アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第2部・第9話 クルージング2〜
シューム「何を見ているのですか?」
    泳ぎ終えたシュームがバスタオルで髪の毛を拭きながら現れる。相変わらず反則的な身体に
   黄色のビキニを纏っている。肌が濡れている状態が実に色っぽい、野郎心をくすぐられる。
   どうやら俺が熱心に携帯を操作し、内容を凝視しているのが気になるようだ。
ミスターT「父親としての心構えだよ。」
   隣に座るシュームに携帯を渡す。その内容を見つめ、嬉しそうにする彼女。
ミスターT「妊娠後暫くは煙草を吸わない方がいいな。それに君の健康管理も万全にしないと。」
シューム「大丈夫ですよ、こう見えても既にリュリアを産んでいるのですから。」
ミスターT「その油断が子供には命取りだ。大切な我が子なら、健康に育って欲しいからね。」
   言うか否か、涙を流しだす彼女。それには驚いたが、直ぐに心情を察知する。
シューム「嬉しい・・・、私だけじゃなく子供の事もしっかり考えてくれているなんて・・・。」
ミスターT「子供が欲しいから種付けしました、それでお役ご免です。そんな馬鹿げた父親には絶対
      なりたくない。表向きは結ばれないのだとしても、その子が独り立ちするまで責任を
      持って育てるから。」
   これが父親になるという事なのか。改めて考えると、凄まじい重圧が俺を襲ってくる。しかし
   原点さえしっかりしているなら、恐れるものなど何もない。後は誠意ある行動を。それが全て
   である。

シューム「・・・私ね、今まで亡くなったあの人を思っていた。リュリアを残してくれたあの人を。
     でもあの子が生まれる前に亡くなって、心の支えを失っていた。助けて欲しい時に、誰も
     助けてくれなかったから・・・。」
    語るその言葉は本当に思っている内情であった。俺は彼女の膝においていあるバスタオルを
   肩に掛けてあげる。すると俺の手にソッと自分の手を添えてくるシューム。
シューム「でも貴方は違った。ただ愛しい人に似ているだけじゃなかった。私が本当に助けて欲しい
     時に心から助けてくれた。そして今も助けてくれている・・・。今だから言える、貴方を
     心から愛しています。私の本当の大切な人は・・・貴方です・・・。」
   無意識に彼女を抱きしめる。彼女が欲している行動でもあるが、それ以上に心から動けると
   いう事だ。それだけシュームの存在が大きなものになっている。

シューム「ありがとう。しかし貴方の心はエシェラに向けて下さい。私は一方的に思っているだけで
     いいのですから。」
ミスターT「ああ・・分かった。」
シューム「でも・・・偶には慰めて下さいね。」
    寄り添う彼女の頭を優しく撫でる。それに満面の笑みを浮かべながら浸っている。その姿を
   見るとこちらまでも幸せになっていくようだ。



    彼女の言葉で罪悪感が薄らいだ。望まれるがままにシュームを身篭らせるだけの存在なの
   かと己を恥じていた。俺との子供を欲しているのは分かっている。だがそれだけで終わりなの
   かとも思っていた。

    端から見れば異常なまでの行為だと言うしかない。それでも、最終的には彼女達の幸せを
   築くのが俺の役目だ。周りがどうあれ、彼女達が望むがままにしてあげるべきだ。

    でも・・・複数の女性と関係を持ち、子供まで作るとなると問題はでてくるのだが・・・。
   いっその事、一夫多妻が認められる国へ移住した方がいいだろうな・・・。

    そうなると経済面での問題も出てくる訳だが、そこは俺が努力すればいいだけの事だな。
   むう・・・物凄い難しい展開になりそうだ・・・。



    ほぼ貸し切りとなったクルーザー。時刻は午後6時を回っているが、表はまだまだ明るい。
   船内に完備されている衣装を身に纏う俺達。女性陣は全員ドレス姿、俺は覆面こそ同じだが
   タキシードに着替えた。

リュリア「お兄さん、どうですか?」
    一番背が低いリュリアも、子供用のドレスを身に纏う。肩を露出したピンク色のドレスは、
   化粧も相まって実に色っぽい。
ミスターT「綺麗だよお嬢さん。」
リュリア「あ・・ありがと・・・。」
   恥らいながらも実に嬉しそうに微笑む。幾分か大人びいた様子が窺えるが、それは多分母親の
   変わり様に当てられてだろう。

ヴァルシェヴラーム「タキシードが冴えてるね。」
    ワイングラス片手に語るはヴァルシェヴラーム。黒いドレスを身に纏い、化粧を施した姿は
   普段の彼女を想像できないぐらい美しい。また幾分か酒が入っているためか表情が赤く、より
   一層大人の女性へと引き立たせている。
ミスターT「シェヴも綺麗だよ。」
ヴァルシェヴラーム「フフッ、ありがと・・・。」
   恩師に対してのタメ口は慣れた。彼女がそうしてくれと何度も言うのだから、自然と慣れて
   しまうのは言うまでもない。正直には敬語を使いたいのだが、彼女がそれを許さない・・・。


ミスターT「シェヴ、質問があるんだが。」
ヴァルシェヴラーム「な〜に?」
    俺は携帯を操作し、映し出された部分を彼女に見せる。それを見た彼女は、真剣な表情で
   見入っていた。
ヴァルシェヴラーム「子供の健康に関しては賛成ね。胎児に悪影響を及ぼす行為は絶対にしない事。
          また胎児を宿したシュームさんにも負担を掛けない事。産まれさえすれば、
          後は幾分か自由になるから。」
ミスターT「了解です。」
ヴァルシェヴラーム「シュームさんの様子からだと、しっかりと命を宿してるわ。一度母親になった
          人物は、同じ状態になると一層大人びくから。」
   予測した通りだ。シュームは確実に孕んでいる。既に経験済みの彼女故に、新たな命を宿した
   と直ぐに分かったのだろう。だからより一層本当の自分に戻ったのだろうから。

ヴァルシェヴラーム「もう1つは難しいわね・・・。本来日本は一夫多妻が認められていたけど、
          それは江戸時代などの話よ。今は一夫一妻が主流だし、モラル云々で色々と
          五月蝿いからねぇ・・・。」
ミスターT「でも中途半端な存在にはなりたくない。」
ヴァルシェヴラーム「それもそうね。法律的には一夫一妻で結婚は1人だけど、言い換えれば結婚を
          しないで結ばれればいいんじゃないかな。」
    薄々予測していたものだった。1人の女性と結婚してしまうと、それ以外との女性とは色々
   と問題がでてくる。だが全く結婚していない状態なら、なりゆきで子供ができてもアプローチ
   は受け続けているという理由もできる。
   全ては考えようだが、モラルに反する事をしている以上・・・罪悪感は必ず残ってしまう。

ヴァルシェヴラーム「少なからず6人は貴方を心から好いているわ。シュームさんは溺愛にまで発展
          してるけど、5人と同じ対等の立場だから。」
ミスターT「後は俺次第という事か・・・。」
ヴァルシェヴラーム「でも結婚しないにせよ、エシェラさんとは必ず一緒になりなさい。他の5人は
          言っちゃ悪いけど身体の付き合いだけだから。もちろん子供を欲しいと言う
          のであれば、それも心から応じるべきね。」
    怖ろしいまでの重圧だ。いや、それは6人を幸せにできるかという責任感の裏返しか。何に
   せよ6人分の絶対的な幸せを担わなければならないのは事実だ。

ヴァルシェヴラーム「まあ・・・後は覚悟さえあれば進めるわ。」
ミスターT「了解です。」
ヴァルシェヴラーム「フフッ、私も7人目になろうかしら・・・。」
    その言葉に背筋に悪寒が走る。怯える俺を見ると、舌を出して苦笑いを浮かべていた。彼女
   の場合は本気になったら間違いなく実行する。何せ俺の師匠だからな・・・。

    ともあれ、6人の幸せの確保が俺の一生涯の使命だ。特にシュームの場合は確実に幸せに
   しなければならない。今はもう辛いというより緊張感・悲壮感の方が強いが・・・。



    東京湾へと到着する。他の船舶と衝突しないように動く技術は素晴らしい。まあ機械的な
   動作もあるだろうが、最終的には人間の判断に依存する。

    正装で夜食を満喫した俺達は、表に出て夜景を楽しむ。海上だというのに全く揺れないのが
   不思議だ。船に乗っていない錯覚に陥りさせる。


エシェラ「今夜はエリシェさんと一緒ですね。」
ミスターT「あ・・ああ・・・。」
    何やらメモを取り出して語るエシェラ。俺的には体力面で疲れているのだが・・・。昨晩
   あれだけシュームに求められたのだ、本当は休みたいのが実情だ・・・。
エシェラ「今後4日間のスケジュールを組んでありますので参考にして下さい。」
ミスターT「何だよスケジュールってのは・・・。」
   メモを手渡される。それを見ると、シュームとエリシェを除く4人のローテーションが記述
   されている。つまりこのように応じて欲しいという事だろう。何とも・・・。

エシェラ「最終日は私にしました・・・。お疲れだとは思いますが、お願いします・・・。」
    これは応じなければ殺される・・・。日に日に嫉妬感が強くなっていく彼女。ギラついた
   殺気は俺に容赦なく突き刺さってくる。
ミスターT「・・・まさかシュームと同じにしろと言うんじゃないだろうな・・・。」
エシェラ「それはありませんよ。母さんが唯一フリーでしたので、行動に出たのでしょう。私達は
     正規の仕事がありますし。その・・・慰めてくれれば・・・。」
ミスターT「ああ、なら気は楽だ・・・。」
   というかそれ以前の問題だろうが・・・。全員が一度に子供が欲しいとなった場合を思い浮か
   べると、考えるだけでゾッとする・・・。しかし身体の交わりだけなら心は軽い。それでも
   端から見ればモラルもクソもないのだが・・・。

エシェラ「そうですか・・・気が楽ですか・・・、なら最終日は覚悟して下さいね・・・。」
    要らぬ事を言うんじゃなかった。嫉妬感が強くなりつつある彼女に、より一層嫉妬感を抱か
   せるような発言をしてしまった。
   表情が何時になく怖い・・・、これは最終日が怖ろしい事になりそうだ・・・。



    夜景を満喫した俺達は船内へと戻る。既にクルーザーは三浦海岸まで戻っているようで、
   ゆっくりと動き出していた。

    時刻は午後10時。今日はエリシェの相手をしなければならない・・・。普段は感情を表に
   出さない彼女なだけに、どれだけの嫉妬感を抱いているのか考えただけでゾッとする・・・。


ミスターT「既に一晩共にしてるのに、まるで初めてのような気がしてならない。」
    昨日のように別途部屋を提供してくれた。今はエリシェと2人きりで室内にいる。他の面々
   はそれを理解してくれているようだ。
エリシェ「心は何時も初心に戻る、いい事ですよ。」
   紅茶が入ったカップを手渡してくる。最近紅茶を入れる事にハマっているとの事で、自前の
   紅茶セットを常に持参しているぐらいだ。受け取った紅茶を口にするが実に美味しい。
ミスターT「エリシェも喫茶店のマスターになればいいのに。」
エリシェ「草創期は財閥や施設の運営などを中心に行います。60歳以降からはマスターとして余生
     を送ろうかと思っていますので。」
ミスターT「そうか。今後を明確に定めているのか。」
   彼女の性格上、無用な心配だったのかも知れない。俺が知っている人物の中で、怖ろしいまで
   にしっかり者がエリシェなのだから。

エリシェ「生活も財力も問題はありません。もちろんそれに溺れず、努力する姿も忘れませんよ。」
ミスターT「そりゃそうだ。俺も肝に銘じないと・・・。」
    エリシェの場合は膨大な資金源があり、言わば彼女自身が働かなくても生きていける。だが
   目的を失った人間ほど虚しい存在はない。日々努力する姿勢が大切である。それは俺にも十分
   当てはまる。
エリシェ「でも・・・どうしても手に入らないものがあります。どんなに努力しても多大な資金を
     投じても、絶対に手に入らないものが・・・。」
ミスターT「心配ない。お前も俺にもしっかりと目に映り、離す事なく持っている。」
   不安な口調で語るエリシェを抱き寄せる。彼女の言いたい事は、俺に対する一途な一念だ。
   どんなに思いを寄せても、その思いは儚い存在。不安で仕方がないのはよく分かる。

    俺は抱き寄せた彼女の顔を優しく両手で持つ。そしてお互いの目を見入った。目の前には
   確かに存在している。彼女の一瞬の願いを叶えさせてあげた。
ミスターT「俺には思い人がいるから、本当には応じられない。でもそれ以外の全てを、望むのなら
      分け与える事ができる。それを不幸と取るか幸せと取るかは君次第だ。」
エリシェ「はい・・・。」
   静かに唇を重ねてくる。昨晩のシュームのような過激さではなく、優しくも心が込められた
   口づけだ。それを通して全てが分かり合える。
エリシェ「・・・一時でもいいです・・・貴方を下さい・・・。」
ミスターT「今は・・・お前だけのものだよ。」
   口づけを終えて告白する彼女、それに心から応えてあげた。胸の中で思いに耽る彼女の頭を
   優しく撫でてあげた。

    シュームもそうだが、普段から気丈に生き続けているエリシェ。それ故に心に広がる淋しさ
   は大きいもの。彼女の場合も我慢させる事はない、思いっ切り甘えさせてあげる方がいい。
   また1つ重荷を背負う事になってしまうが・・・。



    クルーザーが停止する。どうやら三浦海岸沖に停泊したようだ。時刻は午前4時半、表は
   明るくなりだしている。

    何度も求め続けてきたエリシェ。シュームほどの貪欲さではないが、それでも心の隙間を
   埋め続けるかのように。流石に連夜ともなると疲れはするが、貪欲じゃないだけ気は楽だ。

    彼女の場合は心から癒しを求めている。渇きを求めるとは異なり、その瞬間の労わりを熱烈
   に希望しているかのようだ。まあ意味合い的には紙一重ではあるが・・・。


エリシェ「肌が綺麗・・・。」
    胸の中で余韻に浸る彼女。俺の顔を優しく撫で続ける。覆面を外しているため、素顔を直接
   触っているという事になる。
エリシェ「普段から覆面を外したりはしないのですか?」
ミスターT「俺が俺じゃなくなるよ。限られた人にしか素顔は見せない。覆面の風来坊で通っている
      からね。」
   別に覆面があろうがなかろうが、俺自身には変わりない。だが10年もの間覆面をすれば、
   それは身体の一部と化す。自分が自分じゃなくなるのも偽りではない。
エリシェ「私と2人きりの時は素顔が見たいです・・・。」
ミスターT「ハハッ、シュームからも言われてるよ。」
   個別で接する場合は素顔でいいだろう。それ以外は覆面の風来坊を貫き通す。まあ既に風来坊
   ではないのは確かだが。



エリシェ「ありがとうございました、勇気が湧きましたよ。」
    普段着に着替え、船外へと出る。5時を回っているため、表はすっかり明るくなっていた。
   海上とあって陸上より涼しい。
ミスターT「昨夜以上を望むなら、俺も応じるが。」
エリシェ「今はいいですよ、やる事は沢山ありますし。一段落付いたらお願いします・・・。」
   彼女もやる気満々だ。元来から肝っ玉が据わっているため、一度決めたら突っ走るのだろう。
   まあ実際に動き出すのは当分先だろうが。
エリシェ「貴方に無理強いさせてしまっている代わりに、私の方も経済面で最大限お力になります。
     お困り事があれば何でも仰って下さい。」
ミスターT「その気持ちだけ受け取っておくよ。俺自身が動かなくなってしまったら、それこそ周り
      に不幸を振り撒く事になる。手伝える事があれば何でも応じるから。」
   陰で資金源の援助を受けている彼女には、俺の心中にある明確な決意を語るしかない。喫茶店
   レミセンの総合オーナーを担当しているため、収入はしっかりと存在する。だがそれ以外にも
   動けるなら動くつもりだ。もちろん彼女達の傍でできる行動に限るが。

エリシェ「相変わらず何でも1人で背負ってしまうのですね。でもそんな貴方が好きですよ。助け
     甲斐がありますし。」
    徐に俺に抱き付いてきた。胸の中で温もりを感じつつ、物凄く嬉しそうな顔で語っている。
   しかし内容は幾分かトゲがあったりするが・・・。まあ彼女も少しは成長したと言える。
ミスターT「お前には色々と迷惑を掛ける。」
エリシェ「何を仰いますか。迷惑を掛けているのは私達の方ですから。」
ミスターT「こういう場合は素直に聞き入るもんだぞ。」
   しまったといった表情を浮かべるエリシェ。そんな彼女を優しく抱きしめてあげた。これも
   彼女なりの気遣いだろうから。
ミスターT「周りへの気配りもいいが、あまり無理無茶はするなよ。お前はお前1人しかいないの
      だから。」
エリシェ「はい・・・。」
   ソッと彼女の顎を持ち上げ唇を重ねる。周りに気配りをし続けて無理無茶しているのは俺の
   方だろうな・・・。まあそれでも彼女達が幸せになるなら、俺は一向に構わない・・・。



    クルージングもいいものだな。滅多にできない経験をさせて貰った。これに限らず、色々な
   経験を積むのもいいだろう。

    残りの60年から70年の人生で何を残せるのか、それが俺の今後の課題だからな。


    もう少し若ければ・・・。いや、今の俺があるのは過去の出来事全てが切っ掛けだ。それを
   無理矢理否定したりする必要はないな。

    今後をどうするか、そこに着眼するだけでいい。俺もまだまだ甘いな・・・。

    第2部・第10話へと続く。

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