アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第3部・第5話 共にある2〜
シューム「まあ・・・この場合は文句は言えないわねぇ・・・。」
シンシア「そうですねぇ・・・。」
    長い口づけをしていると、背後からシュームとシンシアの声が聞こえてきた。しかし今も
   貪るように俺との口づけを止めようとしないセルディムカルダート。ただその瞬間を心に焼き
   付けているかのようであった。

    ようやく唇を解放される俺。たった一回の口づけで、凄まじいほどの落ち着きを取り戻す
   彼女。その不動たる心構えはこちらにも痛烈に伝わってくるほどだ。

セルディムカルダート「邪魔をしようものなら、どうなるか分かってるでしょうね?」
シューム「そ・・それはもちろん・・・。」
シンシア「母さんには敵いません・・・。」
    うわ・・・怖すぎる・・・。自分の言動には一切介入するなという雰囲気が、彼女の身体
   から滲み出てきた。これに娘のシュームとシンシアは青褪めて怯えている。
ミスターT「まあそこは俺に免じて。それに本当は我が娘が可愛くて仕方がないのでしょう?」
セルディムカルダート「そ・・それはそうですけど・・・。」
   俺の言葉に恐縮気味になるセルディムカルダート。その姿にシュームとシンシアは呆気に取ら
   れている。絶対に弱味を見せない事で有名な彼女なだけに、その畏まる姿に娘達は驚いている
   ようだ。

    そんな彼女をもう一度抱きしめる。それに恥らう事なく甘えだすセルディムカルダート。
   この場面を見てシュームとシンシアは呆然としていた。


    いくら偉大なる母でも、女性としての一面は必ず存在する。それはヴァルシェヴラームや
   ナツミYUもそうであった。

    セルディムカルダートも女性としての一面を曝け出し、俺に心から甘えてきている。それに
   心から応じねば失礼だろう。

    この部分はシュームもシンシアも同調しているようだ。彼女達も女性として戻る時もあり、
   その時は俺に思いっ切り甘えてくる。それを両手を広げて心から迎えてあげるのが、俺の役目
   であろう。



ミスターT「では任せてもよろしいので?」
セルディムカルダート「そのつもりで伺いました。私の存在は公には知られていませんし。それに
           姉さんから何かあった場合は全力で戦ってくれとも言われています。」
    2階へと戻った俺達。そこではメルデュラとリヴュアスがコンピューターを操作して戦っ
   ている。その傍らでゆっくり寛いでいるのがメアディルであった。
セルディムカルダート「姉さんが陰から貴方を見守り続けたように、今後は姉と共々に見守る事に
           します。もちろん夜の営みまでは邪魔はしませんけど・・・。」
   彼女の言葉に周りの女性陣が赤面しだす。セルディムカルダートの茶化しの言葉は、流石は
   ヴァルシェヴラームの妹と言えるだろう。
セルディムカルダート「出産と異性との関係は全くありませんが、女としての戦い方はそれなりに
           熟知していると自負できます。孤児院の魔王として恥じる事のない戦いを
           貫きますから。」
   そうなのだ。姉のヴァルシェヴラームが孤児院の覇者と言われているのに対し、妹の彼女は
   孤児院の魔王と言われている。それは無論いい意味でなのだが、泣く子も黙るという事から
   付いた徒名らしい。

ミスターT「う〜ん・・・孤児院の魔女の方が響きはいいような・・・。」
    冗談半分で語ると、エラい形相で睨み付けてくるセルディムカルダート。それに一瞬にして
   青褪めてしまった。この度合いは完全に姉を超えている。俺が知る女性陣の中で最強の恐さを
   持っていると言えた。
ミスターT「・・・孤児院の王者でいいか。」
   俺の言葉にまだ言うかという形相で睨み付けてくるが、ヴァルシェヴラームの息子という事で
   諦めたようである。しかし魔王よりは王者の方が遥かに響きはいい。
ミスターT「改名で孤児院の王者、これで貫いて下さい。嫌とは言わせませんよ・・・。」
   対して俺の方も十八番の殺気と闘気が織り交ざった発言をする。するとどうだろう、あの堅物
   な彼女が驚愕し青褪めだしたのだ。そう言えばセルディムカルダートだけには、この十八番を
   見せた事がなかった。だから過剰反応を示したのだろう。

ミスターT「まあ・・・後はディムに任せます。自分自身の異名でもありますし。」
セルディムカルダート「・・・では今のままで・・・。」
ミスターT「フフッ、思った通りですね。」
    一度決めた事は天地が引っ繰り返っても変えない、それがセルディムカルダートの性格だ。
   その意固地なまでに貫き通す一念は、ヴァルシェヴラームも呆れ返っているとか。
シューム「母さんの無理無茶は身に染みる思いですよ。」
シンシア「その部分はマスターとソックリですから。」
ミスターT「そ・・そうなのか・・・。」
   2人の言葉に苦笑いを浮かべるセルディムカルダート。反論しない所を窺えば、これが事実
   だという事がよく分かった。それにしてもヴァルシェヴラームとは正反対の性格だわ。

ミスターT「それでも俺が敬愛して止まないもう1人の恩師ですから。呉々も無理無茶だけはしない
      ようにして下さい。」
セルディムカルダート「大丈夫よ。姉さんも私も、それに君も悪運だけは強いじゃない。どの様な
           生き様であろうとも、回帰する先はみんな同じよ。だから胸を張って進める
           のよ。恐れるものなど何もないわ。」
ミスターT「フフッ、そうですね。」
    改めて自分達の原点を振り返る。セルディムカルダートもヴァルシェヴラームと同じく、
   不動たる原点回帰が存在している。だからこそ、どの様な事があっても前に進めるのだから。
   俺達の生き様を通して、周りの人達に幸せを分けていく。それが俺の生涯に渡って貫き続ける
   戦いだ。



    セルディムカルダートの参戦は、周りを大いに鼓舞した。特に相手の心情を把握できる能力
   を最大限生かし、プラス要素での激励をし続けている。

    地元面でのキーパーソンはセルディムカルダートが、企業面でのキーパーソンはウエストと
   サイバーが。この3人が縁の下の力持ちとなり、周りに不動の原点回帰を抱かせるに至って
   いた。


    セルディムカルダートの活躍で更に奮起しだしたのがシュームとシンシアだ。恩師の台頭と
   あって、師匠に応えようとする行動をしだしたのである。

    まあでも2人は今まで通りの普通の行動がメインであり、理を定めて師匠と呼吸を合わせる
   というものになっている。

    今では一騎当千のシュームとシンシアだ。師匠の後押しがあれば、正に鬼に金棒だろう。



ミスターT「・・・結局はここに至るか・・・。」
    それから数週間後、事態は更に急変した。不当の逮捕で拘留されているヴァルシェヴラーム
   が一方的な事で死刑という事になったのだ。そこまで全てに対して根回しをしていた2社に
   怒りを通り越して呆れ返ってしまう。
メルデュラ「人を殺す事など何とも思っていない連中です。5年前のウイルス事変でも、ある意味
      大規模殺戮に等しいですから。」
ミスターT「・・・なら俺にできる事はこれが最後かな。」
   モニターを見つめ終えると、普段の衣服に着替える。覆面の風来坊として定着がある、黒い
   コート・ベスト・ロングシャツ・ロングズボン。このスタイルは地元に帰ってきた時と全く
   変わらない。

ミスターT「暫く留守にするが、大丈夫だよね?」
メルデュラ「大丈夫ですよ。それに悪は必ず滅します、それが世の常ですから。」
    作業をしながら語るメルデュラ。その彼女の頭を優しく撫でた。すると娘達と同じような
   満面の笑みを浮かべて俺を見つめてくる。
ミスターT「メアディルや子供達の事を頼む。」
メルデュラ「お任せを、身命を賭して守り抜きます。もちろん死なない程度ですが。」
ミスターT「ハハッ、そうだな。」
   ヴァルシェヴラームが不当に逮捕された時の苛立ちは既にない。もはや当たり前となりつつ
   ある妨害工作には慣れていったし、相手が間違った事をしているのも充分理解している。後は
   反転攻勢の時まで、師匠を守り抜く事が俺の務めだ。


    1階に下りると、シュームが出迎えてくれた。雰囲気から俺が行う事を理解してくれている
   様子で、静かに頷くだけにしてくれた。

    俺はヴェアデュラと兼用のミニクーパーに乗り、そのまま本庁へと向かう。ここは一芝居を
   打って、奴等に一泡吹かせてやろうかね。



ミスターT「威嚇なら空砲2発で十分か。」
ウインド「本当に大丈夫ですかね・・・。」
ミスターT「そこはお前達の演技次第だよ。」
    運転はダークHが担い、助手席にウインドが座る。俺は後部座席に座り、2人の所持して
   いる拳銃を扱っている。それぞれの拳銃の初弾に空砲をセットし、実弾は取り外し弾ホルダー
   に収めて2人に返した。
ミスターT「警察庁長官2人を人質に潜入か、俺もヤキが回ったものだな。」
ダークH「でも全ては師匠を支える為のもの。周りが批難しようが、私達は絶対に批難しません。」
ミスターT「ありがとね。」
   2社の事だ、間違いなく遂行するだろう。多少無理無茶をする事になるが、実際に実行される
   のならこちらも実力行使で阻止するしか手段がない。


ダークH「着きましたよ。」
ミスターT「ありがとう。」
    東京拘置所の近くにミニクーパーを停車する。徐に車外に出て深呼吸をした。下手をすれば
   俺も死刑になるかも知れない。しかし妻達は全てを理解した上で俺を送ってくれた。
ミスターT「お前達は無理矢理付き合わされたと言い切れよ。俺自身はシェヴの元に着いて一緒に
      いられれば第一段階が終わる。」
ウインド「ええ。次は先輩とユリコYさんを救出し、そこから反転攻勢をしていく第二段階。」
ダークH「第三段階は2社の壊滅、そう至りたいですけどね。」
ミスターT「大丈夫さ、お前達ならやれる。シェヴの愛娘達だぞ。何を恐れる必要があるね。」
   改めて自分達が誰の元で育ったのかを回帰する。2人や俺はヴァルシェヴラームという偉大な
   母に育てて貰ったのだ。その彼女を身命を賭して守り抜く事こそが師恩に繋がるのだから。

ミスターT「さて・・・いきますかね。」
    俺の言葉にウインドとダークHが小さく頷く。俺に近付く2人を後ろ向きにし、その背後
   から両手にそれぞれ持つ拳銃を態とらしく突き付けた。



警備員1「た・・大変です!」
所長「どうしたんだ?」
    警備員の1人が慌てて所長室に駆け込んでくる。その背後を堂々と進む俺達。銃を向けて
   いる人物に青褪める所長だが、それ以前にこの事態に仰天していた。

警備員2「直ぐに銃を下ろして2人を解放するんだ!」
ミスターT「それはこちらの台詞だ。2人の命が惜しければ、ヴァルシェヴラームとユリコYの独房
      へと案内して貰いたい。」
    ウインドとダークHは役割的に人質を演じているが、それを知らない周りは驚愕している。
   特に人質に取られているのが警察庁長官の2人だけあり、迂闊な言動はできないだろう。
所長「・・・何の得があってこんな事をするんだ?」
ミスターT「貴方達にも師匠と言える存在がいるだろうに。その師匠が死刑に遭うのなら、俺も共に
      と思ってね。」
   改めてこちらの内情を知ったウインドとダークHは驚愕する。俺が死ぬ覚悟でこの場に挑んで
   いる事に対してだろう。しかし俺もヴァルシェヴラームも死ぬつもりは毛頭ないが。

    行動を渋っている所長達を見て、俺は右手に持つ拳銃を壁に向けて発砲した。それに驚愕
   する周りの面々。無論発砲したのは空砲であり、驚かす以外全くの無害ではあるが。

ミスターT「あんたらが案内してくれないのなら、しらみつぶしに探してみるよ。」
    そう語りながら所長室を後にする。表では数多くの警察官がおり、こちらと間合いを取って
   様子を見ていた。


    しかし広い拘置所だ。ウインドとダークHはここの監視員を行っていた経験がある。彼女達
   の小声による耳打ちで、その場所まで案内して貰った。

    人質に恐喝、この後の俺の処分は痛いものだろう。しかし2社による不当な逮捕に至った
   ヴァルシェヴラームの事を思えば、このような苦痛など痛くも痒くもない。

    1つだけ悔いが残るのなら、13人の妻達に犯罪者の夫がいるというレッテルを与えたと
   いう事実だけだ。しかしそれをしてでもヴァルシェヴラームは助けたい。俺が心から敬愛する
   恩師なのだから。



ミスターT「よう、元気か?」
    表が騒がしい事に気が付いた囚人達。そこに人質を取りながら現れる俺達。人質が警察庁
   長官という事もあり、周りは仰天していた。
ヴァルシェヴラーム「なっ・・・。」
ユリコY「あ・・兄貴っ!」
   鉄格子の先にヴァルシェヴラームとユリコYがいた。雰囲気からして問題はなさそうだわ。
   俺が人質を取っているウインドとダークHが敬礼をする。それを見たヴァルシェヴラームは、
   何故この場に現れたのかを直感したようだ。

ミスターT「所長さん、ここの鍵を開けてくれ。」
所長「・・・囚人を逃がすつもりなのか?」
ミスターT「その逆だよ。ウインドとダークHを解放するから、俺をここに入れてくれ。それ全てが
      丸く収まる。」
所長「し・・しかし・・・。」
    再び渋っている所長を見て、左手に持つ拳銃を天井に向けて発砲した。それに周りは騒然と
   する。しかしこの2発目も空砲なのだが。

    俺の本気とも取れる行動に折れた所長は、ヴァルシェヴラームとユリコYがいる鉄格子の
   鍵を開く。それを確認すると、ウインドとダークHが俺から愛用の拳銃を静かに取り上げた。
   これに更に驚愕する所長達。

    ゆっくりと牢屋の中に入り、鍵を閉めて貰った。これで目的が達成できた訳だ。その俺の
   姿に最敬礼するウインドとダークH。俺の方も2人に深く頭を下げた。



ヴァルシェヴラーム「大馬鹿よ貴方は・・・。」
ユリコY「まあ・・・兄貴らしいと言えば確かでしょうし・・・。」
    人質事件は首謀者自ら牢屋に入ったという事で仮解決した。そしてウインドとダークHに
   頼み、この事を態とフルプレとフルエンの2社に流して貰った。こうする事で相手が更に天狗
   になるのを見越しての事である。
ミスターT「現地はディムに任せてあります。シェヴの妹ですし、恐れるものはありません。」
ヴァルシェヴラーム「そう・・・ついにディムが動いたのね。なら早い段階で解決しそうだわ。」
   不気味なまでに微笑みだすヴァルシェヴラーム。その意味合いを俺は痛感した。ある意味彼女
   を超える暴君としても知られているだけに、今後の展開が読めたのだろう。

ミスターT「まあ後は待ちましょう。シェヴが死刑に遭うのなら、俺も喜んで貴方と一緒に死刑に
      遭いますよ。」
ヴァルシェヴラーム「・・・君も馬鹿よね・・・。」
    俺の本音を知ったヴァルシェヴラームは泣きだす。その彼女を支えるユリコY。一緒にいた
   時間が多かったからか、2人はかなり信頼し合っている。この部分を窺えば、俺が無理無茶を
   しなくても大丈夫だった事が分かったわ。



    それから事態は更に急変する。ヴァルシェヴラームの死刑が取り消されたのだ。それは俺が
   自ら拘置所に入ったという事を真に受けた事の裏返しであろう。奴等にとって、俺の存在が
   大きなものだったという事が十分に窺えた。

    その後の2社の行動は更に過激さを増していく。そして無差別に行動するに当たり、ついに
   政府の方も思い腰を上げだした。だが相手は剛腕を持つ大企業、政府の介入は難しいものが
   あったようだ。


    それもそうだろう。いざとなった時ほど大企業の力には敵わない。ゲームでもコアユーザー
   の間で有名な、アーマード・コア。この作品も政治や政府よりも企業が台頭している世界だ。

    所詮この世は弱肉強食で、そして金こそ天下の回りものと言える。それが露呈された形とも
   言えた。それを真っ向から否定して動いているのが俺達だというのが皮肉な話である。



    しかし俺が予想していた拘置所とは全く異なる姿に驚いた。確か今では独房という小さな
   部屋なのだが、ヴァルシェヴラームとユリコYが放り込まれた場所は昔懐かしの牢屋なのだ。

    周りからモロ見えのこの場は、女性囚人にとってはプライバシーのへったくれもないわ。
   だからこそこの場に入れられたのだろうから。


    いくら囚人でも相手は人間だ。それなりの対応を取らねば、犯罪撲滅には至らない。やはり
   目の前の人を変革していってこそ、社会を変えていったり拘置所などが少なくなっていくの
   だろうから。

    それらも踏まえて、今後の課題は山積みだろう。エリシェやユキナ、それにナツミA達や
   メアディルにも頑張って貰わないと。無論ウインドやダークH達もしかりである。


    拘置所に入った事で、更なる原点回帰ができそうだ。やはり一番苦しい場面でこそ、人は
   成長していくのだな。風来坊として日本中を回っていた頃が懐かしいわ・・・。

    第3部・第6話へと続く。

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