そのものだ。また過去
   に俺がエシェラにした事を、大人になった彼女がしているようなものか。
ラフィナ「私も及ばずながらお手伝いします。」
エリシェ「資金面で困る事があれば何でも仰って下さい。」
シンシア「手作りの離乳食、作れるかなぁ・・・。」
   他の3人も育児をすると言い出した。表情はエシェラと同じく母親そのもの。まるで4人の
   母親がこの子を見守るような姿だ。

ミスターT「・・・ありがとう・・・。」
    不意に涙が流れる。4人が名乗りを挙げた事に対しての安堵感か。いや違う、これは4人が
   母親という一面を覗かせたものに対してだ。
   自分に対してもそうしていたであろう、俺の母親と姿をダブらせる。言わば心からの歓喜の
   涙だ。

    今度は泣き続ける俺にアタフタしだす4人。涙が全く止まらない。心からの優しさに触れた
   事により、俺自身が安堵しているというものだろうか。

    真女性は強い・・・。彼女達がいなければ、俺は既に死んでいたかも知れないな・・・。


    この瞬間から、俺達の新たな生活が始まった。



    まずは育児用具の確保。駅ビルの中にある幼児用フロアに赴いた。こういう場合は女性の
   意見を聞いた方がいい。4人にもご足労願った。

    次は食べ物に関する情報だ。これは後日ヴァルシェヴラームが訪問した折に聞けたが、それ
   以外では俺達で担わなければならない。

    何も分からない状態なだけに、雑紙などを見て知識を会得していく。手探り状態だったが、
   4人の手助けもあり何とかこなしていった。

    ちなみにこの時4人がヴァルシェヴラームに詰め寄ったのが印象深い。流石の彼女も4人の
   真剣な詰め寄りと質問攻めに、完全に参ってもいた。何とも・・・。


    現役の主婦からのアドバイスも聞いて回る。ターリュとミュックの母親のメルア。アサミと
   アユミの母親のナツミYU。そしてエシェラとエシェツの育ての親でリュリアの母親である
   シュームにも。

    特にシュームは事態を重く見て、暫くの間一緒に行動をすると言ってくれた。そこまでは
   重大ではないのだが・・・。まあこれは俺達の経験不足が補えるまでの間の助け船だろう。
   本当に頭が下がる思いだ・・・。



シューム「これでよしっと。」
ミスターT「ありがとうございます。」
シューム「気にしない気にしない。」
    今はエシェラの自宅へと赴いている。シュームはリュリアに作った幼児用の衣服を女の子に
   着せてくれた。見ただけで寸法などが把握できるそのスキルには恐れ入る。流石現役の母親で
   あろう。

シューム「しかし・・育ての親ねぇ・・・。最初この子を見た時は、何時の間に4人のうちの誰かと
     子作りに励んでいたのかと思ったわぁ〜。」
ミスターT「なっ・・・。」
    何という事を言い出すんだ彼女は・・・。またその発言を聞いた4人は、今だかつて見た事
   がないほどの大赤面をしている。耳まで赤くして俯いてしまった。

シューム「髪の色からすればラフィナちゃんが一番の候補者だろうけど、父親の遺伝で髪の色が受け
     継がれる例もあるし。そうすると4人とも候補者に挙がるのかな。」
エシェラ「か・・・か・・か・母さんっ!!!」
    やっとの思いで言葉を発せられたのか、裏返った声は今のエシェラの心境を物語る。だが
   言葉として出せたのは彼女だけで、他の3人は俯いたまま赤面しっ放しだ。
シューム「あら、本当の事を言っただけよ。この子は血の繋がりがないけど、貴方達が彼との間に
     生まれた子供は同じになるわ。いい事じゃない、何を今更って感じに慌てて。」
   言われてみれば確かにそうだが・・・。それにしてもシュームの発言は爆発寸前の核爆弾を
   投げ付けるようなものだ。恐ろしい事この上ない・・・。

シューム「いっその事、4人とも彼の子供を身篭ったらいいじゃない。彼を心から愛しているなら、
     表向きは結ばれなくても夫婦になれるわ。世の中にはそうした人達も沢山いるのよ。」
    真剣な表情で語る彼女。その言葉には世間体やモラルといった概念を超越した意味が込め
   られているようだ。いやらしいといった部分を一切感じさせない。怖ろしいまでの一途さで
   ある。
シューム「正直ね、周りの目を気にしての形式ばった幸せなんか下らないわ。本当に心から愛して
     いるなら、絶対という言葉なんか存在しない。無論、それ相応の代償は受けるけどね。
     私が貴方達と同じ立場だったら、自分の素直な気持ちで進むわよ。」
   強いなぁ・・・。ここまで愛を語れる人物は、そうそういるものじゃない。人生論を語る彼女
   の言葉に、嘘偽りや無粋な考えなど微塵も感じられなかった。

ミスターT「ありがとうございます、シュームさん。」
シューム「まあちょっと過激な部分があったけどね。」
ミスターT「用は決意という意味なのでしょう?」
シューム「決意も言葉の1つよ。動物全てにある愛情も、特に人間の愛には絶対敵わないわ。言葉
     では言い表せない大切なもの。その欲望とも言える愛に駆られるのが、人間の悪い部分
     でもあり良い部分でもある。それでもね、人は愛しい人のために動いてしまうのよ。」
    どんな経験をしてきたか分からないが、シュームの言葉には痛感してしまう。それは赤面を
   し続ける4人も、表情だけは真面目さが滲み出ているほどだ。


シューム「そうだ、ミスターT君。私と再婚しない?」
ミスターT「はぁ?!」
シューム「前に言ったでしょ、私なら貴方を一生涯面倒見れるって。それにね・・・、君は亡き夫に
     似ているから・・・。そのね・・・好きになっちゃってさ・・・。」
    今まで見た事がない表情のシューム。頬を染め照れる仕草は形作ったものではない。心から
   惚れ込んでいる人物でしかだせないものだ。野郎としては嬉しいが・・・、何とも・・・。

シューム「あ・・ごめんね・・・、ちょっと思い出しちゃった・・・。」
    涙を流しながら俯く。今の発言で亡き旦那さんを思い出してしまったようだ。それに今まで
   の渾身の語りもあったのだろう、今になって罪悪感が出てきているようだ。


    俺は傍で静かに泣く彼女を抱きしめる。今の俺にしかできない事だ。普段気丈な彼女が泣く
   というのだから、心中ではどれだけの思いが渦巻いているのか分からない。

    それに俺はとんだ思い違いをしていた。シュームもナツミYUみたいに歳が離れていると
   思い込んでいた。だが実際には俺と彼女との年齢は1つしか違わないのだ。普段気丈でいる
   のは、それだけ無理をしている現われだったのだ。


ミスターT「・・・ありがとう、シューム。君には何度も助けて貰ってるね。」
シューム「そんな事ない・・・。エシェラちゃんやエシェツちゃん・・・、それにリュリアの面倒を
     見てくれている・・・。それに・・・こうして心の支えにもなってくれた・・・。」
    精一杯に応えるが、今までの強気のシュームはなかった。自分と同じ年代の女性であり、
   どれだけ無理していたのかが今になって分かった。俺は情けない・・・。

ミスターT「辛かっただろう。自分を押し殺してまでエシェラ達を育ててくれた。顔は笑っても、
      心では泣いていたんだね・・・。ごめんな・・・、君の悲しみに気付けなくて・・・。
      本当にごめん・・・。」
シューム「う・・うう・・・ううっ・・・。」
    感情の蓋が外れたシュームは大泣きしだした。今まで溜まっていた悲しみを涙として出して
   いるかのように。その彼女を強く抱きしめ、胸の中で泣かせてあげた。



    どれぐらいそうしていただろう。シュームを抱きしめたまま時は過ぎていった。周りにいる
   4人も、ただ黙っていてくれた。女の子もシュームの泣き声で泣かず、黙ってくれている。

シューム「・・・実はね、亡き夫とは未婚なの。まだ彼と会う前に別の女に誑かされて、いいように
     振り回されていた。そんな中、暴漢に襲われそうになった私を助けてくれたの・・・。
     最初は下心があると思ってた。でも・・・私といると安らぐと言ってくれた。その心に
     惹かれてね、好きになったのよ・・・。」
    徐に語りだす。それは彼女の本当の過去話。俺は驚いたが、今は静かに聞きに徹した。また
   4人も静かに聞き入っている。

シューム「彼を心から愛してしまった・・・、どうしようもないほどに・・・。もちろんお互いを
     求め合ったわ・・・、数え切れないほどにね・・・。でも・・・ある日、その女にバレて
     大変な事になったの。大喧嘩に発展してね・・・、愛しい人を刺し殺したのよ・・・。
     自分も後を追うんだって言って、女の方も自殺したわ。」
    再び泣き出すシューム。しかし声色はしっかりとしていた。その後も心の内を語り続ける。
   今まで心の内に留めていた事を洗い浚い語っているかのようであった。

シューム「悲しかった・・・。彼が死んでしまったのもあるけど・・・、守れなかった事が何よりも
     悔しかった・・・。でも彼の子供、リュリアを身篭る事ができた。彼との大切な子供よ、
     だから命に代えてでも守らなきゃって・・・。」
    シュームが愛しい人に対して異様な執着を示す事を窺った。4人が俺の事を思う姿は、彼女
   の過去を照らし合わせているようなものだろう。それに今も行動できていない彼女達を見て、
   我慢できずに動いたのだろうな。

ミスターT「・・・一時の幸せを、か。」
シューム「リュリアが大人になったら、この事を話そうと思う。嫌われてもいい、私の愛しい人の
     大切な子なのだから・・・。」
ミスターT「嫌わないさ、必ず君の心を理解してくれるよ。シュームがリュリアを心から愛している
      のだから嫌う筈がない。君に似て肝っ玉が据わってじゃじゃ馬でお転婆だけど、心は君
      と同じでどこまでも純粋で一途だ。誇りに思っていい。」
シューム「・・・ありがとう・・・。」
    リュリアなら必ず理解してくれる。シュームがこれだけ愛を注いでいるのだから間違いは
   ない。どこまでも純粋に自分の生き様を貫くだろう。



シューム「ごめんね、見苦しい所見せちゃって。」
エシェラ「気にしないで。」
ラフィナ「お姉さんの強さ、しっかりと理解しましたから。」
エリシェ「全部自分で背負う事はありませんよ。」
シンシア「私達姉妹じゃないですか。」
    落ち着いたシュームは4人に謝りだす。普段気丈な彼女の本当の一面を見れた彼女達は、
   構わないと語っている。それに激励もしだした。これにシュームは涙を流して感謝している。

シューム「貴方達も頑張りなさい。これだけ魅力的で優しい人なんか絶対にいない。後悔してでも
     いい、彼との思い出は必ず持ちなさい。」
    力強く発言する。その意味合いを感じ取った4人。頬を染めながらも、力強く頷いている。
   女としての激励をしてくれた彼女に、俺も男としての激励をしないとマズいよな・・・。

ミスターT「これは恋愛に結び付けるなよ。」
    俺はシュームをソッと抱き寄せ唇を重ねた。驚いた表情を浮かべる彼女だったが、まるで
   気が抜けたように身を委ねてくる。いや、積極的に口づけをしてきた。これが大人の力という
   ものだろう。これで少しは慰めになればいいのだが・・・。



シューム「・・・今の言葉だけど無駄だからね。私を本気にさせたらどうなるのか、必ず後悔すると
     思うわよ。」
ミスターT「・・・だろうと思った・・・。」
    長い口づけを終えて胸の中で余韻に浸る。その彼女が徐に語りだした。これは言わば宣戦
   布告だろうな・・・。でもいいか、彼女の支えになれるのなら・・・。

シューム「フフッ、半分は冗談よ。でも・・・半分は本気に取らせてね。貴方を愛してしまったのは
     間違いないから・・・。」
ミスターT「ま・・待った、心に決めた人はどうなるんだ?」
シューム「心に決めた人との大切な宝物はリュリアよ。あの子を幸せにするのが私の使命だから。
     でも私自身も、もう一度幸せになる事も必要よ。エシェラちゃん達から厄介がまれても
     構わない。貴方を心から愛している・・・、この思いは誰にも負けたくない・・・。」
    そう言うと再び唇を重ねてくる。怖ろしいまでに積極的だ、濃厚な口づけに焦るしかない。
   4人はと言うと、赤面して見入っている。彼女達もシュームが相手では反論できないようだ。
   ここは素直に彼女の厚意に従うしかないな・・・。



    その後本店レミセンへと戻った。女の子の衣服をくれた事よりも、シュームの生い立ちと
   後の出来事に当てられた。野郎としては嬉しいが、彼女の一途さは尋常じゃない。
シンシア「・・・愛かぁ・・・。」
   厨房で女の子に飲ませるミルクを作る。その中で小さく呟いたシンシア。大人の女性の一途さ
   を当てられた彼女、その余韻は今も続いているようだ。

エシェラ「純粋に愛しい人を思う・・・、私にもできるのかな・・・。」
ミスターT「今も世間体を気にしていている俺には無理か・・・。」
ラフィナ「確かにそうですけど・・・。」
エリシェ「ミスターT様はまだ私達より一歩先にいらっしゃいます。シューム様を虜にするほどの
     純粋さを持っていますし。」
    シンシアが作ってくれたミルクを哺乳瓶に入れる。それを女の子に吸わせると、勢いよく
   飲みだした。食欲旺盛の姿を見れば、今後の食事は問題なさそうだ。

ミスターT「・・・ごめんな、一線を超えられない馬鹿で。」
エリシェ「き・・気にしないで下さい・・・。実際に行おうとするには・・・勇気が要りますよ。」
シンシア「勢いあってのキスならできるけど、シュームさんみたいに積極的には・・・。」
ラフィナ「貴方は凄いですよ。私達がその瞬間に望んでいる事を、見事にしてくれていたじゃない
     ですか。」
エシェラ「母さんが惚れる訳だよ。今も憧れるぐらいだから・・・。」
ミスターT「・・・ありがとう。」
    シュームの場合は特別なケースと言えるのだろうか。恋は盲目と言うが、彼女の場合は恋は
   我武者羅に突き進めが似合う。
   しかし俺も彼女達もそこまでは行き切れていない。それが本当に正しいのかと言われると、
   答えは非常に出し難いが・・・。


エシェラ「あのさ・・・、わ・・私は何時でもいいからね・・・。」
ミスターT「ば・・馬鹿野郎!」
シンシア「こらぁ〜、女の子に向かって失礼だよ貴方はっ!」
ラフィナ「一大決心の告白なのですから、少しは気遣ってあげて下さい。」
エリシェ「もちろん私達も同じですけどね・・・。」
    頬を染めながらも力強く語る彼女達。この4人には世話になりっぱなしだな。その彼女達に
   最大限応じれないのであれば、俺としての原点回帰に相反するものだろう。
   かといって直ぐに動けとは無理だろうなぁ・・・。シュームの我武者羅に突き進むという心を
   分けて貰いたいものだ・・・。



    形はどうあれ、4人の期待に応えねばならない時が必ず来る。それは間違いない・・・。
   その時に俺は心から応じる事が出来るのか・・・。

    その時こそ、俺の人生で最大の戦いになるのだろうな・・・。

    第2部・第2話へと続く。

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