アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第3話 道化師2〜
    それから更に数週間が経過、6月を迎える。そろそろ梅雨に入る気節だが、まだ晴れが多い
   この頃だ。
ミスターT「いよいよ本番だな。」
ラフィナ「はい、今までありがとうございました。」
   内気な性格が明るくなり、誰とでも気さくに話している。これだけでも充分な成果だろう。
   そして今日、思い人に告白する。姉のウィンや相談相手のウィレナも気にしてか、校舎の隅で
   見届けようとしていた。自称恋人のエシェラも同伴している。無論俺もそれに便乗した。



ラフィナ「あの、先輩・・・。」
    いよいよ告白だ。バイトで貯めた資金で購入したオーケストラ観賞用のチケット。それを
   手に持ち、憧れの男性に声を掛けた。他に複数の男子学生も一緒だ。これは大きなヤマだな。
   丁度下校時刻を見計らっての行動。見ているこちらもドキドキするわ・・・。
男子学生1「何?」
ラフィナ「その・・・前から・・好きでした、付き合って下さい・・・。」
   滅茶苦茶赤面している。それでも心に思った一念を前面に出しての告白。よくぞ言えたと誉め
   讃えたい。勇気を出しての第一歩、後少しだ。

男子学生1「俺あんたに興味ないね。」
ラフィナ「え・・・。」
男子学生2「なあ誰よコイツ?」
男子学生1「変な視線を感じていたんだが、この女だったようだぜ。」
    ・・・冗談だろ、あいつら・・・。ラフィナの想いは本物なのに・・・。俺の聞き間違い
   じゃないだろうな・・・。
ラフィナ「う・・嘘ですよね・・・。」
男子学生1「うるせぇってんだよっ!」
   彼女の手を思いっ切り払い除ける。勢いで手に持っていたチケットの包み紙が地面へと落と
   された。それを呆然と見つめている彼女。
男子学生3「勿体ない、これだけの上玉を。」
男子学生1「・・・確かに。ならさ、一発ヤラせてくれるんだったらいいぜ。」
   大笑いして罵倒する屑3人、ラフィナはその場で泣きだす。彼女の想いが硝子を割るように、
   大きく砕け散った音が脳裏を過ぎる。

    俺の中で自分自身を抑える部分が解き放たれる。堪忍袋の尾がキレるとはこの事だ・・・。



    突発的に駆け出す俺。右肩が痛いというのに、吊っている右腕を振ってまで全力で走った。
   そしてその勢いで男子学生を思いっ切り殴り付ける。痛みなど関係ない、この一撃に怒りを
   込めて。

    殴られた相手は凄まじい勢いで後ろへ飛ばされる。その度合いはプロレス以上だ。いや、
   制御が利かなければ今の一撃でノックアウトしていただろう。


    俺はそのまま男子学生の胸ぐらを掴み、もう一発殴り付ける。更に殴りたかったが、これ
   以上動けば殺してしまう。無意識に防衛反応が働くのは、長年生きた経験上のものだろう。
男子学生1「がぁ・・・だ・・・誰だテメェ・・・。」
   顔が腫れ上がった相手が俺を見つめる。と同時にエラい青褪めている。無意識にゼラエル達に
   放った殺気と闘気が出ていたようだ。
ミスターT「・・・貴様みたいな害虫は初めて見た。人の好意を貶し笑い飛ばす。仕舞いには身体を
      要求し、応じれば付き合うだと・・・。」
   殴り付けたい衝動に駆られ、もう一度動き出そうとする。だが背後にいたラフィナが俺の背中
   を抱きしめ、行動を制させる。女性の力とは思えないほどの凄まじいものだ。
ミスターT「貴様に女を抱く資格などない。その口から一言でも女と口走ってみろ・・・、貴様の
      喉元を掻っ切ってやるっ!!!」
男子学生1「テ・・・テメェに言われる筋合いなんかないっ、お前ら手を貸せっ!」
   両サイドにいた別の男子学生2人が助けに入る。だがそいつらは突然現れた複数の男性達に
   取り抑えられた。

男子学生2「何をしやがる、離しやがれ!」
男性1「そうはいかないねぇ。」
男性2「ちょっと大人しくしてなよ兄ちゃん。」
    この口調、何処かで聞いた事があると脳裏に過ぎる。だが今は怒りで我を忘れているため、
   そんな事はどうでもよかった。
   そこに歩み寄るもう1人の男性。何と先日解散した躯屡聖堕のヘッド、アマギHであった。
   それに傍らには彼のパートナー、ユリコYもいる。

アマギH「悪ふざけが過ぎたな。野郎としてとんでもない事をしたというのに。」
男子学生1「だ・・誰だテメェ!」
ユリコY「躯屡聖堕と言えば、股間にある腐り切ったアレも収まるかしら?」
    躯屡聖堕という言葉に男子学生3人は一瞬にして青褪めていく。泣く子も黙るとはこの事
   だろう。アマギH達の存在は、学生達の間では触れてはならないイレギュラーのようだ。
アマギH「俺もキレないうちに失せな。兄貴みたいに歯止めが一切利かないからね、殺されても文句
     は言うなよ。後始末はしっかりと付けてやるさ・・・フフフッ・・・。」
   ドスが利いたその言葉、それを聞いた3人は一目散に逃げていく。正に狼が獅子に睨まれ、
   逃げていくような度合いだろう。

    静寂が訪れる。今まで罵声が飛んでいた校門前は静かなものだった。



    俺は納まり切れない怒りを、地面を殴り付けるという事で発散させる。それは無意識にだ。
   激痛が走っているはずの右肩に構う事なく、右手拳を思いっ切り地面へと叩き付けだした。

    アスファルトの地面に何度も叩き付ける右手拳、見る見るうちに血に染まっていく。それを
   慌てて止めに入るラフィナ。全身全霊を以て抑えたようで、そのまま俺を薙ぎ倒してしまう。

ラフィナ「・・・もう・・・もういいのです・・・もう・・・。」
ミスターT「何がいいと言うんだ、お前の想いは本物だろうが。苦手を克服するための日々、心の
      内を精一杯振り絞って歌ってくれた・・・。あれが馬鹿にされた・・貶された・・・、
      踏み躙られたんだ・・・。・・・あの屑を捕まえて、ぶっ殺してやるっ!!!」
    興奮する俺に抱き付き、落ち着かせようとする彼女。怒発天を通り越した俺は、抱き付か
   れた状態でも起き上がろうとする。しかしラフィナはただ黙って俺を力強く抱きしめ続けた。
ミスターT「・・・う・・ううっ・・・ちくしょう・・・ちくしょうっ!!!」
   ラフィナの好意を貶された俺は泣いた。一途に思ったその心を踏み躙られ怒りで一杯だった。
   これほどまでに人を憎いと思った事は今だかつてない・・・。



    それからどれだけ時間が経過したか分からない。俺はアマギHに支えられ、校舎手前の階段
   に座らせられた。意識が朦朧とする、目の前に火花が飛び散っている。

    無理矢理動かした右肩に凄まじい激痛が走っていた。それは衣服から染み出るほどの出血が
   物語っている。また思いっ切りアスファルト地面を叩いたため、右腕の拳は血だらけである。

    多分ナツミYUが救急箱を持ってきてくれたのだろう。俺の右肩と右手の傷に応急処置が
   施されている。だが意識が朦朧としているため、それをハッキリと窺い知る事は無理だった。


ナツミYU「暫く休ませておきましょう。」
アマギH「校門の前の出来事は、俺達で揉み消します。」
ナツミYU「大丈夫よ、私の方も動くから。今回の件は流石の私でもキレるわ。」
    遠くの方で話し声が聞こえる。遠近感が掴めない。殆ど近くで話し合っているのに、遥か
   遠くで喋っているように思えた。
ナツミYU「2人だけにしてあげましょう。お茶をご馳走するわ、付いて来て。」
ユリコY「すみません・・・。」
エシェラ「ラフィナさん、後よろしくお願いします・・・。」
   複数の足音が去っていく。朦朧とする状態なので、その足音も遥か遠くのものにしか感じられ
   ない。



ラフィナ「・・・私、何のために・・・今まで努力してきたのでしょうか・・・。」
    ふと呟きだすラフィナ。徐々に落ち着きを取り戻してきたため、彼女の発言はしっかりと
   聞こえる。意識もハッキリしてきているが、それと同時に右腕全体の痛みが尋常じゃない。
ミスターT「・・・願いを叶えるため、決めた事を突き進むためじゃないのか。」
ラフィナ「・・・そう・・ですよね・・・。でも・・・裏切られた、踏み躙られた・・・。」
   泣き出す彼女。今になって怒りと悲しみが吹き上がってきたようだ。こればかりはどうしよう
   もない。

ミスターT「・・・このチケット、オーケストラだったよな。・・・中身は・・・交響楽団の演奏、
      締めは有名なカノンとG線上のアリア。」
    袋からチケットを取り出し、中身を確認する。世界的に有名な交響楽団のコンサートだ。
   クラシック系が目白押しで、最後はカノンとG線上のアリア。俺もこの曲は好きだな。
ラフィナ「・・・もう意味は・・・ありません・・・、後で・・捨てます・・・。」
ミスターT「・・・俺が一緒じゃダメか?」
ラフィナ「え・・・。」
   日付を見る、丁度今度の土曜だ。というか明日か。ここ最近日数に関して疎い。どうしても
   1週間の感覚がズレる。

ミスターT「俺は容姿も技量も特技も何もない、それでも構わないのなら一緒に行くよ。」
ラフィナ「で・・でも・・・、貴方にはエシェラさんが・・・。」
    困惑した表情で俺を見つめてくる。そもそも仮の恋仲という位置付けであり、それ以上の
   発展はないと思っていたのだろう。それよりも今の俺にはラフィナをどう癒せるかにある。
ミスターT「分かってくれる。彼女も列記とした女性だ、君の一途さを誰よりも理解しているから。
      それに心配するな。彼氏役という付き合いで接していたが、君との本当の付き合いは
      これからだからね。」
ラフィナ「・・・う・・ううっ・・・ううぅぅっ・・・・。」
   大泣きしながら俺に抱きついてくる。我慢していたものを吐き出すかのように泣き続けた。
   その彼女を優しく抱きしめる。今の俺にはそれしかできないから・・・。



    無理に動いたため、右肩の傷は治るどころか悪化した。骨と筋肉にまでは影響はないが、
   全治2ヶ月が3ヶ月になってしまった。更に右手の傷も縫うほどになり、もはや右腕全体が
   絶対安静を余儀なくされた。

    だがラフィナが受けた屈辱に比べれば、こんな傷など取るに足らない。女性の好意を、純粋
   一途なピュアな好意を貶されたのだ。心に受けた傷は大きなものだろう。


    人は何故馬鹿げた行動をするのだろうか。いや、それは自分が思っていても相手は分から
   ないだろうな。現にそうだからこの出来事が起きたのだから。


    それでも人は挑むのだろう。傷を負っても先へと突き進む。それが人間としての生き様。

    ラフィナが今以上に強くなる事を、俺は強く願っている・・・。

    第1部・第4話へと続く。

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