アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第8話 再度の原点回帰1〜
    盆踊りを満喫した翌日、7泊8日の旅行へと出掛けて行った。本店レミセンや他の店舗は
   デュリア達やエイラ達に全て任せてある。先日集った面々だけでの、家族旅行なものだな。

    エシュリオスとエフィーシュは流石に1週間も空ける事はできず、渋々断念していた。今度
   2人だけを誘って出かけるべきだろう。


    準備は事前に整えてあったため、当日は苦労せずに出発できた。俺はキャンピングカーを
   運転する、場所は既に把握済みだ。まあカーナビの指示もあっての運転だが。

    後方からはハーレーサイドカーにウインド・ダークHと、ヴァルシェヴラーム・シュームが
   搭乗している。シュームも普通車と大型二輪を持っているため、相互での運転はお手の物だ。



ミスターT「エシュリオスとエフィーシュは仕方がなかったとして、ターリュ達やアサミ達には声を
      掛けなかったのか?」
    来る前に気になっていた事をエシェラに尋ねる。旅行などに連れて行けば喜びそうな面々を
   呼ばなかった事で、後で言われないかと心配になったためだ。
エシェラ「ターリュさんとミュックさんはメルアさんと一緒に外国へ帰省しています。アサミさんと
     アユミさんはナツミYUさんのサポートをしていますよ。」
ミスターT「ふむ・・・なら大丈夫か。」
   助手席の背もたれを倒し、足をフロント部分に乗せて寛いでいる。女性らしからぬ行為だ。


    後ろでは滅多にない旅行とあって、リューアとテュームが子供のようにはしゃいでいる。
   それに便乗しているのがラフィナ・エリシェ・シンシア・リュリアだ。真後ろにリデュアスが
   いるが、暴れる娘達をオロオロしながら見守っている。

    またリデュアスの真横には、チャイルドシートにしっかり固定されたヴェアデュラもいる。
   一際大人しくしている姿を見て思う。じゃじゃ馬娘にヴェアデュラの爪の朱を煎じて飲ませ
   たい・・・。


ミスターT「リデュアス、それで後ろのじゃじゃ馬でも撮っててくれ。」
リデュアス「あ・・はい、分かりました。」
    足元にあるケースにはヴァルシェヴラーム持参の本格的なカメラが入っている。またビデオ
   カメラも入っており、孤児院でも凄腕カメラマンとして君臨するだけある。
   リデュアスもカメラに関して知識があると窺っているので、そのスキルを活かして後ろの様子
   を録って息抜きをと勧めたのだ。

    ビデオカメラ片手に現れるリデュアスを窺うと、我勇んで写りたがるお転婆娘達。それに
   当てられたエシェラも動き出し、一緒になって暴れだした。もはや暴徒だな・・・。

    それにこれと同じ事が3年前にもあった。時は巡る、不思議な縁を感じるわ・・・。



    数時間掛けて三浦海岸のホテルへと到着した。別荘兼ホテル、エリシェの考えはスケールが
   違いすぎる・・・。まあ彼女らしくていいが・・・。

リュリア「うわぁ〜、海だぁ〜!」
    全ての荷物を最上階の部屋へと移動させた。暫くはここを拠点に動く事になる。表から眼前
   に広がる海を目の当たりにし、リュリアは大喜びしている。また普段から滅多に遠出をしない
   ウインド達も、その絶景に完全に虜にされていた。

リュリア「海入ってくるねぇ〜!」
    水着などの道具を持ち、一目散に表へと出て行く。それに慌ててリューアとテュームも同様
   の道具を持ち追い掛けた。
エシェラ「私達も先に行ってますね。」
エリシェ「ついでにフロントで詳しく手続を済ませておきます。」
リデュアス「お供しますよ。」
ヴァルシェヴラーム「ミスターT君、後からゆっくり来てね。」
   ヴァルシェヴラームが一同を表へと連れ出してく。胸にはヴェアデュラを抱き、まるで大所帯
   の母親といった雰囲気だ。海水浴を満喫したいといった顔で他の女性陣も部屋を後にする。
   瞳をキラキラと輝かせているのを見ると、こちらも嬉しくなってしまうほどだ。



シューム「君は行かないの?」
ミスターT「俺はカナヅチだ・・・。」
    これも俺の欠点の1つ。浮かぶ事はできても泳ぐ事ができない。水中と空中は苦手と言う
   べきだろうか。
シューム「フフッ、また弱点見つけた。」
ミスターT「そんなに嬉しいかね・・・。」
   そう言うと俺に抱き付いてくるシューム。誰もいないという事から、積極的に行動してきた。
シューム「もう貴方しか見えない・・・。時間が経てば経つほど貴方が恋しい・・・。」
   まるで貪るかのようにアツい口づけをしてくる。この言動を見れば、彼女が飢えに飢えている
   というのが窺えた。俺はただただ応じるしかない。

シューム「貴方にはエシェラがいるというのは分かってる・・・、でも・・・。」
    口づけを終えると胸の中で余韻に浸る彼女。鼓動は早く、その様子が胸から伝わってくる。
   ヴァルシェヴラームが指摘した通り、愛しい人を失う事を誰よりも恐れているのが分かった。
   俺を見る目が定まっていない。自身の内に思う感情が爆発し、どうしたらいいか分からないと
   いった雰囲気だ。
ミスターT「お前の望んでいる事は分かる。だが第一線を超える事はできない。」
シューム「分かってるわ。でも・・・目の前にいるのに・・・、掴む事ができないなんて・・・。」
   泣き出す彼女の顎をソッと持ち上げ、静かに唇を重ねた。心を癒すかのような甘い口づけだ。
   今の彼女を落ち着かせる意味も込めて、長い間唇を重ね合った。



ミスターT「落ち着いたか?」
    心を癒す思いの口づけが幸をそうしたか、落ち着きを取り戻すシューム。彼女を胸に抱き、
   その背中を軽く叩き続けてあげた。
シューム「ごめんね・・・、私って弱いよね・・・。」
ミスターT「今まで頑張ってきた反動だよ、気にする事じゃない。」
   たった1人で戦ってきたのだ。一度心の蓋が外れれば、押し寄せる淋しさと悲しみの渦は壮絶
   なものだっただろう。
ミスターT「俺は幸せだな。お前の背中を押せる事ができる。助けて貰える事ができるのは幸せな
      証拠だよ。」
シューム「あ・・・ごめんなさい・・・。貴方は・・・1人で・・・。」
   再び泣き出すシューム。彼女が気付いたのは、俺には心の支えがなかったという事を感じた
   ためだ。俺の場合は実の所、ヴァルシェヴラーム譲りの信念と執念の固さがあった。特に辛い
   といった時はない。既に落ち込んでも立ち上がる術を知っていたためだ。
ミスターT「悲しい事じゃない、俺は今が幸せだよ。お前を支えられないのではなく、しっかり支え
      られるのだから。」
シューム「・・・ありがとう。」
ミスターT「もっと気丈な君が見たい、普段以上の肝っ玉据わった君を。それが俺の願いだ。」
   再び唇を重ねる。今度も心を癒すような口づけをしてあげた。今俺ができる最大限の労い。
   どこまでも純粋な思い、それを心から込めて・・・。



    部屋にてシュームの背中を押す事数十分。落ち着きを取り戻した彼女と一緒に、遅れて浜辺
   へと訪れる。すっかり元に戻ったシュームも水着になり、他の女性陣と一緒に海水浴を満喫
   していた。

    俺は水着にはならず、普段の格好のまま海の家近くのテーブルの前に座る。シュームの応対
   だけでも命懸けだ。それだけ本気になれたという事だろうか。


    そこに水着姿のヴァルシェヴラームが訪れる。他の女性陣はビキニなのだが、彼女の場合は
   白いレオタード風である。胸には薄着に着替えたヴェアデュラがいた。

ヴァルシェヴラーム「落ち着いたみたいね。」
ミスターT「知っていたのですか。」
ヴァルシェヴラーム「到着した後ね、不安定になったのが分かったわ。だから皆を連れて先に出た
          のよ。」
    流石はヴァルシェヴラーム、機転溢れる行動には恐れ入る。俺も彼女のような人物になり
   たいものだ。
ヴァルシェヴラーム「他の子達はしっかりしてるけど、シュームさんの場合は過去の苦節と今までの
          反動ね。」
ミスターT「薄々感じていました。立ち直らせるのに一苦労でしたよ。」
ヴァルシェヴラーム「それは一時的なものね、また同じ事が起きるわ。まあ正直な話、君が優しく
          し過ぎているというのも原因よね。」
ミスターT「それは確かにそうですが・・・。」
   かといって冷たくしたのでは彼女自体が持たないだろう。人は些細な事が切っ掛けで廃人へと
   なりかねない。また些細な事が切っ掛けで復活するというもの。

ヴァルシェヴラーム「一番いい方法は、君と彼女との愛の結晶かな。リュリアちゃんの存在が彼女を
          支えたように。」
ミスターT「そこまで切羽詰ってるのですか・・・。」
ヴァルシェヴラーム「女性はね、貪欲の頻度は男性を遥かに凌駕するわ。それだけ強くもあり弱くも
          あるのよ。君ならその度合いが分かると思うわ。」
    皮肉にも風来坊という存在が、彼女の言った意味を理解させる。7年間と3年間の旅路は、
   間違いなく俺の全ての糧と言っていい。
ヴァルシェヴラーム「今夜エシェラさんに相談しなさい。これ以上遅くしたらシュームさんが壊れる
          可能性があるから。」
ミスターT「・・・分かりました。」
   これはもはや精神的な面だろう。今のシュームを癒せるのは俺しかいない。世間体を超越した
   考えを起こさねば、彼女を支える事はできないのだから。


ミスターT「・・・動き出す時は今、か・・・。」
ヴァルシェヴラーム「そうね・・・。」
    海でエシェラ達と戯れるシュームを見つめ、俺とヴァルシェヴラームは一服した。というか
   彼女、煙草吸うのか・・・。
ミスターT「シェヴさんも煙草吸うのですか・・・。」
ヴァルシェヴラーム「孤児院を担うようになってからは吸わなくなったけどね。」
   煙草を吸う姿が色っぽい。大人の女性といった感じを、より一層彷彿とさせる。しかも出で
   立ちが水着なため、野郎心をくすぐられる・・・。
ヴァルシェヴラーム「喫煙の姿の憧れは、君が影響かな。この点は師匠だね。」
ミスターT「フフッ、違いない。」
   偉大な恩師という事で、普段から敬語を使って話している。だがそれを除けば、普段と変わら
   ない接し方になってしまう。彼女に敬意を表しているため、あまり言いたくないのだが。

    ちなみに、喫煙の時はヴェアデュラは目の届く範囲での遠方に安置している。まだ未成熟な
   ため、煙草の煙は猛毒の何ものでもない。まあ本当に彼女の健康を考えるなら、喫煙は一切
   しない方がいいのだが・・・。



ヴァルシェヴラーム「1つだけお願い聞いてくれるかな。」
ミスターT「何ですか?」
    彼女からお願い事を言われるのは滅多にない。ヴェアデュラを託された時以来だろうか。
   真剣な眼差しは、それ相応の覚悟を秘めてのものだろう。
ヴァルシェヴラーム「今から敬語は止めてくれないかな。」
ミスターT「・・・自然体に接してくれ、という事ですか?」
ヴァルシェヴラーム「見るところ私だけにじゃない、ずっと敬語を使い続けているのは。私も一応
          普通の女よ、歳は取ってるけど。」
   自然体に接してくれ、か・・・。確かにその方が気兼ねなく話せる。それに恩師たっての頼み
   とあれば、応じるしかないだろう。
ミスターT「・・・分かりましたシェヴさん。」
ヴァルシェヴラーム「ほらっ、言ってるそばから・・・。」
ミスターT「・・・分かった。シェヴもみんなと一緒に泳いできな、ヴェアの面倒は見るから。」
ヴァルシェヴラーム「はいっ!」
   この上なく嬉しそうな表情を浮かべるヴァルシェヴラーム。恩師にタメ口と呼び捨てで話す、
   何かバチが当たりそうだ・・・。まあ彼女がそうしてくれと言うのなら仕方がないか・・・。


    まるで子供に戻ったかのように他の女性陣の元へと駆け寄る。その姿は普段の彼女を感じ
   させないほどだ。

ミスターT「・・・そう言う事か・・・。」
    ヴァルシェヴラームがタメ口と呼び捨てで自分に接してくれという意味が分かった。それは
   普段からの気丈な自分を、俺がいる時だけは脱ぎ捨てたいという事だ。彼女もまたシュームと
   同じように、自身を押し殺してまで動いている証拠だろう。

ミスターT「・・・ありがとうございます・・・。」
    無意識に礼を述べてしまう。ありのままの自分で、恩師ヴァルシェヴラームはそう語った。
   つまりは俺も自身を押し殺す必要はないという事だ。それはシュームを1人の愛しい人として
   見ろという裏返しだ。

    ヴァルシェヴラームの度重なる労いに、俺は心から感謝した・・・。これならシュームの
   思いに応えられる。選ぶ時、動く時は今なのだ・・・。



    夕食を終えて娯楽施設で遊ぶ一同。まだ息抜きは始まったばかりだというのに、初日から
   全力投球をしている。これで明日以降が持つのかね・・・。
ヴァルシェヴラーム「エリシェさんに頼んだわ。今夜は下位の部屋を確保したから、シュームさんと
          そこで寝なさい。」
   俺と同じくパチンコを楽しむヴァルシェヴラーム。性格から趣味から実に似ている・・・。
   その彼女が今夜の事を告げてきた。もはや逃げる事はできない、前へ進むのみだ。
ミスターT「ありがとう。だが正直怖いがね・・・。」
ヴァルシェヴラーム「大丈夫よ。恐怖も一線を超えれば希望になる。彼女を助けたいのでしょ?」
ミスターT「そりゃそうだが・・・。」
ヴァルシェヴラーム「身体は周りに気配っても、心はエシェラさんに定めていればいいわ。貴方を
          心から慕っているのだから。」
ミスターT「分かった。」
   静かに溜め息を付くと、俺の肩を軽く叩くヴァルシェヴラーム。その後もパチンコに精を出す
   俺達。本当のパチンコではないのに、フィーバーが来れば大喜びする。彼女にとってもこの
   瞬間が息抜きなのだろう。そう考えると実に嬉しくなる。



リュリア「やったぁ〜、勝ったぁ〜!」
ミスターT「うわ〜、負けた・・・。」
    締めは全員でのポーカー対決。掛け金はジュース、負けた人物が買った人物におごるのだ。
   既に数回負けっぱなしの俺は、全員にジュースをご馳走する事になった・・・。
ウインド「マスター・・・弱いですね・・・。」
ミスターT「運が弱いだけだ、もう一勝負!」
リューア「結果は目に見えていますが・・・。」
   どの面々も呆れ気味だ。どうやら俺は複数の面々と勝負する場合は、周りに運気を分け与える
   ようだ。まあ負けても勝ちたいとは思っていないのが実情だが・・・。これも問題か・・・。


リュリア「また勝ったよぉ〜!」
ミスターT「終わりだぁ〜・・・。」
    その後数度に渡り勝負を繰り返すが、結果はボロ負け。全員に2杯以上のジュースをおごる
   形になってしまった。
テューム「そうだ、お土産に変えて貰ってもいいですか?」
ダークH「それいいね!」
シューム「ならあと100回はやるよぉ〜、覚悟しなぁっ!」
   ジュースからお土産に変わった事で、俄然やる気になった女性陣。闘気剥き出しで挑む姿は、
   さながら血に飢えた野獣そのものだ。怖ろしいまでに続くポーカーバトル。俺はただただカモ
   にされるだけだった・・・。

    ・・・口座から多く資金を下ろした方がよさそうだわ・・・。



    その後は完膚無きまでにボロ負けした。お土産は後で買うという事にし、今は全員して風呂
   に入っている。流石に混浴ではなく、男湯は俺1人だけだ。

    軽く汗を流し身体を洗って部屋に戻る。中に誰もいない事からまだ入浴中だろう。しかし、
   今日だけで幾らの出費なんだ・・・。恐らく明日以降もやるとか言い出すに違いない・・・。


ミスターT「・・・動く時は今、か。」
    圧し掛かる重圧。結婚しないにせよ、シュームを娶る事には変わりない。先程の言動から、
   そこまで思い悩んでいるという事だ。物凄い重圧と責任感だ・・・。

    バルコニーに出て一服する。それと同時に頭に身に着けている覆面を取り外した。初めて
   覆面を着用した頃は汗疹などに苦しめられたが、今ではすっかり慣れたものだ。夜風になびく
   俺の前髪、覆面を外した方が爽やかなのは言うまでもない。

ミスターT「・・・俺も覆面によって押し殺しているのか。」
    何を今更といった事を口にする。しかし今となっては覆面なくして俺は語れない。用は心の
   問題だ。俺と一心同体の覆面は、今後も着用し続けた方がいいだろうな。

    後半へと続く。

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