アルティメットエキサイティングファイターズ 〜集いし鋼鉄の勇者達〜
    〜第35話 大いなる安らぎ・前編〜
    試合を続ける一同だったが、誰がどう見ても行き詰まりに近い状態が続く。試合に関しての
   執念だけは凄まじいが、それでも心はここに非ずという者が多かった。
   その状況を見かねたミスターTは、今まで封印し抑えていた案を持ち出したのである。

    そう、それぞれの世界観の設定をその場に出しての展開であった。


    一同休憩をしている最中、試合会場の場外を創生する。それは無限大に広がる町並みだ。
   存在する人物は自分達だけしかおらず、言わば無人島とも言えるだろう。

    ロストナンバーレイヴンズ系列が得意とする、アーマード・コアによる戦闘兵器。そのAC
   を戦わせられるだけの巨大なアリーナと野外戦場。

    フリーダムハート系列・流界ベルムカル系列が得意とする、剣技や魔法などによる戦闘。
   人と人のぶつかり合いが展開されるため、場内・場外の闘技場も。

    現実世界を彷彿とさせる息抜きも忘れてはならない。通常車両や単車などの乗り物。公園や
   娯楽施設など、全くもって現実世界と変わらない。

    もはや枠組は取り払われた。それぞれの世界観が織り交ざり、究極とも言える息抜きだ。



    新たに作り出した世界観を見つめ、GM陣営も含む一同は驚愕して何も言えない。モニター
   に映し出されるは、それぞれの世界に所属するものばかり。懐かしいものを目の当たりにし、
   感無量で泣き出す人物さえいた。
ミスターT「息抜きも大切、ディーラが本編で語っていたね。今まで抑えていたプランだったが、
      ここまで落ち込むお前さん達には打って付けだろう。」
   一服しながら語るミスターT。この大規模な創生には相当の力が掛かっていたようで、その
   表情には薄っすらと疲れの色が窺える。
ターリュS「ねね、私達のACもアリーナにあるの?」
ミスターT「闘技場・アリーナなどのガレージには、一通り揃えておいた。後はお前さん達が必要と
      思ったものを思い浮かべるといい。ただし、無理難題な装備などはご法度だぞ。」
   感無量なのか何も言わず彼に抱き付くターリュSとミュックS。そして脱兎の如く試合会場を
   去って行った。目指すはアリーナ会場である。

    他の面々も有無を言わずに試合会場を後にする。どの人物も全速力で自分達の世界観の場
   へと向かい、己の世界を堪能しだした。


ミスターT「お前さん達も、本編に所属する場へと向かいなよ。この瞬間はGMや役割などは一切
      考えないでいい。」
リュウジNTG「うぉ〜、ありがてぇ。感謝しますマスター!」
    役割から解放されたGM陣営も、それぞれの世界観へと戻っていく。その勢いは今までに
   ないほどで、一同の纏め役という存在からの解放とも言えるだろう。
ビィルガ「マスター、我々は適当に試合を続けますよ。」
ハンニバル「私達の世界観はこの場。オリジナルより創生されたのですから。」
ミスターT「なら1つ頼みがある。ミスヒール達やギラガス達、それに創生者軍団を頼む。役割を
      除けば、お前さん達のように明確な見定めがなっていない。」
   彼が語る通りだった。オリジナルの世界観を持たないビィルガ達。そして後続のミスヒール達
   もそうだ。この場はプロレスという世界観が、彼らの唯一の帰属する場所であろう。
ビィルガ「お任せを。役割を置いている今だからこそ、一同を沸かせられる試合を行います。」
ミスターT「ありがとな。」
   役割を一切省いたビィルガは切実そのもの。これが本来の彼の姿である。野心などを持たない
   彼は爽やかそのもので、本人もその自由を大変満喫しているようだ。

    それぞれの世界観へと飛び出した一同。その表情は未だかつて見た事がないぐらい明るい。
   その一時・その一瞬を大いに満喫していた。



エシェラ「ビィルガさん、マスター知りませんか?」
    それぞれ自由な行動をしだして数時間。興奮冷めやらぬ試合会場外は大いに盛り上がって
   いる。疲れを知らない筐体を設定してくれたため、24時間という時間設定はあるが構いなし
   に動き回っていた。
    そんな中、エシェラがミスターTを探して回っている。普段の戦闘服を脱ぎ捨てた彼女は、
   ロングとズボンを組み合わせたボーイッシュな出で立ちだ。
   白いリボンで髪の毛を束ね、化粧を施した彼女は幼さを感じさせない。
ビィルガ「マスターなら中央公園にいると仰ってましたよ。」
エシェラ「了解です。それとビィルガさん・・・。」
   ビィルガの側へ近付き、耳元である事を呟く。それを聞いたビィルガは驚くが、全ては役割
   だと黙認した。
    爽やかな表情で中央公園へと向かうエシェラ。その姿を見てリング側にいる面々は我が目を
   疑うのであった。
ミスヒール「あれがエシェラさんですか・・・。」
ミスE「恋多き年頃の女性は、皆さんああですよ。」
ビィルガ「自分の存在が示せる場があるのは幸せな事です。我々も一同に負けない試合をしなければ
     張り合いがありません。」
   ビィルガの発言に一同頷く。リングこそが己の世界観、そして帰属する場所。ならば試合こそ
   自分達の最大の歓喜と情熱なのだ。

    再び試合を始めたビィルガ達は、自分達しかいない試合会場を思うがままに変貌させる。
   エキサイティングプロレスという内容を最大限発揮したもので、それぞれが主役となる構成で
   行動を開始しだした。

    これが今後の大きな流れの糧となる事に、ビィルガや他の面々は思いもしなかった。



    中央公園はロスレヴ系列・フリハト系列を選抜し、併せた広場を構成している。それぞれの
   世界観からマッチングはしづらい筈だが、見事に調和しているのは奇跡であろう。

    その中央公園のベンチに座るはミスターT。火が着いていない煙草を口に、物思いに耽って
   いる。コートも着用している事は珍しく、一応一同の世界観に合わせているようだ。

エシェラ「お隣、よろしいですか?」
    駆け付けるは衣装替えしたエシェラ。その出で立ちには流石のミスターTも驚いた表情を
   浮かべている。徐に彼の隣に座り、辺りを見回しだす。
エシェラ「それぞれの世界観を合成させた広場、何とも不思議な雰囲気ですね。」
ミスターT「不思議なのはお前さんの出で立ちだろうに。今までのエシェラとは全く異なる。」
エシェラ「枠と壁を超えろを仰ったのはマスターです。私だって一応女なのですから。」
   普段の戦乙女はどこへやら、今の彼女は完全に1人の女性そのものであった。一切の役割を
   置き、純然たる自分で彼と接している。
エシェラ「・・・今その瞬間を大切に。マスターが本編を手掛けている時、ディルさんに言わせて
     いる言葉。」
ミスターT「そうだな。幸せは人それぞれだが、それでもその瞬間は大切にしたい。」
   木々が風に揺られる音だけが続く。会話を止めた両者は、ただ黙ってこの場を見つめる。

    一時の安らぎに心と背中の翼を休ませるミスターT。その表情は今まで見た事がないほどの
   穏やかさだ。それをチラ見で窺ったエシェラは、今までにないほど心を躍らせた。



エシェラ「あ・・あの・・・。」
    両者とも黙ったまま何も話さず、木々の音だけが辺りに流れる。その沈黙を破ったのは彼女
   であった。周りの音に掻き消されるぐらいの小声だが、その意図は彼にしっかりと伝わって
   いる。
ミスターT「少し歩こうか。」
エシェラ「あ・・はいっ!」
   切り出すのが精一杯だったエシェラを助け、ミスターTの方から誘う形になった。それに張り
   切って返事を返す彼女。誰がどう見ても恋人同士にしか見えないだろう。

    ベンチから立ち、徐に歩き出す2人。その最中エシェラは思い切って彼の腕に自分の腕を
   絡める。一瞬驚きの表情を浮かべるミスターTだが、今は彼女の思うがままにさせてあげるの
   だった。



    ロスレヴ系列の面々が大集結するアリーナ。世紀を超えたAC戦闘に、一同盛り上がって
   いる。旧型ACから新型ACが入り乱れて戦う様は異様で、勝敗よりも戦いに掛ける情熱が
   凄まじい。言わばAC戦闘版プロレスバトルであろう。
ターリュS「むう、どこか動きが悪いなぁ〜。」
ミュックS「やっぱプロレスとは違って、こちらだと戦闘力不足は仕方がないかな。」
   ターリュSとミュックSが愛機を駆って動き回る。やはり戦闘兵器を操作するという行動が、
   生身の身体を動かすのとのタイムラグが発生していた。
   瞬時に思った行動ができない双子は、リングでの戦いとはいかずにいた。

    ここではユキヤやシェガーヴァ・レイシェムが非常に強いだろう。直感と洞察力に優れる
   彼らは、リング上よりも各段に戦闘力アップが図れている。
ユキヤ「2人はリングの方が性に合うのかもね。」
ターリュS「だぬ〜。」
ミュックS「でもあれだね、戦える事が幸せという事。」
シェガーヴァ「そうだな。」
   今までの世界観と本編の世界観とのギャップに戸惑ってもいる一同。生身で動けるという事が
   どれほど素晴らしいのか。それを本編に戻る事で痛感していた。

ゼラエル「ユキヤ〜。積年の恨み、晴らさせて貰うぜ〜。」
    早速役割を演じだした悪陣営の面々。特にゼラエルはウインドことユキヤとは因縁の間柄。
   模擬戦闘も含めた戦いを申し出たのである。
ユキヤ「おうよ、応じてやるさ!」
   ゼラエルとユキヤはそれぞれの愛機を駆り、戦いを行いだす。実際の実弾戦闘ではあるが、
   ここは仮想空間でもある。直接的なダメージは一切ない。


メルア「賑やかな事で。」
ライア「まあまあそう言わずに。」
    弾丸やレーザーが飛び交う戦場で、ACから降りて寛ぐメルアとライア。既に数度に渡る
   模擬戦闘を行い、両者とも大満足といった表情をしていた。
   流れ弾などが心配されるが、そこは模擬仮想空間。どれも本人に当たる直前に消失している。
ライア「フリハトのディルさん達が強い理由が分かりましたよ。絶大な戦闘力を持ったACでも、
    直接的に行動が出来ない自分達は弱すぎます。」
メルア「そうですね。直感と洞察力によって機体を動かして、初めて一騎当千と言われるレイヴンが
    演じれます。ディルヴェズ様のように肉弾で戦われる場合、その鍛え方が異なりますし。」
ライア「以前マスターが仰っていたフレームグライドの世界観ですか。機体と登場者とのシンクロが
    完全なら、ディルさんの方が絶対に強いですよ。」
メルア「ここは機械と人間との差、そうとしか言えないです。」
   それぞれの世界観に戻って真価を発揮する。しかしロスレヴの面々はそれができずにいた。

    どんなに頑張れど間接的に兵器を動かす事に変わりはない。先ほどターリュSやミュックS
   が語っていた通りで、人間が行動し機械に伝達するタイムラグが最大のネックだった。
   これらを解決させるために打ち出されたのが、ロスレヴ系列でも有名な強化人間であろう。
   特にファンタズマの機体と人間の脳を直結させるのは、究極の兵器とも言える。

ライア「引けを取っていないのが強化人間とクローンファイターズですか。」
メルア「ユキヤ様の戦闘力は壮大な時間が為せる業物。本編に帰属した場合、唯一の経験として残る
    ものでしょう。」
    ユキヤはゼラエル・リルザー・ミオルムとのハンディキャップバトルを行っているが、全く
   引けを取っていない。逆にゼラエル達の方が動きがぎこちなく、いくら強化人間とて経験には
   敵わないという表れであった。
ライア「哀れですね。巨大な鎧に守られて、生身を強化する事を忘れた人間は。」
メルア「ですね・・・。」
   途中でターリュSとミュックSも参戦し、ユキヤと共に戦いだす。ゼラエル達は突然の加勢に
   驚くが、自前の闘気だけは燃え盛っている。
   戦いこそが己の存在意義、それが今の彼らを支える最大の武器だった。



エシェラ「これが近代兵器の戦闘なのですか・・・。」
    公園を散策した後に、その足でロスレヴ系列がいるアリーナ会場へと足を運ぶミスターTと
   エシェラ。その兵器群を見つめて驚愕する彼女だった。
エシェラ「何だか私達なんか、一瞬にして倒されそうです。」
ミスターT「そうでもないさ。お前さんにも見えるだろう、弾丸の軌道が。」
   確かに打ち出される弾丸やミサイル・レーザーなどは驚異的なスピードだ。しかしエシェラは
   彼に言われるままにそれらを見つめる。そして再び驚愕するのであった。
エシェラ「え・・・み・・見えます、追えますよ!」
ミスターT「本編では魔法や弓・投石機などの武器を生身で回避している。身体がそれらを本能的に
      追うように強化されたんだ。」
エシェラ「でも何でしたっけ、スティックでしたか。間接的に操作して初めて動かせるとか。その
     伝達時間がネックになりませんかね。」
   既にエシェラは見抜いていた。ロスレヴ系列の面々が団結と絆には強いが、いまいち強くは
   なれない事に。

    ライアが語った通り、巨大な鎧に守られては反応が鈍る。特に生死を賭けた戦いでは、一撃
   必殺の武器群も若干の生存性はあるからだ。

    フリハト系列はどうだろうか。直撃した魔法は人体に多大なダメージを受け、弓や投石機は
   当たり所が悪ければ即死である。技そのものを回避しなければ即死の世界に生きているのが、
   エシェラ達生粋のファイターなのだ。

ミスターT「まあここは彼らに任せよう。本編ストーリーと世紀を超越した状態だと、凄まじい戦闘
      をする筈。私達の出る幕はない。」
エシェラ「ディルさんの場所へ行ってみましょう。」
    善は急げと彼の手を引き、闘技場へと向かって行くエシェラ。一見すれば親子のようにも
   思える。積極的に動いている彼女に苦笑いを浮かべるしかないミスターTだった。



    ACアリーナ会場を後にした2人は、ディルヴェズ達が本編世界観を満喫している闘技場
   へと足を運ぶ。ここは機械兵器は一切なく、己の身体での戦いを中心とするものだ。

    そして伝秘ウイブレ系列・流界ベルムカル系列の陣営も共に戦っている。フリハト系列とは
   異なれど、生身の身体で戦う部分という共通点があるからだ。

    デュシアTはウインドとダークHに武器に変化してもらっての戦いをしている。本編とも
   なれば、2人の守護神はこちらが本職であろう。
   その彼と対峙するはディルヴェズだ。彼専用の剣ヴァルフォーアソードを片手に、デュシアT
   の相手をしていた。
ディルヴェズ「腰が引けてるぞデュシアT君、もっと重心を落とすんだ。」
デュシアT「はいっ!」
   本編設定ともなれば、凄まじい戦闘力を有するディルヴェズ。デュシアTの剣士としての経験
   年数など、彼の前には全くもって遠く及ばない。
ヴァルラーム「ディルさん、あまり本気になってはダメですよ。」
エシェムF「いいのですよヴァルラームさん。デュシアT君にはあのぐらいが丁度です。」
   遠巻きに応援するヴァルラームとエシェムF。彼女達は戦わず、ピクニック気分で一同の戦闘
   を観戦していた。


ミスターT「やってるな。」
    そこにエシェラに引かれてミスターTがやってくる。近代兵器同士がぶつかりあうよりも、
   生身の身体でぶつかり合うこちらの方が迫力は各段に異なった。
エシェムF「あら、エシェラさん。模様替えですか?」
ヴァルラーム「この場合は勝負服でしょう。」
エシェラ「もうっ、ヴァルさんったら・・・。」
   全てを見透かしているヴァルラーム。既にエシェラの心境を察知しており、彼女らしいと頬笑
   ましい視線を送る。
ミスターT「休憩しているのは、お前さん達だけか。他は全員模擬戦闘だな。」
ヴァルラーム「ええ、尋常じゃないぐらい白熱してますよ。怪我をしないという部分もあり、その
       度合いはプロレス方式では示せません。」
ミスターT「だろうね。」
   もはや本編と何ら変わらない陣営決戦だ。総当りの対決は世紀を・本編を、そして陣営をも
   超越しての戦いとなった。飛び交う魔法・轟く剣撃、それはさながら中世の大決戦である。

ミスターT「まあ、あまり無理無茶はするなよ。」
ヴァルラーム「心得ています。」
    一応念を押すミスターT。怪我をしないとはいえ、無理無茶はしてしまうのが実情だろう。
   下手をすれば永遠とも言える時間を闘い続けるだろうから。



    闘技場を後にしたミスターTとエシェラ。外部にまで轟く歓声は、もはや普段のリングでの
   戦闘は全く異なる。遠巻きに聞くと怖ろしくなるとも言えるだろう。
ミスターT「お前さんも彼らと一緒に楽しんでくればいいのに。」
エシェラ「私の戦場は貴方です。貴方を落とせなければ意味がありません。」
   半分は冗談で言ったつもりだったが、自分で赤面をしてしまうエシェラ。この場合は苦笑いを
   浮かべるしかないだろう。一途に突き進む彼女は、どの面々よりも輝いて見える。
ミスターT「まあ何だ、程々に期待してるよ。」
エシェラ「覚悟して下さいねっ!」
   ニヤケ顔で笑うエシェラに、やはり苦笑いを浮かべるミスターT。真女性には敵わない、心中
   で痛感する彼であった。


    その後もエシェラはその瞬間を満喫する。プロレスという枠組から抜け出した彼女は、鬼神
   そのものにも見える。下手に断りもすれば、怖ろしい竹箆返しが来るのは明確である。
   ここは素直に彼女に従うミスターTであった。

    第36話へと続く。

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