アルティメットエキサイティングファイターズ 〜集いし鋼鉄の勇者達〜
    〜第39話 チャンピオンバトル〜
    本編抜粋の大規模な息抜きによる、陣営を超越しての結束力の強化。そして新たに打ち出さ
   れたチャンピオンバトル。これにより一同は今までにないほど沸き上がっている。

    9種類のチャンピオンを決定するべく、各陣営から代表者を募る。その間の余興として、
   悪陣営の試合だ。チャンピオンバトルに選ばれた試合形式を、ノーチャンピオンで行うもの。
   言わばその試合のデモンストレーションだ。

アマギDA「手始めにシングルバトルかね。」
メルディーヴェ「3ステージバトルも面白いかも。」
ゼラエルG「多人数で行えるTLCバトルも捨て難いですぞ。」
    より取り見取りの試合内容に目移りする面々。特に戦いの場こそが生き甲斐とある悪陣営に
   とっては、幸福の絶頂とも言えるだろう。
シェガーヴァH「暇なものだな、相手がいないというのは。」
   ふと悪陣営のシェガーヴァHが呟く。今まではビィルガ達が真敵役として周りを引っ張って
   くれていた。しかし今の彼らはチェアマンとして、180度変わった運営を取っている。
   専らヒールとベビーの中間役を担うのだが、試合に関しての全権を握っているため慌ただしい
   状態が続いていた。
ディヴォルガル「今暫くは現状維持でいいと思います。チャンピオンが揃えば、必ず停滞する筈。
        その時こそが、我々の本当の仕事ですから。」
デストロイア「悪陣営の本気を見せましょう。」
シェガーヴァH「本当の役目、か。」
   シェガーヴァHの護衛を担うは、フリハト系列ラスボスの3人。悪陣営の中でトップクラスの
   実力を誇る彼女達。彼の誠意あるリーダー振りに突き動かされているというのが事実だろう。
   流石のクールなシェガーヴァHも、この3人の前ではタジタジだ。陣営さえ異なれば、間違い
   なくターリュとミュックと互角の勝負なのだろうが。



ミスターT「今回のチャンプ、まだ1回も試合を行っていない面々を抜粋させてくれ。」
エシェラ「そのつもりで皆さん動いていますよ。先ほどGM陣営に過去の試合リストを見せてくれと
     来たそうです。」
    新たに手帳とハンドコンピューターを作り、それを扱うエシェラ。伊達眼鏡を身に着けた
   姿は、一端の秘書を気取っている。しかし誠意ある行動が外見を補って余りある。それだけ
   彼女の活躍は目覚ましい。
エシェラ「既にファーストブラッドチャンプに、ミッドさんとケンジさんが応募しています。他にも
     応募者がいる場合、サバイバルなどの手法を用いなければなりませんが。」
ミスターT「そこは今後の動向次第だな。」
エシェラ「再戦を望まれる方もでているようで、現チャンプの方々も慌ただしくなっています。」
   本編回帰はこの場の活性化に一役買ったようだ。どの面々も今動かねば後悔するという一念が
   感じ取れている。

リュヴスW「マスター、指名バトルを行いたいのですが。」
ミスターT「早速来たか、相手は誰かね?」
リュエラW「エイラさんとリタナーシュさんとリーアさんです。」
    以前ライディル達がチャンプになる前、時間の埋め合わせで対戦した巨女達だ。凄まじい
   試合は、さながら巨人同士の対決に酷使していた。
リュミスW「今現在の埋め合わせにはもってこいでしょう。」
ミスターT「分かった。試合の詳細はエシェラに頼む。」
エシェラ「では参りましょう。」
   副創生者の役割は伊達じゃない。機転溢れる行動はミスターT以上の素速さだ。一切の迷いが
   ない彼女の行動は、こういった迅速さを生み出すには打って付けだろう。



ターリュS「マスター、アイアンチャンプにシンシアさんとエリシェさんがでるって。」
ミュックS「相当エシェラさんの事が羨ましかったようだよ。」
    そこに間隔空けず尋ねるはターリュSとミュックS。チャンピオン軍団の護衛を任されて
   いるため、エシェラTBにチャンプ運営員を任された。雑用に近い仕事ばかりだが、飽きさせ
   ないのか嬉しいようだ。
ミスターT「お前さん達もその気が感じられるが。」
ターリュS「前に言ったじゃん。マスターは好きだけど、エシェラさん達のような感情までには発展
      しないって。」
   そう語るターリュSとミュックSだったが、心は今までにないほど落ち着きがない。その内心
   は意思の疎通ができているミスターTに筒抜けだ。素直に動ける3人が羨ましくて仕方がない
   のが実情だろう。
ミスターT「まあそこは任せる。私がどうこう言う話ではないしな。」
ミュックS「あ〜、マスター逃げ腰。」
ミスターT「それはそっくりお前さん達に返す。」
   見抜かれたのかと驚く2人。まあ相手が誰かを知れば、その理由を把握できるのだろうが。
   今の彼女達は素直に見抜かれた事に驚いているだけだった。
ミスターT「一切の柵から解放され、動く事も悪くないものだよ。」
ターリュS「う〜ん・・・。」
   生粋の生真面目な双子故に、この選択は厳しいのかも知れない。決めた事を取り止めれば、
   自分が自分でなくなる。ミスターTが悩んでいた事と全く同じだから。
ターリュS「とんでもない事になっても知らないよ。」
ミュックS「私達はエシェラさんのように甘くはありませんから。」
ミスターT「既にこの場を築いた瞬間から覚悟している。お前さん達の相手も充分重役だからね。
      それにエシェラだけじゃない、ここにいる全員が私の愛しい人達だ。」
   その言葉に双子は折れた。父親や母親、そして愛しい人に心から甘えられない現状。それを
   彼が補うというの。女性という部分を心に閉じていた2人にとって、この言葉こそが待ち焦が
   れていたものだった。

    2人同時に彼に抱きつき余韻に浸る。本当は甘えたくて仕方がない年頃だろうに。本編では
   それを押し殺して役割を演じ切っている。親しい人にも見せない、本当の双子の姿を。

    父親・母親というのは、こういうものを指し示すのだろう。ミスターTはそれを改めて痛感
   していた。そして最初に気付かせてくれたエシェラに、心から感謝していた。



    その後他の面々に呼ばれ、ミスターTが彼らの元へと赴く。その間のチャンプ募集聞き取り
   役は双子が担ってくれていた。
エシェラ「あれ、マスターは?」
ターリュS「他のチャンプ抜粋にサイコロで決めてくれと言われて行っちゃった。」
エシェラ「了解です。」
   雑務をしながら確認するエシェラ。その彼女の前に進み出て、普段見せない真剣な表情で語り
   出した。
ミュックS「エシェラさん、私達もう嘘を付くのは止めます。」
エシェラ「え、どうなさったのです?」
ターリュS「私達もマスターが好きです。今まで抑えていたけど、彼は無理をせず表に出せと言って
      くれた。」
ミュックS「もう我慢しません、貴方には絶対に負けたくない。いや、それ以上に自分自身に負け
      たくない。」
ターリュS「容赦しないからね、全力で戦わせて貰います。」
   凄まじい真剣さにエシェラは押された。今まで見せた事がないような一途さだ。普段の2人は
   力をセーブしていて、あれだけの強さを出していた。
   今のターリュSとミュックSは紛れもない、全てにおいてエシェラを超える力を持っている。

    しかし同時に嬉しさが込み上げる。今も自分が罪悪感を感じているもの。彼に対する告白は
   間違ったものだったと思い出してもいた。
   だがターリュS・ミュックSの行動でそれが吹き飛んだ。全ての人物の壁を破る最初の一歩を
   踏んだ事。これが間違いではない事を確信したからだ。

    無意識に頬に涙が流れる。自分がした事は間違いではない。それだけで感無量のエシェラ。
   その行動に逆に泣かせてしまったのかと、慌てふためくターリュSとミュックS。
エシェラ「・・・私の行動は、間違いじゃなかったのですね。・・・全てを賭して挑んだ。この場の
     バランスが崩れるなら・・・、私が責任を取って消滅と考えた・・・。でもお2人の告白
     は紛れもない事実、そして・・・変革が訪れた瞬間・・・。」
   一瞬にして罪悪感が2人を支配する。大見得切って発言した一大決心の告白。しかも相手は
   本人に一番認められている存在。それを超えねば意味がないとも。
    だがエシェラの応対は違った。自分が取った行動を間違っているものだと思っていた。
   ターリュSとミュックSは吹っ切れた形で勝ち誇っていたが、エシェラはそれ以上の事を常に
   考えていたのだ。これには自分達の方が無粋な考えを抱いていたと思うしかないだろう。
エシェラ「ありがとう、ターリュSさん・ミュックSさん。私も嘘偽りなく進めます。マスターに
     心から感謝されるよう、お互い頑張りましょう。」
   2人は思った。エシェラには絶対に敵わないと。ミスターTを思う心は同じだが、彼女の場合
   は更にその先を見据えている。自分達とは違い、私利私欲に動いている訳ではないのだ。

    シンシアとエリシェが突き進む理由を知った双子。そして自分達も頑張れると、改めて己の
   役割を知ったのであった。
   その後も雑務に明け暮れるエシェラを守る、それがターリュSとミュックSができる最大限の
   サポート。それを感じ取り、無意識に実行していた。



    ミスターTが呼ばれた先は、フリハト系列の面々の場所。今までは表立っての行動は控えて
   いたが、それを払拭してチャンピオンバトルに参加を決意したようだ。
ディルヴェズ「今回は私も挑ませてもらいますよ。」
   ケージチャンプに名乗りを挙げたディルヴェズ。他にウーマンズチャンプにヴァルラームが、
   サブミッションチャンプにヴュオリーアとルデュファスが名乗りを挙げる。
ミスターT「実力で戦う形式が少ないから、流石のお前さんでも厳しいだろう。」
ディルヴェズ「私達は戦いでこそ相手と理解し合える。それは本編でもここで同じ事です。」
   本編世界観に触れた事で、完全覚醒時の彼が蘇りつつある。特殊能力こそ省かれているが、
   その凄まじい直感と洞察力は他を圧倒していた。
エフィーシュ「小父様なら、どのような試合でも皆様を満足させられますよ。」
ディルヴェズ「ありがとう、エフィーシュ。」
   娘と同じ存在のエフィーシュに労われるディルヴェズ。姉のエシュリオスとは全く異なり、
   本編に触れた事でお淑やかさが増していた。これでいて強さが備わっているのだから、無敵と
   言われても当然だろう。

アシェナ「お姉さん、リュエラWさん達が試合を始められるそうですよ。」
ヴァルラーム「先にそちらを見ましょうか。」
    エシェラがターリュSとミュックSの所へ戻った時も、まだ試合は開始されていなかった。
   それは2人がエシェラに決意を述べると同時に、己の罪悪感を払拭させる事を知っていた。
   つまりリュエラW達が試合を行わなかったのは、ミスターTの意思の疎通による裏の待った
   コールが掛かっていたのだ。まあこれはミスターTとミスEにしか分からない事であるが。
    試合開始が近い事を窺ったアシェナは、未来の自分達にその事を伝えに来た。試合や戦力
   分析なら、間違いなくフリハト系列の方が群を抜いている。

    一同は一旦作業を中止し、サバイバルタッグチャンピオンバトルを観戦するのであった。

    試合はイリミネーション・タッグ、形式はトルネード6マンタッグ3対3。リング設定は
   バッドブラッド、ルールはKO・ギブアップ・DQが適応される。


イリミネーション・タッグチャンピオンバトル登場+試合動画



    (イリミネーション・タッグチャンピオンバトル終了)
    凄まじい戦いになった。両者一歩も引かず徹底的に攻め立てる。過去にないほど白熱した
   チャンピオンバトルだった。
   勝者はリュエラW達だったが、無論無傷では済まされていない。リュミスWが沈んでいる事が
   何よりの証拠だ。格付をするのなら、間違いなくエイラ達の方が猛者であろう。
   だがリュミスWが沈んだ理由が、椅子を持った反則攻撃によるものはご愛嬌だろうか。

    6人の試合を見つめ、これからチャンピオンバトルを行おうとする者は奮い立った。彼女達
   のような戦いを行わなければ、一同を沸かせられない。それは無意識から湧きでる、闘争本能
   であろう。

ヴォリスTJ「勝者はリュエラW・リュミスW・リュヴスW、引き続きベルトの防衛を大いに期待
       しているよ。」
    サバイバルタッグチャンピオンベルトを3人に手渡すヴォリスTJ。GMとしての役割を
   再び担いだしていた。今まではエシェラTBとエシェラTAに押され気味で、活躍の機会を
   失っていたのが実情である。
   ベルトを腰に巻き勝利のアピールをする3姉妹。そして忘れずにエイラ達に握手を求める。
   お互いの健闘を讃え合い、リスペクトをするのは通例だ。言うまでもない。



ミスターT「ところでディルの相手は誰にするんだ?」
ディルヴェズ「マスターが最初に行っていた模擬シーズンで、最終相手前に対峙したユキヤM殿を。
       ここは再戦という形になりますが。」
    過去にミスターTが仮想空間でディルヴェズを操り、模擬シーズンを行っていた事がある。
   その際に模擬シーズンをこの場で行った時、エリシェが担っていた役割。当時はユキヤMが
   現れていた。
   言わばこれはリベンジマッチと言える。ミスターTが行っていた仮想空間模擬シーズンだが、
   このような形で役に立っていた。不思議な気分になるのは言うまでもない。
エフィーシュ「既にエシェツ様に依頼し、ユキヤM様に打診をしています。了承されるなら、その
       ままエシェラTB様に伝えるそうですよ。」
ミスターT「ありがたい。」
   参戦を希望したものは、そのまま試合担当者などに連絡している。率先して動いてくれている
   事は、非常に嬉しい限りであろう。
エフィーシュ「マスター、私もシングルマッチを希望します。これはベルトを賭けたものではなく、
       普通の試合をです。」
ミスターT「分かった、相手を決めておいてくれ。」
   そう語るミスターTだが、エフィーシュの顔は据わっている。つまり相手は既に決まっている
   事になる。
エフィーシュ「私が望む相手は貴方です、是非ともお相手下さい。」
   周りが壁を超える戦いをしている。それに便乗しないのは、ファイターとして存在する自分の
   意に反している。そう思っているエフィーシュは、創生者であるミスターTに相手を頼んだ。
   故にベルトを賭けた試合ではなくノーマルの試合を告げる。彼女なりの配慮だろう。
ミスターT「了解、容赦はせんぞ小娘。」
エフィーシュ「はいっ!」
   流石はエシェラの娘。肝っ玉の強さと曲げない一途さはそっくりである。試合に応じてくれた
   彼のトゲのある発言にも、笑顔で元気一杯に応じていた。

    普通なら渋る筈のミスターTだが、エシェラの一件で彼も吹っ切れている。無理難題な試合
   以外は全て応じようと決意していた。
   ミスターT彼が試合に応じる切っ掛けを作った、エフィーシュの母のエシェラ。その彼女に
   心から感謝する娘。姉のエシュリオスとは異なり、一途さは母親そっくりであろう。



ミスターT「先に決まっている試合から展開する。チャンプ挑戦者は決まり次第、連絡を頼む。」
エシェラ「了解です。」
    一旦ディルヴェズ達の元から引き上げたミスターT。エフィーシュの挑戦を受け、新しく
   試合を行う事になる。今も雑用を行う副創生者エシェラにこの事を告げ、エフィーシュと共に
   指定のリングへと向かう彼だった。
    お淑やかさな彼女だが、母と異なり積極的である。隣にいる彼に腕を絡ませる仕草は、過去
   にエシェラが行っていた事と同じ。
   一瞬ヤキモチを妬くエシェラだが、エフィーシュの一時の幸せを心から喜んでいた。この部分
   は母親としての彼女の心境であろう。
ターリュS「いいなぁ・・・。」
エシェラ「あら、既に吹っ切れて動いているのではないのです?」
ミュックS「言葉では言ってもねぇ・・・、実際にその場になると身体が動かないよ。」
   意外な一面を見たエシェラ。とにかく積極的で我武者羅に突き進むターリュSとミュックS。
   しかし本番ともなると動けなくなるというのだ。特にこの場合は恋愛の部分。つまり2人は
   意外とウブであるという事が窺えた。
ターリュS「心に思っても、実行できなければ意味がないよ。」
ミュックS「やっぱエシェラさんやエフィーシュさんには敵わないなぁ・・・。」
   この天下無双の双子が悩んでいる。それだけ2人の壁は大きいものなのだろう。それと難なく
   やってのけるエシェラと娘のエフィーシュは、肝っ玉が据わっていると言えるのだろう。
エシェラ「う〜ん。戦いで少しでも慣れていくなら、いいプランがありますが。」
ターリュS「ホンと?!」
ミュックS「姉ちゃん教えて〜!」
   気丈な一面があったと見れば、幼い一面が当たり前のように出てくる。一体どちらが本当の
   2人なのか、エシェラは苦笑いを浮かべるしかなかった。
    兼ねてから考えていたプランを2人に話す。それを聞いたターリュSとミュックSは大喜び
   する。感極まって彼女に抱き付く仕草は、用は誰に対してもそうであるという事だろう。



    エシェラの脳裏にミスターTが語っていた言葉が過ぎる。

    ターリュSとミュックS。オリジナルのターリュとミュックは純粋に仲間達との楽しい一時
   を満喫している。しかしこの2人にはそれがないのだ。その理由とは本編の役所だろう。

    本編では本心を殺してまで役を演じなければならない。特にユキヤやシェガーヴァが位置
   付けのクローンファイター。調停者として存在する彼らは、人として一切の当たり前を封印
   した部分が多い。それが無意識にターリュSとミュックSを支配しているのだ。

    これを置き換えれば、ミスターTやGM軍団の役割だろう。己を殺してまで一同を沸かせる
   存在を貫かなければならない。今の2人にはこれが根付いている。しかも本編ともあれば、
   払拭させるのは厳しいのだろう。

    本来の自分に戻れたなら、この双子は類を見ないほど凄まじい強さを発揮する。

    試合内容を窺ってワイワイ騒ぐターリュSとミュックS。エシェラと同じ年齢の2人だが、
   彼女より幼く見えるのはこのためだろう。



    一方、試合準備が完了したエフィーシュとミスターT。ゆっくりと準備を行い、周りの時間
   稼ぎをしていた。しかしチャンプ希望者はまだまだ時間が掛かりそうで、2人の努力虚しく
   試合時間となってしまった。

    試合はシングル、形式はノーマネージャー。リングはベロシティ、ルールはギブアップ・
   DQ・ロープブレイク。


シングルバトル登場+試合動画



    (シングルバトル終了)
    常に禁断覚醒を行うようになったミスターT。究極のロジックを搭載するエフィーシュも、
   彼の前では遠く及ばない。戦うという事を意味合いとするなら、どのような試合でも充実した
   ものなのだろう。結果はミスターTの圧勝。エフィーシュは殆ど何もできないまま敗れた。
エフィーシュ「これが禁断の力、流石です。」
ミスターT「本来なら用いてはいけないものなのだがね。」
   重傷を被ったエフィーシュ。直ぐにミスターT十八番の体力強制回復を施し、瞬時に彼女の
   身体を癒した。
エフィーシュ「ありがとうございます。」
ミスターT「あの母ありてこの娘あり、か。一途に突き進む姿は全く同じだね。」
エフィーシュ「お母様を誇りに思いますよ。」
   彼と同じ背丈のエフィーシュ。だが幼さはエシェラを遥かに超えている。これでいて強さが
   備わっているのだ、無敵と謳われても仕方がないだろう。
エフィーシュ「もう少しお会いするのが早ければ、私も貴方の虜になっていたでしょう。」
ミスターT「今からでも遅くないだろうに。」
エフィーシュ「い・・一応立て前があります、・・私は母のように甘くはありません。」
   本心はそうではないのだが、素直になれない彼女はエシェラより甘いのかも知れない。そこは
   流石母親エシェラ、エフィーシュよりも格上の証拠だ。
ミスターT「まあそこは任せる。私もエシェラに誓って、嘘を付くのはやめた。お前さんが望むの
      なら、それに応じよう。」
   そう語りつつ、リングから降りるミスターT。素直に行動ができる事は幸せな事。それは母を
   見て痛感しているエフィーシュ。壁を乗り越えろ、それは自分にも言い聞かせている言葉だ。



エフィーシュ「あ・・あの・・・。」
    次の試合のためにリング設定を変える裏方のヴァスタールとヴィアシール達。その彼女達を
   労い、リングを後にするミスターT。そこを思い切って声を掛けるエフィーシュ。この仕草は
   流石エシェラの娘、全く同じである。
    それに気付いたミスターTは静かに右腕をくの字に曲げる。全てを知っていての行動だ。
   エフィーシュは恥らいながらも、そそくさげに近付き腕を絡めた。
ミスターT「素直でよろしい。」
   彼の言葉にはにかみながら頷くエフィーシュ。変革は己から動かねば決して変わらないのだ。
   それを再認識した彼女であった。



ライディル「模擬試合どころじゃなくなったな。」
サーベン「今はチャンピオンバトルがメインだからなぁ。」
    ライアと共に本編抜粋の模擬試合を考えていたライディル達。しかし流れは新チャンピオン
   バトルが強く、一同そちらに掛かりっ切りだ。
ライア「チェブレさん、リタレヴ面々のみのロイヤルランブルはどうでしょう。」
チェブレ「時間が掛かるのも問題だからな、そこは上手く調整しないと。」
   珍しく戦いだけが取り柄のチェブレがライアと討論していた。逆を言えば普段行っていない
   行動をする事により、別の観点からの発想が生まれる事になる。これは大きなものだろう。
チェブレ「まあ主力陣のみを抜粋したロイヤルランブルもいいかも知れないがね。しかし多用は禁物
     だぜ。」
ライア「やってみましょう。」
   今やロスレヴ系列の頭脳はライアが担っていると言っていい。その彼女をサポートするのが、
   前サバイバルタッグチャンピオンのライディル達。戦いだけが取り柄といっていた彼らも、
   頭脳を使う行動を積極的に行っている。
   幼子といえるライア1人だけに任せるのではなく、それぞれが自発的に動き出したのだ。

キュービヌ「OK、人選は任せて。」
ライア「お願いします。」
    ロイヤルランブルの打ち出しに決定したライア達。早速人選をキュービヌ達に託し、彼女は
   別の模擬試合の打ち合わせをしだす。既にライアの行動はGMに近いだろう。
ライディル「俺達にできる事は、時間稼ぎぐらいか。」
ライア「皮肉ですが、それが最善の策ですね。」
サーベン「もう一度サバイバルタッグに挑むかい?」
ライディル「いや、そうすると逆に動けなくなる。」
   チャンピオンほど足枷になるものはない。一度それを体験し、そして新たな挑戦者に託した。
   本当は挑みたいのが実情だったが、それにより行動が制限されるのもまた事実。
ライディル「まあ勝とうが負けようが、挑む姿勢さえ崩さなければいいだけだが。」
チェブレ「ならばチャンピオンに戦いを挑まず、普通のタッグとして挑めばいいか。」
サーベン「俺達にやれる事をやるまでだな。」
   3人の挑戦する心は悪陣営のそれと同じだ。戦いこそが全てであり、そこにこそ歓喜がある。
ライア「こちらは任せて、ライディルさん達は挑んで下さい。」
ライディル「だな、了解した。」
   早速動き出すライディル達。動き出しさえすれば凄まじい力が発揮する3人。その動くまでに
   時間が掛かるのは、まるでタンカーの起動のようである。



ビィルガ「これで取り仕切るというのかね・・・。」
    チャンピオン候補を選んでいる最中に、ようやく休息を取るビィルガ達。その中で今だに
   決まり切れない面々を見て小さくぼやく。
ミスターT「仕方がないさ、普通の試合とは異なるのだから。」
デュウバD「それはそうですが・・・。」
ビィルガ「でも結束が強くなったのは事実で。この流れなら我々がイレギュラーとして動かなくても
     充分でしょう。」
   紅茶を飲みながら会話に耳を傾けるデュウバD。顔のペイントがなければ、その風情はお嬢様
   と何ら変わらない。ビィルガは軽食を取りつつ、企画書を持参したミスターTに応じている。
ミスターT「チャンピオン候補が選ばれたら、随時試合を頼む。」
ビィルガ「了解。」
デュウバD「これが決着するまでは、暫くは暇になりそうです。」
ミスターT「まあ、休める時に休んでおくんだ。」
   真敵役という重役から解放された彼らは、物凄く穏やかにしていた。過剰なまでに行動して
   いた反動から、どの面々も疲れ切った表情も浮かべている。
   決定的な流れが定まらない今なら、彼らの休息時間は充分取れるだろう。



エシェラ「マスター、この試合を行います。」
    ビィルガ達と一緒に一服しているミスターT。そこにエシェラが現れる。何やら試合を打ち
   出そうというものだ。内容を記述した紙を彼に手渡し承諾を待つ。
ミスターT「・・・はぁ、まあ・・・好きなようにするんだ。」
エシェラ「了解です。」
   呆れ気味に承諾するミスターT、しかし承諾には変わりない。それを確認したエシェラは、
   早速試合を行うためリングへと向かう。

デュウバD「マスター、試合は何なのです?」
ミスターT「争奪戦のようだ、私のな。」
    内容が記された紙をデュウバDに渡す。それを見た彼女は、苦笑いを浮かべるしかない。
   ここまでくると、試合とは程遠いものになるだろう。
ミスターT「周りを活性化してくれるなら喜んで賛同するが、そのうち私利私欲に走るのではと心配
      でもあるよ。」
デュウバD「それだけ真剣なのです。あまり女を見縊らない方がいいですよ。」
   同性としての意見を述べるデュウバD。そして行う意図もしっかり理解していた。無論それは
   ミスターTもそうであるが。
ミスターT「プロレスという位置付けから離れている気がしてならない。」
ミスヒール「それを言ってしまえば、大規模な息抜きはやらなかった方が。マスターも何度も言って
      いたじゃないですか。束縛された考えを脱ぎ捨てて壁を破れと。」
ミスターT「悪かった、そうだったな。」
   彼の発言は愚痴なのだろう。完全に納得できない部分がそうさせるのだ。しかし直ぐに振り
   返り、前へ進む部分は心得ているミスターT。それが彼の強さなのだろう。

ミスヒール「試合が始まるようですよ。しっかり観戦しましょう。」
    リングサイドから連絡があり、それを確認するミスヒール。選ばれた人物は、シンシア・
   エリシェ・エフィーシュ・ターリュS・ミュックS・エシェラ。どの人物もミスターTに酔い
   痴れる女性達だ。

    試合はサバイバル、内容は6マン・バトルロイヤル。リング設定はノー・ウェイ・アウト、
   ルールはない。


サバイバルバトル登場+試合動画



    (サバイバルバトル終了)
    この場合は戦闘力と執念が勝敗を握る。彼をどこまで思うのか、それが大きな勝因だった。
   勝利したのはエシェラ、殆ど圧倒的である。それだけ執念が勝っていたという表れだろう。

    リングで勝利のアピールをする彼女。その戦いの意味を知っての勝利故に、非常に満足した
   表情を浮かべている。

ミスヒール「・・・私も参戦すればよかったな。」
    ふと呟くミスヒール。その思いは無意識に、そして自然と発せられたようだ。真敵役として
   作られながらも、色々な労いをされている。そこに惹かれるものがあったのだろう。
   この言葉に彼女と行動をする面々は驚くが、ごく自然な当たりの行動がある事を知って嬉し
   そうである。
ミスターT「薄々は感じていたが、まあ自然な事か。」
ミスヒール「傍観者的な見方はやめて下さい。純粋に思っている事を言って何がいけないのです。」
   怒鳴りまではしないが、半ば優柔不断に近いミスターTに怒るミスヒール。半分は自分の好意
   を避わされた事、もう半分は投げ遣りな態度に対してだ。
   投げ遣りな態度は事実であるが、好意に対しては否定はしていない。それは彼の言葉を聞けば
   分かる。
ミスターT「すまない。私が好かれる事に対して、どうしても信じられなくてな。」
ミスヒール「・・・マスターはご自身の中で、自分を許していない部分があるようですね。」
   自分を許せない部分が彼にある、それ故に納得ができない。それを鋭く見抜いたミスヒール。
ミスターT「お前さんらしい、当初の役割通りだね。」
ミスヒール「私がマスターを好きになる事、ですか?」
ミスターT「いや、お前さんの出生だ。真敵役として作ったのは事実。しかもゼロからの創生だ。
      根底の性格は、心理戦を得意としたものにした。」
   元から心理戦に特化された真敵役として作られたため、相手の心境を把握できたと生みの親の
   ミスターTは語る。

    ミスヒールはエシェラTBやエシェラTAのように、オリジナルを介して生み出された訳
   ではない。彼女の場合は何もない部分からの創生と言えるからだ。
ミスヒール「なら本来の役割を担わせて下さい。でなければ私の存在意味がありません。」
ミスターT「真敵役はデュウバDに担ってもらう。お前さんは真中立役として存在してくれ。」
ミスヒール「私の役割を奪うのですかっ!」
   ついに我慢の限度を超えた彼女が怒鳴る。デュウバDの存在で自分の役割が変わった事は承知
   済みだ。そこまでミスヒールは馬鹿ではない。
    しかし彼を思う気持ちと、それを避わされた怒り。そして自分の役割を変えられた部分に、
   今まで我慢していた蓋が解放されたのだ。
ミスヒール「何かと付けては役割だ何だと、言い訳にしか聞こえません。マスターは今の現実を否定
      して、逃げ出したいのですよ!」
   怒鳴る声が凄まじく、何事かと試合を終えたエシェラ達が駆け付ける。滅多な事では感情を
   表に出さないミスヒール。それだけに周りは驚き続けていた。
ミスヒール「素直に認めて下さい、役割を取られて怒っている人物がここにいる事を!」
ミスターT「では問う。私がそれを認めれば、お前さんは納得するだろう。だが今度はデュウバD達
      が役所を失う事になる。役割が存在するなら、どのようなものでも担うのが我々の存在
      意義だ。」
ミスヒール「そんなの言い訳に過ぎません!」
   冷静に判断ができなくなりつつあるミスヒール。だがあくまで感情にならず、冷静に彼女と
   接するミスターT。周りは2人の口論を黙って聞き入るしかなかった。
ミスヒール「何故彼女達の行動を素直に認めないのですか。苦笑いを浮かべる時点で、6人の好意を
      貶しているのですよ。貴方が本当に応じているのなら、そのような行為はしない筈。
      マスターこそ創生者という役割を原因に、現実から逃げているに過ぎません。既に役割
      が存在しているなら、私など生まれてこなければよかったじゃないですかっ!」
   その言葉が叫ばれた次の瞬間、凄まじい音が周りに響く。それはエシェラがミスヒールの頬を
   平手打ちしたものだった。
   エシェラの形相は凄まじく、あの模擬シーズンで表したものと同じである。明らかに激怒して
   いるのが分かる。
エシェラ「言い過ぎたな貴様。貴様にマスターの何が分かるんだよ。本当は素直になって一同と接し
     たいというのに、自分の身を削ってまで行動している。それに全員の心中ともシンクロ
     している。貴様が怒りの矛先を向けただけ、マスターは心に傷を負うんだよ。言い逃れ
     しているのは貴様だ。貴様は与えられた役割を否定し、納得できない現実を好いている
     人にぶつけているだけの愚者だっ!」
   更に平手打ちが放たれようとするが、それは未然に防がれる。手が付けられなくなりそうな
   雰囲気だったため、彼女の側にいたシンシア達が身体を張って止めていた。
エシェラ「生まれてきてはいけなかった、何様なんだよ貴様は。マスターが貴様をどれだけ愛して
     いるか分かってないから言えるんだ。どんな悪態を付いたゼラエル達にだって愛を注ぐ。
     極悪に近い行動をしたデュウバDやビィルガにだって、自分らと何ら変わらない平等な
     愛を注いでいる。言葉にトゲがあろうが、それはその場の流れで言っただけ。本心で語る
     事など絶対にないっ!」
   凄まじい剣幕で叫び続けるエシェラ。5人掛かりで制しているが、それでも抑えきれない状態
   に近い。それを察知したミスターTはエシェラの背後に回り、抱きしめて彼女を抑えた。
   それでもなお叫び続けるエシェラ。彼の力を持ってしても、抑えるのが困難だった。
エシェラ「そんなに今の役割に納得できないなら、全て私が担ってやるよ。だが貴様は大切な役割
     から逃げただけの愚者だ。嫌だったら役割を認めて演じやがれっ!」
   どこまでもミスターTを思うエシェラ。その彼の心を傷付けたミスヒールに、役割を超越した
   態度でぶつかる。

    爆発的に激怒している彼女だが、叫ばれる言葉は今もハッキリしている。つまりはこれが
   相手を憎んで叫んでいるのではない現れだ。自分と同じく愛しい人を好くミスヒールだから
   こそ、激怒せずにはいられなかったのだ。



    今だに息が荒いエシェラを抑え続けるミスターT。叫びは止まったものの、束縛を解けば
   何をするか分からない。口論から大激論と化したこの場、誰もが黙って見守るしかなかった。
ミスターT「お前さんの心をしっかりと掴まなかったのが原因だったな。だが分かってくれ。今の
      役割は、お前さんを裏切るような事は決してしない。」
   興奮するエシェラを胸に抱き、ミスヒールに優しく語るミスターT。目の前が見えなくなり、
   とんでもない事を述べてしまったと反省する。エシェラの激怒で我に返り、物凄く落ち込んで
   いた。
ミスヒール「・・・少し時間を下さい。」
   そう言うとその場を離れる。今は時間が彼女を癒す、それまで待つしかなかった。

    彼女が去った後、急にエシェラから力が抜けて気絶する。だが背後からミスターTに抱き
   支えられていたため、倒れる心配はなかった。
   一旦その場に寝かせられるエシェラ。その彼女をシンシアとエリシェが心配そうに介抱する。
シンシア「気絶するまで激怒し続ける、エシェラさんらしいです。」
エリシェ「魂の叫びをしなければ、ミスヒールさんに通じないと分かったのでしょう。」
   どこまでも相手を思って行動する。ミスターTに告白した時から変わっていったエシェラ。
   渾身の叫びはミスヒールの心を揺るがすものだった。

エフィーシュ「お母様はお任せを。暫くしたらミスヒール様の所で行ってあげて下さい。」
    エシェラを抱き上げ、休憩室へと運ぶエフィーシュ。その彼女にターリュSとミュックSが
   心配そうに付いて行った。こういった部分は双子の純粋な優しさなのだろう。
エリシェ「愛する故に難癖を付ける、それはごく自然的な行動です。それもありますが、マスターの
     どこか本気になれない部分を鋭く指摘したのも事実。」
シンシア「本気に接してくれとはいいません。ですが軽い気持ちで接するのはやめて下さい。私達の
     思いは本物です、偽りなどではありません。」
   それぞれが思っていた胸の内を話す。シンシアもエリシェも、思う所は全く同じだ。
ミスターT「しっかりしないとな。私が道を見失えば、それこそ収拾が付かなくなる。」
ビィルガ「そこはお任せを。今の今までマスターが演じ切っていた、一同を修正して進ませる。この
     役割は我々でも充分担えます。」
デュウバD「ありのままの姿で、以前マスターが仰っていましたよ。悩んででもいい、貴方は先に
      進む事だけ考えて。」
ミスターT「・・・ありがとう。」
   静かに頭を下げる彼。自分が成すべき事をするのが、この場に集った総意である。ミスターT
   自身も例外ではない。



    一同に休憩を促すビィルガ達。チャンピオン候補を選ぶ事に惰性になっては意味がない。
   ミスヒールを落ち着かせるという意味合いも込めた休息を選んだのである。

    ミスヒールは表の娯楽施設にいた。エシェラが思い切った行動にでた公園で休んでいる。
   彼女に告げられた言葉で、改めて己の考えを振り返っている。
ミスターT「お前さんの考えは分からなくもない。私も一時期創生者の役割を降りていた時、自分の
      本当の意味を失いかけた。」
   ベンチに座り黙って俯くミスヒール。その彼女を見つめるミスターT。物音立てずに現れた
   事に、ミスヒールはかなり驚いている。ミスターMも用いていた、瞬時に現れる行動だ。
ミスターT「まだ原点回帰ができるだけマシだ。私は周りからも言われる通り、役割を省いての帰属
      は存在しない。お前さんにはやるべき事があるはず。愚痴などの聞き役や、憎まれ役は
      私が演じよう。」
ミスヒール「・・・それで構わないのですか。本当の自分を押し殺してまで、偽りの姿を演じる事。
      それに耐えられるのですか?」
ミスターT「私が一時期役割を渡した以外に、自らの私利私欲で投げ出した事があるかね?」
   自分の問いに応じる彼。その答えには何も言えない。難癖だけは言うが、投げ出した事は一切
   なかった。特に彼が担う創生者の役割は、今現在の最高かつ最重要の役割だ。真敵役を徹底
   して演じ切っていたビィルガ達でさえ、その役割の前では何もできずにいた。
ミスターT「逃げ出したとしても、再びこの場に戻ってくる。私の回帰はこの場なのだ。創生者と
      いう重役も、今となっては私にしか担えない。それに一同が期待もしてくれている。
      これに応じれない愚者になるぐらいなら、いっその事消滅したいものだ。」
   消滅という言葉を聞いて、胸が今までにないほど締め付けられる。ミスヒールは簡単に言い
   放った己の生誕を否定する言葉、それがどれだけ苦しいものかを身を以て知った。

ミスヒール「・・・私は・・・。」
    困惑する彼女は、喋らねばと声を絞り出す。しかしその場に立膝を着き、ミスヒールの口元
   にソッと手を置くミスターT。そして静かに首を左右に振る。
ミスターT「何も言わなくていい。既にお前さんは答えを導き出している。それが不安だから私に
      確かめる意味で当たって来たのだろう。ならば何も心配する事はない。今は流れに身を
      任せるだけでいい。優しく清らかなお前さんになる事を期待している。」
   徐に立ち上がり、励ましながら語る。彼女の場合は見据えた千里眼があるだけに、見え過ぎて
   怖いのだ。
ミスヒール「・・・挑んでみます。いや、挑みます。自分に与えられた、新たな役割を。」
ミスターT「それでこそ真敵役、そして真中立役だ。どのような状況でも、自分を見失わなければ
      構わない。」
   奮い立つ彼女の背中を軽く叩き、その場を後にするミスターT。立ち上がる時は今なのだ、
   それを再認識したミスヒールだった。
ミスヒール「・・・ありがとう、マスター。」
   そう呟く彼女に、後ろを向いたまま右手を挙げて応じるミスターT。簡単な意味合いで好いた
   と言っていた彼女が、今は心の底から彼の虜になっているのは言うまでもない。



ミスターT「役割、か・・・。」
    試合会場へと戻っていく彼は、一服しながら静かに呟いた。自然に動けている一同を見て、
   今だに吹っ切れない自分に納得ができない。
   簡単な出だしだけで進めるというのに、その第一歩は凄まじく重い。そしてその先を恐怖し、
   動けずにいるのだ。

    一同が思う心、それを自らも感じている。ミスターTは役割を除いた己を再確認する必要が
   あると思っていた。

    第40話へと続く。

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