アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第5話 苦手なもの2〜
    葛西臨海公園へと到着する。出発した時刻が午後3時だったため、到着したのは午後5時を
   過ぎた。車両の大きさから駐車場へと駐車する。これが二輪車とサイドカーの決定的な差だ。

    俺は駅前の自動販売機で紅茶を2つ買う。バイクでの走行は車と違い体力を多く消耗する。
   水分補給はしっかりと行った方がいい。


ミスターT「運転お疲れ様。」
メルデュラ「ありがとうございます。」
    午後5時過ぎだというのに、表はまだまだ明るい。それに非常に蒸し暑い。石段に腰を掛け
   一服する。流石に煙草までは吸わない彼女。一服するのは俺とシンシアとシュームだけだ。

メルデュラ「遠出したのは初めてです。」
ミスターT「でも学校などの旅行は?」
メルデュラ「それは確かにそうですが・・・。」
ミスターT「・・・ああ、そう言う事か・・・。悪かった・・・。」
    この場合の遠出は俺と一緒にという意味だ。それ以外の遠出なら何度もしている筈。これは
   失言をしてしまったな。

ミスターT「ごめんな、デリカシーがなくて。」
メルデュラ「いいえ、嬉しい事には変わりありません・・・。」
ミスターT「そうか、ありがとな。」
    むう・・・まだデートに関しては無頓着すぎる。と言うか異性に対してデリカシーがない
   発言が多い。ここはシュームに指導して貰った方がいいかもな・・・。



    一服後、俺達は公園内を歩いた。当てもなく歩くのは心が落ち着く。以前ここに来た時は
   躯屡聖堕チームの尾行を優先していたため、観光として訪れてはいなかった。


    改めて周りを一望するが、人工的に作られた公園としては最高峰の出来栄えとも言える。
   若者達にとってデートスポットとしては十分な場所である。

    まあ実際の所はこういった場所に訪れる事がなく、ここしか見た事がないために言える無知
   故のものでもあろう。日本中を隈無く探せば、もっと素晴らしいデートスポットは沢山ある
   だろうから。



    更に歩き海岸近くまで赴く。そこから海を眺めた。静かに寄り添ってくるメルデュラに、
   俺は頭を彼女の肩に乗せる。何も言わずとも心が通う。それが恋人同士というものだろうか。

    ただ形だけで付き合っていると思っていたが、今やメルデュラも俺の大切な人だ。これには
   嘘偽りなく断言できる。



メルデュラ「あの、観覧者乗りませんか?」
ミスターT「あ・・ああ、分かった。」
    既に午後7時を過ぎている。最後にとメルデュラが観覧者へ乗りたいと話してくる。深夜は
   乗れないとの事から、今乗るしかないだろう。しかし・・・これに乗るのか・・・。

    受け付けで料金を払い、徐に乗車する。所要時間は約17分。17分も箱詰めか・・・。
   徐々に上空へと登っていくゴンドラ。風がない分静かな旅路だが、個室なため実に蒸し暑い。



メルデュラ「凄いっ、周りを一望できますよっ!」
    頂上に近付くにつれて公園全体を一望できる。それに何時になく興奮したメルデュラが右や
   左に動き回る。それによりゴンドラが動き、この上なく気分が優れない・・・。
ミスターT「・・・頼む、あまり動かないでくれるか・・・。」
メルデュラ「あ・・ごめんなさい・・・。」
   そうである、俺は何時の間にやら高所恐怖症になっていた。かといって極端すぎるものでは
   なく、ただ単に足が竦み上がるというものだが。

メルデュラ「なら・・・私に掴まって下さい。」
    そう言うと俺の右腕を掴んでくる。気を紛らわすと言う意味合いでは十分だったが、周りの
   風景がそれを打ち消してしまう。
メルデュラ「確か蝉もお嫌いでしたよね。」
ミスターT「アレも勘弁してくれ・・・。」
   思い出したくもない。あのグロテスクな形は異様としか言いようがない。ヴァルシェヴラーム
   が語るには、昔はよく捕まえていたと言うのだが・・・。今は到底考えられない・・・。

メルデュラ「でも嬉しいです・・・、嫌いでも一緒に乗ってくれた・・・。」
ミスターT「ああ・・・。」
メルデュラ「今日は・・ありがとう・・・。」
    緊張する俺の顔を自分の方へと向けると、静かに唇を重ねてくる。その口づけに我に帰る。
   怖いのは相変わらずだが、彼女の口づけには心から応じてあげた。



    約17分の恐怖の旅路から解放される。その中で癒しの一時はあったが、正直それ所では
   ないのが実情だった。今も足元が震えている。やはり無理があったか・・・。

ミスターT「ごめんな・・・。」
メルデュラ「あまりお気になさらずに・・・。」
    再び先程一服した場所へと戻る。意気消沈した俺は、ただ彼女に謝るしかない。本当は終始
   癒しの一時を味わせるつもりだったのだが・・・。
メルデュラ「飛行機とかは大丈夫でした?」
ミスターT「飛行機も勘弁して欲しいものだわ。あの離陸時の重力には本当に参ったわ・・・。また
      目に見える高さも脅威だよ。」
   無重力状態の一瞬なども苦手である。つまりエレベーターの上り下りのアレも苦手だ・・・。
   むう・・・俺にも苦手はものはあるんだな・・・。


ミスターT「落ち着いたよ。」
    徐に一服する。完全な高所恐怖症ではないため、落ち着けば問題はない。本当の高所恐怖症
   であれば、観覧者に乗る時点で断固拒否していた筈だ。
ミスターT「今度は落ち着いてデートしたい、アトラクションなどは参る・・・。」
メルデュラ「了解です。」
   遊園地などはもってのほかだ。しかし何時から苦手になったのか・・・、自分でも分からない
   ものだ・・・。



    その後、葛西臨海公園を後にした。今度は俺が運転し、サイドカーにメルデュラが乗車。
   時間は既に午後9時を回っている。
メルデュラ「あの・・・この後は?」
ミスターT「向こうを期待しているんだろ。落ちつける場所を知ってるから任せてくれ。」
メルデュラ「はい・・・。」
   俺の発言で小さく頷いているメルデュラ。しかし雰囲気からして据わっており、これが彼女が
   心から望んでいる事であると理解できる。

    バイクを走らせる事1時間半、赴いた先は秋葉原。時刻は10時半、はたしてチェックイン
   できるかどうか・・・。



    今いる場所はウインドとダークHと一緒に入ったホテルだ。非常に落ちつけるとあって、
   俺も気に入っている。態々秋葉原にまで赴いても十分なものだ。

ミスターT「よかったわ、最終チェックインが0時で。」
    慌てて駆け入ったが十分間に合った。どこも最終チェックインはこのぐらいだと言う事だ。
   駐車場にハーレーサイドカーを止めている間に、メルデュラが受付で応対してくれていた。
メルデュラ「凄い・・・秋葉原の街並みを一望できますね。」
   今回も最上階の部屋を選んだ。というか偶然空いていたため、そこにした訳だが。秋葉原と
   いう電気街が好きなメルデュラの事、この風景は大絶賛のようだ。

ミスターT「飯でも買ってくるわ。何でもいいよな?」
メルデュラ「偏食はないので大丈夫です。」
    夜景に見惚れている彼女を尻目に、空腹を満たすために館内のコンビニへと向かう。まあ
   軽食しか取れないが、今を凌ぐには十分だろう。

    真夏とあって冷やし中華をベースに、サンドイッチ・おにぎりを買い込んだ。後で聞く所に
   よると、メルデュラはかなりの大食漢のようで。俺はまあ並々だろうか。



ミスターT「・・・全部食いやがった・・・。」
    俺はサンドイッチ2つとおにぎり1つしか食べていない。対する彼女はそれ以外の食べ物を
   片っ端から食い漁ってしまう。これには驚愕するしかない・・・。
メルデュラ「家族全員も大食漢ですよ。シンシアRとシェイナとは、何時も食べ物を巡って争っての
      食事でしたから。」
ミスターT「何とも・・・。」
   だからこれだけの巨女が出来上がったのか。シェイナだけ背が低いが、母を含めた他の3人は
   巨女だ。恐ろしい事この上ない・・・。

メルデュラ「・・・大食いの女は・・嫌いですか?」
ミスターT「ああ、大丈夫。圧倒されただけだから。それに自然的な行動を白い目で見るのは、野郎
      として恥じるべきだ。」
    見た目を気にして行動するのは失礼極まりない。彼女の話を推測すると、何らかの出来事が
   あったのだろう。
ミスターT「まあ・・・俺より大きいのは参りものだが、ここはしっかりしてるのだろう?」
メルデュラ「はい・・・。」
   そう言いながら彼女の両乳房の間を親指で指す。心さえ据わっているなら、恐れるものなど
   何もない。
ミスターT「お前も十分可愛いのだから、外見なんか気にしてはダメだ。むしろ長所として考えた
      方が気が楽だよ。」
メルデュラ「そうですね。」
   リデュアス・イリュシェア・ラオリアも該当するが、巨女という容姿を最大限活かして活動
   している。相手に威圧的な行動を取るには十分だろう。メルデュラの場合は優しさで攻める
   のが好ましい。後は彼女次第という事だ。



メルデュラ「落ち着きます・・・。」
ミスターT「そうか。」
    一服して休憩してると、彼女が膝枕をしたいと言ってきた。この場合は俺が頭を乗せるの
   だが、今回は彼女が俺の膝に頭を乗せてくる。
メルデュラ「シュームさんが仰る通りでしたね。どんな場所や状況でも、こちらを最大限気遣って
      くれる。苦手な観覧者にまで黙って乗ってくれた。感謝しています・・・。」
ミスターT「まあ愚痴は言いまくったがね・・・。」
メルデュラ「そこはあえて黙って押し通す、です。」
   笑顔で俺を見つめる彼女。普段の姿からは考えられないほどの癒しの眼差しだ。俺は無意識に
   彼女の頭を優しく撫でてあげた。素でよく行う厚意の1つだ。

メルデュラ「・・・本当に不思議。初めてお会いした頃は全く興味がなかったのに、今となっては
      心には貴方の事しか浮かびません。それに普段からも色々と気遣ってくれています。
      そんな貴方に惚れない訳がありませんよ。」
ミスターT「まあ実際には掛け持ち過ぎてるのだが・・・。」
メルデュラ「フフッ、それだけ貴方を心から愛しているのです。私の心を掴んで離さないのだから。
      私の愛にも応えてくれれば嬉しいです・・・。」
    その言葉には行動で返した。彼女の頭をゆっくり持ち上げ、静かに唇を重ねる。真横からの
   口づけだが、彼女の愛に心から応じてあげた。

ミスターT「観覧者の分だよ。あの時は真剣にできなかったから。」
メルデュラ「はい・・・。」
    徐に起き上がると、俺を背後から優しく抱きしめてくる。巨女と言われる故に、その胸板は
   十分すぎるものだ。まあ胸が背中に当たるのはご愛嬌だが・・・。
ミスターT「落ち着いてからでいいか?」
メルデュラ「暫くこのままでいさせて下さい・・・。」
   俺を胸に抱いて余韻に浸るメルデュラ。背丈は俺よりあるため、包み込むような抱擁が心地
   良い。本当はこちらが行ってあげるべき厚意なのにな。まあ巨女の長所の1つであろう。
メルデュラ「・・・貴方を心から愛しています。」
ミスターT「俺もだ、ありがとな。」
   徐の告白に俺も応じる。本命はエシェラなのだが、そこはしっかりと弁えているようである。
   まあ弁えて貰えなければ行動にでれない訳だが・・・。



    小1時間程度そうしていた。ただ黙って寄り添うだけで、心が満たされていく。俺よりも
   彼女の方が満たされたようだ。

    しかし真夏の最中の抱擁で、汗ばんでしまうのは言うまでもない。代わる代わるシャワーを
   浴びて汗を流した。本当はゆっくり入浴したいのだが、彼女の目は既に先を見据えている。
   ここは焦らさず応じた方がいいだろう。


    その後は怖ろしいまでの愛を語ってきた。我慢していたものを全て吐き出すかのように。
   俺はただただ応じるしかなかった。まあ彼女の好きなようにさせてあげよう。
   無論俺も応じる事はしたが、彼女の凄まじい思いの丈には圧倒されるばかりだったが・・・。



    ちなみに真剣な愛の語り合いの時は、俺は頭の覆面を外している。真顔を見たメルデュラも
   5人と同じく頬を染めて見入っていた。誰もが予想通りの人物だと語っている。

    今ではトレードマークの覆面だが、今後も着用し続けるとしよう。覆面の風来坊という徒名
   は伊達じゃない。

    もはやこの覆面は俺の身体の一部と言える。何とも不思議なものだ・・・。

    第2部・第6話へと続く。

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