アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第8話 再度の原点回帰2〜
ミスターT「よう、遅かったな。」
リュリア「あれ〜、もう戻ってきてたの〜?」
    遅れてリュリアを筆頭に女性陣全員が戻ってくる。髪をバスタオルで拭く仕草とラフな出で
   立ちは実に色っぽい。

ウインド「あっ・・・。」
ダークH「マスター・・・それ・・・。」
    ウインド・ダークH・リデュアス・リューア・テューム・リュリアが驚愕している。彼女達
   が示すは、俺の左手に握られている覆面だ。つまり俺の素顔を見て驚愕しているのだ。
リュリア「うわぁ〜、お兄さんの素顔が見れたぁ〜!!!」
   満面の笑みを浮かべながら抱き付いてくるリュリア。マジマジと俺の顔を見つめ、今までに
   ないほど頬を染めている。他の俺の素顔を初めて見る女性達も、顔を赤くしていた。

リュリア「ねぇねぇ〜、素顔のままでキスさせて〜!」
    どこかで聞いた台詞だ。そうか、3年の旅路から戻った時、4人と一緒に添い寝した時の
   ものか。そう思う否か、俺の唇を奪うリュリア。爆発的に動きまくる彼女は、正しく未来の
   シュームそのものだろう。
エシェラ「リュリアちゃんには敵わないなぁ・・・。」
   遠巻きに見つめる6人。その表情は嫉妬を通り越し、純粋無垢までの感情で動くリュリアが
   羨ましそうだ。


    時に幼さは強力な武器になる。論理で塗り固められた大人では理解できない一途さ。それが
   子供の絶対的な最強の武器なのだ。

    今はリュリアの好きにさせてあげよう。今後が思い遣られるが・・・。それよりも同じ年代
   になった時のヴェアデュラが気掛かりだ・・・。何とも・・・。


    その後は素顔を初めて見た女性陣からのアプローチが凄まじい。俺の顔を見たいと申し出が
   後を絶たない。頬を染めながらも見入る彼女達に、俺は苦笑いを浮かべるしかない・・・。



ミスターT「麻雀セットまで持ってきたのか。」
    汗が引いたので覆面を着用する。その時は彼女達から批難の声が挙がりまくる。素顔のまま
   でいろというのが実情だろうが、これはこれで俺の姿なのだから。
リューア「非番時はよくやります。」
テューム「こう見えても結構強いですよ。」
   若干長方形っぽいテーブルを囲み、麻雀を始める女性陣。メンツはリューア・テューム・
   リデュアス・ウインドだ。ウインドはダークHと、リデュアスはメルデュラと。テュームは
   シンシアと、リューアはラフィナと交代で動いている。
   エシェラ・エリシェ・リュリア・ヴァルシェヴラームは、ヴェアデュラの面倒を見ながら雑談
   に明け暮れる。だがシュームだけは浮いている存在になっていた。


ミスターT「少し散歩してくるわ。シューム、お前も一緒に来な。」
シューム「私も・・ですか・・・。」
    落ち込みが目立ちだしている事から、普段の明るさが失せている。そこを強引にでも立ち
   直らせようというものだ。

ヴァルシェヴラーム「ほらほら、行った行った。」
リュリア「頑張ってねぇ〜。」
    まるでシュームを追い出すかのように、ヴァルシェヴラームとリュリアが肩を押して部屋の
   外へと連れ出していく。その姿に唖然とする俺達だが、傍らにいるエシェラとエリシェが俺と
   顔が合うと小さく頷いた。

ミスターT「ごめんな、エシェラ。」
エシェラ「大丈夫ですよ、私は貴方を信じていますから。」
エリシェ「シューム様の心を完全に癒してあげて下さい。」
    恋仲エシェラや恋人エリシェから公認という事実だけに、もはや動かねば何を言われるか
   分からない。苦笑いを浮かべつつ部屋を後にした。

    部屋の入り口ではヴァルシェヴラームに肩を軽く叩かれ、リュリアに右手を軽く握られた。
   2人とも全て分かっている。特にリュリアまでもしっかりと把握しているようだ。



    一旦表に出る俺とシューム。夜風が涼しいが、相変わらずの熱帯夜だ。暫く海岸を散策する
   事にした。

ミスターT「まだ心が重いか。」
シューム「・・・分からない・・・この後どうしていいかも・・・。」
    一歩間違えば鬱病になりかねない。しかし、そこまでして俺の事を思ってくれているのだ。
   彼女の期待に応えねば、俺が俺でなくなるのも事実だろう。

ミスターT「・・・お前の思い人は今も愛しているよな?」
シューム「リュリアの父ね、一時も忘れた事はないよ。」
ミスターT「・・・その恩人の事を一生涯忘れないというのなら、俺は構わない。」
シューム「えっ・・・。」
    少し困惑した表情を浮かべて考えるが、その意味を把握して顔を赤く染めだす。俺ももう
   悩む必要はあるまい。後は先へと進むだけだ。

ミスターT「嫌なら構わないが。」
シューム「・・・貴方は・・本当にいいの?」
ミスターT「俺よりもお前がどうかだ。俺が何よりも望むのは、以前のような肝っ玉が据わって元気
      一杯の君自身だよ。」
    正直心の片隅では恐怖が存在する。俺がしようとしている事は、彼女に幸せを運べるのか。
   それとも一生涯残るような不幸を残すだけなのか。
   だが、止まって悩むよりは動いて悩んだ方がいい。それだけは明確に理解できる・・・。


シューム「・・・うん、貴方が欲しい・・・。貴方と過ごした・・・、貴方と分かち合った明確な
     証が欲しい・・・。貴方を何時でも感じられる証が・・・。」
ミスターT「分かった、もう言うな。」
    泣きながら懇願するシューム。しかし涙を流す瞳はどこまでも据わっている。彼女の心の
   決意は痛いほど理解できた。俺は彼女を抱きしめる。それを理解したという意味に代えて。
シューム「あの人もそうだけど・・・、今は君だけしか見えない・・・。君が愛しい・・・嬉しい、
     嬉しいよ・・・。」
   胸で泣き続けるシュームを感じ、心に残っていた恐怖は消え去った。あるのは彼女を幸せに
   させるという一念だけだ。変な目で見られても、間違っていたってもいい。目の前のこの人を
   救えるのは俺しかないのだ。

    静かに、そう・・・本当に静かに唇を重ねてくるシューム。そこに全てが込められている
   かのように・・・。もう悩むまい、悩んでなるものか・・・。



    正直な話、その後はうる憶えだ。女性陣がいる部屋の下位の部屋に移動したまでは憶えて
   いるが、それ以降は殆ど記憶にない。

    気付いたら朝になっており、傍らではシュームが心から安らいだ表情で眠っている。彼女の
   顔をみれば、彼女が心から救われたと直感できた。


    既に午前11時を回っているが、部屋には誰も入ってこなかった。多分一同が気を利かせて
   くれているのだろう。掃除担当の係員が回ると窺っていたが、それすら来ていないのだから。


シューム「・・・おはよう。」
    彼女の頬を優しく撫でていると目を覚ました。相変わらず表情は穏やかである。昨日までの
   不安の色は微塵も感じさせない。
ミスターT「元気そうだな。」
シューム「うん・・・。」
   端的な言葉だが、今は心を通わせられるように理解できる。言葉など不要、正しくその通り。

ミスターT「正直、昨日の事はよく憶えていない。お前自身は満足したのか?」
シューム「うん、大丈夫・・・。貰うものは沢山貰ったし、後は待つだけだから・・・。」
    ・・・改めて思う、とんでもない事をしてしまったのだと。いや、むしろ記憶があやふやの
   方が幸せの場合もあるのだろうか。どちらにせよ、もう後戻りできないのは確かだ。
シューム「それでも・・・まだ君が欲しい・・・。付き合ってくれるかな・・・。」
ミスターT「ああ、分かった。どこまでもお前の望むがままにしよう。」
   体力的に疲れは残っているが、彼女に心の隙間を作る事はもっと辛い。今はどこまでも応じる
   しかない。彼女が心の底から満足するまで、俺の戦いは終わらないだろうから・・・。



    結局その日も夜8時まで求め合ってしまった。流石に心配になったのだろう。エシェラや
   ヴァルシェヴラームがメールを送ってきたが、一言だけ告げて返した。まだ応じている、と。

    しかし・・・女性は強い、俺はもうボロボロだ。貪欲までに貪り続ける血に飢えた野獣。
   そこに肝っ玉が据わって我武者羅に突き進む、お転婆やじゃじゃ馬も相まって凄まじいまでの
   存在だ。

    これほどまでに女性が強く怖い存在とは思わなかった。俺もまだまだ修行が足りないな。
   まあシュームもそうだが、お互いにいい経験をさせて貰ったのは事実だ。



    朝食・昼食を食べずに求め合ったため、夜食をこれでもかというぐらい平らげた。それは
   同じ境遇だったシュームも同じだ。今の彼女は完全に復活している。一切の迷いや暗さを感じ
   させないほどだ。

エシェラ「お疲れ様。」
ミスターT「女は強い・・・。」
    下位の部屋を片付けて明け渡し、上の部屋へと戻る。その後部屋にいるエシェラが紅茶が
   入ったカップを手渡してくれた。徐に飲む紅茶は凄まじく美味い。

エシェラ「母さんは大丈夫そうよ。雰囲気からして迷いが感じられない。」
ミスターT「・・・今度は俺に迷いが移ったんだが・・・。」
エシェラ「大丈夫よ。今度はその悩みを私も分かち合うから。」
    ・・・怖い。母を気遣っている部分は存在するが、それは子供としての一念だ。しかし彼女
   に内在する女という部分は、大きな嫉妬感をギラつかせる。彼女の目を見れば一目瞭然だ。

エシェラ「でも、ありがとね。本当言うと私を取って欲しかったけど、母さんの苦しむ姿も見たく
     ないから。」
ミスターT「・・・ありがとう。」
エシェラ「お礼ならこちらが言うべきです。」
ミスターT「いや、そうじゃない。お前は俺を心から信じてくれているが、今回の件はそのお前を
      裏切った形になる。皆からの愛情に応じるのと、結晶を残すとなると話は別だから。
      お前には本当に悪い事をした、すまない・・・。」
    心の問題とも言えばそれまでだろうが、どうしてもこの一線を超えられない。ここを何気
   なく超えてしまったら、それこそモラル無き愚者と言えるのだろう。まあ実際は愚者になって
   いるのが実情だろうが・・・。


エシェラ「・・・優しいね。昨日一晩と今日昼間の間、要らぬ考えばかり浮かんでた。もう元には
     戻れない、私は忘れ去られるのだと・・・。でもその言葉で十分癒された、私自身が私で
     いられる事が分かったから。」
ミスターT「・・・すまない。」
    謝り続ける俺に抱き付いてくる。罪悪感を使命感に代えるのだと恩師ヴァルシェヴラームは
   語ったが、今は罪悪感しか残っていない。それを忘れさせるような抱擁だ。

エシェラ「やっぱり貴方を心から愛してます。その貴方の心を一瞬でも理解できなかった私は、恋仲
     失格ですよね・・・。」
ミスターT「今はまだ無理だが、時が来たらお前からも応じる。それまでは待ってくれないか?」
エシェラ「うん、何時までも待ってる。例え私が最後になっても、貴方を待ち続ける。」
ミスターT「ごめんな・・・。」
    彼女の顎をソッと持ち上げて唇を重ねた。今はこれが精一杯の慰め。シュームのような全て
   を分かつような行為は今はできない。それは分かって欲しい・・・。



    眠れない・・・。今度は俺が罪悪感に苛まれている。これは間違いなく全てに翻弄される
   俺自身に対して、自分自身が苛立ちを感じているとしか思えない。

    俺自身はどうあるべきか、俺自身はどう進むべきなのか。それが不安によって掻き消され、
   完全に停滞している状態だ。


    徐に起き、バルコニーへと向かう。一服しなけば落ち付けない。いや一服しても落ち着く
   事はできないだろう。蟻地獄でもがく蟻の如く、心の悩みも大渦となって俺を飲み込んでる。



ヴァルシェヴラーム「貴方自身がどうあるべきかによりますよ。」
    徐に声がする。幻聴かと思ったが、傍らにヴァルシェヴラームがいた。考え込むと周りが
   見えなくなるというのはこの事だな。

ミスターT「俺はどうあるべきですかね・・・。」
ヴァルシェヴラーム「答えは貴方が一番知ってると思います。あれだけの激闘を勝ち進んできたの
          ですから。心には不動たる原点回帰が存在している筈ですよ。」
    敬語で喋るヴァルシェヴラーム。今まで誰にでもタメ口風な口調で話していたため、この
   彼女の言動には混乱する。

ヴァルシェヴラーム「今の貴方は私を超える存在です。私はどうしても常識からは一歩前へ出る事が
          できませんでした。でも貴方はシュームさんを助けるために、己を捨ててまで
          手を差し伸ばしてあげたのです。私には到底無理な事ですよ。」
ミスターT「己を捨てて・・・か。」
    己を投げ打ってでまで人を救う。本店レミセンで身体を張ってエシェラを救った。そこに
   至るまでの決意は何なんだ、紛れもないテメェの生き様を示す信念と執念だろうが・・・。

ミスターT「・・・何か簡単な事で悩んでいたみたいです。」
ヴァルシェヴラーム「でしょう。貴方の肝っ玉の据わりはシュームさんや私を遥かに凌駕します。
          悩んでも苦しんでも最悪逃げても、必ずその場所に回帰する。それが貴方の
          存在。貴方は既に答えを知っています。だから先に進めたのです。恐れる事は
          全くありません。ただ一点のみ、人を助けるという事だけを思えば・・・。」
    右側にいるヴァルシェヴラームの肩を軽く叩く。それに色々な意味を込めた。彼女の事だ、
   その意味をしっかりと把握している。



ヴァルシェヴラーム「さっき魘されていたのに気付きませんでしたか?」
ミスターT「俺がですか?」
    眠れず目を覚ました時、周りはそのまま寝入っていた。故に何事もなかったのだと思った。
   だが彼女が話すには、相当魘されていたというのだ。
ヴァルシェヴラーム「正直怖かった。君が魘されていたのは、エシェラさんが2階から落ちた時に
          庇ったあの時だけ。その表情と同じだったのですよ。」
ミスターT「・・・すまない。」
   また心配を掛けてしまったな。もう二度と心配はさせないと決意していたのに。情けない。

ヴァルシェヴラーム「でも嬉しかった、貴方の本当の姿をまた窺えたから。まるで自身の感情を押し
          殺しているかのようで。久し振りに会った時の貴方の表情、まるで魂が死んで
          いるかのような顔でしたから。」
ミスターT「そうだったのか・・・。」
    俺が生まれた時から面倒を見ている彼女の事。この発言からすれば、相当な表情をしていた
   のだろう。今思えば馬鹿な事をしてしまったと痛烈に反省している・・・。

ヴァルシェヴラーム「貴方は1人じゃありません。皆さん一緒です。心から感謝している人、心から
          慕っている人。そして心から愛している人。貴方の生き様が私達をこの場、
          今世に廻らせたのです。幸せなのは私達の方ですよ。」
    涙が止まらない。俺の生き様は紛れもなく、一同の中に生き続けている。どんなに辛くとも
   歯を食いしばり膝を折らずに突き進んだ。その結果が今なのだ。

ミスターT「ありがとう・・・シェヴさん。」
ヴァルシェヴラーム「皆さん待っていますよ。」
    俺の頭を優しく撫でると、ベッドの方を指し示す。そこには心配そうにこちらを見つめる
   彼女達。というか月明かりが差し込む中で見える複数の目は、ある意味恐怖そのものだ。



リュリア「お兄さん、一緒に寝よ〜。」
    ベッドに戻ると、俺の胸の中に飛び込んでくるリュリア。眠い中起きていたのか、そのまま
   スヤスヤと眠ってしまう。他の面々も俺の表情を確認すると、安堵の笑みを浮かべて夢の中に
   旅立っていく。
ミスターT「・・・ありがとう・・・。」
   一同に小さく礼を述べ、俺も再び寝に入る。胸で眠るリュリアの温もりが、何時も以上に心地
   良い。その小さな頭を優しく撫でて静かに瞳を閉じた。



    何度となく原点回帰をする。その度に前へと突き進む。その繰り返しが人生なのだから。
   それを恐れていては、停滞即破滅だ。行動即希望の方が俺に合っている。

    しかし・・・俺も罪な男だな・・・、自分で言ってりゃ世話ないか・・・。何とも・・・。

    第2部・第9話へと続く。

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