アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第4話 修学旅行2〜
    梅雨晴れをした7月中旬。辺りは蒸し風呂のような暑さと、蝉の声が響きまくっている。
   まあ何だ・・・苦手なんだよ、蝉は・・・。

    修学旅行に出発してから4日が経過。今日は携帯にメールが届く。相手は出先のエシェラと
   ラフィナからだ。

エシェラ(腕の調子はどう? こっちは元気だよ。夏真っ盛りだというのに涼しいぐらい。みんなも
     大はしゃぎで飛び回っているよ。あそこまでは元気は出ないけどね、ハハッ。お土産を
     沢山買ったので、宅急便で送るね〜。ミスターTさんも無理無茶しちゃダメだからね。
     じゃあまた〜☆)

ラフィナ(お元気ですか? こちらは元気です。ウィレナさん達に連れ回されてヘトヘトですが、
     楽しく過ごしています。沖縄の民謡などを歌う機会があって、日頃の練習成果が役立って
     ますよ。貴方の方はどうですか? 腕の調子はよくなりましたか? 早く直して一緒に
     出掛けたいです。呉々も無理しないように。ラフィナ)

    元気でやってるようだ。エシェラの方は心配ないが、やはりラフィナの方がきになる。文面
   を見る限りは大丈夫かな。あまり見縊るなと言われそうで怖いが・・・。

    2人が気にする右腕の傷も癒えつつある。抜糸も無事終わり風呂にも入れるようになった。
   動かさなかったから物凄く気怠いが、骨も筋も筋肉も全く問題なかった。これなら早いうちに
   完治するだろう。まあ当然ながら、軽いリハビリはしないとマズいが・・・。



トーマスC「凄い回復力だなぁ。」
ミスターT「リハビリを繰り返してますから。」
    明日彼女達が帰ってくる。1週間の長旅、さぞ満喫できた事だろう。右腕の調子もどんどん
   よくなっている。例しにハーレーに乗ってみたが、問題なく運転できた。ただ不完全なのは
   事実なので、もう少し様子を見た方がいいだろう。
トーマスC「駅前と大学前の店、連日大賑わいだよ。」
ミスターT「逆にこっちは人が減って淋しいぐらいじゃないですか。」
トーマスC「常連さんが多いのはここだが、新規さんが多いのは向こうだね。」
ミスターT「ナイスバディの姉ちゃん目当て、飢えた野郎どもが集るのも無理はないか。」
   俺もトーマスCとトーマスKの3人1脚の運営に慣れてきた。トーマスKは本業を優先して
   いるので、こちらに来るのは希だが。それでも元シークレットサービス故に、本気を出せば
   凄まじい。爪を研ぎ澄まして静かに待つ獅子の如く。

トーマスC「8月一杯は休んでいいから。嬢ちゃん達との時間を大切にしなよ。」
ミスターT「そりゃ悪いんじゃないか?」
トーマスC「分かってないな。エシェラちゃんもラフィナちゃんも、そのうち我慢し切れずに爆発
      するぞ。しっかりとしたケアをしないとダメだ。女を敵に回したら命がいくつあっても
      足りはしない。」
ミスターT「まあ確かに・・・。」
    この2人からのアプローチが実に目覚ましい。エシェラはラフィナに負けずと明るさ爆発で
   接し、ラフィナはエシェラを気にして控えめだが情熱的に接してくる。
   無論ラフィナの方もエシェラに武がある事は理解しているが、甲乙付ける事じゃないだろう。
   2人の熱意には頭が下がる思いだ。



    翌日。先に帰ってきたのは大学側、つまりラフィナ達だ。沖縄への修学旅行は大いに満喫
   したようだ。
ラフィナ「ただいまミスターTさん。」
ミスターT「おかえり・・・って・・うわっ、見事に日焼けしたな。」
ラフィナ「眼鏡を掛けてると後が残るから、外してました。」
   顔の色が茶色く灼けている。確かに眼鏡を掛けていれば、フレームの後がクッキリ残る。彼女
   なりの対処の仕方だろう。

ウィレナ「ねね、ミスターTさん。凄いよラフィナさん。着痩せするタイプでさ、水着姿は超絶品。
     周りが羨ましがるほどのナイスバディ〜。」
ラフィナ「ちょ・・ちょっとウィレナさんっ!」
    顔を赤くして静止に掛かるラフィナ。そんな彼女を難なく避けるウィレナ。一目見れば姉妹
   と見間違うようである。
ウィン「自由時間はみんなと行動しないで、1人で適度な日焼けをしてたのよ。襲われるとマズいと
    思って、私達も一緒に付き合ったから。」
ウィレナ「西表山猫見そびれちゃったぁ〜。」
   う〜む・・・何なんだか・・・。だが実に嬉しそうだ、俺の方も一安心といった所だ。それに
   彼女達の表情を見れば十分満喫できたという事が窺える。いい体験を積んだ事だろう。



    それから数時間後、高校側・エシェラ達も帰ってきた。北海道への修学旅行、沖縄ほどの
   暑さじゃないだろう。
ターリュ「ただいま〜。」
ミュック「帰ってきたじぇ〜。」
   相変わらず明るいターリュとミュック。また双子とすっかり意気投合したアサミとアユミも
   一緒だ。だがエシェラの姿が見当たらない、どうしたんだろうか・・・。

ミスターT「なあ、エシェラはどうした?」
アサミ「昨日の夜、熱を出して寝込んじゃったんです。今日帰る時にお母さんが車で自宅まで運び
    ました。先に現地をでたので、もう帰っている頃かと思いますよ。」
    ・・・あれだけ俺に無理無茶するなと言っていたのに、自分が無理無茶してどうするよ。
   何なんだか・・・。
ミスターT「ちょっと様子見てくるわ。家は環七沿いの豪邸だよね。」
アユミ「そうです、行ってあげて下さい。エシェラさん、昨日一晩中貴方の事呟いてましたから。」
ミスターT「分かった、行ってくるよ。」
   まったく、まだまだ子供だな・・・。でも心細いのは事実か、激励してあげないと。

    一部始終を窺っていたトーマスC。俺がエシェラの家へ向かうと告げる前に、小さく頷いて
   いた。それに頭を下げて現地へと向かう。こちらの行いたい行動を直ぐに察知している彼。
   本当に頭が下がる思いだ。



    環七沿いから少し離れた所に彼女の家がある。実は彼女の両親はいない。住み込みで働いて
   いるシュームという女性が育ての親を担っている。子供はリュリアという小学4年生だ。

    この親子、エシェラと彼女の妹であるエシェツの両親に助けられたという経歴があった。
   だがそれは自己犠牲という事で成り立っており、シュームとリュリアを助けて亡くなった。
   その恩返しなのだろう、献身的に2人の世話をしているという事だ。


ミスターT「こんちわ、シュームさん。」
シューム「あら、いらっしゃい。」
    エシェラより幾分か背が大きい美丈夫がシューム。彼女達の義理の母親である。というか
   シューム自身、俺より1つ上の歳で、言わば同級生とも言えるだろう。それでいて10歳の
   子供がいるのだ。ヤングマザーとはこの事だろうか。

    リュリアの父親は彼女が生まれる前に逝去、女手一つで彼女を育てた。その最中にエシェラ
   達の両親に命を救われ、彼女達の母親役となったのだ。

ミスターT「エシェラ君は帰ってますか?」
シューム「いるわよ。今朝方ナツミYUさんが送ってくれたわ。緊急を要したようで、チャーター機
     で東京まで運んだらしいのよ。」
    何ともまあ、チャーター機とは。それだけエシェラに負担を掛けさせないための、早期対処
   なのだろう。後でお礼を言わないと。
ミスターT「分かりました。あと1つお願いが・・・。」
   俺はある事をシュームに告げる。それを薄々感じていたようで、快く承諾してくれた。


    それにしても、この美丈夫もエシェラを大人にしたような雰囲気が色濃い。シュームも数々
   の修羅場を潜ってきたのだろう。身体から発せられるオーラが尋常じゃないほど強かった。

    表向きは色っぽい姉ちゃんという出で立ちだが、彼女の目線は何処までも優しく暖かい。
   生粋の生真面目で熱血漢というのが窺える。



    俺は自宅へと上がらせて貰った。中は超豪邸風で凄まじい。確かエシェラの父親は大企業の
   社長だった気がする。母親は不動産を取り仕切る社長で、2人ともバリバリの登山家とも。

    ・・・そうか、もしかしたら・・・。シュームとリュリアはその過程で助けられたかも。
   まあ・・・あくまでも推測の域だから、心に留めておくだけにしよう。



    エシェラの自室へと入る。中ではベッドに横たわるエシェラ。顔は赤く頭に濡れ手拭いが
   置かれている。普段の明るさは一切感じられない、相当辛そうだ。
エシェラ「・・・あ・・ミスターTさん・・・。」
ミスターT「よう、大変だったな。」
   入室した俺に気が付くと、目を白黒させて驚いている。治るまでは会えないと思っていたの
   だろう。
エシェラ「・・・何でここに・・・?」
ミスターT「お見舞いだよ。メールで俺に無理無茶するなと言いながら、君が無理無茶してどうする
      んだ。」
エシェラ「・・・ハメを外しすぎまして・・・。」
   彼女の傍らに座る。相変わらず頬は赤い。乾いた濡れ手拭いを水で濡らし、再び額において
   あげる。そのまま彼女の喉を触ったが、まだかなり熱かった。
ミスターT「この1週間の間に抜糸が終わって、今は軽いリハビリをしている。出掛ける前に海に
      行きたいと言っていたからね。」
エシェラ「・・・ごめんなさい・・・。」
ミスターT「まあ気にするな。今は治す事だけを考えるんだ。」
   赤い頬を優しく撫でる。それに精一杯の笑顔で応えるエシェラ。数日後にはケロッとして元気
   一杯に動き出すだろう。心配なさそうだ。



    彼女の勉強机の椅子に腰を掛け、物思いに耽る。俺は殆ど風邪を引かず熱を出した事がない
   ほど健康体だ。何度か気怠い時はあったが、その時だけは1日を費やして寝た。体力回復には
   これしかない。

    その分怪我は結構してしまう方だろう。この右腕の件も十分当てはまる。まあ病気よりは
   遥かにマシだろうな。


エシェラ「・・・あの・・・。」
ミスターT「何だい?」
    不意に声を掛けられる。先程会った時よりは幾分か楽そうだ。何かを言い出そうとしてるの
   だが、どうしてもその先を言い出せない。これはシュームに告げた通りになりそうだ。
エシェラ「・・・その・・・。」
ミスターT「シュームさんに泊まっても大丈夫と言われたよ。大方1人じゃ淋しくていられないのが
      本音だろう?」
   その言葉に何も言わず頷く。何時もの気丈なエシェラはどこいったんだ、まったく・・・。
   まあ風邪を引いた時などは心細いのは言うまでもない。それに修学旅行という旅路により、
   1週間離れ離れになっていたのだ。淋しいのは当たり前か。
ミスターT「心配するな、君の傍を離れないから。ゆっくり休むんだよ。」
エシェラ「・・・はい・・・、あ・・ありがとう・・・。」
   今は彼女の傍にいてあげよう。俺ができる精一杯の慰めだ。風邪が移されるという心配も十分
   あるが、今の今まで風邪を引いた事がないから問題ない。


    しかし・・・実に暇だ・・・。スケッチブックを持ってきたのは正解だったな。彼女の話
   相手になりつつ、俺はペンを走らせる。

    この道我流で絵描きを続けて数十年、色々なものを描き続けた。今度彼女達に見せよう。
   俺のもう1つの夢でもあったマンガ家への道筋の残り火。これは今も燃え続けている。



    それから数日後、7月下旬。エシェラはすっかり回復した。今までにもないほど元気一杯で
   動き回っている。というか出会った時はお淑やかじゃなかったか、まあいいか。

    お土産に色々と貰った。実用的なものから意味不明なものなど大多数。何とも・・・。まあ
   素直に感謝するべきだろう。


    右腕の傷はすっかり癒えた。というか自分でも驚くほど回復力が早い。やはりリハビリを
   続けていたためか、それが回復を促す力になったようだ。

    ハーレーにも普通に乗れる、右腕に負担も殆ど掛からない。これなら充分動けるだろう。
   体力・気力共に申し分ないほどである。


    と同時に怖ろしい現実が待ち構えている。エシェラとラフィナの二重アタックが・・・。
   まあこれも彼女達が幸せになるのなら構わない。俺の生き様の1つでもある。

    第1部・第5話へと続く。

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