アルティメットエキサイティングファイターズ 〜集いし鋼鉄の勇者達〜 〜第28話 模擬シーズン・後編〜 ミュックS「ちょっとエレノアとラオリアですよ!」 ターリュS「帰宅中のミスターTを襲うとは。」 ミュックS「前の負けた腹癒せでしょうか。」 駐車場でバイクに乗り、会場を後にしようとするミスターT。そこにエレノア・ラオリアが 襲撃する。凶器による攻撃に為す術がなく倒れる彼だが、禁断覚醒であるため全くの軽傷だ。 しかし気にするなとはいえ、彼を殴るという行動には心が痛む両者。そこはエシェラTBや エシェラTAなどに使っている、意思の疎通による会話を直接相手の脳裏に入れている。 ミスターT(私の事は構わない、演じ続けろ。) とにかくこの一点張りだ。徹底的なリアルさを求めるあまり、過激な行動も厭わなくなって 来だしている。 観戦者側は大いに盛り上がっているが、運営側は彼の安否を非常に気に掛けていた。 シェガーヴァ「先刻ミスターTが受けた行動。あれは私に敬意を表さない者への処罰だ。」 ストーリーは流れる。リング上でチェアマンことシェガーヴァが、エレノア・フュリス・ ラオリアを引き連れて現れる。どういった事で敬意を表さないのか、運営側も観戦者側も意味 が分からない。例えそれがシナリオの流れであれだ。 もしこれが本当の事態で行われたのなら、一同は大激怒するだろう。理由はミスターTの普段 からの行動を窺えば一目瞭然だからだ。 ミュックS「再びリングを占拠するのは、シェガーヴァ氏とエレノア・フュリス・ラオリアです。」 ターリュS「あれだけ頑張っているミスターTを批難するとは、盲目も甚だしいな。」 役割を担っているとはいえ、ミスターTを馬鹿にしているには変わりない。過激さを増すこの 現状に、ターリュSとミュックSは段々腹が立ってきだした。 ミスターT(あくまでも役割を担うんだ。) そんな彼女達を抑えるは彼の発言だ。エレノア・ラオリアに使った意思の疎通による会話で、 直接脳裏に語りかけている。 ターリュS「おおっと、ミスターTとシンシアだ!」 ミュックS「それにディーバのエシェラも一緒ですよ。」 ターリュS「彼らに対抗するために仲間を集めたようだな。」 本来ならディーバであるエシェラは役割は終わっている。しかしあまりにもの多勢に無勢な ミスターTが哀れに思えて、急遽参戦という形になった。理屈抜きでの行動、それは彼を思う からこそだろう。 シェガーヴァ「面白い、相手になろうではないか。私の腹心、エレノア・フュリス・ラオリアが相手 になる。」 エレノア「試合形式は貴様等が決めな。まあ大して変わらないだろうがね。」 エシェラ「イリミネーション・タッグ、トルネード・6マンタッグ3対3。悪いが我慢できない、 殺す覚悟でいくからな。覚悟しろクズ共。」 ゾッとする発言が飛び出す、エシェラが完全にキレている。役割を演じてはいるが、半分は 大切な人を貶された激しい怒りだ。その心情はアレンジとして誕生した他のエシェラ達にも 痛いほど伝わっている。 ここまで思ってくれているのかと、ミスターTは半ば呆れてもいる。しかし嬉しい事には 変わりはない。ここは彼女の思うが侭に任せる事にしたようだ。 試合はイリミネーション・タッグ、形式はトルネード・6マンタッグ3対3。リングは サマースラム、ルールはギブアップ・DQが適応される。 模擬シーズン・イリミネーション・タッグバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・イリミネーション・タッグバトル終了) これも結果は言うまでもない。特にミスターTは終始サポートに回り、専らエシェラが先陣 を切りシンシアが追う形になった。 怒り爆発のエシェラを止められるはずはなく、エレノア達は完膚無きまでに叩き潰された。 ミュックS「見事勝利したミスターT達。」 ターリュS「さあ、悪者へのおしおきタイムだ。」 後退りするシェガーヴァに徐に歩み寄るミスターT。おしおきタイムという事で、彼に攻撃を 加えるイベントだ。一同が沸きあがる瞬間でもある。 そこに割って入るはエシェラ。有無を言わずにシェガーヴァ目掛けて渾身の一撃を放つ。 凄まじい威力を秘めたストーンコールドスタナーが彼を襲った。巨体を誇るシェガーヴァが 意図も簡単に吹き飛び、何と場外へと吹っ飛んでいった。一同はその行動に目が点になる。 エシェラ「殺されなかっただけありがたく思え。」 もはや模擬シーズンを役割で担うエシェラではない。素体の彼女に戻っている。キッチリと したケジメを、凄まじいまでの一撃で決着した。 この攻撃を受けた直後に、シェガーヴァに体力強制回復を行ったミスターTは言うまでも ない。あまりにもの凄まじい一撃に、慌てて行ったものだった。 観戦者側は彼女の意外性に富む行動に沸き上がり大拍手で讃えた。エンターテイメントとして 凄まじいものであろう。 エシェラ「大丈夫ですか?」 次の試合に移るまでに多少時間が掛かった。今度のイベントは頂上決戦となる。試合構成も 大規模のもので、それなりの下準備が必要だった。 その合間にエシェラはシェガーヴァの安否を気にする。おしおきの一撃は自分でも凄まじい ものだったと把握しているようで、彼の事を相当心配している様子だ。 シェガーヴァ「全く問題ありませんよ。マスターに直後のサポートを受けていますので。」 エレノア「でもさ、エシェラさん凄いよ。」 ラオリア「マスターのためにそこまで一途になれるなんて。」 運営側はエシェラの行動を讃えた。というか羨ましがる。ここまで誰かの為に尽くせるという 事は素晴らしいものだからだ。 エシェラ「私でも後半は抑えが効かなくなりました。何をやっているんだろうと思いましたが、あの 時の怒りは本物でした。マスターを貶された瞬間、目の前が真っ白になりましたし。」 恐縮気味に語るエシェラの背後から、その小さな両肩に優しく手を置くミスターT。それには 色々な意味が込められている事を、当の本人や他の面々は直ぐに察知する。 ミスターT「エシェラが行動しなかったら、ターリュSとミュックSが4人を襲撃していた。それを 察知した彼女が、先手切って動いたんだよ。」 ターリュS「ありゃりゃ、分かってたのかぁ〜。」 ミュックS「もう少し酷かったら、物凄く面白い事をしようと思ってたのですけどねぇ〜。」 凄まじいまでに不気味に微笑む2人。その姿に4人は戦慄が走る。展開によってはエシェラを 凌駕する凄まじい報復攻撃が待っていたのは言うまでもなかった。 ミスターT「まあ何だ、アツくなってくれるのは嬉しい。しかしそれぞれが担う役割は行うんだ。 それを守れば何をしても構わない。もちろん、流れに沿ってだけどね。」 創生者自らお墨付きを貰った一同。これによりターリュSとミュックSが何時乱入するかも 分からない状態となった。 今後も度が過ぎる行動で沸かせようとは思っているが、内心は3人の猛者による襲撃に恐怖 する16人だった。 ミュックS「今度の試合はかなり大きなものになります。」 ターリュS「本来ならレッスルマニアで総合チャンピオンベルトを獲得するんだが、今回は先にその ベルトを取らせようという流れだぞ。」 ミュックS「今回優勝した人物が、来年行われるロイヤルランブルでの勝者と一騎打ちの戦いとなり ます。」 シーズンは初回プレイはチャンピオンベルトを持っていない状態で、先に獲得する方から 行う。しかし今回の模擬シーズンではそのような時間はなく、この中間においてのベルト取得 が必須となった。全くもっての異様といえるものだろう。 ターリュS「今回総合チャンピオンベルトに挑むのは歴戦の強者揃いだな。ミスターT・エリシェ・ ヒカル・ナリス・ビアリナ・エシェムFの6人だ。」 ミュックS「シェガーヴァ氏の提案だと2戦するようです。1回戦はサバイバル、2回戦は勝者を 狙う形のハードコア・タイムリミット。両方とも勝利した人物が、総合チャンピオンと なります。片方ずつ勝利した場合は、アルティメット・サブミッションマッチでの決着 となるようです。」 ターリュS「これはレッスルマニア以上に盛り上がるぞ!」 かなり大規模となる今回の2連戦。特に後半のハードコア・タイムリミットは10分間の時間 が掛かる。今までの試合は戦闘力が強いミスターTが短時間で終わらせているが、この試合 だけは長丁場になるだろう。 ターリュS「何だ、頂上決戦に参加する面々がリングに上がったぞ。」 ミュックS「いいえ、ミスターTがいません。それ以外の5人だけのようです。」 ミスターTを除くエリシェ・ヒカル・ナリス・ビアリナ・エシェムFがリング上にいる。 何かのイベントかと一同は動向を見守った。 ナリス「光栄な事だなミスターT、今年新参者のお前がベルトを賭けて戦えるのは。」 ビアリナ「俺達もベルトを狙ってるんだ、容赦なく蹴落とさせてもらうぜ。」 エリシェ「5人がお前に集中するとなると、はたして勝てるかな。」 役割方、5人はチームを組んでミスターTと対峙する様子。味方はおらず、彼1人での戦いと なるようだ。 ミュックS「どうやらミスターTを除く5人はグルのようです。」 ターリュS「ベルトの魔力に魅入られれば何だってするさ。」 ミュックS「ミスターT、これは不利な展開となりそうです。」 とは言うものの、結果が目に見えているターリュSとミュックS。白熱とした解説をするが、 内心は呆れてもいる。もちろん2人が応援する相手はミスターTであるが。 本来ならこの前後に抗争とも言える試合が8回あるのだが、そのような時間はない現状。 1回目はアンフォーギブンで、2回目はノーマーシーでの試合となる。つまり2ヶ月一気に 進むという事になるだろう。 試合はサバイバル、形式は6マンバトルロイヤル。リングはアンフォーギブン、ルールは なし。この場合はミスターTの戦闘力が最大限発揮されるだろう。 模擬シーズン・サバイバル仮想チャンピオンバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・サバイバル仮想チャンピオンバトル終了) 話的には1対5の戦いとなるが、システム上は全ての面々が敵となる。6人入り乱れての 大接戦となった。だが結果はミスターTの圧勝、他の5人は重傷を蒙った。 ミュックS「第1回戦はミスターTが勝利!」 ターリュS「味方だと言っておきながら、結局はサバイバルという事だ。全ての相手が敵となる。 友に裏切られた形になったのは5人の方だったな。」 ミュックS「哀れに思えたミスターTでしたが、逆に得となったのは言うまでもありません。」 ソロ主体となっているミスターT。この流れの中ではそれが幸いした。本編でレイヴンという 職業にあるロスレヴの面々は、それが痛いほど理解できた。 生きる為に欺き裏切り、昨日までの味方にさえ銃を向ける。 ラストレイヴンの別タイトルでもある。昨日の敵は今日の友で、そして今日の友は明日の 敵でもあるレイヴン稼業。それはプロレスという世界でも十分当てはまる。 そして流れは次へ。体力強制回復を施された5人は翌月という設定の試合に臨む事になる。 試合はハードコア、形式はタイムリミット。リングはノーマーシー、ルールは既存設定である ギブアップのみ。 模擬シーズン・ハードコア仮想チャンピオンバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・ハードコア仮想チャンピオンバトル終了) こちらは10分間の間、勝利したミスターTがアイコンを守り通すというもの。拮抗した 戦いであれば奪い合いの連続であろう。しかし流れは全くの一方的なものだった。 5人は徹底的に攻め立てるが、禁断覚醒のミスターTには決定的なダメージは与えられない。 対するミスターTは控えめな動きを見せていたが、役割という事からそれを払拭する。突然 猛然と相手に襲い掛かり、凄まじい勢いで攻めていった。これには他の5人は為す術がない。 試合は10分間戦い抜かなければならない。5人にとって地獄のような時間であっただろう。 ミュックS「頂上決戦を勝ち抜いたのはミスターT!」 ターリュS「6人とも死力を尽くしたが、若いパワーには敵わないといったものだな。」 新参者のミスターTは模擬シーズンの流れからは一番若いだろう。他の16人は古老であり、 若さがないとされている。しかし現実はミスターTの方が一番古老なのは確かだ。 ミュックS「チャンピオンベルトを巻いたミスターTがアピールします。」 ターリュS「激戦を勝ち抜いた新王者、新参者のレッテルは消えたも当然だろうな。」 ベルトを腰に巻き、エプロンに立ちアピールをするミスターT。これが模擬シーズンであれ、 チャンピオンという姿は様になっている。 特に創生者たるミスターTは運営側に携わっており、今まで試合などは極力控えていた。その 彼が一介のレスラーという位置付けで戦えている、本人にとってこれは嬉しい限りだろう。 連続試合も終わり、休憩に入る一同。運営側も休息が必要で、今回の休憩はかなり長い。 そんな中、運営側控え室ではミスターTがベンチに寝っころがっている。連続行動や連戦で 疲れがでてきたのか、さしもの創生者もダウン寸前である。 先刻ミスターTと対峙したエリシェ・ヒカル・ナリス・ビアリナ・エシェムFは、試合直後 に彼の十八番である体力強制回復を行って貰っている。故に疲れた表情は一切していない。 ナリス「大丈夫マスター?」 エリシェ「物凄く辛そうですけど。」 心配そうにするナリスとエリシェ。役割方から敵対する彼女達だったが、それが済めば普段の 本人に戻る。そして自分達を引き立たせるため、一心不乱に活躍する彼の安否を気に掛けた。 ミスターT「改めてお前さん達を偉大に思う。体力完全回復などの荒業も含まれても、連続で試合を 行うのは並大抵の事じゃない。それをやってのけるお前さん達には脱帽だよ。」 ミスターTは臨時解説者のターリュS・ミュックSも含める18人に頭が下がる思いだった。 自分の一念から誕生した彼らだったが、今では立派な戦士として覚醒している。しかも自分 よりも凄まじいハードな戦いをやり切るのだ。これには驚くしかないだろう。 エレノア「でも私達が行動を渋ったり道を踏み外そうとしたりした時、顕然と正してくれているでは ありませんか。あの行動がなければ、私達は役割を演じ切れていません。」 フュリス「そうだよマスター。マスターのサポートなしでは何もできない。感謝しているのはこちら の方ですよ。」 ミスターT「フフッ、ありがとう。」 己の存在意義を再確認するミスターT。一同を牽引し沸き上がらせる。迷っているのであれば その背中を軽く押して進ませる。悩んでいるなら共に悩み解決の道を探る。 自分は誰で何のために戦っているのだと自問自答し、改めて己の役割を再認識した。 ミスターT「こんな可愛らしい美女達に労われて腐る方がおかしい。疲れなど一切考えず、己の道を 進むのが最善の策だね。」 徐にベンチから起き上がり、身体を解し始める。疲れた身体に鞭を打ち、この模擬シーズンを やり切るのだと奮起した。 ミスターT「ありがとな、エレノア・フュリス。」 エレノア「い・・いえ・・、お気になさらずに・・・。」 フュリス「感謝される事なんかやってませんよ・・・。」 誉められ頬を染めるエレノアとフュリス。しかし自分を大切に思ってくれている事を思い、 心中は嬉しさで一杯だった。 ミスターT「いよいよ佳境に近付いてきたな。」 シンシア「ですね。」 エレノア「残り5試合、これからが本番ですから。」 休憩を兼ねて、今後の流れを再確認する19人。ミスターTとシェガーヴァは一服し、他の 17人は飲み物を飲んだり寛いでいる。 エリシェ「マスター、次の展開ですが。」 ミスターT「先方の試合に納得がいかないお前さんが行動を起こす。そこにエレノアが合流し、試合 を行う。それで今年の部分は終わりとなる。」 残り5試合中、2試合がこれに当たる。ベルトに関しての戦いは、この2つで一旦止まる。 シェガーヴァ「ロイヤルランブルの箇所は普通の試合で?」 ミスターT「あの試合は30分ぐらい掛かるよ。」 既にチャンピオンという位置付けから、ロイヤルランブルには参戦しないミスターT。他にも レスラーがいるという設定で、別試合としてロイヤルランブルを行うという形になっている。 ミスターT「ロイヤルランブル勝者はシンシアで。そのお前さんと最終決戦で対決する設定を。」 シンシア「分かりました。」 最終決戦はシンシアとの一騎打ち。実力からしてミスターTの必勝は言うまでもないが、この 試合を行う事にこそ意義があるとシンシアは思っている。 シェガーヴァ「チェアマン争奪戦は早めに出すべきだったと思いますが。」 ミスターT「いや、大丈夫だろう。他の全ての抗争を終えて、最終にチェアマンと対決。その後に シンシアとの最終決戦が望ましい。」 シェガーヴァ「了解、マスターのご指示通りに動きます。」 18人の誰もが思う。彼のオリジナルであるリュウジと同一人物なのかと。体躯が人間か機械 かで、ここまで変われるものなのかと痛感した。 エシェラ「本当にリュウジさんと全然違う。」 シェガーヴァ「一応同一人物なのですが、纏う筐体と心構えが全く異なりますね。」 シンシア「シェガーヴァHさんも同じなの?」 シェガーヴァ「殆ど変わりません。異なると言えば、ヒール思考が前面に出ているという事です。」 シェガーヴァHは所属する悪陣営の中で唯一、顔にペイントが施されていない。今となっては 中立陣営となるディルヴェズDとメルシェードTと同じ扱いだろう。 ミスターT「とにかく、今は模擬シーズンをこなそう。油断すれば失敗する事だけは忘れるなよ。」 19人「了解!」 休憩を取ろうと思っていた19人だったが、やはり気は前に向いている。疲れた身体に鞭を 打ち、再び模擬シーズンを再開しだした。 ミュックS「おや、エリシェですよ。」 ターリュS「前回ミスターT達と猛烈な試合を展開した対戦した彼が何の用だ?」 リングに上がるエリシェ。模擬シーズンも終盤に近付いている事から、運営側も観戦側も 緊張が走っている。エリシェもそんな1人で、極度の緊張が彼女を襲う。 しかし例の意思の疎通による会話を脳裏に放つミスターT。陰ながら励まされ、己の役割を 担い出した。 エリシェ「納得がいかないな。あの試合は仕組まれたものだったんだろ。でなければ新参者が勝利 する筈がない。」 精一杯の声で発言するが、やはり緊張から小声になってしまう。それを感じて気分も滅入り だしてしまう。一同は頑張れと強く応援するが、それが逆にプレッシャーとなってしまう。 どうしようもなくなり、役割を演じるのを止めようとする。その直後、彼女の身体に異変が 起きた。それは自分の中に誰かが入り込んだように感じたのだ。 ミスターT(心配するな、私が付いている。お前さんはただ役割を演じ切るんだ。そのお前さんの 背中は私が守ろう。) 何とミスターT自身がエリシェの筐体に入り込んだ。意思の疎通を強力にしたと思えるが、 正確に言えば彼が己の筐体から意思を彼女の筐体に進入させたのである。 落ち込む寸前だった彼女の両肩を支え、己自身から逃げるのを踏み止ませる。創生者たる彼の もう1つの荒業であろう。 エリシェ「でてこいよミスターT、今度はしっかり白黒付けようじゃないか。」 彼のサポートもあり、役割を最大限演じ切り出す。声は凄まじいほどに張っており、迷いは 一瞬にして払拭された。 ミュックS「ミスターTが現れました。」 ターリュS「そりゃそうだろ。厳然たる試合がなされてチャンピオンとなったんだ。変な言い掛かり を言われる筋合いなどないしな。」 ミスターTが花道を歩いて来る。それを待ち構えるエリシェ。しかしミスターTの意思は 自分と共にあり、一体どうやって彼自身の筐体を操っているのかと疑問に思うエリシェ本人。 エリシェ「やっと来たか、もう一度戦いを申し付ける。今度こそ正真正銘のチャンピオンバトルだ。 受けてもらうぞ。」 ミスターT「望む所だ、納得がいくまで戦ってやる。」 ミュックS「ミスターT、エリシェの言い掛かりに近い申し出を受諾しましたよ!」 ターリュS「言い争っても何もならないだろ。論より証拠、試合で決着を着けるのが無難だ。」 エリシェの再戦を受けるミスターT。流れからすればここで小競り合いがあるのだろうが、 今の彼女にはその力はない。ミスターTに支えられ、やっと行動ができている状態だからだ。 試合前に一旦引き上げる運営側。控え室に入るや否や、エリシェは倒れそうになる。その 彼女を抱きかかえるミスターT。殆ど1人2役で動いていたようだ。 ミスターT「大丈夫か?」 エリシェ「ハハッ、情け無いですね・・・。マスターのお力がなければ、今のイベントは担えません でしたよ・・・。」 顔面は蒼白、どれだけ無理して動いていたというのが窺える。他の面々も彼女の安否を気に している。普段見せないぐらいに落ち込む彼女に誰もが心配していた。 エリシェ「でも・・・今動かなければ一生後悔します。何としても担わなければ・・・。」 完全に無理しているのが分かる。今の彼女では試合はできない。しかし気力だけは十分強く、 何としても担おうと躍起になっている。 ミスターT「むう、ちょっと荒療治をするか。エシェラTB、ミスEを呼んでくれ。」 エシェラTB「分かりました、お待ちを。」 エシェラTBは急ぎミスEを呼びに行った。その間にエリシェを近くのベンチに寝かせる。 極度の緊張から身体の自由が奪われ、動けなくなったという事だろう。 シェガーヴァ「体調は問題なし、他に異常は見られません。緊張による一種の貧血でしょう。」 ミスターTがこの場と本編との壁を超えた事は、一部を除きその力がここで使えるという 事になる。今のシェガーヴァは本編同様、サイボーグの力が備わっている。筐体に搭載されて いる医療能力がエリシェを診断したのだ。 エレノア「2連戦あるけど大丈夫かな。」 ミスターT「そこは手配済みだ。エリシェには発言と意思だけを担ってもらうよ。」 彼の言う意味が分からない一同。しかし直感が鋭いシェガーヴァは直ぐさまそれに気付く。 エシェラTB「マスター、呼んできました。」 その直後エシェラTBがミスEを連れて来た。表ではエシェラTAが時間稼ぎを行い、一同 の気をそちらに向かせている。 ミスE「お呼びで?」 ミスターT「お前さんの力を借りたい。」 ミスEが来た事により、19人にその内容を語り出す。それはミスEの意思をエリシェの筐体 に入れ、戦闘を担わせるという荒業だった。先ほどミスターTが語った、発言と意思という 意味はこれだったのだ。 ラオリア「また何とも・・・。」 フュリス「でも今は一刻も争うし、ミスEさんのお力をお借りしないと。」 ミスE「了解です。エリシェ様は表向きの会話のみ優先を、私は身体に関する行動を担います。当然 貴女とリンクする事も忘れませんよ。」 そう語るとエリシェの側に座ったミスEが沈黙する。直後彼女の筐体に入り込んだ。これは 正しく魂の移動、憑依そのものであろう。 エリシェ(ミスE)「大丈夫ですマスター、エリシェ様とリンクしました。」 エリシェ「申し訳ありませんミスEさん・・・。」 エリシェ(ミスE)「フフッ、こうでしかお役に立てませんから。」 この場の誰もが思った。ミスEもミスターTに匹敵する力を持っていると。そんな事を巡ら している心情を察知して、ミスターTが付け加える発言をする。 ミスターT「今思っている事は違うぞ。お前さん達全員、意思の移動は簡単に行える。ただミスEを 選んだ理由は、私に近い存在だからだよ。あくまでも中立的意思を保ってくれている。 こうでもなければ選べない。」 エリシェ(ミスE)「ですね。私はマスターの補佐として誕生させて頂きましたから。マスターの 願い事なら何でも引き受けます。」 ミスターT「ありがとな。」 エリシェの筐体に完全リンクしたミスE。自分そのものに動けるミスEにエリシェは驚く。 エリシェ「助かります、物凄い楽ですよ。」 エリシェ(ミスE)「お気になさらずに。」 ミスターT「では行くか。観戦者側からクレームが来てしまうからな。」 2人1役であるエリシェとミスE。一応応急処置で立ち直らせた彼女を含めて、次の試合へと 移って行った。 試合はラストマンスタンディング、形式はシングルマッチ。リングはサバイバーシリーズ、 ルールはなし。 模擬シーズン・ラストマンスタンディング仮想チャンピオンバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・ラストマンスタンディング仮想チャンピオンバトル終了) 一同には不思議に思えた。普段のエリシェの戦闘力とは異なる部分が見受けられた。それも そうであろう。彼女の中にはミスEが補佐でおり、行動の部分で最大限バックアップを行って いるのだから。しかし結果は同じだった、エリシェの完敗である。 ここで思った運営陣。このまま継続して次の試合に進めば、エリシェ本人の負担は軽くなる だろうと。それはエリシェも思っている事で、それらを察知したミスターTは継続して試合を 行う事にした。 ミュックS「おっと、エレノアですよターリュS。」 ターリュS「何だ、ハンマーを持ってるぞ。」 流れは翌月という事だが、この場では間隔空けずに直ぐに次に移る。待機していたエレノア がハンマー持参で登場してきた。 エレノア「俺も試合に混ぜてもらうよ。そしてこいつの餌食にしてやる。」 ミュックS「エレノア、凶器持参でチャンピオンバトルに乱入。」 ターリュS「ハンマーの餌食の前にチャンプの餌食になるぞ。」 笑いを堪えているエレノア。ターリュSとミュックSも同じである。模擬シーズン中だという のに、何と大笑いしだした3人だった。 ターリュS「ハハッ、これは失敬。以前エレノアと雑談した時の思い出し笑いだ。」 ミュックS「ですね。ともかくミスターT、窮地に立たされました。エリシェとエレノアのタッグ 相手に、1人で戦う事になりそうです。」 ここも流れならばハンディキャップが無難だろう。しかし凶器を持った状態なら、ハードコア が適任だろうか。 そこに出現するはシンシア。ハードコアでの試合となれば、相方が必須なのは言うまでも ない。またシンシアの胸中に異なる感覚が芽生えだしてもいた。相手を思うという気持ち、 これは今まで考えた事もないものだったからだ。 ミュックS「ターリュS、シンシアが現れましたよ!」 ターリュS「どうやらミスターTに加勢するつもりか、お人よしな奴だな。」 ミュックS「ターリュSも同じ境遇なら加勢するでしょうに。」 ターリュS「フフッ、違いない。」 解説側も大いに盛り上げる。刺のある発言が連発するが、一同を沸かせるためならばと勇んで 行っているようだ。 模擬シーズン・ハードコア・トルネードタッグ仮想チャンピオンバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・ハードコア・トルネードタッグ仮想チャンピオンバトル終了) 継続して試合が行われる。エリシェの気合は十分だったが、体力の面ではかなり危ない状態 であった。ミスEが補佐しているとは言え、筐体そのもののダメージは回復していなかった。 その状況を把握したエレノアは彼女を庇う行動を見せる。率先してミスターTに襲い掛かり、 一身に打撃を食らい続けた。 結果はエレノアのギブアップ負け。というよりは短期決戦を行ったと言ってよい。それほど までにエリシェのダメージが大きかった。 ミュックS「試合を制したのはミスターTとシンシア!」 ターリュS「ハンマーの餌食にはされなかったな。」 ミュックS「当然ですよ。」 アピールする2人だが、やはり気になるのはエリシェの安否だろう。エレノアも彼女の事が 気掛かりで、ダウンしながらそちらの様子を窺っていた。 再び小休止に入る。運営側控え室に到着した4人は、直ぐさま彼女をベンチへと寝かせる。 そしてミスEはエリシェから抜け出し、己の筐体へと戻っていく。 エリシェ「ありがとうございます・・・。」 エレノア「無茶しすぎだよ。」 シンシア「ミスEさんが加勢していたと言っても、後半は殆ど任せっきりじゃないですか。」 直ぐさまエリシェに体力強制回復を施すミスターT。一瞬にして彼女の疲れが吹き飛んだ。 先刻倒れそうになった時も、この荒業を行えばいいと思っただろう。しかしそれを行っても 直ぐに動けるとは限らない。この場合は精神的な問題もあるからだ。 ミスターT「暫く休みな。残り3試合だ、直ぐに終わらせるさ。」 エリシェ「はい・・・。」 横になるエリシェの額に手を置くミスターT。そんな彼に笑顔で応える彼女。エシェラが彼を 一途に思う気持ち、それがやっと理解できた彼女だった。 ミスE「マスターは大丈夫なのですか?」 ミスターT「エリシェが渾身の行動を行ったんだ、多少の疲れで根を上げたら彼女に申し訳ない。 このまま最後まで突っ走る。」 気合を新たにミスターTが語る。この短期間模擬シーズンは凄まじい死闘であると、運営側の 誰もが痛感した。そして何が何でも完遂させるのだと、決意を新たにする。 ターリュS「来月はロイヤルランブルだな。」 ミュックS「そうですね。この試合で勝利した者が、レッスルマニアのチケットを手に入れます。 チャンピオンのミスターTとベルトを賭けて戦う事になりますから。」 休まず動き出す運営側。勢いは留まる所を知らず、2人の解説にも拍車が掛かる。そこに 現れるはシェガーヴァ・エレノア・フュリスの3人。 ミュックS「おっと、シェガーヴァ氏とエレノア・フュリスですよ。」 ターリュS「ロイヤルランブル前の打ち合わせなんじゃないか。」 ミュックS「そう言うのはバックステージで行うものでしょ。」 3人はリングへと上がり辺りを見回す。今さっき死闘を演じたエリシェの事を思ってか、その 胸中は役割をより一層高めようとしていた。 シェガーヴァ「ここ最近のミスターTの活躍は目覚ましいな。そろそろ引き際だと思わせる必要が ある。」 エレノア「俺達と勝負しな、決着を着けようぜ。」 フュリス「挑める勇気があれば別だがな。」 それぞれリング上でミスターTを挑発する。それに応じて登場する彼。今度は1人ではなく、 シンシアとエシェラが一緒である。 ミュックS「ミスターTが現れました。シンシアとエシェラが同伴です。」 ターリュS「もはや奴も1人ではないという事だな。」 ミスターT「チェアマン自ら率いて出てくるとは、切羽詰った様子だな。」 今までは後手に回り、彼らの動向に合わせていた。ところが終盤ともなると、ミスターTも 動き出している。殆ど会話はしなかったが、今はその回数も多くなっていた。 ミスターT「試合はどうするんだ、チェアマンの一存で決めてくれ。」 シェガーヴァ「イリミネーション・タッグに決まっている。全滅するまで戦うとしよう。」 ミュックS「対決が決まりました。ロイヤルランブル前のイリミネーション・タッグです。」 ターリュS「本命の試合の前のデモンストレーションか、味な事を考えるな。」 ロイヤルランブルは名目だけで、勝者はシンシアと既に決まっている。ターリュSが述べる 事は、こちらの試合を立たせるためのものだろう。 試合はイリミネーション・タッグ、形式はトルネード6マンタッグ3対3。リング設定は ロイヤルランブルで、ルールはギブアップ・DQが適応される。 模擬シーズン・イリミネーション・タッグバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・イリミネーション・タッグバトル終了) 終盤ともなれば両者とも全力でぶつかり合う。エシェラはその力に拍車が掛かり、シンシア は技の切れが上がっている。相手も全力で挑んでおり、最強ロジック搭載のエシェラも苦戦を 強いられていた。 しかし禁断覚醒のミスターTがいるからには、シェガーヴァ達に勝ち目は一切ない。特に サブミッションに入ってしまっては、その絶大な力には逆らう事はできないからだ。 ミュックS「ミスターT、シェガーヴァ氏を圧倒。」 ターリュS「ロイヤルランブルの前に白熱した展開とは、本命の試合も気合を入れないと割に合わ ないぞ。」 ミュックS「次の試合の勝者にも注目でしょう。」 次の試合はシェガーヴァのみの参戦となる。この試合でシンシアとシェガーヴァ、そして中心 人物であるミスターTを除く他の15人の役目は終わった。 フュリス「お疲れ様〜。」 エレノア「いあ〜シンドイねぇ・・・。」 ラオリア「でも十分頑張れましたよ。」 お互いを労う面々。ターリュSとミュックSは解説者故に、ミスターTと一緒に最後まで 戦う事になる。シンシアとシェガーヴァも除く15人は、完全に寛いでいる状態だ。 ミスターT「大丈夫か?」 エリシェの安否を気にするミスターT。しかし本人はすっかり回復しており、普段の彼女に 戻っていた。 エリシェ「お蔭様でこの通りです。色々とご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。」 恐縮そうに謝るエリシェ。その彼女の頭を優しく撫でて慰めるミスターT。端から見れば親子 そのものであろう。 ターリュS「うちらも戦いたいけど、この解説の方も面白いからのぉ。」 ミュックS「んだんだ。」 ミスターT「お前さん達は名解説者になれるよ。」 機転溢れる2人の会話は本物の解説者そのものだ。やんちゃな2人にはとても見えず、長年 試合を解説してきた人物に見える。 ミスターT「さて、残り2試合。最後まで演じ切りましょうかね。」 彼の発言に19人は力強く頷く。最後の最後で失敗しては何の意味がない。一同に満足して もらえる瞬間こそが、自分達が身を削って行ってきた模擬シーズンだろうから。 ミュックS「ロイヤルランブル優勝者はシンシアです。」 ターリュS「双方陣営入り乱れての大接戦、よくぞ勝ち残ったというものだ。」 最終決戦2試合前。シンシアがミスターTと対決する事に決まった。この流れは既に決定 されているが、当の本人はかなり喜んでいる。 ミュックS「おっと、ここでシェガーヴァ氏が登場。」 ターリュS「シンシアを激励に来たな、チェアマンらしい行動だ。」 リングに上がり、シンシアの前に立つシェガーヴァ。一同は激励するのだろうと思っていた。 だが次の瞬間彼の右の拳が彼女にヒットする。 ターリュS「何だこれは!」 ミュックS「激励どころか、これでは試合ができなくなりますよ!」 暴行を加え続けるシェガーヴァ。シンシアは為す術なくダウンしてしまう。殴りや蹴りを繰り 出す彼、それを受け続ける彼女。 シェガーヴァ「私に敬意を表さない者はこうなるのだよ。」 そこに現れたるはミスターT。何と突然その場に現れ、今正に蹴りを繰り出そうとしている シェガーヴァに返し技のドラゴンスクリューを見舞う。 回転しながらリングにダウンする彼、そこに更に追撃を加える。立ち上がろうとしている彼に 他の面々の十八番であるバスゾーキックを見舞ったのだ。 もはや何でもありといった形だ。創生者故に全ての技を繰り出しているように思えた。 ミュックS「ミスターTが助けに来ましたよ。」 ターリュS「それにディーバのエシェラもだ。何か封筒みたいなのを持っているが何なんだ?」 こちらは駆け付けで現れる2人。リングに颯爽と上がり、役割を演じだす。 エシェラ「チェアマンとしてあるまじき行為、団体の運営から直属の命令よ。暫くチェアマンの権限 を剥奪するそうよ。そして臨時のチェアマンにミスターTが選ばれたわ。」 驚く内容を口にするエシェラ。手にする封筒は委任状で、チェアマンをミスターTに移行する 事が書かれているようだ。 ミスターT「俺はチェアマンの柄じゃない。しかし引き渡すのも気が退ける。次のノーウェイアウト でチェアマンを賭けて戦おうじゃないか。勝った方がチェアマンを継続する。試合は ファーストブラッドで決着させるぞ。」 ミュックS「大変な事になりました。チェアマンを賭けてミスターTとシェガーヴァ氏が対決。」 ターリュS「団体の未来を決める戦いだな、ある意味レッスルマニア以上に大変になるぞ。」 間に合わせで考えたこのチェアマン権限争奪戦。以前シェガーヴァが気にしていた通り、早め に行うべきだった事がよく分かる運営側だった。 それはレッスルマニアの前に展開する事で、メインよりも注目が浴びる事になるからだ。 シェガーヴァ「やはり早めにするべきでしたね。」 試合前の準備に取り掛かる運営側。戦闘準備に入るシェガーヴァが呟いた。下手をしたら シンシアが目立たなくなってしまうだろう。 ミスターT「そこは任せな。とにかく試合をこなす事を考えよう。」 心配する彼を慰めるミスターT、試合に集中しろと告げた。確かにその通りであろう。彼を 除く19人は演じ切れとミスターTから述べられている。周りの事は気にせずに役割を担えと いう事である。 シンシア「何か本当に助けてもらった気がします。」 先刻の試合を振り返り、シンシアが徐に語り出す。役割方で行ったにせよ、彼女を助けた 事には変わりはない。この時無意識に胸が苦しくなった事には驚いたようだ。 ミスターT「お姫様の救出は格好良くやらないとね。」 彼女の肩を軽く叩きながら語るミスターT。その発言に驚くシンシア、冗談にせよ今の彼女に とっては響く発言だろう。 ミスターT「試合後にリングに来てくれ。最終試合前の発言をすれば盛り上がるだろう。」 シンシア「了解です。」 そう語ると控え室を出て行くミスターT。疲れた表情をしながらも、出て行く時はそれを払拭 させて挑んでいく。今の彼こそ気合で動いているようなものだろう。 エレノア「何かこう、胸にジーンってきたでしょ。」 シンシア「え・・・どうしてそれを。」 エリシェ「エシェラさんと同じですよ。私も先程、同じ気持になりましたし。」 恋心多い年頃の娘達。それは自然な行動なのだろう。本編とは掛け離れているとはいえ、 この狭い空間で戦い続ければ色々な感情も芽生えるはずだ。 トーマスCTG「若さ故という事です、貴女達はまだまだ若い。今のうちですよ、青春を満喫できる のは。」 トーマスKTS「ですな。マスターも色々な女性にアプローチ受けて羨ましい限りで。」 古老のGMであるトーマスCTGとトーマスKTS。過去にそういった場面があったのか、 彼女達を見て羨ましそうにしている。 対する少女達は2人の発言に頬を染めて俯く。殆ど図星であり、自然とした対応であろう。 シェガーヴァ「さて、行きますかな。シンシア嬢は頃合い計って登場を。」 シンシア「分かりました。」 模擬シーズンでの最後の役割を担うべく、シェガーヴァは控え室を後にする。その風格は先に 出て行ったミスターTと同じ。サイボーグという本編の流れからか、実に凛々しいものだ。 シンシアも後を追って飛び出していく。間近で観戦したいと思ったのだろう。彼女もまた、 エシェラと同じ境遇になりつつあった。 試合設定は次の通り。試合と形式はファーストブラッド。リング設定はノーウェイアウト。 ルールはなし。 模擬シーズン・ファーストブラッドバトル登場+試合動画 (模擬シーズン・ファーストブラッドバトル終了) 特殊環境下の試合となれば、ミスターTは断然不利である。しかしそれは時と場合による。 このファーストブラッドバトルは、短時間で試合を終わらせるにはもってこいだろう。 一瞬にしてシェガーヴァは出血させられ、あっと言う間に試合が終了した。サイボーグという 位置付けから、どうやって出血するのかと思う一同。そこは考えないのが定石だろう。 ミュックS「ミスターT、試合を制してチェアマンの権限を獲得しましたよ!」 ターリュS「これでチェアマンとして団体を引っ張り・・・って、何だ契約書を持ち出したぞ。」 リング上でダウンするシェガーヴァ、その彼の胸に契約書を置くミスターT。サインはされて おらず、権限は移行されていない事が窺える。 ミュックS「どうやらチェアマンとしての権限はいらないという事でしょう。」 ターリュS「元からこの考えだったんだろうな。彼はそういった柄じゃなさそうだからね。」 契約書を胸に置く際、彼に体力強制回復を施す。出血した額は一瞬にして癒え、体力も完全に 戻った。しかし他の面々と同じく、そのままダウンをし続けるシェガーヴァだった。 ミュックS「おっと、ここでシンシアが入場してきましたよ。」 ターリュS「来月はミスターTとベルトを賭けて対決するからな。その前の挨拶だろう。」 リングへと上がるシンシア、ミスターTと対峙する。しかし背丈が30センチも離れている 状態を見ると、シンシアはミスターTを見上げる形になるだろう。 シンシア「前はありがとな。しかし今は来月に向けて心構えをしている。お前のベルトを奪わさせて もらう。」 ミスターT「楽しみにしているよ。」 握手を交わすシンシアとミスターT。そしてそのままリングを後にする両者。 仮想空間でのシーズンでは、この時彼女が彼にパンチを見舞う。しかし今の彼女にはその ような考えは一切ない。最終決戦時にどのように戦うかで、頭が一杯のようだった。 ミュックS「ミスターT、すまないな。インタビューに答えてくれ。」 本来なら別の人物が担うのだが、ここはミスターTの配慮でターリュSとミュックSにその 役を任せたようだ。これには2人は大喜びしたのは言うまでもない。 ターリュS「メインを飾る気持はどうだね?」 ミスターT「努力が報われた気分だ。」 この発言は色々な意味が込められている。それは彼と共に戦った19人が痛感している。 ターリュS「最終対決のシンシアの印象は?」 ミスターT「これほど素晴らしい相手はいない。メインに相応しい限りだ。」 またしても相手を誉める事を忘れない。バックステージで窺うシンシアは嬉しい限りだった。 ターリュS「最後に、試合を楽しみにしているファンにメッセージを頼む。」 ミスターT「最高の試合を見せる、会場で会おう。」 最高とまではいかないと誰もが思った。しかしこの模擬シーズンこそが最高の流れを組んで いるのは言うまでもない。それらを含めての発言なのであろう。 ミュックS「ところで、最後の試合はどういう内容にするんだ?」 インタビューは続く。これは述べられていなかった事で、ここで聞いた方がいいと判断した からだ。 ミスターT「解説者のターリュSとミュックSにはご足労を掛けるが、スペシャルレフリーを頼む。 形式はアイアンマッチ・レフリー2人。この方が盛り上がるだろう。」 最後の最後で解説者の2人を立たせたミスターT。スペシャルレフリーであれば、戦わずとも 試合には参戦できる。この配慮にターリュSとミュックSは大喜びし、勢い余って彼に抱き 付いてしまう。 ターリュS「ありがとうマスターっ!」 ミュックS「もう頑張っちゃうからねっ!」 興奮のあまり役割を忘れる2人、普段と同じ発言になっている。模擬シーズン中ではあるが、 この場合は大目に見てなすがままに身を委ねたミスターTだった。 そして訪れた。最終決戦の舞台、レッスルマニア。それぞれのレスラーが憧れる、団体の 中で一番湧き上がる祭典だ。 エリシェ「こんなところでなにしてるんだミスターT。流石レッスルマニアだ。出し物から試合の 内容まで豪華だぞ。」 まだ誰も入っていないリングにパイプ椅子を置き、そこに座り物思いに耽るミスターT。 そこに現れ声を掛けるは、すっかり回復したエリシェだ。 イベントを続けるが、彼は何を思ってか俯いたままだ。それが本当かどうかは別として、 彼女は声が掛け辛くなる。そこで考えたのは、ごく自然体の応対だった。 エリシェ「・・・いや、全て分かっています。緊張しているのでしょう。しかしこれだけは覚えて おいて下さい。」 そうである。役割を演じつつも、言動を普段と同じにして動き出したのだ。これならば普通の 会話をしているのと同じで、気分は滅入らないからだ。 エリシェ「レッスルマニアのメインは誰もが出れる訳ではありません。悔しい思いをしている方も 大勢いらっしゃいます。貴方はその方の気持と一緒に上がるのですから。その総意の思い を無駄にはなさらないで下さいね。」 そう語ると満足そうにリングを去るエリシェ。先刻の役割では満足な行動ができなかった分、 この結果は大満足であろう。そんな彼女の姿を見て、ミスターTは小さく頭を下げた。 ミュックS「レッスルマニアとなりました。メインを飾る気持はどうですか?」 エリシェの煽りを受けて、役割を演じる面々は自然体の応対をし始める。普段からの行動を できるとあって、役割を担う者は嬉しい限りであろう。 シンシア「団体最高の祭典ですよ。ならば最高の試合をするしかありません。マスター・・・いえ、 ミスターTとはいい試合を繰り広げますよ。」 ターリュS「今回は自分達もスペシャルレフリーとなって戦う事になりますので。」 シンシア「ええ、ご存知です。よろしくお願いします。」 こちらも自然体で話すシンシア・ターリュS・ミュックS。特にシンシアは役割の部分を省く と敬語になる。ミスターTをマスターと呼んでしまい、慌てて修正する場面もあった。 仮想空間でのシーズンと同じ打ち出しにより、ミスターTは普段と異なる登場をした。 レッスルマニアのリングに何とロープを使っての移動による入場だ。シーズンを知らない者に とってはこれは驚く内容である。 そして最終決戦、最後の試合となる。本当にこの場で活躍できて嬉しい、シンシアはそう 思ってリングへと上がって行った。 その彼女を待ち構えるミスターT。彼女の心境を察知しており、自分も嬉しい様子だった。 第29話へと続く。 |
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