アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第9話 体育祭1〜
シンシア「お疲れ様です。」
    午前の部が終わり、大学の中央広場で昼食タイムとなる。エシェラ・ラフィナ・エリシェ・
   リュリアも一緒だ。ピクニック気分まっしぐらである。
リュリア「ねね〜、1位取ったよ〜。」
ミスターT「おめでとう、リュリア君。」
リュリア「エヘヘッ、頭なでなでして〜。」
   1位祝いに頭を撫でてあげる。それに嬉しそうに微笑むリュリア。う〜む、可愛いものだ。
   そして周りから凄まじいまでの殺気を感じる。自分達にもと強い一念が俺に突き刺さる。彼女
   よりも大人だろうに、少しは控えてくれ・・・。

シンシア「午後は何の競技をやるのですか?」
エリシェ「リュリア様が組み体操、エシェラ様と私が借り物競争。そしてラフィナ様が騎馬戦です。
     その後閉会式となり終わります。」
    昼食を取りながら、次のプログラムを聞くシンシア。エリシェがプログラム表を見つめ、
   内容を語っている。
ミスターT「体育祭って競技中心の催しだろうに、運動会も混ざっているのが何とも言えん。」
エシェラ「それは言わない約束でしょ〜。」
エリシェ「タブーですよ。」
   俺が愚痴を述べると、周りの女性陣が黙認しろと批難の声を挙げる。今を楽しめる事の方が
   大切なのは確か。ここは素直に見入った方がいいだろう。

ミスターT「エシェツ君の競技は何だ?」
エシェラ「ロードレースですよ。観戦したいのですが、丁度借り物競争とぶつかってしまって。」
エリシェ「ビデオカメラの出番ですね。」
    身体が複数ある訳じゃない。流石に見れないものは見れないのだ。ここは後々録画されたの
   を見るしかない。それに今になって気付いたが、やはりエリシェ専属のお手伝いさんが複数
   いる。そそくさげに現れると、ビデオカメラを複数所持して去っていった。


    和気藹々と昼食を取り合う俺達。この一時は間違いなく癒しの一時だろう。その瞬間を大切
   にしなければ・・・。

    俺も幼少の頃はこういう思い出があったのだろうが、今は何も思い出せないでいる・・・。
   やはり孤児院出身だからだろうか、う〜む・・・。



    昼食を取り終えて休憩していると、午後の部を開始するアナウンスが流れる。安らぎの一時
   は終わりを告げた。
ミスターT「そろそろ午後の部か、全力で戦いなよ。」
   俺の言葉に力強く頷く4人。これは要らぬ心配だろうな。目の前の瞬間を全力で戦うという
   一念が、彼女達の身体から滲み出ていた。

    現地へと向かいだすエシェラ・ラフィナ・エリシェ・リュリア。その後姿をシンシアと共に
   見守った。



    小学生部門は組み体操。小学生とは思えないほどの高度な技術が目立つ。リュリアは小柄な
   ため、人間ピラミッドでは一番上に乗っている。明るい笑顔が何時になく冴え渡っている。

    それにしても凄まじいまでの技術力だ。究極はラスベガスというタイトルの、大規模な組み
   体操。体育着の上から着込んだカラフルな服が、完成時に町並みを彷彿させるほどである。
   凄まじい、本当に凄まじすぎる・・・。

リュリア「いぇ〜いっ!」
    競技が終わり、大歓声で終わる。リュリアは一際大はしゃぎして喜んでいる。今の瞬間が
   一番楽しいのだろう。見ているこちらも嬉しくなってしまう。



    中学生部門のロードレースは長時間競技。高校生部門の借り物競争と重なってしまう。
   エシェツには悪いが、ここはエシェラとエリシェの方を優先させてもらおう。

    借り物競争だけに、サインボードに記述されたものを持ってゴールする。そこらじゅうの
   物を引っ張りまくっての競技は、さながらデパートのワゴンセールのようにも見える。


    いよいよエシェラとエリシェの出番だ。出発してサインボードを手に取り、内容を見つめて
   いる。それを確認すると、何とこちらに向かって来る。

エシェラ「あれ・・・エリシェさん。」
エリシェ「エシェラ様・・・どうなされたのですか。」
    ハッと何かに気付いたのか、お互いのサインボードを見せ合っている。何となく嫌な予感が
   してならない・・・。
エシェラ「ミスターTさん、付き合ってっ!」
エリシェ「私もお願いしますっ!」
   利害一致と言った雰囲気の2人。それぞれの腕を手に取り、そのままゴールへと引っ張られて
   いく。そう、半ば強引に・・・。


エシェラ「ふぅ〜、ありがと〜。」
エリシェ「助かりました〜。」
    そのまま競技終了まで待つ。何かさっきリレーをした時より息を切らしているのは気のせい
   だろうか。
ミスターT「で・・・、指令は何だったのよ。」
エシェラ「え・・え〜と・・・、“純愛を抱く人”です・・・。」
エリシェ「私は・・・、その・・・“心から大好きな人”・・・。」
   滅茶苦茶赤面している、しかも耳まで赤くなっている。それにこの指令の内容はアリなのか、
   何ともまあ・・・。

    でも嬉しいよな、ここまで思ってくれている事。俺は幸せ者だ。ありがとう、エシェラ・
   エリシェ。



    大学生部門は騎馬戦。ラフィナは女子騎馬隊の鉢巻係、つまり騎馬の中枢だ。どうやら男女
   混同で行うようだ。大丈夫なのかね・・・。

    あの大人気の男子生徒も中枢役だ。何だろ、過去であったのか。脳裏の記憶が囁く・・・。
   過去に会った事があるような気がしてならない・・・。


    陣営分けは4つ。ラフィナチームは4番目の部隊。例の男子生徒チームも一緒だ。さながら
   戦国時代の騎馬戦そのものに見える。



    法螺貝の音が鳴り響き、戦闘が始まった。凄まじいまでのぶつかり合いだ。本当に戦国時代
   の騎馬戦を彷彿とさせる。


    1番目と3番目の部隊は基礎が弱かったのか、中枢役の人物が次々に薙ぎ倒されていく。
   相打ち状態が多く、殆ど消耗戦に近い。

    そこを漁夫の利で突っ込むは2番目の部隊。戦略が通用し、次々と相手を薙ぎ倒していく。
   その手際の良さは凄まじく、これが我武者羅に進んでいる訳ではないのが窺えた。


    ラフィナ所属の4番目の部隊は、陣形を崩さずに防衛線を貫いている。偶に流れてくる他の
   部隊を蹴散らし、ひたすら防衛し続けていた。



    一番最初に戦闘を展開していた1番と3番の部隊は双方共倒れ。2番目の部隊が横から攻撃
   したため、一気に倒されていった。

    そして残った2番目の部隊はラフィナ達4番目の部隊と対峙する。一触即発とはこの事だ、
   凄まじい緊張感が辺りに漂う。


    意を決して2番目の部隊が突撃を開始。それを迎え撃つラフィナ達。相手側はただ漁夫の利
   を狙っていたのではなく、しっかりと戦略が根付いている。

    ラフィナ達も負けじと応戦する。勝負は全くの互角だ。一進一退の攻防が続き、周りは息を
   呑んで見守っている。



    次々に仲間達が倒れていき、残るはラフィナ達と男子生徒達のみになる。相手はリーダー格
   の騎馬が一騎。倒れた騎馬達は戦場からそそくさげに引き上げている。

    何やらラフィナと男子生徒が目配せをしている。そしてラフィナ達が動き出した。相手側も
   応じだす。そして激突した。


    凄まじい戦いだ。ラフィナのカンフーのスキルを最大限活かし、相手の手を払い除ける。
   その隙に背後へ回り込んだ男子生徒達が、相手リーダーの鉢巻を奪い取った。ラフィナの行動
   と威圧感に気を取られ、背後に接近した相手に気付かなかったのだ。

男子生徒「敵将討ち取ったり!!!」
    男子生徒が奪った鉢巻を天高く掲げると、所属していたチームの面々が凄まじい雄叫びを
   上げる。他のチームの面々も大拍手で讃えている。ただの騎馬戦だったが、その熱気は本当の
   戦いである。アツい、アツすぎる・・・

    最後の最後で凄まじい競技を演じた大学生部門。やはり大人だ、エンターテイメント性が
   滲み出ている。



    その後閉会式となる。大喝采で終わった合同体育祭。間違いなく大成功だったと確信する。
   どの生徒達も表情は爽やかで、戦い切ったというのが窺えた。

    結果よりもその瞬間をいかに全力で戦うのが、今回の合同体育祭の意味合いだろう。それを
   身を以て体感した彼ら。今後の生き様に大きく響く事を強く願う。



エシェラ「凄かったよラフィナさんっ!」
エリシェ「念入りな打ち合わせがなければ、あそこまで戦えませんよ。」
ラフィナ「最後はどうなるかと思いましたが、リーダーがしっかり動いてくれましたので。」
    体育祭後は現地解散となった。エシェラとエリシェもラフィナの健闘を讃えている。それに
   笑顔で微笑んでいる。
ミスターT「なあラフィナ君、あの男子生徒は誰なんだい?」
   俺の質問に答えようとすると、本人自らご登場となる。俺と同じぐらいの背丈で、容姿は男が
   見ても羨むほどの美形だ。遠巻きに複数の女子学生がいるのが何とも・・・。

男子生徒「先程はありがとうございました。」
ラフィナ「いえいえ、リーダーもしっかり動いて下さいました。本当にありがとうございます。」
    ラフィナに礼を述べて周りを見渡す。そして俺と目線が会った時、相手はハッと何かを思い
   出した表情になっていく。この顔・・・間違いない、何処かで見た事がある・・・。
男子生徒「・・・あ・・あれ・・・、・・・もしかしてミスターTさんでは?!」
ミスターT「は・・はぃ?」
男子生徒「憶えていませんか、ディルヴェズですよ!」
   そう言うと首にぶら下げている1つのペンダントを見せる。これには見覚えが・・・。確か
   風来坊の旅路に向かう時に、1人の少年に渡した・・・。
ディルヴェズ「幼い頃に東京駅で財布を落としてしまって、途方に繰れていた時がありました。その
       時私に声を掛けてくれたではありませんか。家までの足しにとお金をくれて、この
       ペンダントの中に入れて持つんだと。」
ミスターT「う・・うわっ・・・あの時の少年か?!」
ディルヴェズ「はい、本当にお久し振りですっ!」
   美青年と評されている彼が、まるで少年のように喜んでいる。その言動に回りは驚かされて
   いた。

    彼が話す通りの内容が過去にあった。



    7年前、風来坊の旅路に出るため東京駅へと向かった。その時財布を落とし途方に繰れて
   いたディルヴェズを発見。帰りの移動資金を落としたため、動けずにいたのだ。

    俺は7年前も今と同じ性格だ。軍資金を削ってでも彼を助けた。帰宅に必要と踏んで2万円
   ほど渡したのかな。それに何時から持っていたか分からないペンダントも渡した。この中に
   お金を入れるようにと。


    何度も頭を下げてお礼を述べていた。その彼に力強く握手を交わし、今後も頑張れと告げた
   事が懐かしい。昨日のように覚えているわ・・・。

    それから7年後、大きくなった彼と再会する。すっかり忘れていたわ、懐かしいものだ。



ディルヴェズ「あの時のご恩は一生忘れません。何時かお礼をいいたいと思っていました。」
ミスターT「あの子供が美男子に変化か、怖ろしいものだな・・・。」
ディルヴェズ「買い被りですよ、もっと努力して強くならないと。貴方が仰っていた、自分の生き様
       を貫けと。恩人の貴方にお会いできるまでに強くなろうと決意したのです。」
    この美男子も俺に似ている。熱血漢で負けず嫌い、それでいて俺以上に優しい。だから周り
   から厚く慕われているのだ。
ディルヴェズ「あの時は本当にありがとうございました。」
ミスターT「気にしなさんな、当然の事をしたまでだよ。それに今の君の原点回帰になっているじゃ
      ないか。人に優しく、負けずに突き進むと。」
ディルヴェズ「はいっ!」
   俺は彼と再び堅い握手を交わす。7年振りに再会した彼の手は、これほどまでに大きくなって
   いる。実に嬉しい限りだ・・・。



    帰っていくディルヴェズの後を、今までにないほど複数の男女が付き従う。性別を通り越し
   てのカリスマだ、彼こそ只者じゃない証だろう。

ラフィナ「やはり只者じゃなかったのですね。」
ミスターT「そうだな。あれだけの人望、アマギHに勝るとも劣らない。」
ラフィナ「あ、そうではありません。確かにそれもありますが、私が言いたいのは貴方の事です。」
    輝きの瞳で見つめてくるラフィナ。言われてみれば確かにそうだろう。過大評価はしたくは
   ないが。過去の色々な原因が、今に結果として現れている。その根底は人を助けるという強い
   一念だ。
シンシア「運命の人は伝説の人でもある訳で。」
ミスターT「やめてくれよ、その伝説は・・・。俺はまだ生きてるだろうに・・・。」
ラフィナ「もっと自分を誇って下さい。それだけ素晴らしい人物なのですから。」
   ここは素直に感謝するべきだろうな。俺の生き様が実証として現れている。努力が報われたと
   言っていい。それと同時に、これからも頑張らねばと決意が漲る。

    俺の生き様を、実証を示せ。それこそが俺の原点回帰と・・・。



    俺達は帰路に着く。傍らには背中を支えてくれる女性達がいる。その彼女達がいるだけで、
   俺は前へと突き進める。いや、だからこそ突き進むんだ。

    不動たる原点回帰を胸に秘め、俺は明日へと進んでいく・・・。

    第1部・第10話へと続く。

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