アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第3話 お守り1〜
    翌朝。俺とウインド・ダークHは本店レミセンへと戻った。案の定朝帰りとあって、周り
   からは批難の声が挙がりっ放しだ。落ち着かせるのに一苦労したわ・・・。

    その中でシュームは全て分かっていたようで、労いの言葉を掛けるに留まった。2人の心情
   を知っているからこそできたのだろう。
   ヴェアデュラもすっかりシュームに懐いている。現役母親は実に強い、脱帽するしかないわ。



エシェラ「そのペンダントは?」
    今日は本店レミセンでウェイターをしながら過ごした。厨房はシンシアとメルデュラが担当
   している。俺は椅子に腰を掛けて一服した。そんな中、エシェラが話し掛けてくる。内容は
   胸にぶら下げているペンダントの事だ。
ミスターT「これか。これはヴァルシェヴラームに貰ったプレートだよ。孤児院のナンバー表示も
      あるが、今は大切なお守りだね。」
エシェラ「いいですね。」
   プレートはかなり分厚いスチール製。そこに孤児院のナンバーとローマ字で名前が彫られて
   いる。15の時から持っているものだが、おそらく赤ん坊の頃から持っているのだろう。
ミスターT「まあもっと大切なのはお前だがね。」
エシェラ「も・・もうっ・・・。」
   軽くジョークを言うと頬を赤くして俯く。まあジョークも何も、こればかりは事実なのだが。
   その俺らを見ていたシンシアとメルデュラがヤジを飛ばしてくる。何だかなぁ・・・。



リデュアス「十分注意して下さい。」
ミスターT「そうだな。ヴェアはシュームに預けるか。」
    それから数時間後、リデュアス・リューア・テュームが訪れる。何やら深刻は表情を浮か
   べており、問い質してみると驚きの発言をした。
   何でも数時間前に銀行強盗が発生、そのうちの1人が警察官の拳銃を奪って逃走したという。
   その強盗がこの辺りに逃げ込んだという話なのだ。
リデュアス「私はウインドさんとダークHさんと巡回します。リューアとテュームを残しますので、
      何かあったら役立てて下さい。」
ミスターT「お前も十分気を付けろよ。」
リデュアス「あ・・ありがとうございます。」
   本店レミセンを出て行こうとするリデュアスに激励をする。警察官という存在は、いざ危険が
   迫れば死と隣り合わせの場合もある。俺にできる事は最大限の励まししかない。俺の激励に
   頭を下げて巡回に回って行った。

    しかし今の現状からして、かなり危ないのは言うまでもない。残された双子の顔もかなり
   険しかった。


シンシア「馬鹿な奴もいるものねぇ・・・。」
    カウンターに座るリューアとテュームにコーヒーを差し出すシンシア。それを徐に飲む双子
   の表情は相変わらず険しい。
リューア「凶器を持っているから油断はできませんが、確定している事なので気は楽ですよ。」
テューム「篭城とか人質とか取られた場合が一番厄介ですから。」
   実際になって欲しくない事だが、それでも不測の事態は考えられる。十分警戒した方がいい
   だろう。
ミスターT「出くわしたらチョークスラムでも喰らわせてやろうかね。」
シンシア「あ〜、それいいねぇ〜。」
   最近プロレスに精通しだしたシンシアが賛同してくる。まあ冗談を踏まえてのものではあるの
   だが。しかし場を和ませようという事には繋がり、幾分か双子の表情が和らいでいった。



    その後ヴェアデュラを連れてエシェラ宅へ訪問。シュームに事の次第を告げて預かって貰う
   事にした。本来なら傍にいさせた方がいいのだが、何だか胸騒ぎがしてならない。この場合は
   本能に従った方がいい。

シューム「ホンッと大人しいよねぇ・・・。」
    シュームの胸の中で眠るヴェアデュラ。時間が経てば経つほど大人しくなり、殆ど泣かなく
   なっていた。かといって泣く時は泣くといった感情表現はしっかりしている。
ミスターT「シュームのお守りが上手いからだよ。」
シューム「照れくさい事言わないでよ。」
   誉められ頬を染める。でも満更でもないといった雰囲気は、彼女の素体が成す技だろうか。


シューム「どう、それから進展は?」
ミスターT「相変わらず。」
シューム「ダメねぇ・・・。」
    息抜きにお茶をご馳走になる。俺の顔も険しいものだったようで、シュームの配慮による
   ものだ。そんな中、エシェラ達との事を聞き出してくる。彼女らしいが、こちらとしては非常
   に困る・・・。
シューム「やっぱり君を狙っちゃおうかなぁ。」
ミスターT「止めとけって・・・。」
   俺の腕に自分の腕を絡めるシューム。確実に誘っているのは分かるが、彼女の本心を知って
   いるから応対に困る。

シューム「でも嬉しい、本気で嫌がっていないから。嫌々付き合うのが普通なのに。」
ミスターT「シュームの胸の内は知ってるからさ、本当に断り切れない。」
シューム「優しいね、君は・・・。」
    そう言うと俺の胸に顔を埋めてくる。その彼女を優しく抱きしめた。普段からの肝っ玉な
   母さんが見せる本当の姿でもある。
ミスターT「俺もシュームに応えたいが・・・。」
シューム「ううん、いいのよ。貴方にはエシェラがいるわ。あの子を幸せにしてあげて。心から大切
     に思っているのだから。」
ミスターT「ごめんな・・・。」
   彼女の顎をソッと持ち上げ、静かに口づけをしてあげた。それに応じるシューム。以前の時
   のような情熱的な口づけではなく、優しく包み込むような口づけだ。俺もそれに応えた。

シューム「フフッ、またパワー貰っちゃった。」
ミスターT「ハハッ、あげてばかりだな・・・。」
    口づけを終えたシュームが微笑みながら語った。このようなスキンシップが彼女にとって
   大きな力になっている。だからこそ今も強さを維持し続けているのだろう。また俺ができる
   最大限の労いでもある。

    間隔空けずに再び唇を重ねてくる。今度も優しさが込められた口づけだ。俺はとにかく彼女
   の好きなようにさせてあげた。
   今の安らぎの一時を与えられるのは、自分しかいないのだから・・・。



    その後本店レミセンへと戻る。ヴェアデュラを託した事で、こちらとしては動きやすい。
   それにいざ強盗が現れても、俺が身を呈せば捕まえられるだろう。誰も殺させはしない、死ぬ
   のは俺1人で十分だ。まあ・・・大袈裟だわな・・・。


シンシア「・・・何か空気が重いね。」
    カウンターで煙草を吸いながら待つ。強盗がどこにいるか分からない現在、客足は一瞬だけ
   パッタリと途絶えた。それでも仕事は仕事だ、一応営業はしている。
メルデュラ「この調子が長く続くのでしょうか・・・。」
ミスターT「いや、この胸騒ぎからして・・・直ぐに解決すると思う。長年のカンというやつさ。」
   風来坊をしだしてから11年。その場の雰囲気を察知する術を知った。大事の出来事を目の
   当たりにしてきたためか、胸騒ぎが起きると終息が近いというもの。また何かが起きる時の
   予兆としても同じ状態になる。これが的中しやすい事から、非常に不安を煽るのだが・・・。
ミスターT「リューアとテュームも巡回か。」
メルデュラ「はい。先程不審な人物を目撃したとリデュアスさんから連絡があり、そちらに向かわれ
      ました。」
シンシア「他のみんなが心配だわ・・・。」
   シンシアの言う通りだ。目に留まる人物なら守れるが、目に留まらない人物までは守り切れ
   ない。特にエシェラ・ラフィナ・エリシェの3人が該当する。せめて俺の大切な人だけは守り
   抜かねば・・・。



エシェラ「表さ、まるでゴーストタウンだよ。」
    暫くして噂の3人が訪れる。彼女達は無事なようで、まだ魔の手は迫っていないようだ。
   コーヒーを飲みながら落ち着こうとしているが、やはり緊張から手が震えている。
ミスターT「まあそれも直ぐに解決するだろう。」
エリシェ「何かお心当たりでも?」
ミスターT「風来坊のカンさ。外れた事がない嫌なものだがね・・・。」
   一服しながら応える。先程の胸騒ぎがより一層強くなっていた。これは間違いなくその時は
   近い。

ミスターT「そう言えばそろそろ体育祭近いんじゃないか?」
ラフィナ「マスター、私達は専門学校生ですよ。そこでは体育祭などはありませんから。」
ミスターT「ああ、そうか。あれから3年経っていたんだっけな・・・。」
    3年前と同じ感覚でいるためか、考えが停滞している。一同にとっては3年が経過しても、
   俺にとっては一瞬の出来事にしか思えなかった。

ミスターT「ふむ・・・そうだな、格闘試合でもやるか。」
エシェラ「お・・・もしかして体育館でやるアレですか?」
    俺の言葉にエシェラが輝きの目線を送る。その他の3人も瞳が輝いていた。実戦形式の試合
   の内容は伺っている。これなら白熱した展開が期待できるな。
ミスターT「リューアとテュームも呼ぶか。というか全員呼んで、オールスターバトルでも面白い
      かも知れない。」
シンシア「いいですねぇ〜、後で交渉してみますよ。」
   すっかりやる気モードに入った4人。そんな彼女達を見つめるメルデュラは呆れながら笑って
   いた。観戦するのも十分な楽しみになるだろうな。



    その後突然、本店レミセンへと入ってくる人物があった。俺は犯人が掴まったのかと思った
   のだが、悪い予感は更に的中する。その強盗自らここに押し入ってきたのだ。
強盗「動くな、手を挙げろ!」
   俺は恐怖というより呆れ返った。何で質素な喫茶店に押し入るんだ・・・。それに周りは警戒
   した警察官がうろついているというのに、あまりにも無謀すぎる。
ミスターT「噂の強盗か。」
強盗「暫く隠れさせてもらう!」
   メルデュラを含めた5人も恐怖に慄いた表情をしているが、雰囲気から何時襲い掛かっても
   いいという仕草を見せる。それに気付いた俺は小さく待ての合図をした。
ミスターT「隠れてもここでは袋の鼠だ。それよりも他の場所に逃げる事を勧めるよ。」
強盗「テメェ、俺に指図するのか?!」
ミスターT「助言だよ。俺は指図とか好まないからね。」
   拳銃を俺に向ける。その銃口は確実に死への誘いだが、胸騒ぎが凌駕していて怖くなかった。
   徐に立ち上がり、一服しながら強盗の方へと向かった。
強盗「近付くなっ、撃つぞっ!」
   その言葉にも動じず、強盗と向かい側に座る。その堂々とした俺に、相手はたじろいていた。


ミスターT「質問を幾つかしたい。まあ何だ、俺は警察官じゃない。個人的なものだ。」
強盗「な・・何だ?」
    俺に銃口を向けながら応じる。何だか立場が逆転した。威圧的武器を持つ相手だが、先程
   までの強気は失せている。俺の言動に焦りを感じ、対応するのが精一杯のようだ。
ミスターT「噂の強盗らしいが、人を殺めたりはしていないよな?」
強盗「あ・・当たり前だ。俺達は金が欲しくてやった、それだけだ・・・。」
ミスターT「私利私欲に駆られた訳か。でも目を見る限りは悪人には見えない。自分が本当に正しい
      と思って行ったと自負しているか?」
強盗「そ・・それは・・・。」
   この強盗も切羽詰って犯行に及んだのだろう。その心の悩みはアマギH達と同じものだ。
ミスターT「俺も金銭的に苦しくなった時、嫌な魔が差した時があった。しかし自分自身を強く持ち
      続けていたからな。そこまで至る事はなかった。」
強盗「・・・だが・・もう遅い・・・。」
ミスターT「諦めるなって言ってるんだ!」
   俺が怒鳴りだすと相手はビクついた。この言動を見れば相手が極悪ではない事が直感できる。
ミスターT「いいか、間違っても死のうなんて思うなよ。這い付くばってでも生きろ。どんな苦節が
      あろうが必ず報われる時が来る。テメェの胸にもあるんだろう、自分自身を許せない
      熱い心が!」
   次々に語る言葉に俯いている強盗。彼もまた心の弱さ故に犯行に至った。保険として拳銃を
   奪ったという事になるが、威圧にしか考えていないようだ。

    俺の説得が効いたのか、強盗は拳銃をテーブルに置いた。この状態を見れば、間違いなく
   事は終わったと思えた。

    後半へと続く。

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