アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第6話 盆踊り1〜
    7月が終わり、8月に入る。その最初の土曜日に公園で盆踊り大会がある。大会と銘打って
   はいるが、何かを競うとかそういう意味合いではない。まあ花火大会も大会とあるように、
   言葉の文というものか。学業は疎いから何とも言えないわ・・・。


    散歩に訪れる公園は、今週末の盆踊りに向けての準備が進んでいる。櫓の配置を決め、足組
   をする。そして布張りをして提灯などを吊るしていく。出店は開始直前まで配置はしない。

    同時期にフリーマーケットもやるそうで、大賑わいが予測される。午前中と午後にフリマ、
   夜に盆踊りという構成だ。



    そう言えば、トーマスCの勧めで地元町会の手伝いをしだしたアマギHとユリコY。いや、
   2人が住む地域に所属する躯屡聖堕メンバー全員だ。
   町会役員は高齢者が多く若手が殆どいない。カリスマ性が高い事を見込んでの依頼のようだ。

    地元で万屋を起業もしたアマギH。その多岐に渡る力強さを信頼されて、何と副会長に押さ
   れる。俺以上のカリスマ性に着眼しての行動のようだ。

    まあ彼や仲間達は今までの罪滅ぼしも兼ねて、地域貢献に進んで挑んでいる。無論アマギH
   も副会長の任を断らずに受諾した。俺以上に偉大な漢だ。ちなみにユリコYは書記である。



    更に面白い事があった。面白いと言ったら大変失礼だが。

    何と元暴走族・躯屡聖堕をボランティアチームとして立ち上げたのだ。これがテレビにて
   大々的に放映されたのを見た時、驚愕を通り越して完全に呆れ返った。だがその真の内容を
   窺い知った瞬間、俺は呆れ返った自分を痛烈に恥じる。


    日本中にメンバーがいる大規模な躯屡聖堕。だが悪道に成り切れず、善道へと回帰する。
   解散した形だったが、それを拾い上げたのが三島ジェネラルカンパニー。ボランティアチーム
   として、アマギH達全員を雇ったのだ。

    やれ愚策だの偽善者の戯言だと言われたい放題だったが、リーダーのアマギH自身は承諾。
   それに彼らの威圧感は全てにおいて健在で、直ぐに世論を黙らせるに至った。

    もっとも行動が完全悪道ではなかったため、本当に厄介がまれる存在ではなかった。解散後
   の献身の行動も評価された矢先の発表、誰も完全な反論はできなかったのである。



    新生・躯屡聖堕の活動方針だが、困った人を最優先で助ける。この1点に絞られている。
   バックボーンに世界最強の大企業があるため、資金面や行動面での困り事はない。躯屡聖堕の
   メンバーも人のためになれるのならと大張り切りで、誰も反対せず賛同した。

    行動内容は多岐多様、挙げればきりがない。それこそアマギHが起業した、万屋という内容
   が相応しい。これが世間からは大絶賛で、感謝の声が後を絶たない。

    半暴走族として荒れていた躯屡聖堕は、人を助けるというチームへと覚醒したのだ。



トーマスC「変われば変わるものなんだな。」
ミスターT「変革は己の変わりたいという強い一念で変わる。何度も言ってるじゃないですか。」
    テレビのワイドショーなどで引っ張りだこの躯屡聖堕の話題。それを見ながらトーマスCが
   呟く。変革は些細な出来事が、より一層巨大なうねりを作り上げる。これは間違いない。
トーマスC「ここに縁の下の力持ちがいるけどね。」
ミスターT「裏方は裏方、それでいいのよ。」
   煙草を吸いながら呟いた。目立とうとして行動した訳じゃない。目の前の人を渾身の一撃で
   助けた結果が今なのだ。アマギH達が心の底に抱いていた変革の一念が、俺が押した事で開花
   したに過ぎないのだから。



    一服しながらコーヒーを啜り、雑誌を読みながら一時を過ごす。この一時が一番落ち着く
   ようになってしまった。後2年後には三十路に突入するため、こういった親父臭い事が板に
   付き出しているのだろう。何とも・・・。

エリシェ「こんにちは。」
    安らぎの一時を過ごしていると、先日知り合ったエリシェが入店してくる。水色ワンピース
   を身に纏い、麦藁帽子を被る姿は可愛らしい。絶妙にマッチしていると言える。
トーマスC「いらっしゃい・・・って、うわっ!」
ミスターT「何驚いてるんだよ。」
トーマスC「だ・・・だってよ・・・、大企業のお嬢様じゃないか・・・。」
   企業を護衛した事があるのだろう。元シークレットサービス所属のトーマスCが滅茶苦茶驚愕
   している。それだけエリシェの存在が雲の上の存在なのだろう。
ミスターT「俺の目には普通の女の子にしか見えないけど。」
エリシェ「・・・ありがとう、ミスターT様。」
   世界最強の大企業の社長令嬢という肩書きなど、今の彼女には無用だ。どこにでもいる普通の
   女の子に変わりない。

エリシェ「あの・・・。」
ミスターT「どした?」
エリシェ「え〜と・・・その・・・、これを・・・。」
    手渡したのは何かのチラシか。それを拡げてみると、地元の町会新聞だ。そこには今週末の
   盆踊りの内容が記述されている。なるほど、これを誘いに来たという事か。
エリシェ「・・・盆踊り、・・・一緒に行きませんか?」
ミスターT「分かった、一緒に行こうか。」
エリシェ「ありがとうございますっ!」
   笑顔で喜ぶその姿は、初めて会った時の気丈さを感じさせない。やはりそうだ、彼女は周りの
   影響で背伸びをしているだけに過ぎない。
トーマスC「何時仲良くなったんだい?」
   彼がオレンジジュースを差し出す。それに頭を下げて徐に飲み出すエリシェ。トーマスCは
   俺が彼女とどの様な経歴で知り合ったのかが知りたいようだ。



    トーマスCに花火大会があった日の出来事を詳しく話した。それを聞いた彼は俺らしいと
   納得している。そもそも俺自身もエシェラとラフィナに紹介される形で知り合ったしな。
   切っ掛けを作ってくれた2人に感謝しないと。
トーマスC「シークレットサービスを運営する会社も、スポンサーは三島ジェネカンだよ。今の自分
      があるのは、紛れもないお嬢様のお陰なのだから。」
エリシェ「そこまで偉くはありませんよ。小父様は命を張って世の中に貢献されていた。その方に
     心からの敬意と最大の報酬を払わないでどうするのですか。」
   いきなり大人エリシェが現れる。見定まった発言は厳しい口調だが、その内容は実に切実さが
   込められている。肝っ玉だけはエシェラを超えるのだろうか。いや・・・強弱を付けるのは
   失礼だろう。素直に凄いと思えば言いだけか。
トーマスC「・・・ありがとうございます。」
エリシェ「いいえ、逆に感謝しています。小父様がいらっしゃらなかったら、ミスターT様はこの場
     にいません。躯屡聖堕の件も無かった事でしょう。それに・・・お友達にも・・・。」
トーマスC「・・・私が生涯面倒を見ます。お嬢様はその彼を支えてあげて下さい。」
エリシェ「はいっ!」
   ここまで畏まるトーマスCも凄いが、その表情には今までにないほどの優しさが満ち溢れて
   いる。彼女の労いもそうだが、どうやら俺を支えた事を誉められたので感激しているようだ。

    ああ・・・そういう事か・・・。彼も俺との関係が、実の所は不安だったんだな・・・。



エリシェ「・・・あの、ミスターT様。」   
ミスターT「うぁい・・・って・・あ、ごめん・・・。」
エリシェ「あ・・ごめんなさい・・・。」
    カウンター越しの椅子に腰を掛けたエリシェ。その後はトーマスCとの会話が弾む。意外な
   一面のトーマスCだが、今までにない優しく穏やかな表情だ。
   その中で急に睡魔が襲い、俺は転寝をしてしまう。それに気付かなかった彼女が声を掛け、
   変な声を出して応じてしまった。これは非常に恥ずかしい・・・。
ミスターT「どしたん?」
エリシェ「あの・・・浴衣を買うのに・・・付き合って欲しいのですが・・・。」
ミスターT「OK、行こうか。」
   盆踊りに着るための物だろう。この部分は女の子に戻るという訳か。何とも・・・。しかし
   素体の彼女に戻る時は本当に輝いているわ。

    俺はトーマスCに了承を得て、エリシェと共に駅ビルのショッピングモールに向かった。
   というか彼に了承を得なくても、彼女の存在から押し通せただろう。

    う〜む・・・。それだけこの女の子が凄いという表れか、何とも・・・。



    駅ビルにあるショッピングモール。その中にある女性専用の衣服を扱う店へと向かった。
   そう言えば買い物などは何年振りか。旅に出る前の道具類の購入と、その間の消耗品の購入
   ぐらいだろう。大きな買い物は免許取得ぐらいか。
エリシェ「・・・あの。」
ミスターT「何時もの気丈さはどこいったんだ・・・。」
エリシェ「もうっ・・・。」
ミスターT「ハハッ、悪い悪い。」
   内気な部分と普段の部分の境界線をからかうと小さく不貞腐れる。ハハッ、可愛いものだ。
   これは殆ど無意識に近いものだろう。
ミスターT「エリシェが可愛いからさ、からかいたくなっちゃってな。」
エリシェ「・・・・・。」
   ヤバい、怒らせたか。だが率直な意見には間違いない。エシェラやラフィナには見られない、
   普通の女の子の姿だろう。いや、これはこれでエリシェの個性だろうな。
エリシェ「・・・ありがとう、嬉しいです。」
ミスターT「・・・一瞬怒ったかと思った。」
エリシェ「そんな事はありません、そう言われたの・・・ミスターT様が初めてです・・・。」
ミスターT「フフッ、ありがとう。」
   そっと頭を撫でる。舌を出してはにかむ姿が愛らしい。これが真面目モードになると失せると
   いうのは何とも言い難い・・・。


ミスターT「でさ、さっき何か言おうとしなかった?」
エリシェ「あ・・はい、ミスターT様は何色がお好きですか・・・?」
ミスターT「色か・・・色・・・、紫かな。」
エリシェ「紫ですか・・・。」
    色取り取りの浴衣を手に持ち、どれにしようか悩むエリシェ。俺も一緒に付き合うが、隣の
   スペースに女性用下着があって恥ずかしい。
   その中でこちらに好きな色を訊ねて来る。これは浴衣の選ぶ基準にしたいという事だろう。
ミスターT「待った、俺が好きな色を選んでどうするんだ。君が好きな色を選んだ方がいいんじゃ
      ないか?」
エリシェ「その・・・貴方が好きな色の浴衣を着ようと思って・・・。」
ミスターT「ああ・・・ごめん・・・、こういった事に疎いから・・・。」
エリシェ「大丈夫ですよ、慣れていきましょう。」
   俺を意識した発言以外は大人モードになるようだ。しかし形作るには義務的ではない。これも
   彼女の素体が成せる業物なのだろう。これはこれで嬉しいが、何ともなぁ・・・。



    俺が好きな紫色の浴衣の、自分が好きな模様のを選ぶ。全体に黄色い星が描かれている。
   なるほど、彼女は星が好きなのか。
エリシェ「お幾らですか?」
店員「800円になります。」
   金額を聞くと財布から百円玉8枚を取り出そうとする。しかし小銭が重なって上手く取り出せ
   ない。俺はポケットにあった千円札を渡し、会計を済ませた。

エリシェ「ありがとうございます。これを・・・。」
    自前の手提げ袋に浴衣を入れて貰い、それを受け取るエリシェ。その後俺に代金を渡そうと
   したが、あえて受け取らなかった。
ミスターT「いいよ、俺からのプレゼントで。」
エリシェ「え・・そんな・・・、困ります・・・。」
ミスターT「この場合は大人の言う事を聞くのですよ、お嬢様。」
エリシェ「・・・分かりました、ありがとうございます。」
   なるほど、この場合はしっかりと弁えているようだ。まあ今後社長へとなる人物。こういった
   駆け引きは勉強の1つとなるだろう。
エリシェ「この浴衣、大切にします・・・。」
   頬を染めながら感謝するエリシェ。本当に可愛いな、ギュッと抱きしめたくなる感じだわ。
   エシェラやラフィナとは全く異なる仕草には、野郎心を擽られるわ・・・。



エリシェ「ミスターT様、夏休みのご予定は?」
    ショッピングモールを散策する。表に出ないとあって目に入るものが新鮮に見えるのか、
   面白そうに周りを窺っている。その中にあった旅行代理店、壁に掲示されているリストを見て
   話し掛けてきた。
ミスターT「予定はないなぁ〜、多分エシェラに引っ張り回されると思う。海に行きたいとか言って
      いたから。」
エリシェ「海ですか・・・。」
ミスターT「エリシェ君は行った事は?」
エリシェ「恐れながらありません・・・。」
   可哀想に。大企業の社長令嬢となると自由に行動ができない。それこそシークレットサービス
   が複数着いて護衛するのだろう。自分1人で動けないのは辛い・・・。
ミスターT「みんなで一緒に海にでもいくか。」
エリシェ「あ・・よろしいのですか?」
ミスターT「君1人だけ連れて行ったら、エシェラ達に何言われるか分かったもんじゃない。ここは
      勘弁してくれ。」
エリシェ「あ・・いえ、嬉しいです。ありがとうございます。」
   この外出が彼女にとって大きな第一歩だろう。思い切って切り出したのは、自分を変革したい
   という現れだ。それに少しだけ背中を押せば大きく飛翔する。エリシェが大人へと成長する
   大切な瞬間か。


    その後も駅ビル内を散策した。こうなるとデートに近いものだが、彼女の方は意識はして
   いないようだ。何れ彼女から直接言われる時が来るだろうが、その時はその時で心から応じる
   だけだろう。

    エシェラやラフィナとのコミュニケーションが、異性との関係を慣れさせてくれている。
   本当に感謝に堪えないわ・・・。

    後半へと続く。

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