アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第6話 本当の花火大会2〜
エリシェ「着替えはありますか?」
ミスターT「ヴェアのはないな。」
    湯舟に浸かりながら、左腕全体でヴェアデュラを抱く。そして右手に持つタオルで、優しく
   顔などを拭いてあげた。エリシェはドア越しにこちらの様子を窺っている。
エリシェ「貴方の上着や下着も洗いましょうか?」
ミスターT「乾かなかったらどうするんだよ。」
エリシェ「洗濯乾燥機なので、約1時間程度我慢して頂ければ。」
ミスターT「分かった、頼むよ。」
   それを窺った彼女は、財布・免許証・煙草などを取り除いた俺の下着と上着など全て洗濯機に
   突っ込む。それに入浴時に外した、トレードマークの覆面もだ。今の俺は完全な素体状態で
   ある。それに衣服が乾くまで風呂場に缶詰めの状態だ。下着なしで表に出たら、彼女達に何を
   言われるか分かったものじゃない。


    ヴェアデュラを綺麗にしてあげてエリシェに託す。長時間の入浴は赤ん坊にとって厳しい
   ものだ。ここは早めに上がらせた方がいい。
エリシェ「あの・・・お背中流しましょうか?」
ミスターT「そ・・そうだな、頼むよ。」
   バスタオルでヴェアデュラの身体を拭きながら徐に語ってくる。というか無防備状態の俺に、
   一切の選択権はない。衣服が乾くまでの間の一時にはなるだろう。



    俺は何をしているんだ・・・。同室にはエリシェが下着姿で俺の背中を洗っている。流石に
   前面だけは任せられないが、それ以前の問題でもある・・・。
   まあ既に一夜を共にした間柄だから、風呂ぐらいでタジログ俺でもないのだが・・・。

エリシェ「相変わらず・・・身体中・・傷だらけですね。」
ミスターT「7年間やそれ以前で付いたものもあるからね。何度か大怪我した事があったし。」
エリシェ「風邪は引かれないのに、怪我はされるのは驚きです。」
    確かに。風邪予防は徹底しており、また周りにも徹底させている。五月蝿いとも言われる
   ほどだが、健康確立にはこのぐらいしないと意味がない。
   しかし怪我は油断から生じるもの。これは細心の注意を払わなければ無事故は厳しいだろう。
   まあ誰かを怪我させたという事は一切ない。言わば前者は自業自得と言うやつだ。

エリシェ「あの・・・そんなに自分を過小評価しないで下さい。貴方は十分にやっています、だから
     自分を卑下するような事は・・・。」
ミスターT「ああ・・・すまない。」
    エシェラに勝るとも劣らない真剣な雰囲気で語り出すエリシェ。俺を思ってくれている事が
   切々と伝わってくる。これには素直に謝罪してしまった。
エリシェ「私達は十分幸せです。ですから今度は貴方自身が幸せになる番ですよ。」
ミスターT「幸せ、か・・・。」
   お湯を背中に掛けてくれた。そして湯舟へと浸かった。彼女も下着姿のまま湯舟に浸かる。
   何とも言い難いシチュエーションだが、彼女に風邪を引かれても困る。

エリシェ「貴方の幸せは私の幸せ。貴方を幸せにできるのなら、この身は何時でも差し出します。」
ミスターT「ありがとな。でも心こそ大切なのだから、その心意気で十分だよ。それに、お前自身は
      紛れもないお前自身。この世でただ1人の存在なのだから。」
エリシェ「・・・ありがとう。」
    エリシェの頭を優しく撫でてあげた。髪がお湯で濡れて撫で難いが、その心はしっかりと
   伝わっているだろう。どんなに気丈でいても、やはり中身はまだまだ女の子なのだから。



    洗濯機のアラームが鳴った。約1時間と踏んでいたが、洗濯に20分前後・乾燥に10分
   程度で済んだ。

    若干逆上せ気味であるが、エリシェと話していた事により一瞬で過ぎ去る。会話は実に素晴
   らしいものだ。


    俺は先に上がり、洗濯乾燥機の中の衣類を身に纏う。すっかり綺麗になった衣服は爽やかで
   ある。まあ今日一泊するのなら、パジャマに着替える事になるのだが。

    先に上がったヴェアデュラは、ヴァルシェヴラームが面倒を見てくれている。流石は俺の
   母親である。



リデュアス「お疲れ様です。」
ミスターT「何か凄い格好だな・・・。」
    パジャマ姿のリデュアス。体躯に合う衣服はエリシェの父親のしかなく、両腕と両脚がはみ
   出しているのは何とも言い難い。
リデュアス「マスターの衣服なら十分ですが、こちらは少々小さいですね。」
ミスターT「まあ可愛いからいいんじゃないか。」
リデュアス「もう・・・マスターったら・・・。」
   外見に似合わず恥らう姿が可愛らしい。背丈を気にしなければ、彼女も普通の女性なのだ。
   体躯を見ての言動は、偏見とも言えるだろうな。


ミスターT「みんな風呂に入ったのか。」
リデュアス「はい。他の2つに代わる代わる入浴しました。」
    彼女がアイスコーヒーを手渡してくる。そのコップを受け取り徐に飲んだ。普段の熱いやつ
   よりも、冷たいものもいいな。
   というかエリシェの自室には風呂が3つもあるという事実も驚きである。やはり凡人の規格外
   のスケールと言えるだろう。

ミスターT「何時も巡回警備ありがとな。」
リデュアス「と・・とんでもない。私など取るに足らない者です。皆さんがいてくれるから、今も
      頑張れるのですから。」
ミスターT「こらっ、取るに足らない訳はないだろ。それにさっき同じ事でエシェラ達に怒られたん
      だから。」
リデュアス「そうでした・・・申し訳ありません・・・。」
    落ち込むリデュアスの頭を優しく撫でてあげた。しかし俺より背丈が大きいだけに、その
   姿勢はかなり無理があるが。それでも俺の厚意は理解してくれたようである。

ミスターT「誰が何と言おうが、リデュアスは偉大だよ。もっと誇りを持っていい。」
リデュアス「ありがとうございます・・・。」
    ウインドやダークHよりもしっかりとしているリデュアス。しかしこういった弱さも持って
   いる事に親近感を覚える。リューアとテュームが心から慕う訳だな。
ミスターT「呉々も無理無茶しないようにね。」
リデュアス「心得ています。」
   笑顔で語るリデュアス。巨女警察官と謳われる彼女だが、外見を除けば普通の女性である。
   メルデュラと同じく色々な過去もあるだろう。偏見による定着は虚しいものだ。
   う〜む・・・人と接するのは実に難しい・・・。



    室内にあるベッドは全て彼女達で埋まった。俺はリビングにあるソファーで寝る事になる。
   もちろんヴェアデュラの面倒も兼ねている。流石に他の面々と一緒に寝る訳にはいかない。

    騒ぎ疲れたのか、女性陣は直ぐに眠ってしまった。俺は珍しく寝付かないヴェアデュラを
   胸に抱き、バルコニーから夜景を見つめる。一服したいが赤ちゃんが目の前では絶対無理だ。
   ここは我慢するしかない。



    何時の間にか眠ってしまったヴェアデュラをバスケットの中に横たえる。ソファーの上では
   寝返りを打った拍子に落ちる可能性もある。ここは床にタオルを引いて、その上にバスケット
   を置く形がいいだろう。

    ヴェアデュラは眠ってくれたが、今度は俺が寝付けなくなってしまう。仕方がないので、
   部屋とバルコニーの境目に座り表を見つめている。



エシェラ「眠れないの?」
    不意に声を掛けられる。しかし驚くものではなく、静かに優しく語り掛けてきた。どうやら
   トイレに起きた様子のエシェラが、用を済ませた後に俺に気付いたようだ。
ミスターT「ヴェアの眠気覚ましが俺に移ったみたいだよ。」
エシェラ「フフッ。」
   徐に俺の背中に背中合わせで座るエシェラ。背中から感じる彼女の温もりが実に心地良い。
   幾分かこちらに押し付ける形だが、彼女の方もリラックスしている証拠だろう。


エシェラ「ねぇ・・・また旅に出たりとかはしないの?」
ミスターT「もう行かないだろう。ヴェアが成人になるまで離れられないし。それにマツミの会社も
      順調に進んでいるから、大きな異動はないと思う。そろそろここに骨を埋めてもいいと
      思ってる。」
エシェラ「そう・・・よかった・・・。」
    彼女の心境が痛い程よく分かる。俺が再び風来坊として旅立つ事を恐れているのだと。以前
   トーマスCが述べていた風来坊の性格。一度味わうとその場に留まる事ができなくなる。
   だから固定としてウェイターを雇う事ができないとも語っていた。それを無意識に窺っていた
   のだろう。

ミスターT「保育士は順調のようだね。」
エシェラ「うん、みんな懐いてくれてる。懐かれなかったらどうしようかと思ってたけど。」
ミスターT「心の優しさが現れた証拠だね。」
    彼女の心からの優しさは今に始まった事じゃない。彼女が生まれた直後から窺っている。
   その優しさはヴァルシェヴラーム譲りとも言えた。


ミスターT「・・・そうか、そう言う事か・・・。」
エシェラ「どうしたの?」
    俺の自身への納得する言葉に、不思議そうに問い質してくる。今まで考えていた事がやっと
   理解できた。
ミスターT「お前はシェヴさんに似てるんだよ。子供に懐かれるという部分で。」
エシェラ「そ・・そうかな・・・。」
ミスターT「お前こそ後継者に相応しいな。保育士として経験を積み、ゆくゆくは孤児院の院長を
      務めるというのも。確かに今までよりも重役だが、エシェラならできない筈がない。」
   ほぼ確信論だろう。他の面々とは違い、今までエシェラの未来図を完全に予測できなかった。
   それが今やっと分かった。

エシェラ「・・・うん、分かった。貴方が押してくれるなら、私も命を懸けて突き進む。」
ミスターT「無論、俺も手助けしないとね。」
エシェラ「もちろんですよ、一生付き合って貰いますから・・・。」
    そう言うと背中合わせからこちらへと向き、背中に優しく抱き付いてくる。首に回した両腕
   に力が篭った。俺に向けての愛情の表れとも感じ取れる。


    暫くの間、無言の一時が流れる。お互いの温もりを感じながら、癒しの一時を満喫した。
   彼女もこういった事で、己自身を支えているのだろうから。
エシェラ「・・・愛しています。」
ミスターT「俺もだよ・・・。」
   肩に乗せてきた頭を静かに撫でる。どこまでも愛おしい存在のエシェラ。今では俺自身の心の
   支えにもなっている。彼女を幸せにする事が、俺の生涯の使命でもある。
エシェラ「それと・・・今後もみんなの愛も受けてあげてね。」
ミスターT「ハハッ、分かってるさ。」
   催促するように付け加えてきた。俺の心中を見透かすような応対である。自分だけではなく、
   周りへの気配りも大切にしろと語った。特にその意味合いが含まれるのは、同じ関係を持った
   5人へ対してのものだろう。


    もうここまで来ると途中退場は不可能だ。タブーとされている行為であっても、彼女達が
   求めてくるなら誠心誠意応じるしかない。

    それに心の癒しにより彼女達が前へと進めるのなら、これほど喜ばしい事は他にはない。
   俺も腹を括るしかないのだ。


    背中にエシェラの温もりを感じつつ、その一時を大切にした。言葉は不要、寄り添うだけで
   お互いが理解できるほどだった・・・。

    第2部・第7話へと続く。

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